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ニッポンのゆる~い日常

「対韓温情」姿勢を変えるときだ

2012-08-27 08:52:15 | 正論より
8月27日付    産経新聞【正論】より





「対韓温情」姿勢を変えるときだ   東洋学園大学教授・櫻田淳氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120827/plc12082703130003-n1.htm



 筆者は、20歳前後の頃、『ジャパニーズ・マインド』(ロバート・C・クリストファー著、徳山二郎訳、講談社、1983年)という書を読んだことがある。それは、80年代に日本の経済隆盛を受けて出された多くの「日本論」の一つであった。




 ≪竹島上陸に見える甘えの構造≫


 書中、若き日の筆者に強い印象を残したのは、「日本人のナショナリズムに一旦、火が点(つ)いたら、もはや手が付けられない」という趣旨の記述であった。この書が書かれた頃から30年の時間がたった今、「日本人のナショナリズムは、手が付けられない」という往時の観測が正しいのかと問いを発するのは、大事であろう。

 特に中国や韓国では、政治指導層にせよ一般国民にせよ、日本の「ナショナリズム」はどのようなものだとみられているのか。彼らは「怖い」とみているのか、「大したことがない」とみているか。これが今後の東アジア情勢を観察する材料にはなるであろう。


 というのも、李明博韓国大統領の竹島強行訪問には、日本の「ナショナリズム」を「大したことがない」と軽侮した判断が働いたであろうというのは、平凡に過ぎる観測だからである。しかしながら、他面において李大統領の判断は、「日本に絡んだ話であれば、どのような狼藉(ろうぜき)も容認される」という児戯に類する「甘えの心理」を反映したものでしかない。しかも、それは、日韓関係を傍観する他国の人々には異様なものと受け止められているかもしれない。


 過刻のロンドン五輪男子サッカー三位決定戦の日韓戦直後、韓国選手が竹島領有を主張する紙を掲げる「五輪憲章違反」行為に及んだけれども、それを英国メディアが「不作法」と非難したのは、その一例なのである。


 実際のところ、昔日、韓国は日本にとっては、政治上も経済上もマイナーな存在でしかなかった。故に、日本の対韓姿勢に反映されたのは、帝国主義時代の宗主国としての歳月と戦後の経済発展における格差に裏付けられた「温情主義」意識であり、植民地支配の記憶に絡む一種の「悔恨と贖罪(しょくざい)」意識であった。煎じ詰めれば、日本は常に「上から目線」で韓国に接してきたのであり、それ故にこそ、「泣く子」をあやすように韓国に相対してきたのである。





 ≪手加減した拳闘おしまいに≫


 韓国鉄鋼最大手ポスコの母体となった浦項製鉄所が象徴するように、日本は、資本や技術の面でさまざまな対韓援助を大々的に続けてきた。歴史認識や領土が絡む摩擦が生じた折に、日本が示した対韓姿勢とは、そうした色合いの濃いものであった。しかも、戦後、韓国が相手にしてきた日本とは、法制度、さらには資金や人員の面で対外政策展開にさまざまな制約を自ら課してきた国家のことである。喩(たと)えていえば、日本が韓国を相手にして半世紀近くも延々と続けてきたのは、「一切の手加減のない大人相手のボクシング」ではなく、「片手を縛ったままで手加減をした子供相手のボクシング」であった。


 しかし、韓国それ自体が既に「1人当たり年間国民所得2万ドル、人口5千万人」を実現した、「世界第7位の経済大国」であると自ら認識し、その立場を喧伝(けんでん)している以上、そうした旧来の対韓姿勢を続けることは、もはや時宜を得ないものになっている。

 近い将来、既に対外政策展開に際しての諸々の制約を外した「普通の国」に脱皮し、「温情主義」意識と「贖罪」意識の入り交じった奇妙な対韓配慮の一切を捨てた日本は、韓国には、どのような存在として映るのか。また、韓国は、そうした日本を相手にした「一切の手加減のないボクシング」に耐えられるのか。筆者にはそれを判断する材料はない。





 ≪「反日」冷徹に利用し国益を≫


 ただし、過日の竹島強行訪問に示された李大統領の対日姿勢は、少なくとも日本に対しては、そうした対韓姿勢の「次の局面」に向けた機会を期せずして提供したといえよう。そうであるとすれば、日本にとっては、李大統領が自国の「生煮えのナショナリズム」に耽溺(たんでき)しながら提供した「機会」に乗じて、どのように自らの対外政策展開に絡む態勢と論理を構築し、その利害を図っていくかを考えるのが、賢明であろう。


 李大統領が披露したような韓国の「反日」姿勢は、もはや真面目に相手にして「憤激」や「苛立(いらだ)たしさ」を感じるような代物ではなく、それを冷徹に利用して「利益」を手にしていくための材料でしかない。「反日」姿勢に反映された韓国の「生煮えのナショナリズム」の果てにあるものを背負うのは、韓国の人々に他ならない。それは、日本の人々の与(あずか)り知るところではないのである。


 日本のナショナリズムは、一時の変調はあったにせよ、福澤諭吉が象徴するように、「万国公法」と「文明」の尊重を大義にした明治期以来、洗練されたものであった。それが「生煮えのナショナリズム」に堕しないようにする努力は何時の世でも大事であろう。(さくらだ じゅん)













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ウソで内憂を外患に転じる韓国

2012-08-22 09:17:55 | 正論より
8月22日付     産経新聞【正論】より



ウソで内憂を外患に転じる韓国     筑波大学大学院教授・古田博司氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120822/plc12082203050006-n1.htm


 李明博韓国大統領が竹島に行った。何という愚かさだろうか。



 ≪どさくさに紛れ竹島を奪取≫



 そもそも韓国が日本から竹島を奪ったのは、終戦後のどさくさに紛れて、李承晩大統領が李ラインで海を囲い込んで以来のことである。それから韓国領だというウソにウソを重ねてきた。悪いことに日本は無難に円満にやり過ごし対抗しなかったので、韓国民は自国領であると信じ込むに至った。


 そして遂(つい)に李大統領が「どうだやったぞ」とばかりに竹島に降り立った。北朝鮮が拉致なんかやっていないとウソを言い続け、最後に金正日総書紀が「どうだやったぞ文句あるか」と開き直ったのと大差ない。日本人が不正直にも真剣に取り組まなかったので、彼らは正直に日本をなめたのである。


 だが、李大統領よ、自国の足元を見よ。18世紀の「ポーランド分割」のような状態ではないか。といっても、領土のことではない。資本の話だ。大企業や銀行のことごとくがグローバル化の名の下に外資に席巻され、韓国人がいくら働いても、収益は米国人をはじめ外国人株主の配当に化け、国民はどんどん貧しくなっていった。

