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ジェシル 危機一発! 51

2020年01月10日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
「この仕事のお蔭で、一度無くなったオレの需要は以前よりも増えた。パトロールの上層部の一部のヤツらが組織と癒着しているのも知った。しかし、それをネタにして強請ろうとはしなかったよ」
「あなたより、上層部の馬鹿野郎の方がずっと価値があったからでしょ? 下手な事をしたら、消されるのはあなただから」
 オムルは苦しそうなジェシルを見上げる。オムルの拳を作った左手が勢い良く伸びた。拳はジェシルの腹に食い込んだ。ジェシルは激痛に顔を歪めたが、悲鳴を上げなかった。歯を食いしばり、オムルを睨みつけた。オムルの左手は戻って行った。
「やっと大人しくなったか……」オムルはジェシルを睨み返した。「オレを怒らせず、そのまま黙って話を聞けよ、ジェシル」
 ジェシルは拳のままになっているオムルの左手を見て、ぷいと横を向いた。
「オレは結構な財産を手にした。そして、この不自由なからだを治したいと考えた。オレは組織の伝手で闇医者を紹介してもらい、サイボーグ手術を受けることにした。その時に、副業を思いついたんだ」
「……それが、殺し屋稼業……」ジェシルが擦れた声で言う。「最低ね……」
「やかましい!」
 オムルの左手が再び伸びる。先程より強く腹に食い込んだ。ジェシルはうめいた。オムルは笑う。
「いいか、ジェシル。黙って話を聞けって言っているんだ」オムルはぐったりしたジェシルを胸倉をつかんでいる右手で揺する。オムルはジェシルの苦しそうな様を残忍な笑みを浮かべてみている。「情報も売る、殺しも受ける、しかも、その人物は宇宙パトロールの役立たずって事になっている。どうだ、完璧だろう?」
 ジェシルはべえと舌を出した。オムルの左拳がジェシルの腹に食い込んだ。
「な、何よ……」ジェシルは苦しい息の下で言う。「喋らなかったじゃない……」
「態度が気に入らないんだよ!」
「あなた…… 防犯カメラに一部始終が映っているわよ……」
「ははは、今は誰もいない室内が映し出されているさ。オレにとっちゃ、ここのセキュリティはすかすかだよ。どうにでもできるのさ。もちろん、扉の手動自動の切り替えも意のままさ」
「わたしのオフィスに侵入したり、その時の際の映像が無いのも、あなたの仕業って事なのね……」
「そう言う事だ。……面白いことに、病院のセキュリティもこのメインコンピューターが仕切っているんだ。オレにとっちゃ、パトロール以上にやりたい放題さ」
「……全然、面白くないわ」
 オムルの拳が伸びた。ジェシルは思わず目をつぶる。しかし、拳はぎりぎりのところで腹に当たらなかった。
「ははは、そう何度も女を殴るつもりはないさ。ま、お前次第だけどな」
 ジェシルは屈辱に顔を赤くした。オムルは馬鹿にしたような顔でジェシルを見上げている。
「……あなた、わたしを殺すつもりなんでしょ?」
 しばらくの睨み合いの後、ジェシルは言った。屈辱で赤くなった顔は元の色に戻っていた。
「そう依頼されているからな」オムルは笑う。「どうした? もう覚悟を決めたのか?」
「最後に聞かせてほしいんだけど……」
「何だ?」
「……モーリーやクェーガーの事よ」
「聞いてどうするんだ?」
「もやもやしたままじゃ、死んでも死にきれないわ……」
「ふん」オムルは鼻を鳴らした。「死土産ってヤツか。良いだろう…… お互いに負傷者同士と言う事でオレはモーリーに近づいた。話しているうちに気が付いたことがあった。あいつは射撃一筋の男だった。他には、簡単な事務仕事さえも出来ないヤツだったんだ」
「それはまた極端ね……」
「それだけ、射撃手としてのプライドがあったのさ。負傷して、そのプライドがずたずたになった。すっかり抜け殻さ。パトロールもオレのようにモーリーを残しておきたいと思ったらしいが、何もできないヤツを残すことはできない。だから辞めさせたのさ。もちろん、功績に見合う退職金や様々な身分保障は付けたがね。だが、抜け殻はそのままだったな……」
「あなたも、抜け殻になっていれば良かったのよ!」
 ジェシルの腹に拳が飛んだ。ジェシルはうめく。
「ジェシル、お前も学習しないヤツだな。ちょっと回復すると文句ばかり言いやがる」オムルは言いながら胸倉をつかんでいる右手を揺する。「……オレはモーリーには同情したんだぜ。ヤツはオレと違い、その筋との付き合いが全くなかったからな。だから、友人として接していたんだ。しかしな、ヤツは良くも悪くも単純だった。オレの言う事は何でも真に受けた。だから、オレの稼業に引き入れた」
「殺し屋の仲間にしたって言うの!」
「ははは、ヤツは殺し屋とは思っちゃいなかったよ」オムルは楽しそうに笑った。「法で裁けない悪人がいる、そいつらにお前の銃の腕前を役立たせてくれって言ってやったのさ。銃以外何もできない男だったからな、喜んで加わったよ。抜け殻だったヤツは急に生き生きしてな、銃の腕前も回復した。そうなれば、後はその筋から受けた仕事を回すだけだ。ヤツは正義の鉄槌を下しているって思い込んでいたよ」
「あなたって、最低の極悪人ね!」
「ジェシル……」オムルは左手を伸ばし、ジェシルの顔の前で拳を作ってみせた。「好い加減にしろよ。オレもそう気の長い方じゃないんでな……」
「あなたの話は、もう聞き飽きたわよ!」
「まあそう言うな。もう少し付き合えよ」オムルは残忍に笑う。「モーリーは足が不自由だ。サイボーグ手術は受けたくないと言うから、オレは最新型のロボ・カーをくれてやった。ヤツは泣きながらオレに感謝してたな」
「それに乗って、わたしを狙ったのね……」
「そうだ。ジェシルは組織と裏で通じている悪い女だって吹き込んでな。モーリーは信じたよ。いや、ヤツにとっちゃ、銃をぶっ放せればよかったのかもしれないな」
「でも、わたしに顔を見られた……」
「そうそう……」オムルは大きく頷いた。「計算外だったな。もしヤツが捕まったら、単純なヤツだ、オレの話をするだろう?」
「だから、始末したのね……」
「そう言う事さ。……ジェシル、お前は悪運が強いな」
「ふん! 幸運って言ってよね!」
 ジェシルの腹にオムルの左拳が食い込んだ。

つづく

*51からは丸囲みが出来なくなってしまいました。方法をご存じの方がいらっしゃれば、御教授をお願い致します。 伸神 紳

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