お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

シンドバッドの航海記 8

2009年08月01日 | シンドバッドの航海記(一話完結連載中)
 シンドバッドは八度目の航海の時、全身黒尽くめの凶悪な魔法使いブルンスギットが、シンドバッドの泊まっている宿に姿を現した。シンドバッドは「魔王のブローチ」と言う品物を手に入れたのだが、それがブルンスギットの持ち物だったらしく、奪い返しに来たのだ。
「さあ、それを渡せ!」ブルンスギットの瞳が炎のように赤く揺らめく。声は深い洞窟から響いて来るようだ。「それはわしのだ!」
「何を言うか!」商売の事となると、シンドバッドも負けてはいない。「これには大枚をはたいたんだ。返してほしいと言うのなら、買い取りの値段を提示しろ!」
「ほう・・・」ブルンスギットは目を細めた。「お前はわしの事を良く知らんようだ・・・」
 ブルンスギットは呪文を唱えた。机の上の蝋燭三本用の燭台がぐにゃりと曲がり、三つ首のヘビに姿を変え、シンドバッドに迫って来た。
「さあ、やめてほしくば、そのブローチを渡すのだ!」
 シンドバッドは無言で首を横に振る。ブルンスギットがさらに呪文を唱えた。長椅子に置いてあったガウンがむくりと起き上がると宙に浮き、袖口から、尖った爪の伸びた大きく力の強そうな腕が伸び出し、シンドバッドに迫って来た。
「命が惜しかろう? さあ、渡すのだ!」
 しかし、シンドバッドは首を横に振り続けた。ブローチを握り締める。
「仕方がないな。お前の命を奪ってから、ブローチを奪い返す事にしよう・・・」ブルンスギットはぞっとするような笑みを浮かべ、両腕を高く差し上げた。「お前は無謀だが勇気はあるようだ。それに免じて、最大級の魔法で屠ってやろう」
 ブルンスギットは目を閉じ、長い呪文を唱え始めた。最大級の魔法には最大級の呪文が必要なようだった。
 いきなり呪文が途絶えた。ブルンスギットの胸に短剣が深々と突き刺さっていた。シンドバッドがブルンスギットの隙を突いて投げつけたのだった。ブルンスギットは信じられないと言う顔をし、その場に倒れると、すうっと消えてしまった。途端に燭台とガウンは元に戻って床の上にあった。
「たしかにわたしは無謀だが勇気はあるのかもしれないな・・・」シンドバッドは流れ落ちる額の汗をぬぐった。「しかし、この魔法使いが変に余裕を示したのが敗因だな」
 シンドバッドは勝ち誇った笑顔で手の中のブローチを見つめた。
「あああっ!」ブローチがすうっと手の中から消えて行った。「・・・そうか、あの魔法使いとこのブローチは一心同体だったと言うわけか・・・」
 しんと静まり返った部屋で、シンドバッドはつぶやいた。
「あ~あ、損したなあ・・・」



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