 経済はいつも借り物である。日本から部品を買い続け、それを日本のパテントでもって、外国人労働者が組み立て、ウォン安に乗じて輸出を増やしてきた。国民の高価な労働力など大していらない。だから、韓国人は40代で肩をたたかれ、20代の若者の失業率は20%を超えている。部品代、パテント料は日本に取られ続ける。表向きの経済成長というウソだけが、正直に遂行された。最後の大見えが米韓FTA(自由貿易協定)である。その不利な条項のせいで韓国は外国人投資家を国内の政策で縛れないことになってしまった。





 ≪日本の対応見直しの秋が来る≫


 ばか正直は中国にも向かう。6月29日には、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結をドタキャンし、7月3日には、日本との間で締結へ向け進めていた物品役務相互提供協定(ACSA)の協議も中断、翌4日には、今度は中国との事実上のACSAが推進中であることが確認された。


 さかのぼれば、3月15日には、韓国国防部の金寛鎮長官が「済州海軍基地が完成したら、中国の船舶も寄港可能」と語ったという。大国に仕えていれば安心だ、寄らば大樹の陰という事大主義のDNAがばか正直を推進し、中国が共産党支配の一党独裁国家であることを忘れさせた。韓国が民主主義の国だということが、まさにウソだったと言わんばかりである。


 このまま12月の韓国大統領選挙で、左派政権が誕生すれば、資本被占領状態の韓国が北朝鮮を支援することになり、経済はさらに悪化して、グローバル企業は拠点を韓国から海外に移す一方、中韓FTAが進行し、韓国は中国資本に呑(の)み込まれて香港化する可能性がある。そうなれば貧しい国民だけが取り残され、朝鮮統一の絶好機が訪れることになるであろう。


 右派政党が勝ってもうまくはいかない。「ポーランド分割」状態は変わらず、じわじわと国民生活を締め付けることだろう。その時に、内憂を外患に転化する相手が日本であり、右派の李明博政権は次の政権のために、今、その予行演習をしていると見ることができる。「従軍慰安婦」「性奴隷」などというウソが恥ずかしげもなく反復され、日本は不正直な対応をやがて諦めなければならない秋(とき)がいつかきっと来ることだろう。


 東アジアの人々は、愚かなほど正直であり、その正直さの内容がウソであるか否かを問うことがない。日本人は無難に、そして円満にやり過ごそうと、初めからウソだと分かるはずなのに、変な人々だと不正直な対応を繰り返す。






 ≪無気力試合に中韓の特殊性≫


 今回のロンドン・オリンピックのバドミントン女子ダブルスの試合で、韓国のペアと中国のペアが失格になったあの試合を、読者はごらんになっていたであろうか。彼女らは準々決勝で有利な相手と当たらんがために故意に負けようとし、サービスをネットに引っかけたり、シャトルコックを遠くへ飛ばしたりし、ウソを実に大胆に正直に実践して、ロンドンの観客たちの大ブーイングを浴びた。


 他国民にあの真似(まね)はできない。ウソを正直に実践することにかけては、中国も、韓国や北朝鮮と同じである。毒餃子事件、北京オリンピック口パク事件、高速鉄道事故隠滅事件などを思い起こせば、十分であろう。そこで、この地域をアジアの他地域から分け、「特定アジア」と呼ぶ人々もいる。


 彼らから日本人を見ると、日本人は不正直に見える。ウソを大胆に申告しないからである。ゆえに彼らは、日本には建前と本音があると常々、非難するのである。だが、世界から見れば、彼らの方が特殊であることは今回のロンドン・オリンピックでも明らかになったことと思う。日本は特殊だ特殊だと言う人々が、日本にはたくさんいるが、それらは、だいたいが「特定アジア」から見た特殊性なのであり、本当は彼らの特殊性こそが世界では突飛(とっぴ)なのである。(ふるた ひろし)











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尖閣「上陸」調査は待ったなしだ

2012-08-21 09:36:32 | 正論より
8月21日付      産経新聞【正論】より



尖閣「上陸」調査は待ったなしだ    東海大学教授・山田吉彦氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120821/plc12082103190005-n1.htm



 日本政府は、尖閣諸島最大の魚釣島に不法上陸した香港の活動家らに対して、入管難民法違反の容疑で逮捕しながら、同法第65条に基づく刑事訴訟法の適用除外として強制送還する措置を取った。

 魚釣島灯台の破壊なども計画され、海保の巡視船に投石で抵抗する悪質な事案で、本来なら刑事処分の手続きを取ってしかるべきだったにもかかわらず、である。




 ≪弱腰対応の裏に甘い現状認識≫


 弱腰の対応というほかない。


 野田佳彦民主党政権はこの7月に尖閣諸島を国有化する方針を表明し、野田首相は尖閣を「平穏かつ安定的に維持管理する」と述べた。しかし、そもそも「平穏」という言葉の解釈に誤りがある。

 この表現は、国際的な領土紛争の判例であるパルマス島事件仲裁判決でフーバー判事が「先占」する国の要件とした、「国家的機能の平穏かつ継続した発現」を意識したものだろう。平穏とは、複数の国家の主権主張行為により争われてはいない状態である。現在の尖閣周辺海域は、今回の件以外にも中国公船の領海侵犯が繰り返され、平穏とは言い難い。

 「国家的機能」としては、行政権、司法権、立法権の確立が挙げられる。このうち、司法権の確立には、的確に捜査したうえで裁判権を行使することが望まれる。今度のような処理では、とても、司法権を行使したと胸を張って言えようはずがない。日本の従来の政策では、行政権もあいまいだ。政府は、地方行政権を持つ石垣市に対して、固定資産税調査のための上陸すら認めていないのである。これでは、日本の「先占」には国際的に疑問を持たれてしまう。

 今回の事態への対処の手ぬるさも一つには、こうした認識の甘さを映したものだといっていい。





 ≪トウ小平発言の呪縛今もなお?≫



 中国は尖閣諸島について、1992年制定の領海法で領土とし、2010年施行の海島保護法で国有地とし、最近では事実上の「核心的利益」(安全保障上、譲れない国益)とさえ位置づけている。10年夏からは、大漁船団が日本領海内で違法操業を繰り返すようになった。漁船団は、漁業監視船に統制されているとみられ、中国の海洋進出の先兵と化している。

 その漁業監視船、さらには海洋調査船による尖閣沖での領海侵犯も頻々として起きている。この7月に、領海を侵犯した3隻の漁業監視船に、海上保安庁の巡視船が退去を求めたところ、「妨害するな。直ちに中国領海から離れろ」と、逆に言い返されたという。

 

