衆院選公示 対中危機こそ新たな風
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/121204/waf12120411300019-n1.htm
今思えば迂闊(うかつ)に、民主党に一票を投じてしまった後悔を元に、3年前の夏を振り返りたい。自公政権の体たらくは、思い出すだけでも不快極まりない。閣僚の不祥事が相次ぎ、消えた年金問題では官僚をコントロールできない無能ぶりを次々にさらけ出した。ガソリンの暫定税率廃止問題では、族議員の抵抗を排せない自民党体質を見せつけた。当時の新聞を見ると、最も重視する政策の世論調査結果で、年金・医療が景気対策を抑えて1位になっている。社会保障費の増大圧力が年々高まる中で、この政権に将来を預けて大丈夫かという不安が、社会全体にあふれていた。
その不安を風にして、大躍進したのが民主党である。行財政の徹底的な効率化を打ち出し、使い方次第で財源は十分あると主張した。具体例として挙げたのは公共事業削減1・3兆円、国家公務員人件費2割削減1・1兆円、天下り関連の補助金削減6・1兆円、衆院定数80減0・6兆円…。
これならば、税金や保険料の使い方が根本的に変わり、不安が和らぐのではないか。それが民主大勝を生んだ有権者心理だった、と今思う。子ども手当などのばらまき政策に心を動かされるほど、日本の平均的有権者はさもしくはないし、それほど若くもないからである。その期待が無残に裏切られたことは、今さら言うまでもない。
宙に浮いた期待感の受け皿は意外にも地方から現れた。前回衆院選の1年前、平成20年に大阪府知事に就任し、「財政非常事態宣言」を出して財政難と苦闘した橋下徹氏である。
「子供が笑う大阪」を公約に知事になった橋下氏は、財政難の実態を知るや、前例のないほどのコストカッターに変身した。府職員を「倒産企業の社員」と断じ、労組の抵抗を押し切って人件費を大幅削減した。私学助成金や団体への補助金も大幅に見直した。市町村への補助金カットでも、市町村長らの猛反対に屈しなかった。
極めつきは、国が勝手に工事場所を決め、負担金だけ自治体に求める公共事業に関して、「ぼったくりバー」と酷評して攻撃したことだろう。そのあたりから、橋下氏の政治目標は国政の変革に移り、その言動が全国的に注目され始めたのである。
民主党をはじめとする既成政党が一時、台風の目として橋下・維新の会に怯(おび)え、その意を汲もうと汲々(きゅうきゅう)とした背景には、橋下政治の歳出構造改革への意志、手法への世論の支持があったことは間違いない。時代の要請する歳出構造の徹底した改革を-。それを何より求める世論の風は今も変わらず、吹き続けている。ただし、今年7月からは新たな風も吹き始めたことを私たちは見落としてはならない。
◆TPPも原発も争点足りえず
野田内閣が尖閣諸島の国有化を表明したのは7月7日である。その後、中国公船が日本領海にわがもの顔で侵入を繰り返し、中国国内で日系企業が襲撃、略奪されるなどした。
この日中関係緊迫化と連動するように、自民党の支持率が上がり、維新の勢いが鈍ったことに注目したい。日韓の領土問題である竹島に関して、橋下代表(当時)が共同管理に言及したことも、維新の評価を落とした。日本人は明らかに、領土や国家主権に関して目覚めたのである。それは、自民党総裁選で、党内国会議員の受けがよくなかった石破茂氏を一躍、党の顔にし、安倍晋三氏の返り咲きを認めた自民党員の投票行動でも明らかだ。膨張し、横暴になる中国に有効な対抗策を打てる政治を-。それこそが今、新たに加わった民意、すなわち風である。
中国危機への対応を国策の軸に据えれば、日本がとるべき道は明らかだ。人口パワーをてこに成長した経済力を国際政治に利用し、軍事力を増強して交渉圧力にする中国に、覇権主義的な野心を持たせないための国力、経済力を養うことである。
