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ニッポンのゆる~い日常

鳩山首相の日露会談での「誤り」

2009-11-20 09:08:26 | Weblog
11月20日付   産経新聞より


鳩山首相の日露会談での「誤り」   北大名誉教授・木村汎氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091120/plc0911200313002-n1.htm


 ≪「実利的」では誤解される≫

 鳩山由紀夫首相は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)出席を利用して、シンガポールでロシアのメドベージェフ大統領との会談を行った。新聞報道で判断するかぎり、同首相の対露政策について筆者は危なっかしいものを感じる。懸案の北方領土問題を解決しての平和条約締結の目標および戦術にかんして、とりわけそのような感想を抱く。

 まず、鳩山首相は、麻生太郎前自民党首相が犯した誤りを正そうとしないばかりか、繰り返しさえしている。

 例えば鳩山首相は今回メドベージェフ大統領に向かい、「従来の冷戦思考にとらわれないで、プラグマティック(実利的)な解決をしたい」と述べたという。俗耳受けする言葉である。だが、北方領土問題は冷戦前に発生し、その非はひとえにソ連側に存在する。

 ソ連軍は、日ソ中立条約を一方的に破って日本の領土に侵攻し、今日にいたるも武力占拠を続行中である。このような国家主権の侵犯行為は直ちに撤回すべきであり、それ以外の解決法があろうはずがない。麻生前首相やそのブレーンが示唆した「面積等分論」や「3・5島論」にうかがえるようなプラグマティックな観点からの解決法にそもそも馴(な)じむ類の問題ではない。



 ≪「独創的アプローチ」の陥穽≫

 麻生前首相は、ロシア側から行われた「独創的なアプローチ」提案という美辞麗句の陥穽(かんせい)にも陥った。日露間では、既に北方領土問題解決のためのフォーミュラ(枠組み)やアプローチについては合意済みなのである。1993年に細川首相とエリツィン大統領が調印した「東京宣言」は、この点を明確にして述べる。

 「双方(日露両国)は、この(北方)問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決する」

 ところがプーチン首相は大統領当時から、ロシアが脆弱(ぜいじゃく)な状態にあったエリツィン期の“負の遺産”を帳消しすることに使命感を燃やす。日露での東京宣言の調印をエリツィン大統領の勇み足とみて、可能なかぎりプレー・ダウン(軽視)しようとする。同宣言中の右の規定に代わるものとして、「創造的なアプローチ」提唱を思いついたのである。

 このような日露交渉の歴史的な経緯について無知だった麻生前首相は、ロシア側の「創造的アプローチ」提案に見事乗せられてしまい、その具体的内容を示すようロシア側に迫った。

 鳩山首相は、祖父の一郎氏が仕残した平和条約締結を自らが行うとの意気込みを喧伝(けんでん)して止(や)まない。しかしそれを完成させるためには、地道な勉強と準備作業を重ねたうえで対露交渉に臨む必要がある。そうであるにもかかわらず、同首相も不勉強ぶりを露呈した。メドベージェフ大統領に向い、麻生前首相同様、「独創的アプローチ」にもとづくロシアの新提案を示すよう迫る愚を繰り返したからである。北方領土の解決法として、新しい独創的なアプローチなどあるはずはない。あるとすれば、東京宣言が明記したものが唯一それに当たる。


 ≪「2島+α」でよいのか≫

 鳩山首相は、麻生前首相の「誤り」を繰り返すばかりではない。前任首相に比べさらに低い姿勢で対露交渉を行おうとしている。

 日本政府はかつて「政経不可分」の立場を堅持していたが、ゴルバチョフ氏やエリツィン氏の「改革」志向を促進しようとして「拡大均衡」論や「重層的アプローチ」と名づけられる柔軟姿勢に転じた。だがその結果、経済関係ばかりが進展する一方で平和条約交渉は一向に発展しないというアンバランス状態を導いてしまった。麻生前首相は昨年11月リマで行われた日露会談で、メドベージェフ大統領に向かい、このことにたいする不満を率直に表明した。

 ところが鳩山首相は、この前首相による反省や抗議に注意を払うことなく、所信表明演説のなかで実にあっけらかんとして宣言した。「日露関係については、政治と経済を車の両輪として進めてまいります」と。

 今回の日露首脳会談では、さらに深刻と思われる失言を、鳩山首相は行った。「(歯舞・色丹の)2島返還では(日本)国民は理解できない」と述べたからである。同首相の表現は、ロシア側に次のようなものとして受けとられる危険性がある。〈2島に少しでもプラスαをつけ加えてほしい。そうすれば、日本国民の理解が得られるかもしれない〉

 このような無用な誤解を避けるためにも、なぜ同首相は直截(ちょくせつ)に日本国民も自分も4島返還を求めていると明言しなかったのか。4島返還は、日本の全政党が同意している国会決議事項であり、民主党の主張でもある。

 政治は、結局のところ言語を用いてのシンボルの闘いである。理系出身の政治家も、この点だけは拳拳服膺(けんけんふくよう)し言葉遣いを慎重なうえにも慎重にしてほしい。(きむら ひろし)




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