 中国の「尖閣盗り」の意図は明らかなのに、日本側はなお、「尖閣問題棚上げ」という、1978年のトウ小平発言の呪縛から解き放たれていないようにもみえる。

 尖閣諸島は、沖縄県石垣市の行政区域内にあるものの、個人所有の無人島だ。現在、海保の巡視船が通常は4隻ほどの態勢で周辺の領海警備に当たっているのみで、諸島の管理についても、無策といわれても仕方ない状況である。

 尖閣諸島というわが国固有の領土を防衛するには、そこを明確に管理し利用し警備する体制を築いて、絶対に付け入るすきを与えないことだ。実効支配がいかに重要かは、北方領土や竹島を見れば一目瞭然。相手の非道によるものであっても一度(ひとたび)手を離れた領土は、滅多に返ってこないのである。

 政府がなすべきは、現状よりもぐっと踏み込んだ対策である。





 ≪海上警備と社会空間の創設≫



 第一に、不審な船舶を尖閣に寄せ付けない海上警備体制の構築である。今回のように1隻の抗議船の領海侵犯も阻止できないようなありさまでは、仮に数百隻の漁船が点在する尖閣の島々や岩への上陸を目指し侵入してきた場合、対応不能に陥るのは間違いない。

 8月10日、衆院で海上保安庁法改正案が可決された。この法改正により、離島での海上保安庁の警察権の行使が可能になり、日本の領海に侵入し停留する不審船に対し退去を命令できるようになる。漁船をはじめ中国の船が領海内で不穏な動きを見せた際など、海保は速やかな対応を取れるのだ。

 次は、石垣市が行政権を持ち各島内を管轄する、社会システムを尖閣諸島に創設することである。実際に島に上陸して調査活動を行うことが、その第一歩となる。島の所有権の獲得を目指している東京都は、石垣市とともに、島に新しい社会空間をつくる方向だ。


 尖閣諸島をはじめとする国境の離島はいずれは国有化して管理すべきである、と筆者は考える。だが、今回の尖閣上陸への対応をみて、民主党政権による国境管理に不安を感じたのも確かである。


 中国の海洋進出はとみに加速し一刻の猶予もならない状況だ。尖閣諸島管理への着手を急がなければならない。地主との交渉が進んでいて世論の支援による購入資金集めが順調に推移する東京都との協力を、政府が強化していくことこそ、そのための近道となる。

 東京都は8月末の尖閣調査団派遣を計画している。政府が調査団の入島に許可を与えて、積極的に参画する必要性は、今回の上陸事件で一段と強まったといえる。(やまだ よしひこ)












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嗚呼、「無難神」に憑かれし国よ

2012-07-24 11:09:00 | 正論より
7月24日付     産経新聞【正論】より



嗚呼、「無難神」に憑かれし国よ    筑波大学大学院教授・古田博司氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120724/plc12072403120005-n1.htm


 最近の日本は、つくづく貧乏神に取り憑(つ)かれたようで、なかなか経済的な苦境から脱出できない。無難に乗り切るには増税が必要なことは誰にも分かるが、それを推し進める民主党の野田佳彦政権が政局を円満に乗り切れるかどうかは別問題である。こう考えると、いつの間にか、わが国には貧乏神だけではなく、無難神と円満神も住み着くようになったらしい。




 ≪円満神と無縁の中国には裏目≫


 大津市のいじめ自殺事件でいえば、男の子は多くのいじめ被害者がそうであるように、円満に解決しようとこらえ、がまんした。担任や学校や教育委員会は無難にやり過ごそうとした。しかし、加害者たちは無難でも円満でもなかった。円満神や無難神に取り憑かれた方が暴力に負けてしまった。

 東京都の石原慎太郎東京都知事は無難ではないが、円満な人である。パンダの子にセンセン、カクカクと名付けて帰してやれとか、言うことは無難ではないが、ちゃんと円満に中国に賃貸料を払ってパンダを公開し、都民をはじめとする日本国民を喜ばせている。

 その都知事が国の無策にあきれて、尖閣諸島を直接、地権者から購入しようとした。円満策に日本中の人々が共感し、億単位の寄付金が集まった。だが、野田政権は石原氏が無難な人ではないので、構造物を建てて実効統治強化に乗り出すことを危惧したのだろう、今頃になって国が買うと言い出した。中国との関係を無難にまとめようとしたのである。しかし、相手の中国には無難神も円満神もいないことに気づかなかった。日本国の介入こそが統治強化のシグナルと受け取り怒髪天を突いた。

 無難神や円満神に取り憑かれている人は日本中に五万といる。億かもしれない。人と人が衝突を避け円満に無難に時をやり過ごす。狭い日本列島ではぶつかるとただでは済まないので、みなが無難神と円満神に忠誠を誓っている。推薦状には「某君は人格円満」だと必ず書かなければならない。たとえ無難でない人格でも、こう書いてやるからなと本人に言い含めて書く。推薦状を受けとった方は本当に無難で円満かどうか、面接でチェックしなければならない。




 ≪事なかれ姿勢で事態の悪化も≫


 会議では多数決を取ることが難しい。円満ではなくなるからである。すったもんだの揚げ句、議長預かりになる案件があまりにも多い。それが無難な解決法だと信じているからである。結局、議長はどちらにとっても円満な答えが見つからず、問題自体が時の流れの中で変質する機会を待っている。だから、時間がとてもかかる。

 無難神や円満神は、日本人の付き合いをなめらかにする潤滑油をとろーり、とろーりと出してくれる。が、受けつけない相手には一向に効かない。いじめが犯罪になるのを放置してしまったり、誤解が事態を一層複雑にしたり、解決に余計に手間取ったり、案件をさらに先延ばししたりしてしまう。そして、対応がいつも遅れる。

 被害妄想神とゼノフォービア(外国人嫌い)神に取り憑かれた朝鮮民族からは島を奪われ人を掠(さら)われ、謝りが足りない、もっとカネ寄こせと言われる。中華神に取り憑かれた中国人には体当たりされ東シナ海を奪われそうになり、ツァーリ(皇帝)神に忠誠を誓うロシア人には北方領土に踏み込まれる。それでも無難に円満に解決しようというのは、相手が無難でも円満でもないことに何としても気づきたくないからであろう。




 ≪反原発で日本は貧乏神の巣に≫


 大飯原発3号機の再稼働で少し息を吹き返しつつある日本の原子力をめぐっても、またしても無難神と円満神に操られた人々が集まり、日本を貧乏神の巣にしようと気勢を上げている。四囲は海であり、電力を周りの国々から買うこともできず、自然エネルギーでは安定的な産業が成り立たないという現実を見たくないのだろう。

