お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ヒーロー「スペシャルマン」・7

2009年07月29日 | スペシャルマン
 オレは「スペシャルマン」と呼ばれる正義のヒーローだ。常人の及ばない様々な特殊能力を秘めている。この力で悪を倒し続けているのだ。
 さて、ヒーローの条件の一つとして認識されているものに、善良な一般大衆を守ると言う事がある。
 だが、オレは言いたい事がある。ヤツらは本当に善良なのか? 日々同じ生活を狂い無く繰り返しているだけじゃないのか? オレも普段は会社員だからよく分かるが、会社に向かう途中で、あるいは帰宅の途中で、誰かが困っていたり、大変な目に遭っていたりしていても、会社や帰宅を優先してしまうものだ。それはしょうがない。だが。本当にそうなのか? 会社や家を隠れ蓑にして、関わりを避けているだけじゃないのか? どう見ても不良な子供達がたむろしていると、内心では毒づきながら、見ない寄らない関わらないの三原則を貫き、累の及ばない方法を採る。関わる事で面倒になるからじゃないのか? 面倒になるから避けているとも言えるのだろうが。
 それで良いのだろうか? 良いとは思ってはいないだろう。しかしヤツらは異口同音に叫ぶ。
「こんな自分に何が出来るんだ?」
 問題は、何が出来るかではない。何かをやるために今何が出来るのか、なのだ。悪を憎む心があれば、それをくじけない様にするには何が出来るのか? 肉体的に強くなる事もできるだろう、抵抗組織を作る方法を考える事だって出来るだろう、時間はかかるかもしれないが、出来ない相談ではないはずだ。
 しかし、逆に言えば、そこが問題だ。時間がかかる、自分の時間を削る。そんな事は、一日の大半を仕事と通勤に使い切る現在の一般大衆の状況では、はっきり言って無理だ。肉体的に強いヤツ、抵抗組織を作るヤツは、それに専心できる環境にあるヤツばかりだ。副業的なヤツは皆無だろう。もし副業で始めても、きっとそれが専業になる。一日の大半を仕事と通勤に使い切るなんて事とはおさらばする事になるのだ。それなら出来る。そうで無ければ出来ない。できるヤツらに任せておけばいい、我々は日々の生活で大変なんだ・・・
 何か論点が違っていないか! 分業化や専門化が進んでいるが、人としての本質までもがそうなって良いのか? オレは良いとは思わない。オレは一般大衆の正義を信じる!
 ある時、「ブラックシャドウ」が現われ、オレはスペシャルマンに変身して戦った。一般大衆は関わりを恐れ、付近のビルや店に避難する。それで良いだろう。己の身を己で守る、これも大切な自分に出来る事だ。オレは存分に戦った。・・・が、今回は、やられてしまった。「ブラックシャドウ」はオレの弱点を発見し、そこを責めてきた。くそう! 次回はやられないぞ! オレは心新たに誓った。
「おい、スペシャルマン」倒れているオレにある会社員が声をかける。「正義のヒーローのクセに弱いじゃねえか」
「あんたがさっさと片付けてくれれば問題は無いのよ」年増のOLが詰め寄ってきた。「全く、使えないわね」
 これをきっかけに、隠れていた一般大衆がわらわらと集まり始め、口々のオレを罵倒するセリフを浴びせやがった。オレが何か言い返そうとすると、
「おっ? オレ達の味方がオレ達に文句言うのかあ?」
「お前がもっと強けりゃあ問題ねえんだよお!」
 誰が言ってるのか分からないが、罵倒が増した。もう止まらなかった。オレは逃げ出した。
 一般大衆は自分達より弱い立場の者、絶対反撃してこない者に対しては、威圧的になる。もしオレが文句を言ったら「わーい、悪の手先め!」と囃し立てるに違いない。迂闊だった。集団の力を得ると、一般大衆は怖ろしいものに変身するらしい。それも、オレの戦えない相手に、だ。こんなんじゃ、オレが悪のヒーローになってしまうかもしれない。




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