お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 43

2023年08月03日 | ベランデューヌ
「それで、どうする?」ジャンセンが訊く。「長たちの提案に従って、こっちも大人数で行くのかい?」
「そうねぇ…… 元凶はデスゴンでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「ここの神様って、互いに潰し合ってのし上がるって、あなたは言ったわ」
「言ったけど……」
「じゃあ、話は早いじゃない?」ジェシルは言うと、にやりと笑う。「デスゴンを倒せば良いんだわ!」
「ジェシル……」ジャンセンは呆れた顔でため息をつく。「邪魔者は取り除く、その短絡的な思考パターン、子供の頃と変わらないなぁ……」
「あら、いけない?」
「いいかい、相手は目覚めた禍神だぜ。ちょっとだけアーロンテイシアになった程度の君じゃ、太刀打ちできないぞ」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないわ」
「しかもさ、ダームフェリアの民も加わったらどうするんだい? デスゴンに操られているだけだったとしたら、倒すわけにはいかないんじゃないか?」
「そうかしら?」
「そうに決まっているだろう!」ジャンセンが大きな声を出す。「下手をしたら、今後の歴史に大きな問題を残してしまうかもしれないだろう!」
「そうは言うけど、わたしやデスゴンが現われたのだって、歴史の大きな問題じゃないの?」
「え……?」
「存在しないものが現われたんだもの、それだけで歴史に影響するんじゃない?」ジェシルずいっとジャンセンに迫る。「さらに付け加えれば、あなたがここにいる事だって影響するわ。いや、あなたの場合は悪影響ね」
「……」
 ジャンセンは黙り込んで、下を向いた。ジェシルは言い負かしたことが嬉しくて見えない勝利の踊りを踊っていた。
 ジャンセンは顔を上げ、ジェシルを見る。その表情には決然としたものがあった。
「……歴史に影響を残さないためには、方法は一つだな」ジャンセンはジェシルをまっすぐに見つめて言う。「君がデスゴンを倒し、憑りつかれている女性と一緒に居る伝達者とを、彼らがいた時代に送り返し、さらにはぼくたちも元の時代に戻る事だ」
「ジャン……」ジェシルも真っ直ぐにジャンセンを見つめる。「そんな大変な事、さも簡単そうに言うのね……」
「まさか、出来ないのかい?」ジャンセンは疑わしそうな眼差しをジェシルに向ける。「じゃあ、他の手立てを……」
「ふふふ……」ジェシルは楽しそうに笑う。「出来ないのかい、ですって? わたしにそんな事を言うの? ジャン、わたしに出来ないわけがないわ!」
「じゃあ、決まりだね」ジャンセンはあっさりと言うと、長たちに顔を向け、ペトランの言葉で声を張った。「皆さん、アーロンテイシアのお言葉を賜りましょう!」
 ……しまった、ジャンに謀られたわ! ジェシルは心の中で舌打ちをした。……子供の頃、こうやって煽られて色々な事をやらされたわ。ジェシルはにやにや笑っているジャンセンを睨む。ジャンセンはにやにや顔のままでジェシルを見た。ジェシルは、ありったけの見えない武器でジャンセンを粉砕し、何一つ残さなかった。
 長たちがジェシルの前に立った。
「では、アーロンテイシア、あなたの口から直接お言葉を賜りましょう」
 ジャンセンが言う。長たちは両の手の平を上に向け頭を下げ、アーロンテイシアの言葉を待つ。ジャンセンは、早くと言うようにと、あごでジェシルを促す。その態度にジェシルはむっとする。しかし、大きく息をし、気持ちを落ち着かせた。
「皆、聞きなさい」ジェシルがペトランの言葉で、威厳のある声で話す。「わたしは禍神デスゴンを一人で倒す。皆はデスゴンに操られたダームフェリアの民からベランデュームを守るように。デスゴンを倒せば、ダームフェリアの民も正気を戻そう」
「ですが、アーロンテイシア様……」神経質なボンボテットが言う。「デスゴンと共にダームフェリアの民がアーロンテイシア様に襲い掛かろうとした場合はいかがいたしますので?」
「それは無い」ジェシルは即座に答える。「デスゴンは混乱を広げるのが好きな愚かな神だ。ならば、必ずや、ベランデュームの民を襲わせる」
「そうはおっしゃられましても……」
「ボンボテット!」ジェシルが鋭い口調で言い、ボンボテットを睨み付けた。「お前はアーロンテイシアを疑うか! ならば、お前たちだけで迎え撃つが良い!」
「こら、ボンボテット!」最長老のデールトッケが叱りつける。「お前は長を降りるのだ! ……アーロンテイシア様! どうかお怒りをお鎮め下されい!」
「……ジェシル……」ジャンセンが二人の言葉でジェシルに話しかける。「やり過ぎだ……」
 ジャンセンは、そこで言葉を呑んだ。さっきまでのジェシルとは雰囲気が違っていた。見せかけじゃない、神秘的な威厳があった。
「……ジェシルもアーロンテイシアに憑かれたのかなぁ……」
 ジャンセンは神々しく見えるジェシルの横顔を見つめてつぶやいた。


つづく

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