 昔は恐(こわ)いものを、「地震・雷・火事・親父(おやじ)」といった。今では、「地震・原発・火事・いじめ」であろう。どれも百パーセント排除することのできないリスクである。ならば、雷親父をかつてうまくなだめたように、原発やいじめを根絶の対象ではなく、暴走するようなリスクを低める努力の対象とすべきではないのだろうか。

 無難神や円満神には、リスクを隠したりして、結局、事態を悪化させ、問題を先延ばしするという悪神としての側面がある。ただ、そのようなことを書くと、私が無難でも円満でもないということが露見し、さらに仕事が減るかもしれない。ゆえに、こんなことは書きたくなかったのであるが、放っておくと、エネルギーも領土も失って、日本国中が貧乏神の巣になるやもと危ぶまれたのである。

 すでに、職場では貧乏神が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するようになり、家庭には火の車が走るようになった。他方、テレビをつけると、無難なニュースや円満な笑い声ばかりが響いてくる。インターネットの方が「地震・原発・火事・いじめ」の実態を包み隠さず教えてくれる。ネットは、無難神や円満神がまだ入り込めない空間のようである。(ふるた ひろし)










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尖閣防衛の先頭に立つは日本だ

2012-07-18 10:07:44 | 正論より
7月18日付     産経新聞【正論】より


尖閣防衛の先頭に立つは日本だ   

ヴァンダービルト大学 日米研究協力センター所長 ジェームス・E・アワー氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120718/plc12071803160002-n1.htm



 長島昭久衆院議員が吉良(きら)州司議員ら民主党国会議員43人で、時の菅直人首相あてに「建白書」をしたためて渡したことは、2010年9月27日の長島氏のブログに掲載されている。建白書には、「沖縄県尖閣諸島沖で起こった中国漁船衝突をめぐる今回の事案の結末は、日清戦争後の三国干渉に匹敵する国難である」と記され、長島氏は9月30日の国会質疑では、菅首相にこうも述べている。

 「今回の事案では日本国の国家の意思が問われている。政府の責任は国民の生命と財産、主権と領土をしっかり守ることだ」




 ≪北東アジア3大発火点の1つ≫


 筆者はこの6月に日本を訪問した折、以前の訪日時に比べて、尖閣諸島についての日本の社会的関心が著しく増しているように思った。恐らく、中国が前より頻繁に「核心的利益」を主張するようになったからであり、石原慎太郎東京都知事が尖閣の3島を都が購入すると提案したせいでもあろう。筆者は、国会議員や企業トップ、防衛関係のシンクタンクのメンバーたちから、仮に中国軍が尖閣諸島の奪取か占領を試みた場合に、米国は日本を支援すると確信しているかと何度か問われた。

 筆者はこれに対し、北東アジア地域には現在、軍事的対立が起き得る一触即発の状況が3つあるようにみえると説明した。北朝鮮による韓国侵攻および韓日へのミサイル攻撃、台湾に対する中国の軍事侵攻あるいはミサイル攻撃、そして、中国による尖閣諸島への侵攻かミサイル攻撃である。

 韓国や日本に対する条約上の責務を考えれば、米国は北朝鮮による攻撃には圧倒的な対応を取ると思う、と筆者は説明した。もっとも、米国は当然、韓国には同様の軍事的対応を期待し、日本からも海空の支援を望むだろう。





 ≪半島、台湾でも海空の支援を≫


 台湾の事態でもやはり、米国は台湾関係法によって、中国から台湾への武力攻撃を阻止する事実上の責務を負っている。そして、その場合も、米国は日本からとりわけ海空の支援を希望し、当然、見込むだろう。北朝鮮による韓国支配ないしは中国による台湾支配は日本自体の安全保障を危うくするという米国の大局観からすれば、これらを日本に期待することはともに論理的にみえるのだ。

 中国が尖閣諸島に対し攻撃または侵攻した場合、米国は、尖閣が日本主権下の領土だという点で日本に同意する(あるいはしない)からではなく、尖閣が明白に「日本の施政下にある領土」だという理由から、日米同盟の条項に基づいて、対応を取るだろう。

 米国人はしかし、尖閣諸島に関しては、最初に、そして中心的に防衛措置を講じる責任は日本にあると考えるだろう。北朝鮮による韓国攻撃に対して、米国が中心的に、あるいは(韓国と)同時に手段を取り、中国による台湾攻撃に際しても、同種の(台湾との)行動に出るように、である。


 韓国や台湾は、軍事力によって攻撃されれば、まず間違いなく直ちに対応するだろうし、米国もまた時を移さず対応するだろう。だが、尖閣諸島の名を知る米国人はたぶん、ほとんどいない。

 したがって、日本が、たとえ米国から非常に好意的にみられているとはいっても、自国固有の領土だと自ら正当に主張している尖閣諸島に対する中国の侵略を撃退すべく、迅速かつ積極的に対応しなければ、なぜ、日本の本土から遠い、比較的に小さな諸島を守るため、海兵隊をはじめとする米軍の兵士たちの生命を危険にさらさなければならないのか、と米国人は怪訝(けげん)に思うかもしれない。





 ≪集団的自衛権言い訳にするな≫


 また、朝鮮半島で、そして台湾に対して怒濤のような攻撃が起きたとして、日本が、多くの米国人の生命を救うのに大いに影響を及ぼし得る海空の支援を提供できない、なぜなら集団的自衛権を行使できないからだ、と言い訳がましく述べるなら、尖閣諸島への攻撃に当たっても、米国はどの程度、支援を差し伸べるべきか、と米国人は訝(いぶか)しむかもしれない。

 米国は、あたかも日本が占領下にあるかのように、あるいは、召し使いの部類であるかのように、日本に指図することを求めてなどいない。そうではなくて、日本にパートナーであってほしい、と米国は思っているのである。

 米国は、韓国や台湾が侵攻された際には、ソウルや台北との協議の結果次第で、上位のパートナーにも、対等のパートナーにも、あるいは下位のパートナーにもなるだろう。尖閣諸島が侵攻された際にも、東京との協議によっては、上位、対等、下位のどのようなパートナーにもなるだろう。

 ただし、日本は、自国の平和と安全保障にとって極めて重要である、アジア太平洋地域における一触即発の状況、わけても日本の主権下の領土である尖閣諸島では、「真の」パートナーとして、責任を持つべきではないのか。

 米国とのパートナーシップが、日本の「コッカノイシ(国家の意思)」の欠くべからざる要素であることは、米国人の目には、理に適っていると映るだろう。









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民主党は解党的出直しし信問え

2012-07-03 09:49:46 | 正論より
7月3日付    産経新聞【正論】より


民主党は解党的出直しし信問え   評論家、拓殖大学大学院教授・遠藤浩一氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120703/stt12070303070008-n1.htm




