ジャン・ギャバンと映画人たち

Jean Gabin et ses partenaires au cinéma

ジャン・ドラノアのギャバン評

2015-10-03 | ギャバンへのオマージュ


 ジャン・ドラノア監督は、戦後ギャバンの主演映画を6本撮っている。『愛情の瞬間』『首輪のない犬』『殺人鬼に罠をかけろ』『サン・フィアクル殺人事件』『ギャンブルの王様』『太陽のならず者』である。もし、戦後だけに限ってギャバン映画のベストテンを選ぶとするならば、私は、このうち2本か3本は入れたいと思っている。『殺人鬼に罠をかけろ』『ギャンブルの王様』、それにあと1本は『首輪のない犬』であろうか。ギャバンの役柄は、警部、貴族紳士、判事と違っているが、それぞれの役柄をギャバンは見事に演じ分け、ドラノア監督もギャバンの多面的な魅力を十二分に引き出していた。彼はギャバンという俳優をよく知っていたにちがいない。
 そんなドラノア監督が、ギャバンについて率直に語ったコメントがあるので、紹介しておきたい。

――私は少年時代の純粋さをどこかに保っている人が好きだ。ギャバンはまさにその一人だ。この名優の目の中には昔のういういしさが残っている。そういう感覚を持ち続けている俳優しか表現できない率直さが魅力なのだ。
 ギャバンについてはいろいろなことが言われているが、その多くは誤りだ。彼が演技をする時、ほんのちょっとしたことでも、例えばわずかな雑音でも若駒のように鋭く反応してしまう。人々はそれを過剰と感じ、人気俳優のわがままと思い込む。しかし、それは感受性の鋭い彼にとって精神の集中がいかに重要かということを知らぬ者の判断である。俳優は演じる人物になりきらねばならない。そうした努力の中で俳優本人は極度に敏感になり、傷つきやすくなってゆくのだ。この物静かな男は常に不安なのである。彼の見事な演技は苦痛に満ちた心の動揺そのものなのだ。それこそが偉大な才能の源泉といえるだろう。
 台詞にしても演技にしても演出を超えた過度な表現を彼ほど正確に指摘する俳優はいない。彼がある台詞に疑問を持った時は必ずその台詞が間違っている時である。なぜなら彼は、みだりに演出を乱したりはしないからだ。言われるように庶民出身ながら決して下品ではない。そして一見、無愛想で時には粗野にすら見える外見の下には常に羞恥の心情が満ちているのだ。
(ジャン・ドラノア)

*このドラノアのコメントは、アンドレ・ブリュヌラン著「ジャン・ギャバン」(清水馨訳)からの引用だが、もともと「トリビュヌ・ド・ジュネーヴ」紙でのインタビューにドラノアが答えたものである。

リーヌ・ノロ Line Noro

2015-10-02 | 女優


 『望郷』でペペ・ル・モコ(ギャバン)の情婦イネスを演じた演技派女優である。ミレーユ・バランが扮したギャビーが美しく着飾った高級娼婦まがいのパリジェンヌだったのに対し、彼女は野卑で情熱的なカスバの女であり、汚れ役だった。ギャビーの引き立て役でもあった。イネスは、ギャビーに一目惚れしたペペ・ル・モコに愛想をつかされ、嫉妬に燃えて最後は彼を引きとめようと警察に彼の居所を教えてしまう。
 実はギャバンとミレーユ・バランの場面よりギャバンとリーヌ・ノロの場面の方が多く、監督デュヴィヴィエは男に捨てられかかった女の情欲と嫉妬をリアルに描き、リーヌ・ノロは演技力で監督の期待に見事に応えている。『望郷』という映画を傑作にした大きな要因はカスバの情婦に成りきった彼女の迫真の演技にあったと言ってもよい。
 

『望郷』でギャバンと 

 リーヌ・ノロは、本名をアリーヌ・シモンヌ・ノロといい、1900年2月22日、ロレーヌ地方モーズ県ウドランクールで生まれた。少女の頃から女優に憧れ、パリに出てコンセルヴァトワールで学んだ。22歳のとき二等賞の成績で同校を卒業。1920年代は舞台女優としてパリのあちこちの劇場に出演。そのときデュヴィヴィエに見出され、1928年、無声映画『神聖なる巡航』に出たのが映画デビュー。この時すでに28歳であった。
 トーキー時代になり、レイモン・ベルナール監督の『モンマルトルの街』(31)、アベル・ガンス監督の『ドロロサ母さん』(31)などに出演したのち、1933年、再びデュヴィヴィエ監督に起用され、アリー・ボールのメグレ警視が活躍する『モンパルナスの夜』で街娼役を演じた。ロシア出身の異才俳優インキジノフ扮する殺人犯に誘われ、安ホテルの一室で春を売る場面に出演しただけであったが、その演技が注目された。以後映画出演が増え、1936年、アンドレ・ベルトミュー監督の『炎』に出演し、撮影終了後ベルトミュー監督と結婚した。
 そして、リーヌ・ノロという女優をフランスだけでなく世界的に有名にした映画が、1937年の『望郷』であった。デュヴィヴィエ監督作品に三度目に出演して、最も重要な役をもらったのである。
 以後、リーヌ・ノロはコンスタントに映画出演を続けるが、主演女優を引き立てる二番手の脇役が彼女の持ち役となった。ジャック・ベッケル監督の『赤い手のグッピー』(43)、ジャン・ドラノア監督の『しのび泣き』(45)と『田園交響楽』(46)はいずれも名作であるが、リーヌ・ノロの地味だが情感のにじみ出るような演技がいぶし銀のように光っていた。とくに『田園交響楽』の牧師の妻の役は素晴らしかった。
 1950年代はコメディー・フランセーズの舞台に出て活躍し、映画ではアンドレ・カイヤット監督の『われらはみな暗殺者』(52)『洪水の前』(54)に出演し、50歳代半ばで第一線から退いた。1985年11月4日パリにて死去(85歳)。

