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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 149

2020年10月08日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 ナナが屋上に行くと、タケルは休憩用のベンチに腰かけて、ぼうっと景色を眺めていた。昨日の反省をしているのかしらと思ったが、どうせいつものようにほとぼりを覚ましているんだろうと思い直すナナだった。
 タイムパトロール本部のビルは比較的高いので、結構な眺めが楽しめる。空がこんなに広いなんてと思わせた。今日は少し雲っているが、吹き抜ける風は爽やかだった。タケルったらイヤな事全てを風で流し去るつもりなのかしらとナナは思い、その幼稚な発想に苦笑した。
「……おや、ナナ次期タイムパトロール長官様じゃないか」
 タケルはナナの姿を認めると言い、手を振って見せた。
「タケル、その呼び方やめてくれない?」ナナは口を尖らせる。「まだ秘密なんだから!」
「へいへい……」タケルは答える。「それで、どうしてここへ? 暇つぶし? それとも、昨日の続きのお叱りかい?」
「何だ、やっぱり気にしているのね」ナナはにやりと笑う。「大丈夫よ、チトセちゃん、機嫌が直って、ケーイチさんの手伝いをしているわ」
「へぇ…… あの子、思った以上に優秀だなぁ……」
「タケル以上かもよ」
「うん、それは認める……」タケルはあっさりと言う。「それで、どうしてここへ? まだ聞いてなかったけど」
「タロウさんが、あなたがここに居るって教えてくれたの。後でタロウさんも来るって言ってたわ」
「そう、タロウさんが……」タケルはつぶやくと、ふっと笑う。「タロウさんとは、屋上で色々と話をするんだよ。作戦についてとか、共通の話題とかね」
「共通の話題?」ナナが首をかしげる。「こう言っちゃあれだけど、時代も環境も違う二人なのに?」
「あるんだよ、ボクたちにはね」タケルは言うとナナを見る。「同じ様な境遇なものでね」
 ナナがその点をさらに聞こうとした時、タロウがやって来た。マスクを外し、深呼吸をする。
「やっぱり、マスクは苦しいよ。慣れていないせいかもしれないけど」
「でも、変装にもなっているから、我慢しなきゃあ」タケルが言う。「ほら、『お供えあれば嬉しいな』って言うから、用心に越したことはないよ」
 ……いや、タケルはマスクで苦しそうにしているタロウさんを見て楽しんでいるだけよ。ナナはそう思ったが、黙っていた。ナナもタロウのそんな様子を何となく楽しんでいたからだ。
「……それで? わたしをここに呼んだ理由は?」ナナがタロウに向かって言う。両頬のマスクのゴムの痕が昨日よりくっきりとしているように思った。「景色を眺めるだけじゃないんでしょう?」
「今の長官は、支持者を利用しようって考えているって言っていたから、どんな様子かなと思ってさ」
「そうねぇ……」ナナはタケルを見る。「タケルは軽口男と評価されていて、今一つ信用が無いわ。支持者についても、いるんなら協力してもらえればいいと言う程度ね。是非ともって感じじゃないわ。だから、支持者が実は反逆者だったら、責任は長官にありますよって言ったら、調査を任されちゃったわ」
「ちぇっ、ボクが話した時は支持者の存在を信じているような感じだったのにな」タケルは不満気だ。軽口男だから信用が今一つなのよ。ナナはそう思った。「……でもまあ、調査を任されたんなら、好都合かもしれない」
「どう言う事?」
「つまりね」タロウが割って入って引き継ぐ。「『ブラックタイマー』復活の兆しを作り易いって事さ」
「そう言う事さ」タケルはうなずく。「『こんな証拠があった』とか『こんな行動があった』とか、幾らでもやれるじゃないか」
「なるほどね……」ナナは言って、にやりとする。「山ほど証拠をでっち上げて、長官を困らせてやるわ」
「証拠が増えれば、『ブラックタイマー』復活に信憑性が加わる。支持者が動き出すきっかけには充分なはずだ」タロウが言う。「写真だの、会話の録音だのが必要だね」
「じゃあ、アツコに言って協力してもらわなきゃね」
「その点に関して幾つかプランがあるんだ」タロウが言って胸を張る。「それを実行しようと思う」
「まあ、頭の良い人は違うわね。もう作戦を考えているんだ……」ナナは言うとタケルを見る。「口から出任せ、思い付き人間とは大違いね」
「ふん! 口から文句、上から目線の人間よりはマシだろう?」タケルは言ってナナをにらむが、すぐににやけた顔になる。「……おっと、次期長官様に変な事を言うと、クビになっちまうかな」
「そうね、それは有りかもね」ナナは冷たく言う。「そうなりたくなかったら、ちゃんとしてよね」
「分かった、分かったよ……」
「……じゃあ、ボクはこれからアツコの所に行って打ち合わせをしてくるよ」
 ナナとタケルのやり取りが一段落したのを見てタロウは言い、タイムマシンを作動させた。生じた光の中へ入って行った。光が消えた。
「……タロウさん、やる気満々ね」
「……まあ、支持者に振り回された一人だからな。あれだけの人の前で大恥をかかされたわけだしな。恨みも深いさ」
 ひゅうと音を立て、ビル風が吹き抜けた。
「……でもさ、支持者って誰なんだろうな?」
「タイムパトロール内の人物でしょ?」
「アツコさんもタロウさんも実際に会ったわけじゃないんだろう?」
「そうだけど…… わたしたちの知っている人物か、知らない人物か……」
「タイムパトロールも無駄に人員が多いからなぁ…… 現場よりも事務方の多さは問題だよな」
「ひょっとして、部外者かもしれないわ」
「タイムパトロールマニアの変わり者が関係しているかもって事?」
「そう言う可能性もあるわ」
「捜査範囲が広くなっちゃうなぁ……」
「でも、やるしかないわ。タロウさんのプランで支持者が炙り出せると良いんだけど……」
 もう一度ビル風が吹き抜けた。


つづく


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