「自党内の不統一をそのままにして、このままずるずると連立政権を続けることはかえって他の与党に対し無責任な態度とも言える。私はいろいろ考えたすえ結局、総辞職の腹をきめ、…総理に総辞職の決意をうながした」


 ≪西尾末広と輿石氏の違いよ≫


 これは輿石東民主党幹事長の発言でない。64年前の片山哲内閣で官房長官を務め、社会党書記長も兼務していた西尾末広の述懐である(『西尾末広の政治覚書』)。


 昭和22(1947)年春の総選挙で社会党は比較第一党に躍進したものの、政権を担当するには、同党は未熟だと西尾は内心思っていた。危惧した通り、片山内閣は8カ月で行き詰まる。連立与党間の連携がうまくいかなかったわけではなく、社会党内部の対立が激化した揚げ句の政権崩壊だった。

 階級政党論に立つ左派は、連立によって社会主義政策が修正されるのを嫌い、政権発足当初から何かと異を唱え、ついには公然と「野党宣言」をするにいたる。


 公務員給与の財源問題について予算委員会を中断して与党の政調幹部による調整が行われている最中に、左派の鈴木茂三郎予算委員長(社会党政審会長兼務)は「ちょっと、失礼する」と抜け出し、右派や民主党などの与党委員が不在のまま予算委員会を再開し、党内造反派と野党で政府原案を撤回してしまうという挙に出た。

 当然、他の与党からは「与党の中から、政府予算案を謀略的に否決するようなことでは、やっていけぬ」(栗栖赳夫蔵相=参議院緑風会)、「社会党の党内統制について、もっと責任をもってもらわねば困る」(一松定吉国務相=民主党)といった批判が噴出する。西尾は、ひたすら頭を下げて謝りながら、思い極めた。「こんな状態では、とても連立内閣の重責を担ってゆくことはできない。このさいは、むしろ潔く、政権を投げ出し、党内の左派問題を処理することに専念する方が賢明である」(同書)と。





 ≪民主党は片山内閣よりぶざま≫


 この時、党内には、なるべく穏便に事態を収拾すべきだとの意見もあったが、西尾は安易な党内融和論を採らなかった。反対派の統制紊乱(びんらん)を放置すれば禍根を残すと確信したからである。戦後初の政権交代によって成立した片山内閣はこうして総辞職にいたった。


 さて、3年前の、戦後何度目かの政権交代は、いま目を覆うばかりの惨状を呈している。

 片山内閣の崩壊過程よりもぶざまに見えるのは野田佳彦首相や輿石幹事長、さらには得意げに造反してみせた小沢一郎、鳩山由紀夫両元代表らに西尾が示した見識や覚悟が見当たらないことによる。


 党首である内閣総理大臣が「政治生命を懸ける」と宣言し、党内外における手続きを経てようやく合意形成を見た「税と社会保障の一体改革法案」について、党内から大量の造反者が出た。これでは与野党協議は成立しない。野田首相以下の民主党幹部には「党内統制」の責任がある。造反問題に決着をつけるよう谷垣禎一自民党総裁が求めたのは当然だが、首相は「他党のことをとやかく言われたくない」と開き直った。幼稚である。ここはひたすら頭を下げるのが大人の態度ではないか。

 輿石幹事長は、首相に総辞職または解散・総選挙を進言し、党内の路線対立問題に決着をつけるべきだろう。それが要路にある者の責務だが、そうしようとはしない。ひたすら「党内融和」を冀(こいねが)い、無意味としか思われない小沢氏との会談を繰り返して時間稼ぎをしてきた。





 ≪公約破綻し覚悟も見識もなく≫


 輿石氏の頭に「党内融和」しかないのは、自らが「民主党あらばこその幹事長」だということが分かっているからである。この人は政治家としての傑出した資質によって出世したわけではない。日教組の組織内議員として参議院に進出し、当選回数を重ねるうちに民主党を牛耳るにいたったにすぎない。未熟な政党でも数さえ揃(そろ)えていれば幹事長として君臨でき、将来は参議院議長も夢ではない。

 「党内融和」こそ、彼の地位を担保する条件である。ちっぽけな野望が見え透いているから、一挙手一投足が見苦しいのだ。


 見苦しいといえば、小沢氏や鳩山氏ら造反派の姿勢もそうだ。小沢氏らは2日、離党届を提出したが、反対票を投じる前にそうするのが筋ではなかったか。


 目に余る混乱の原因は、消費増税を否定して政権を獲得した民主党政権にそれを主導する資格と力量はないという一点に帰着する。綱領なき民主党にとってはマニフェスト(政権公約)が疑似綱領の役割を果たしていたが、その破綻は明白となった。この期に及んでの「党内融和」は破綻と矛盾の温存でしかない。

 基本理念は不明で、政策は破綻し、見識も資質も覚悟も不在の政治家によって運営される民主党が、このままずるずると政権にしがみつくのは、国家と国民に対して無責任な態度である。この際、解散・総選挙に踏みきり解党も視野に入れて出直すべきであろう。(えんどう こういち)













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国家の名誉、尊厳に敏感であれ

2012-06-21 08:13:47 | 正論より
6月21日付    産経新聞【正論】より



国家の名誉、尊厳に敏感であれ    日本財団会長・笹川陽平氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120621/plc12062103230003-n1.htm



 日本人は自分の考えを強く言わないのを美徳とする傾向がある。和を尊ぶ伝統的な精神であり、それはそれで素晴らしい。しかし、自己主張の弱さは国際問題を解決するうえで、この国の大きな弱点となりつつある。

 慰安婦問題をめぐる最近の日韓の攻防もそのひとつだ。韓国の攻勢に対し日本の主張は苛(いら)立たしいほど弱い。歴史問題は国の根幹であり、このままでは慰安婦問題は大きな“負の遺産”として次世代にのし掛かる。日本は敗戦で国の名誉まで捨てたわけではない。政府も政治家も、国の名誉、尊厳にもっと敏感にならなければならない。主張すべきは主張する姿勢こそ日韓友好にもつながる。





 ≪歴史問題は国の根幹≫


 この問題では一昨年秋と昨年末に、韓国系住民が過半を占める米ニュージャージー州パリセイズパーク市の公立図書館とソウルの日本大使館前の路上に、「慰安婦の碑」が相次いで設置され、李明博・韓国大統領も昨年暮れの日韓首脳会談で、「日本の誠意ある措置がなければ、第二、第三の像が建つ」と“脅し”とも取れる発言をし、この問題を最優先で解決するよう野田佳彦首相に迫った。

