お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 213

2020年12月18日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「その馬鹿者を捕らえよ!」
 姫は倒れた家老を指差し、周囲の侍たちに言った。サムライの数人が動き、家老を引きずって行った。
「やれやれ……」テルキは逸子とアツコ向き直った。「ありがとうな、助かったよ」
「良いの」アツコが言う。「恋路を邪魔するヤツは許せないから」
「あら? そう言うあなたは、わたしとコーイチさんの邪魔をしてたじゃない?」逸子はからかうように言う。「でも、命を奪おうなんて考えはダメよね」
「そうよね」アツコは引きずられて行く家老を見る。「人として最低だわ」
 二人は顔を見合わせて笑った。
「……と言うわけで、一件落着かな?」コーイチは姫に言う。「あとは、テルキさんと、内田の家を盛り立てて下さい」
「そうじゃな」姫は答えるが、顔はテルキに向いたままだ。「邪魔者が消え、これからは随分とやりやすくなろうな」
「まあ、そう言う事さ」テルキも姫を見る。「あの家老よりも優秀な若い連中をたくさん知ったよ。その連中と盛り立てて行こう」
「それは面白いのう!」姫は笑う。「何やらつまらぬ伝統だの仕来りだの、わたくしはうんざりしていたのじゃ。テルキ、思う存分にやるがよいぞ」
「……あのさ、綺羅。一つ言いたいことがあるんだけどさ……」テルキは言いながら鼻の頭を掻いた。「そのテルキってのを止めて、別の呼び方をしてくれないか?」
「別の呼び方……?」姫は考え込む。「……じゃあ、殿、か?」
「う~ん……」テルキは腕組みをする。「オレは殿って柄じゃないなぁ。お前さんってのも違うし、あなたってのもなぁ……」
「じれったいのう……」姫は言うと、コーイチを見た。「コーイチ、何か無いか?」
「え?」突然、話を振られたコーイチは戸惑う。「……え~っと、ボクなら何だろうなぁ…… そうだ、逸子さんなら、どう呼びたい?」
「はぁ? わたし?」今度は逸子が戸惑う。「……そうねぇ…… わたしなら…… う~ん…… ダーリンかなぁ?」
「だ、だありん?」姫が思いっきり戸惑った顔をする。「だあ、りん、とな?」
「そうよ」逸子は満足そうにうなずく。「ダーリン。良いでしょ? 呼んでいるうちに慣れちゃうわよ」
「……だありん、だありん……」綺羅姫は口の中で繰り返す。そして、テルキを見た。「それで良いのか?」
「そうだなぁ…… 何となくオレっぽいから、良いんじゃないかな?」
「そうか。じゃあ、だありんじゃな」
 二人は楽しそうに笑っている。
「良いなぁ……」チトセは言いながらコーイチの腕を強くつかむ。「オレもダーリンが欲しいよ……」
「大丈夫だよ」コーイチは優しく言う。「チトセちゃんなら、きっと見つかるさ」
「ふん! オレはコーイチが良かったんだぞ!」チトセはコーイチを見上げる。「でも、仕方ないから、オバさんに譲ってあげたんだ」
「あら、ありがとう」逸子は言うと、コーイチの頬に自分の頬を付けた。「チトセちゃんのお墨付きが出たわよ、ダーリン!」
「あの、その……」コーイチは真っ赤になって逸子から頬を離した。「みんなの前で、恥ずかしいよ……」
「その言い方だと……」アツコがにやにやしながら言う。「みんなが居なきゃ、ずっとくっついていたい、って聞こえるわ。ねぇ? ナナさん? そう思いません事?」
「そうですわね、アツコさん」意地悪そうに言ってきたアツコに、ナナも意地悪そうに答えた。「ま、それだけ仲が良いって事で、良いんじゃないかしら?」
 女性陣が笑っていると、タケルがすっとテルキの前に立った。対照的に涙を流している。
「先輩……」タケルの頬を涙が伝う。「良いんですね? ここに残るって事で……」
「ああ……」テルキはタケルの肩に手を置いた。「お前には色々と迷惑を掛けちまったな。でも、オレの知っている事は全部教えたつもりだ。これからは、立派な潜入捜査官として活躍してくれ」
「……先輩……」
 タケルは下を向いて、肩を震わせている。テルキは何度もタケルの肩を叩いた。
「じゃあ、そろそろ……」ナナが言う。「戻りましょうか。わたしたちは結局、コーイチさんを救出できたけど、テルキさんを見つける事はできなかったわね」
 ナナはタイムマシンを操作した。
「……それにしても、良くここに来れたものだな」テルキが言う。「いきなりタイムパトロールの技術力が上がったのかい?」
「いいえ」ナナが答える。「コーイチさんのお兄さんのケーイチさんが全てやってくれたんです」
「ほう…… さすが真のタイムマシン創造者だな」
「ケーイチ兄者はものすごい知恵者なんだ」チトセが自分の事のように自慢する。「オレは兄者の優秀な助手なんだぞ」
「そうか、そうか」テルキはうなずく。「そりゃあ、大したものだ」
「……あの、テルキさん……」コーイチが言う。「色々あったけど…… 頑張ってください」
「ああ……」テルキはにやりと笑う。「オレは過去を正そうと思っていた。でもさ、見えない未来を追いかける方が楽しいな。コーイチ君には感謝してるぜ」
 光が生じた。


つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コーイチ物語 3 「秘密の物... | トップ | コーイチ物語 3 「秘密の物... »

コメントを投稿

コーイチ物語 3(全222話完結)」カテゴリの最新記事