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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 36

2020年03月24日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 ショックガンの銃口が三人に向けられた。
 逸子は両手を上げた。ナナもそれに倣う。ケーイチは周囲の状況を理解していないのか、床に座ったままで目を閉じ、ぶつぶつ言っていた。
「おやおや、降参したのかい? 正しい選択だと思うよ」タケルは笑顔で言った。「……でもね、ショックガンは撃たせてもらうよ」
 タケルは言うと右手を上げた。その手を振り下ろすと発射となるのだろう。警備員たちが改めてショックガンを構え直した。それぞれの指先が引き金に掛かり、命を待つ。
 タケルが右手を振り下ろすよりもほんの一瞬早く、逸子の両手が振り下ろされた。と同時に強烈な風が発せられた。風は赤い色をしていた。逸子が自身のオーラを風の形に変えて放ったのだ。それを受けた警備員たちは飛ばされ、大きな音を立てて壁に打ち付けられた。そして、ずるずると床へと倒れ込んで行く。ほとんどが気を失ったよう。タケルも同様だった。
「あら、良い男が台無しね」逸子は気を失っているタケルを見下ろしながら小馬鹿にしたように言った。「油断大敵って言葉、この時代じゃ死語かしら?」
 警備員の数人が立ち上り、逸子たちへ駆け寄った。一人が素早い突きを逸子に繰り出した。逸子はそれを体を少し引いて難なくかわした。体勢を崩した警備員の、がら空きになった腹に、逸子の鋭い右膝蹴りが埋まった。警備員は呻くことも無く、逸子の膝から滑り落ちるようにしてその場に伏した。続いて襲ってきた警備員に、上げたままの膝を勢い良く伸ばして蹴りを入れた。警備員は通路奥まで飛んで行った。
「おのれっ!」
 警備員はそう叫ぶと、逸子にでは無く、ナナへと突進した。ナナならば倒せると思ったのだろう。
「あっ! ナナさん! ダメよ!」
 逸子が叫んだ。同僚に手を出させてはいけないと逸子は思ったからだ。しかし、遅かった。ナナの突きが警備員の顔面に炸裂していた。突きを食らった警備員は、そのまま仰向けに倒れた。
「あら……」逸子は倒れてひくひくしている警備員を見て言った。「見事に決まったわね…… でも、こんな事しちゃ、まずいんじゃない?」
「ええ、わかっています」ナナは冷静な口調だ。「問題になると思います。でも、止められませんでした」
「まあ、仕方ないわね。襲ってきた向こうが悪いんだもの」
「とにかく、この場から逃げましょう!」
 ナナは言うとタイムマシンを取り出し、手早く操作をした。光が現われた。
「さ、この中へ入って下さい!」
 ナナが逸子に言う。逸子はケーイチを見た。ケーイチはまだ考え込んでいる。
「お兄様! 行きますよ!」
 逸子はそう言うと、ケーイチの襟首をつかんだ。そして、そのまま光の中へ入った。
 ナナも入ろうとした時、タケルが起き上がった。
「タケル……」ナナが言う。「あなた、気を失っていたんじゃ……」
「ははは、何だか危険な感じだったからね、あのお嬢さん…… ナナもすごいけどね、それを凌駕していたね」
「じゃあ、わざと倒れていたの?」
「君子危うきに近寄らずってやつさ」笑んでいたタケルが真顔になる。「……それで、これからどうするんだい? あんな過去の人たちと一緒だなんて……」
「少なくとも、タイムパトロールで疑心暗鬼になっているよりはましだわ」
「でも、そうなると、君は造反者だぜ」
「分かっているわ」
「分かっているんなら、今すぐ投降しろ。まだ間に合うぞ」
「ダメよ。長官が『ブラックタイマー』の協力者に違いないんだから、処罰されるに決まってるわ。それなら、わたしたちで『ブラックタイマー』を壊滅させるわ」
「それは無理な話だろう。それに我々の権限の範疇を超えている」
「そうでもないのよね」ナナが笑む。「一緒にいたあの男の人、あの人がケーイチさんよ。タイムマシンの『コーイチ伝説』の真の開発者なのよ。きっと上手く行くわ」
「あの人が? 何だがイメージと違う……」タケルは苦笑する。「でもさ、どうやるんだい? どう考えても無理だよ」
「わたし、タイムパトロールを辞めるわ!」ナナが決然と言い放った。「そうすれば、もう関係ないでしょう? タケルは大人しくタイムパトロールに居ればいいのよ」
「そう簡単にはいかないぜ。いくらトキタニ博士の曾孫だからって……」
 ナナは答えずに光の中に入った。光はゆっくりと薄くなって消えた。
「……長官が『ブラックタイマー』の協力者、か……」タケルはつぶやくと、にやりと笑った。「さあて、どうしたものかなぁ……」


つづく
 

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