 先月にはニューヨーク総領事と日本の国会議員4人が前後してパリセイズパーク市を訪れ、市長に碑の撤去を求めたが断られ、韓国メディアは「日本が大恥」と報じた。米国の22都市に同様の碑を設置する動きもあるという。

 米国碑には「日本帝国政府の軍が20万人以上の女性と少女を連行して慰安婦にした」との趣旨の記述があり、野田首相も参院予算委員会で、「(事実とは)大きく乖離(かいり)している」と答えた。放置すれば、そのまま歴史的事実となりかねない。一方が主張し、他方が沈黙するいびつな関係から正しい歴史認識が生まれることもない。

 米下院外交委員会が従軍慰安婦問題に関する対日非難決議を可決した2007年夏、上院議員として決議に異を唱えたダニエル・イノウエ氏をワシントンの事務所に訪ねた。氏は中国や韓国が官民挙げて米国の政治家やメディアに広報活動を展開している点を指摘、「日本はあまりに静か。米国で何も言わないのは良くないことです」と忠告された。国際的な標準名となっている「日本海」の呼称を「東海」に変更するよう求める韓国側の動きも半端ではない。






 ≪広報外交の不在≫


 訪問先の外国首脳から「日本の顔が見えない」と広報外交の不在を指摘されることも多い。そうでなくとも隣国関係、とりわけ日韓関係は難しい。過度の贖罪(しょくざい)意識や必要以上に相手の立場を考慮する日本の姿勢が、日韓関係を歪(ゆが)めてきた面もある。李発言も、レームダック(死に体)化しつつある大統領としての支持率回復策というより、日本批判の高まりを前にした苦渋の選択のような気もする。


 こうした事態を招いた一番の原因は93年に、宮沢喜一内閣で出された河野洋平官房長官(当時)談話にある。日本政府が集めた約230点の公文書に軍の強制を裏付ける証拠がなかったにもかかわらず、これを認め、65年の日韓基本条約とその付属協定で、補償問題は決着済みとする日本の立場が揺らぐ結果となった。


 以後、韓国の要求はエスカレートし、日本政府は機会あるごとにお詫(わ)びと反省を繰り返してきた。民主党政権になっても「互いに知恵を絞り合い、問題を一歩一歩乗り越えていくことが大切だ」「従軍慰安婦、戦後補償に取り組めば多くの人が日本に信頼を持つ」といった閣僚発言が続き、同じ過ちを犯しているとしか思えない。

 李大統領はこの5月、北京で行われた首脳会談で「強固な両国関係」という言葉を使った。しかし歴史問題を曖昧にしたまま日韓経済連携協定(EPA)や軍事情報包括保護協定(GSOMIA)と言っても話にならない。私には、経済強国になった韓国が「日本との過去」にこだわり過ぎるのは今後の韓国にとって好ましくないといった思いもある。

 慰安婦問題は間欠泉のように政治に利用され、国民の相互信頼を妨げる大きな原因にもなってきた。どのように解決するか、国際社会も注目している。どこに双方の見解の違いがあるのか、改めて本音で語り合うべきである。河野談話に根拠がないというのなら、反発を恐れず撤回すべきである。碑の撤去を求めるのなら国の名で正々堂々と行うべきだ。戦後の韓国の経済発展に対する日本の貢献も、もっと強調されていい。





 ≪日本が一歩、踏み出すとき≫


 具体策もないまま期待を持たせるような発言を重ねるのは、韓国の「反日」を一層高めるだけでなく、韓流ブームの陰で日本の「嫌韓」も深く進行する。隣国関係が“砂上の楼閣”であっていいはずはない。

 今は日本が一歩、踏み出すときである。根幹の歴史問題だからこそ、国の威信をかけ、わが国の主張、見解を示さなければならない。そうでなければ、双方の妥協点は生まれず、事態も動かない。政治家の覚悟と勇断に期待する。(ささかわ ようへい)










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中国の目は既に太平洋の彼方に

2012-06-12 10:09:45 | 正論より
6月12日付     産経新聞【正論】より


中国の目は既に太平洋の彼方に     中国軍事研究家・平松茂雄氏


http://sankei.jp.msn.com/world/news/120612/chn12061203250002-n1.htm



 北大西洋条約機構(NATO)側の呼称で「バックファイアC」といえば、ロシアの長距離爆撃機Tu-22M3のことである。その生産ラインの中国への売却が、長期にわたる商談を経て、15億ドルの価格で決まったようだ。同爆撃機は、中国では「轟-10」(H-10)と呼ばれる。2年前の5月、米議会の政策諮問機関、「米中経済安保調査委員会」が開催した公聴会で明らかにされた。





 ≪戦略環境変える長距離爆撃機≫


 中国軍の主力爆撃機は、長らく旧ソ連時代に導入したTu-16(バジャー)と呼ばれる双発中型機であった。冷戦時代、わが国の日本海上空にしばしば偵察飛来して話題になっている。米トマホークと同性能の巡航ミサイルなどの兵器を装備しているものの、導入以来、半世紀を経て時代遅れは否めない。ロシアでは1990年代に退役しており、中国でも更新は必然の勢趨(すうせい)であった。

 冷戦終結に伴って、中国はロシアとの関係を対立から急接近へと転換し、98年にTu-22M3爆撃機の購入を意図した。だが、ロシアは、東アジアの軍事バランスを著しく崩すという理由で、この爆撃機の売却を拒否したとされる。今回のロシアの方針転換の背後に何があるかの詮索はおくとして、中国軍の航空戦力が向上すれば、何よりも東アジアの安全保障環境に大きく影響してくるから、関心を持たずにはいられない。

 「バックファイアC」は、来年後半に試作機が完成する予定だ。エンジンを除く部品は、中国で作られる。第1陣として12機、第2陣として24機、合計で36機が実戦配備される計画だという。

 目下、世界最速の遠距離戦略ミサイル爆撃機とされ、通常爆弾と核ミサイルを搭載する。作戦行動半径は約2880キロといわれるから、中国大陸を発進して、南シナ海、東シナ海ばかりか、西太平洋海域で行動し、米空母戦闘群の行動を抑制できるという。空中給油が可能だから、作戦行動半径はさらに伸ばすことが可能だ。






 ≪空母保有を想定した演習も≫


 中国軍は、「空母キラー」と呼ばれる地上発射対艦弾道ミサイル「東風21-21D(DF-21D)」による抑止力をすでに有している。それに「バックファイアC」が加われば、米海軍をにらんだ「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略にとり大きな力となる。

 中国の海洋進出といえば、わが国では、圧倒的な関心が尖閣諸島をめぐる動きに注がれ、時折、南シナ海の現状に目が行く程度で、東京都による尖閣購入構想、短期間で10億円以上にも達した購入資金の寄付、東京都と沖縄県石垣市による尖閣共同管理提案、といった話がニュースになっている。