その観点から考えれば、中国に依存しない通商国家となることは喫緊の課題であり、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加は議論の余地がないことだ。原発問題にしても、安定的で安価な電力供給が今、この時点で国内産業に欠かせないことを認識すれば、この衆院選で争点になるものではない。原発は安全性だけでなく、安定的かつ安価という3つの「安」を総合的に考えなければならない問題だと、有権者は改めて気づくべきなのである。
中国の軍事的脅威への対抗と、国際貢献による日本の世界での立場の強化についても今、真剣に考えなければならない。その重要性を認識すれば、集団的自衛権の行使を含む憲法解釈、憲法改正問題もおのずと答えが出るはずだ。言論によって中国につけこまれないためには、日本人としての誇りと知識を養う必要があり、そのための教育改革が必要不可欠なことも言うまでもない。
失政続きの民主党が残した最大の教訓は、財源がなければ、どんな理想的な政策も実行できないという、極めて当たり前の現実である。新たな財源を捻出することや税収を増やすことが、よほどの覚悟と知恵がなければできないことも、この3年3カ月に私たちは目の当たりにした。その環境下で大国・中国と向き合わねばならないのだから、歳出構造の徹底した改革はさらに必要性が高まっている。ばらまきといわれる政策は言うに及ばず、必要性の薄れた歳出はどんなに抵抗があろうと削減していかねばならない。その見識と自覚、勇気があることがこの選挙で、政権を担う政党になる絶対条件でもある。
今回の選挙では、政党の分裂、乱立によって争点が分散化している。1つの政策だけを看板にして選挙戦に臨む政党も少なくない。有権者にとって大切なことは、日本があるべき姿という全体像を見失わず、各党の政見を比較することである。その際、対中国という物差し、思考の縦軸は、極めて頼りになるものだ。
選挙戦は決して、口舌の徒の争いではない。今度こそ、2つの期待をしっかり実現してくれる政党を選ばねば、日本そのものが危ういことを自覚したい。
2012.12.4 11:30
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/121204/waf12120411300019-n1.htm
今思えば迂闊(うかつ)に、民主党に一票を投じてしまった後悔を元に、3年前の夏を振り返りたい。自公政権の体たらくは、思い出すだけでも不快極まりない。閣僚の不祥事が相次ぎ、消えた年金問題では官僚をコントロールできない無能ぶりを次々にさらけ出した。ガソリンの暫定税率廃止問題では、族議員の抵抗を排せない自民党体質を見せつけた。当時の新聞を見ると、最も重視する政策の世論調査結果で、年金・医療が景気対策を抑えて1位になっている。社会保障費の増大圧力が年々高まる中で、この政権に将来を預けて大丈夫かという不安が、社会全体にあふれていた。
その不安を風にして、大躍進したのが民主党である。行財政の徹底的な効率化を打ち出し、使い方次第で財源は十分あると主張した。具体例として挙げたのは公共事業削減1・3兆円、国家公務員人件費2割削減1・1兆円、天下り関連の補助金削減6・1兆円、衆院定数80減0・6兆円…。
これならば、税金や保険料の使い方が根本的に変わり、不安が和らぐのではないか。それが民主大勝を生んだ有権者心理だった、と今思う。子ども手当などのばらまき政策に心を動かされるほど、日本の平均的有権者はさもしくはないし、それほど若くもないからである。その期待が無残に裏切られたことは、今さら言うまでもない。
宙に浮いた期待感の受け皿は意外にも地方から現れた。前回衆院選の1年前、平成20年に大阪府知事に就任し、「財政非常事態宣言」を出して財政難と苦闘した橋下徹氏である。
「子供が笑う大阪」を公約に知事になった橋下氏は、財政難の実態を知るや、前例のないほどのコストカッターに変身した。府職員を「倒産企業の社員」と断じ、労組の抵抗を押し切って人件費を大幅削減した。私学助成金や団体への補助金も大幅に見直した。市町村への補助金カットでも、市町村長らの猛反対に屈しなかった。
