サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

岩手大学滝沢演習林をたずねて ~自然と人のかかわりの持続可能性を考える

2011年10月09日 | 環境と森林・林業

山村再生研究会のセミナーで、岩手大学の滝沢演習林をたずねた。演習林といっても、盛岡からJRで15分もすればつく巣子駅から車で5分のところにある平地林で、かつて集落の森として利用されていた里山林である。

別の場所にブナ林を基調とした演習林があり、そちらは奥羽山系、こちらは北上山系に対応するフィールドになるらしい。滝沢演習林の植生は、クリ・コナラ林、アカマツ林、カラマツ林と多様である。

この演習林の管理者である山本信次先生の解説がまた面白かった。先生の話は別途、インターネットで動画配信をされるので、ここでは私が特にお記憶に残った点をメモにしておく。

まず、写真に示す森はクリ・コナラ林であるが、この森が演習林となった100年前から、あえて手入れをしないで、遷移を観察する森にしている。そして、どうなっているか。本来なら、陽樹であるコナラ林等の下では陰樹であるブナ話等が育ち、やがてブナ林という極相に遷移していく。しかし、ここではブナ林から離れた場所にあるためか、ブナは出てこなく、ひたすらコナラ等が大きく成長している。ただし、ササが広がり、将来的にコナラが枯れたとき、ササ原になるのではないかという予想もされている。

もう1つ、面白く解説されたのが、アカマツの天然林である。そこには、160年生と80年生のアカマツが混在する森である。そこは、80年前に160年前のアカマツを間引く形で伐採し、その後、自然に出てくるアカマツの苗を育てた森だという。育てるといっても、出てきた幼木がまわりの下草に負けないように、アカマツだけを選択的に残す下草刈りを徹底したというわけだ。だから、人工林ではなく、天然林だという。

この2つの森の話の意図は、森といっても多様であり、どのような森を保全・整備すべきかを単純に決められるものでない。めざすべき森の姿は、その森の形成の歴史とその森に関わってきた、そしてこれから関わっていく人々の熟議と意志、そして専門家の少しのサポートによって、決定されるべきということである。

自然遷移を観察する森は観察をするという目的においては、このままにするのだろうが、もし手入れをするとしたらどうするのか。また、160年生と80年生のアカマツ林はこれからもアカマツの単純植生として維持するのか、温暖化による北上が懸念さる松くい虫が侵入したとき、単純なアカマツ林だと壊滅のリスクもある、どうするか。選択肢は1つではなく、答えは単純ではない。

また、山本先生の山菜の話が面白かった。地元の人は特定の種類を選んで採るが、外から来る人は食べられる山菜の知識を調べて知っており、食べられる多くのものを採るという話である。地元の人が山菜を採るとき、おいしいものを選んでいるだろうし、また特定の種類の山菜の採取を選択してきた歴史的な知恵や文化の積み重ねがあるだろう。そうした自然と人とのかかわりの時系列の積み重ねを無視し、ただ「食べられる」というだけでの採取は好ましいものではない。

山菜の話もまた一貫した意図がある。自然と人とのかかわりという歴史を重視し、現在及び将来のかかわり方を考えるべきだということだ。

 

今、私は持続可能な地域づくりの原則整理を始めている。時間空間で広がる多様な他者への配慮、様々なリスクへの適応の備え、主体の意志・活力の3つに整理できると考えている。山本先生の語ることは、まさに持続可能な森林と人とのかかわりのことであり、私が整理しつつある持続可能性の3つの原則と対応させることもできると考えている。

 

 

 

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ISO26000にみる企業の社会的... | トップ | 第1回地域適応フォーラムを... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

環境と森林・林業」カテゴリの最新記事