 対する中国は、尖閣諸島はもちろん、遥(はる)か遠方海域まで視野に入れて行動している。海軍艦隊は今世紀に入り、東シナ海の中央部、春暁(日本名・白樺(しらかば))石油ガス田の近海を通過し、第一列島線を、沖縄本島と宮古島の間の海域経由で南下して、西太平洋のわが国最南端の領土、沖ノ鳥島の周辺海域にしばしば現れだした。南シナ海の海南島近海から東進して、台湾とフィリピンの間のバシー海峡で第一列島線を通れば、沖ノ鳥島の周辺に抜けられる。沖ノ鳥島を南下すれば、西太平洋における米軍の重要基地グアム島である。

 5月9日付産経新聞は、同月6日に、先島諸島から台湾にかけての太平洋海域で、中国艦隊が揚陸艦を先頭にV字形の陣形で航行する訓練を行ったと報じた。近い将来における空母の防衛を想定した訓練とみられる。この手の訓練・演習は頻繁に実施され、潜水艦も参加しているという。





 ≪防衛ラインの後退にどう対応≫


 中国軍が現状でも、「空母キラー」の援護を得られていて、さらに、そう遠くない将来には、長距離爆撃機、「バックファイアC」の配備も受けられるとなると、東シナ海、南シナ海から西太平洋にかけての海域では、米軍の活動は著しく制約されかねない。


 中国は、先ごろ、未完成のソ連製「ワリャーグ」を改造した空母を完成させ、試験運航の段階にある。フランスの空母を購入したブラジルから、この空母に使用されている搭載航空機の発進に関する技術を移転してもらったとの情報もある。新しい独自の空母の建造も計画されているようだ。

 米国は、中国の海洋進出・外洋海軍建設に対応するため、沖縄に駐留する海兵隊約2万人を半減して、グアム、インドネシア、オーストラリアに分散配備する態勢に転じている。米軍が、防衛ラインを、これまでの沖縄-台湾-フィリピンという第一列島線から、第二列島線にまで後退させるという事態に、わが国はどう対応するのか、米空母戦闘群と自衛隊との間にどんな連携が図られるのか、部外者には知るすべもない。

 ただ、中国が尖閣周辺を超え、西太平洋にまで勢力圏を広げようと目論(もくろ)んでいることだけは、強く銘記しておくべきだろう。(ひらまつ しげお)


















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「占領基本法」の呪縛を断つ時だ

2012-05-01 09:16:43 | 正論より
5月1日付      産経新聞【正論】より


「占領基本法」の呪縛を断つ時だ    東京大学名誉教授・小堀桂一郎氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120501/plc12050103070004-n1.htm



 日本国憲法の制定・公布は昭和21年11月3日、その施行が翌22年の5月3日で、筆者の中学1年から2年にかけての事であつた。中学初年級の少年にとつてさへ、この憲法の成立事情のいかがはしさは直感を以て認識できた。当時多く新憲法と呼ばれたそれは、米国軍隊の軍事占領・監視の下に、連合国軍総司令部(GHQ)の指令により、大日本帝国憲法を排除する形で作られ、採択を強制されたものだといふ事実は、子供の眼にもごまかし様(よう)もなく明白に見えてゐたからである。




 ≪軍の保有認めぬ規定に衝撃≫


 殊に衝撃だつたのは、陸海軍が解散せしめられ、今後国家として軍の保有を認めないといふ規定が憲法にある事だつた。軍隊さへ健在ならば、いつの日か敗戦の屈辱に対する復讐(ふくしゅう)はできると考へてゐた軍国少年にとつて、この条項に対する憤激は深刻だつた。長じて大学に進学し、初歩的段階ながら憲法制定経過についての独学を始めるや直ちに、この憲法の抱へる重大な欠陥、天皇の地位と国民主権について、貴族制度の禁止について、政教分離について等々、「この憲法は国体の破壊を意図してゐる」といふ逆説のおぞましさが次々と眼についてきた。

 誇張でも衒(てら)ひでもなく、一日本国民としての自分の将来は暗澹(あんたん)たるものであるとの不安に脅(おび)えもした。その固定観念化した不安の根源は、結局、武力を以ての国際紛争の解決を断念するといふ不戦敗宣言、及び交戦権の否認といふ「主権喪失」状況にあつた。


 紙幅の制約上、関聨(かんれん)する範囲に浮かんでくる様々(さまざま)の国家的欠陥への論及はここでは控へておくが、今にして思へばあまりにも手遅れの着手であつたにせよ、平成9年4月28日に、同憂の知友と組んで「主権回復45周年記念国民集会」なる相当規模の集会を開催し、我が国家主権の機能不全を世に訴へ、現状の克服を主張する連年の運動を開始したのも、我が国の直面する対外関係での諸々の禍の根源は実にこの憲法にある、との認識からだつた。





 ≪主権回復記念日の最終目的は≫


 主権回復記念日を国民の祝日に、との訴へを呼びかけ続けて本年で丁度(ちょうど)15年を経過した。昨年8月には自民党の若手議員を中核として「4月28日を主権回復記念日にする議員連盟」が結成され、既に法案の提出に及んだ。民間有志のか細いが真剣な呼聲を立法府の議員諸氏が真摯(しんし)に受けとめ、これを実践行動に移す熱意を示してくれた事を素直に嬉(うれ)しく思ふ。

 ところで、主権回復記念日の制定は、私共の運動の最終目的などではない。記念日を持つことは目的達成のための一手段にすぎない。この手段を踏台として追究しようとしてゐる目的は、国家主権の十全なる保持と行使を保障する憲法を、我が国独自の立場から制定する必要に国民が眼覚めてくれる事、且(か)つ現実に主権の尊厳に確たる認識とそれを守る覚悟を持つてくれることである。


 現行憲法は、日米戦争の戦後処理方策としてアメリカ国務省の左派が専らその政治的必要に応じて構想した、日本国占領基本方針を法制化したまでのものである。やがて米国内では冷戦の開始といふ国際環境の推移に伴つて、その政治的必要にも変化が生じ、GHQ内左派の専断を許した事を後悔する破目になつたが、既に遅かつた。日本国の永久的弱体化を目指してこの憲法に仕掛けておいた改正至難といふ毒薬の毒性が今日迄(まで)67年間効き続けた。





 ≪領土の守り手を裏切る条文≫


 本来、昭和27年4月28日の主権回復の直後に占領憲法を廃棄し、国家の自然権としての武力行使と交戦権の保有を明記した自主憲法を制定しておくべきだつたのに、我々の先人はそれを怠つた。当時はたしかに軍備よりも経済復興が我が国にとつてより緊急の政治的必要であつたが、同時に例の米国上院でのマッカーサー証言に表れた如(ごと)き「アメリカの後悔」を小気味よく思ひ、米国製憲法の固定化を以て彼等の困惑を冷笑してやりたい様な復讐感情も我に有つた。