極めつきは、国が勝手に工事場所を決め、負担金だけ自治体に求める公共事業に関して、「ぼったくりバー」と酷評して攻撃したことだろう。そのあたりから、橋下氏の政治目標は国政の変革に移り、その言動が全国的に注目され始めたのである。
民主党をはじめとする既成政党が一時、台風の目として橋下・維新の会に怯(おび)え、その意を汲もうと汲々(きゅうきゅう)とした背景には、橋下政治の歳出構造改革への意志、手法への世論の支持があったことは間違いない。時代の要請する歳出構造の徹底した改革を-。それを何より求める世論の風は今も変わらず、吹き続けている。ただし、今年7月からは新たな風も吹き始めたことを私たちは見落としてはならない。
◆TPPも原発も争点足りえず
野田内閣が尖閣諸島の国有化を表明したのは7月7日である。その後、中国公船が日本領海にわがもの顔で侵入を繰り返し、中国国内で日系企業が襲撃、略奪されるなどした。
この日中関係緊迫化と連動するように、自民党の支持率が上がり、維新の勢いが鈍ったことに注目したい。日韓の領土問題である竹島に関して、橋下代表(当時)が共同管理に言及したことも、維新の評価を落とした。日本人は明らかに、領土や国家主権に関して目覚めたのである。それは、自民党総裁選で、党内国会議員の受けがよくなかった石破茂氏を一躍、党の顔にし、安倍晋三氏の返り咲きを認めた自民党員の投票行動でも明らかだ。膨張し、横暴になる中国に有効な対抗策を打てる政治を-。それこそが今、新たに加わった民意、すなわち風である。
中国危機への対応を国策の軸に据えれば、日本がとるべき道は明らかだ。人口パワーをてこに成長した経済力を国際政治に利用し、軍事力を増強して交渉圧力にする中国に、覇権主義的な野心を持たせないための国力、経済力を養うことである。
その観点から考えれば、中国に依存しない通商国家となることは喫緊の課題であり、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加は議論の余地がないことだ。原発問題にしても、安定的で安価な電力供給が今、この時点で国内産業に欠かせないことを認識すれば、この衆院選で争点になるものではない。原発は安全性だけでなく、安定的かつ安価という3つの「安」を総合的に考えなければならない問題だと、有権者は改めて気づくべきなのである。
中国の軍事的脅威への対抗と、国際貢献による日本の世界での立場の強化についても今、真剣に考えなければならない。その重要性を認識すれば、集団的自衛権の行使を含む憲法解釈、憲法改正問題もおのずと答えが出るはずだ。言論によって中国につけこまれないためには、日本人としての誇りと知識を養う必要があり、そのための教育改革が必要不可欠なことも言うまでもない。
失政続きの民主党が残した最大の教訓は、財源がなければ、どんな理想的な政策も実行できないという、極めて当たり前の現実である。新たな財源を捻出することや税収を増やすことが、よほどの覚悟と知恵がなければできないことも、この3年3カ月に私たちは目の当たりにした。その環境下で大国・中国と向き合わねばならないのだから、歳出構造の徹底した改革はさらに必要性が高まっている。ばらまきといわれる政策は言うに及ばず、必要性の薄れた歳出はどんなに抵抗があろうと削減していかねばならない。その見識と自覚、勇気があることがこの選挙で、政権を担う政党になる絶対条件でもある。
今回の選挙では、政党の分裂、乱立によって争点が分散化している。1つの政策だけを看板にして選挙戦に臨む政党も少なくない。有権者にとって大切なことは、日本があるべき姿という全体像を見失わず、各党の政見を比較することである。その際、対中国という物差し、思考の縦軸は、極めて頼りになるものだ。
選挙戦は決して、口舌の徒の争いではない。今度こそ、2つの期待をしっかり実現してくれる政党を選ばねば、日本そのものが危ういことを自覚したい。
2012.12.4 11:30