マドレーヌ・ルノー Madeleine Renaud

2015-10-02 | 女優


 戦前にギャバンはマドレーヌ・ルノーと4度共演している。相手役として最も回数が多く、ギャバン自身、個人的に共演を好んだ女優の一人であった。初共演は1932年の『ラ・ベル・マリニエール号』で、ルノーは船長ギャバンの若妻役、続いて33年の『トンネル』でもトンネル建設技師ギャバンの若妻役、そして34年、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『白き処女地』ではカナダのフランス人移民の美しい娘をルノーが主役で演じ、猟師のギャバンが恋人役を務めた。実はルノーはギャバンより4歳年上だった。しかし彼女は1930年代には実年齢よりずっと若く見えた。『白き処女地』でルノーは34歳だったのに20歳そこそこの乙女の役を演じたのである。
 その後ギャバンが大スターとなって4年ほど二人の共演はなかったが、第二次大戦の直前から戦中にかけて製作されたジャン・グレミヨン監督の『曳き船』(41年)でルノーはギャバンを愛する心優しき病身の妻を演じた(ギャバンの愛人役はミシェール・モルガン)。
 戦後は、ルノーが夫のジャン=ルイ・バローとルノー=バロー劇団を結成し演劇活動に専念したため、ほとんど映画に出演しなかった。が、それでもマックス・オフュルス監督の『快楽』(1952年)で12年ぶりにギャバンと共演した。『快楽』はモーパッサンの短編小説を映画化したオムニバス映画で、オフュルス監督作品では『輪舞』と並ぶ秀作であった。とくに第二話「テリエ館」は、モーパッサンの初期の名作だが、映画も素晴らしく、出演者はマドレーヌ・ルノー、ダニエル・ダリュー、ピエール・ブラッスール、ジャン・ギャバンといった面々。地方都市の売春サロンの女将がルノー、ギャバンはノルマンディーの田舎の村に住む建具職人で、ルノーの弟の役だった。ルノー扮する女将が二日ほど店を休み、娼婦たち五人を連れて、社員旅行がてら、弟夫婦の家を訪ねて一泊し、翌朝教会で弟の娘の聖体拝受の式に出席するという話である。この映画に出演した頃、ルノーは52歳で、ずいぶん老けてしまったように見えたが、なかなかしっかりした女将ぶりで、女学校のベテラン教師のようであった。
 若い頃のマドレーヌ・ルノーは、夢見る文学少女といった雰囲気を持ち、清純で繊細なタイプの女優であった。小柄で160センチに満たない背丈であろう。
 私がリアルタイムで知っているマドレーヌ・ルノーは、70年代後半に夫のジャン=ルイ・バローとルノー・バロー劇団を率いて来日した時の彼女である。テレビでインタヴューを見た記憶があるが、品の良いおばあちゃんであった。


 『曳き船』でギャバンと

 マドレーヌ・ルノーは、1900年2月21日、パリで生まれた。10代の頃から小説や戯曲を執筆していたが、中等教育を終えてコンセルヴァトワールに入学するとラファエル・デュフロの生徒となり、同期のシャルル・ボワイエ、マリー・ベルらと共に学んだ。20年の進級公演『女の学校』のアニェス役で2等賞をとる優秀な成績で、翌年卒業時にはマリー・ベルと並んで1等賞となり、揃ってコメディー・フランセーズに入団。同時期22年の『逆風』で初めて映画出演した。彼女が数多くの映画に出演したのは1930年代で、ギャバンとの共演作画3本あることはすでに述べたが、ジャン=ルイ・バローと共演するのは1936年の『美しき青春』で、二人は40年頃結婚する。ジャン=ルイ・バローは10歳年下だった。
 マドレーヌ・ルノーは、舞台では古典劇の模範的女優といわれたが、新しい演劇を求めて1946年にコメディー・フランセーズを夫とともに退団。ルノー=バロー劇団を結成して『ハムレット』を旗上げ公演した。59年9月、夫とともにテアトル・ド・フランスの座長となり、以来オデオン座を主な活動の場として演劇全般の向上に力を注いだ。
 1968年、五月革命の学生たちに劇場の占拠を許したことで、オデオン座を追われ、エリゼ・モンマルトル劇場、オルセー駅構内の仮小屋など転々としたのち、1981年、ロン・ポワン劇場に落着いた。
 ルノー=バロー劇団は1960年、1977年、1979年の3度、来日公演をしている。
 1994年、夫ジャン=ルイ・バローを亡くした8ヶ月後の9月23日に、パリ郊外のヌイイ=シュル=セーヌで死去。享年94歳。