 だが、今は旧敵国にして現在の同盟国であるアメリカの苦境を北叟笑(ほくそえ)んで見てゐてよい様な状況ではない。我が国の安全保障の問題、殊に隣国による我が領土領海の侵犯事件に厳正に対処するために、現場の当事者のみならず、その人達の士気を支へる国民が、主権の尊厳といふ意識を堅持してゐる事は是非必要である。そしてその主権意識はやはり憲法の条文によつて積極的な裏付けを与へられてゐなくてはならない。

 尖閣諸島防衛問題に集約的に表現されてゐる、領土にかかはる国民の主権意識は幸ひにして石原慎太郎氏を先頭に旺盛且つ堅実である。ところが、現憲法はその国民の意識を裏切り、背後から匕首(あいくち)で刺す如き禍々(まがまが)しき条文を持つたまま67年を生き永らへてゐる魔性の法文である。この事実を真剣に考へ、前科者史観の呪縛を断ち切るべき秋(とき)が来てゐる。(こぼり けいいちろう)











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小沢氏よ「無罪」を引退の花道に

2012-04-27 09:33:26 | 正論より
4月27日付      産経新聞【正論】より


小沢氏よ「無罪」を引退の花道に    評論家・屋山太郎氏


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120427/stt12042703090004-n1.htm



 小沢一郎元民主党代表の政治資金規正法違反の裁判で、無罪判決が出た。無罪になったからといって、私の小沢氏に対する評価は全く変わらない。自分に都合の悪いことは黙る、相手がひるむと恫喝(どうかつ)するという小沢氏の流儀は、日本の政治を担う指導者の、あるべき手法とはかけ離れている。





 ≪不動産買いあさりは師譲りか≫


 誰もが不審に思う一つが、土地の「確認書」問題である。2007年2月、小沢氏は、自分が所有する13の土地、建物について釈明の記者会見を行った。中に、今回の裁判で争点となった世田谷の4億円の土地が入っている。

 小沢氏は「土地の名義は小沢一郎になっているが、実際は政治団体、陸山会の所有物である」と釈明し、政治団体で登記できないから小沢名義にした証しとして、「確認書」を示した。であれば、登記した日に確認書を作成すべきなのに、6件の確認書は後で同じ日に書かれたと判明する。

 それが、今回の裁判でいつの間にか、4億円の土地は自己資金で買ったから問題ないという話にすり替わっている。自己資金なら、なぜ確認書の公表という大芝居を打つ必要があったのか。あれから5年たつが、小沢氏はこの点に関し一度も説明していない。


 小沢氏が、投資家ではなくて政治家でありながら、なぜ、不動産を13カ所も買いあさったのか。それは、師匠の田中角栄氏の生き方をまねているからだろう。

 角栄氏は、土建や土地売買で莫大(ばくだい)な政治資金を手にし、田中人脈を培養した。傘下の国会議員を最大110人にまで増やしている。「角福戦争」を戦った福田赳夫氏は角栄氏を評し、「1人が50人を縛る。その50人が200人を支配する。これでは政治が独善、独裁に陥る」と言ったものだ。





 ≪政党助成金で大勢力を形成≫


 角栄氏は、ロッキード事件で起訴されて無所属になっても、自民党内の田中派を増やし続けた。政治権力の中で大きな勢力を占めれば、司法も手が出せなくなると思い込んでいるようだった。

 こうした政権党の金権体質を清算するために、小選挙区制度を導入し、政党助成金を交付して、政治風土の浄化が図られた。小沢氏は、この一連の改正作業の中心にいたはずだが、自らは政治活動の手法を全く変えなかった。

 角栄氏が、党のカネも自分のカネもふんだんに使ったのに対し、小沢氏は、自分のカネを使わず政党助成金を握ることで、大派閥を形成し維持したのである。


 小沢氏は新進党を解散し、自由党を分裂させ、民主党に転がり込んで母屋を取る。その手口は、党のカネを握って傘下の議員を増やすというものだった。解散した党に残った政党助成金を、小沢氏は私物化し、その総額は一説に28億円といわれているが、小沢氏は一切、明らかにしていない。


 小沢氏が民主党に鞍(くら)替えしたときの言い分は、「政策から何から全部、民主党の主張をのみ込む」-だった。そこで、選挙の責任者となって、小沢氏は何百億円もの政党助成金を自らの一存で使い、“小沢ガールズ”をはじめ100人余の追随者を当選させた。その選挙で、民主党は政権を取り、その政権党に、小沢氏は公金で「党中党」を築いたのである。

 与党の中に、100人もの支持議員を作れば、司法の攻撃への盾にでもなると、角栄氏同様に思っていたふしがある。だが、世間の常識に照らせば、人のふんどしで相撲を取った、ということになる。教養と武士道精神がある指導者が最も恐れる言われ方だろう。





 ≪野田降ろしに走れば筋違い≫


 小沢氏は無罪が確定したら、政治活動に本格復帰し“野田(佳彦首相)降ろし”を始めるだろう。「野田氏は行革や、選挙で公約したことをやっていない」との理由だそうで、呆(あき)れてしまう。


 そもそも、民主党が09年の総選挙で掲げたマニフェスト(選挙公約)は、ほとんど実行されていない。目玉公約の中に、「天下り禁止」「渡り根絶」があった。天下りを根絶すれば12兆円のカネが浮くという触れ込みだった。


 ところが、民主党政権初代首相の鳩山由紀夫氏と、党幹事長として支えた小沢氏のコンビが最初に行った人事が、元大蔵(現財務)事務次官、斎藤次郎氏の日本郵政社長への起用だった。こんな典型的天下り人事を許したわけで、他の公益法人の人事などバカらしくてチェックする気も失(う)せる。


 日本外交は、「普天間飛行場の移転先は少なくとも県外」との鳩山首相の一言で崩れ去った。小沢氏は、議員を含めた600人を引き連れて訪中し、屈辱的な朝貢外交を展開した。今、嫌中感情を抱く日本人は9割に達している。米国に距離を置いて中国と交流を深める外交方針などは、国民感情を逆なですること甚だしい。


 民主党政権を大きく躓(つまず)かせた張本人は小沢氏であって、自らの政策失敗を反省せず、政治手法の問題点を棚に上げ、後続の野田氏を攻めるのは恥知らずだ。度し難い古い政治を引きずっている小沢氏に、強く政界引退を勧めたい。(ややま たろう)













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