お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 42

2023年08月01日 | ベランデューヌ
「……アーロンテイシア様」
 衣装と格闘しているジェシルに、最長老のデールトッケが背後から話しかけた。途端にジェシルは背筋を伸ばし、笑顔でデールトッケに振り返った。
「何事?」ジェシルは答える。「何か話し合いをしていたようだが?」
「左様でございます」デールトッケは両手の平を上に向けて頭を下げた。「決してアーロンテイシア様のお力を疑うわけではございませぬが、やはり、アーロンテイシア様お一人を、ヤツらの所に向かわせるは忍びないですじゃ」
「まだそのような事を言っているのか?」
「実はですな」デールトッケは顔を上げ、ジェシルを見つめる。「サロトメッカの村は、ダームフェリアの近くでしてな、村の者は、ダームフェリアで異変が起こっているのを見たと言うのですじゃ」
「異変……?」
「突然空の一角に黒雲が湧き上がって雷(いかずち)が落ちたとか、巨木が何本の根から引き抜かれたようになって地面に転がっていたとか、耳を聾さんばかりの高笑いがダームフェリア中に響いたとか……」
「デスゴンが、憑かれた女性を介して現われているんだ……」ジャンセンがつぶやき、ジェシルを見る。「こりゃあ大変だぞ……」
「ダームフェリアの民は、すっかりデスゴンの手下に成り下がっておりますわい……」デールトッケが嘆息する。「あんな禍神なんぞに組しおって、もしもベランデューヌを制圧しても、その次には自分たちがデスゴンに滅ぼされるだけだろうに……」
「デスゴンは破壊と混乱で快楽を得るのが好きだからなぁ……」ジャンセンが言って頭をぽりぽりと掻く。「デールトッケの言う通りになるだろうねぇ……」
「ダームフェリアの民は自ら望んでデスゴンに組しているのか?」
「それは何とも申せませぬが、己らのベランデューヌへの憎しみと嫉妬の心はデスゴンの出現で強まっておるようですじゃ」
「では、ダームフェリアの民はデスゴンに操られているかも知れない……」
「そうであれば尚の事、アーロンテイシア様お一人ではいけませぬ。デスゴンは必ずダームフェリアの民を引き連れておりましょうから」
「デスゴンは卑怯で狡賢いから、自分がアーロンテイシアと諍っている間に、ダームフェリアの民をベランデューヌへ侵攻させるつもりだろうね」ジャンセンはうなずきながら言う。「そして、混乱を楽しむ……」
「話は分かった」ジェシルは言う。「返答を待ってほしい」
 デールトッケは頭を下げ、後ずさりをしながら離れて行った。
「……で、どうする?」ジャンセンがジェシルに言う。「それにしても、すっかりアーロンテイシアだねぇ……」
「そう?」ジェシルはほうっと息をついた。「改まって『アーロンテイシア様』なんて言われると、妙なスイッチが入っちゃう感じがするのよね」
「ははは、ジェシル、それはアーロンテイシアが君を介して現われようとしているんだな」
「笑い事じゃないわよう!」ジェシルはぷっと頬を膨らませる。「……でも、向こうはすっかりデスゴンになっちゃったみたいねぇ」
「その様だね」ジャンセンはイヤそうな表情になる。「言い伝えだと、禍神デスゴンが現われると、全てのものを破壊され尽し、何も残らない、そんな状態にされてしまうそうだ」
「じゃあ、やっぱり、ベランデューヌもダームフェリアもぐちゃぐちゃにされちゃうって事ね……」
「そうだね。それで満足すれば、デスゴンは何処かへと去って行き、次の破壊衝動が興るまで眠るんだそうだ」
「厄介で面倒なヤツねぇ……」ジェシルは眉間に皺を寄せる。「どうしてそんな神様がいるのかしら?」
「さあねぇ……」ジャンセンは頭をぽりぽりと掻く。「人の内面にある二面性の反映じゃないかと言う説はあるけどさ、アーロンテイシアもデスゴンも具体的に存在するんだから、その説は否定されるね」
「じゃあ、最初の創造神とか言うのが創ったって言うの?」
「ここいらの神話では、色々な神が同時に現われたって事になっている。創造神と言う考えは持っていないようだね」
「じゃあ、みんなバラバラなんだ……」ジェシルはうんざりした顔をする。「まとめ役の神様っていないの?」
「いないんだよねぇ」ジャンセンがため息をつく。「神同士が互いに潰し合ってのし上がるって事になっている」
「……最低……」
 ジェシルはさらにうんざりした顔をする。


つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジェシルと赤いゲート 41 | トップ | ジェシルと赤いゲート 43 »

コメントを投稿

ベランデューヌ」カテゴリの最新記事