真っ暗な浜辺から見ると、街の灯りが一列に並んで見えて、その上空で夜があまりそこには降りたくないような、曖昧な色合いで漂っていた。
ああ、あの街は夜を知らないんだなあ、ともう一度空へ視線を移すと、曖昧なその夜空で薄く人工的な虹がまるく、丁度お見舞いのフルーツの盛り合わせなんかの籠の取手のようにかかって、ぼくの街の両端を捕まえていた。
海と空の境も見えない暗い水平線の向こうに、なにがあるのかまだ知らなかった頃と、世界を見てしまった今と、どちらが幸せなのだろう。
まだ見ぬものを求める心はとても瑞々しくて、なにも知らない頃の方が自由で希望があったのでは、とこの頃よく思う。
ずっと同じリズムだった波が引いた。
夕方いつものあのヤドカリは浅瀬に隠れて夜を過ごすつもりだったのに、ほくの眼を覗き込んだ彼は、何でもないことのようにぼくに言ったんだ。とんがった貝のお尻をツンと空に向けて。
ああ、あの街は夜を知らないんだなあ、ともう一度空へ視線を移すと、曖昧なその夜空で薄く人工的な虹がまるく、丁度お見舞いのフルーツの盛り合わせなんかの籠の取手のようにかかって、ぼくの街の両端を捕まえていた。
海と空の境も見えない暗い水平線の向こうに、なにがあるのかまだ知らなかった頃と、世界を見てしまった今と、どちらが幸せなのだろう。
まだ見ぬものを求める心はとても瑞々しくて、なにも知らない頃の方が自由で希望があったのでは、とこの頃よく思う。
ずっと同じリズムだった波が引いた。
夕方いつものあのヤドカリは浅瀬に隠れて夜を過ごすつもりだったのに、ほくの眼を覗き込んだ彼は、何でもないことのようにぼくに言ったんだ。とんがった貝のお尻をツンと空に向けて。
「きみの落っことした夢は、ボクが拾ってきっと戻って来るよ。ボクがきみを自由にしてあげる」
砂浜に浅く残した彼の軌跡がぐねぐねと伸び、波打ち際で波がザッと平たく砂を均してヤドカリをさらった。
そんな夜もあった。もうずいぶん遠い。
ぼくは街の灯りを、曖昧な夜と同じくらい曖昧な眼差しで見つめ、あの日のヤドカリを思った。
砂浜に浅く残した彼の軌跡がぐねぐねと伸び、波打ち際で波がザッと平たく砂を均してヤドカリをさらった。
そんな夜もあった。もうずいぶん遠い。
ぼくは街の灯りを、曖昧な夜と同じくらい曖昧な眼差しで見つめ、あの日のヤドカリを思った。
街はぼくの夢を欲しがっている。いつか、もしまたここで彼と逢えたなら、あの街はぼくを放してくれるだろうか。
風が凪いだ。
寄せる波に光る浜辺をゆっくりと近づいてくるものに、ぼくはまだ、気づかないでいた。
風が凪いだ。
寄せる波に光る浜辺をゆっくりと近づいてくるものに、ぼくはまだ、気づかないでいた。