お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

シンドバッドの航海記 6

2009年04月16日 | シンドバッドの航海記(一話完結連載中)
 シンドバッドは六度目の航海の時、泊まった港の宿に一人の男が訪ねてきた。全身を黒いマントで覆い、黒いターバンのようなものを頭に巻いている。透き通るほど肌が白い。
「あなたがシンドバッドさんですね・・・」男は低い声でささやくように言う。「お話があります・・・」
「何の御用でしょう?」シンドバッドは商売柄、こういう手合いには慣れていた。どうせ碌な話ではあるまい・・・ 笑顔の裏でシンドバッドは舌打ちをしていた。「わたしも忙しい身ですので、それほど時間は取れませんが・・・」
「これを見ていただきたいのです・・・」
 男は言うと、マントの下から左手を出した。手にはゴツゴツとした石が握られていた。
「残念ながら・・・」シンドバッドは呆れたような声を出した。「それを買う気はありませんな」
 男は薄気味悪い笑みを浮かべ、右手を出した。手には緑色の液体の入った小瓶がある。
「失礼・・・」男は言うと、石をテーブルに置かれた陶器の皿の上に置き、小瓶の蓋を外した。「よく見ていてください・・・」
 緑色の液体を皿一杯に注ぐ。しばらくするとその表面から緑色の蒸気が上がり、石全体を包み込んだ。注がれた液体が蒸気となってすっかり無くなると、置かれていた石が金色になっていた。
「その石をよくご覧ください・・・」
 シンドバッドは手にとって、しげしげと見た。
「こ、これは・・・」シンドバッドの声が裏返る。「き、金じゃないか!」
「そうです、わたしは錬金術師です・・・」男はマントの下から左手を出した。巻き物が一つ握られている。「そして、ここに製法が書かれております・・・」
 シンドバッドは錬金術師の言い値の三倍でその巻き物を買い取った。幾らかかろうが、金を作り出すことが出来るのだ。安い買い物だ。
 シンドバッドは意気揚々と帰途に着き、到着すると早速同じ商人仲間を呼び集めた。自慢をして、悔しがらせようと言う魂胆だ。
「諸君! わたしは大変なものを手に入れた!」シンドバッドは帰りの船で作り上げた緑色の液体を入れたガラス製の壺を持ち上げて見せた。「これが何だか分かるかね?」
「知ってるよ、シンドバッド・・・」客の一人が溜め息交じりに言った。「錬金の液だろう? あの国に行くと、上手い事されて買わされるんだ。何しろ金にする液体だ。もう、ここはおろか、あらゆる港の商人が持ってるよ・・・」
「だから、その液体には価値は無いんだ」別の者が言った。「また、あまりにも多くの金を作りすぎてしまって、金の価値が下がってしまっているんだよ」
「だから・・・」また一人が申し訳無さそうに言った。「もうその液体を使う事は止めようと、つい最近取り決めたばかりなんだ。買い付けの旅をしていたシンドバッドは知らなかったろうけどね・・・」
 商人たちは帰って行った。ぽつんと立ち尽くしたシンドバッドはつぶやいた。
「やれやれ、長旅も考えものだな・・・」




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