 上記以外の主な出演映画:『母の手』(33)、『不思議なヴィクトル氏』(38)『高原の情熱』(42)『この空は君のもの』(44)(以上3作はジャン・グレミヨン監督作品)、『史上最大の作戦』(米 62)。

ブリギッテ・ヘルム Brigitte Helm

2015-10-02 | 女優


 ジャン・ギャバンが映画で初めて共演した大スター女優はドイツ人のブリギッテ・ヘルムであった。フランス語読みはブリジット・エルム。『グロリア』(1930)のフランス語版(主役のブリギッテ・ヘルムは代役を使わずに出演)で初共演し、『ヴァレンシアの星』『さらば美しき日々』(1933)でも共演している。ギャバンと3度も共演したほどであるから、二人は恋愛関係にあったのではないかと思われるが、確証はない。「ジャン・ギャバン」の著者アンドレ・ブリュヌランも彼女との間に「恋愛感情の交流がなかったはずはない」と書いている。
 ブリギッテ・ヘルムは、1906年3月17日、ベルリンで生まれた。本名ブリギッテ・エーファ・ギゼラ・シッテンヘルム。中学卒業後、学生劇に参加している時、フリッツ・ラング監督の目にとまり、27年サイレント映画の大作『メトロポリス』のマリア役(アンドロイドとの二役)で鮮烈に映画デビュー。石膏像のような端正な美貌と妖艶な肢体が注目され、21歳の若さでたちまちドイツのナンバーワン女優になった。トーキーになっても活躍を続け、デビュー後8年間で約30本の映画に出演。35年実業家フーゴ・タンハイムとの再婚を機に引退。以後スイスに住み、映画界からの誘いや取材を一切拒み続けた。1996年6月11日、スイスで死去(90歳)。
 主な出演作:『世界の果て』『ジャーネ・ネイの愛』(27)『邪道』『バーデン・バーデンのスキャンダル』(28)『悪魔の寵児』(29)『南の哀愁』『グロリア』(30)『愛国者』(31) 『アトランティッド』(32)『マラソンの走者』『アランフェスの美しき日々』(33)『ゴールド』『島』『コスモポリス』(34)『理想の良人』(35)


ギャバン出演映画リストについて

2015-10-02 | ギャバン出演映画リスト
 このリストを作成するにあたり、以下の著書、インターネットの資料を参照した。
「ジャン・ギャバン」(アンドレ・ブリュヌラン著 清水馨訳 時事通信社) 日本語版巻末のジャン・ギャバン出演映画作品リスト
「シネアルバム62 ジャン・ギャバン 粋でタフなパリ野郎」(責任編集:林冬子 芳賀書店)
「わがジャン・ギャバン」(英知出版)
 インターネット フランス語版ウィキペディア
 インターネット・ムーヴィー・データベース(IMDb)
 インターネット Ciné-Ressources―Fishes Personnalité
 インターネット ユニフランス・フィルムズ(uniFrance films)
 インターネット Movie Walker
 インターネット allcinema(Movie&DVD Database)

 ジャン・ギャバンが出演した映画は、初期の短篇喜劇映画2本を含めないと、全部で95本ある。第二次大戦でギャバンがフランス軍に入隊していた時期で区切ると、戦前が33本、戦後が62本である。ただし、戦前最後の2本はギャバンが米国滞在中に出演したハリウッド製の映画であった。そしてこの2本だけがアメリカ映画で、ほかの93本はすべてフランス映画である。
 この95本の映画のうち、ギャバンの生前、日本で公開された映画は半数に満たない45本である(『ナポレオン』はギャバンの出演シーンがカットされていたので除く)。日本で太平洋戦争前(約5年間)に公開された映画はわずか9本で、ギャバンが映画デビーしてから出演した14本は未公開であった。また、『望郷』以降に作られた戦前作品10本のうち公開されたのは『珊瑚礁』の1本だけで、あとの9本は未公開のままだった。『愛慾』『大いなる幻影』『霧の波止場』『獣人』は戦後(1948年から1950年)公開されている。この4本も含め、また戦中に作られたハリウッド映画2本を加えると、戦後(47年~75年)日本で公開されたギャバンの出演作は36本である。戦後作られた映画62本のうち30本が公開され、半数以上の32本が未公開に終ったわけである。
 ギャバンが亡くなったのは1976年11月15日であるが、日本では未公開だった映画が死後10年後に1本(『サン・フィアクル殺人事件』)、20年後にもう1本(『冬の猿』)追悼上映されている。つまり、日本の映画館のスクリーンで上映された映画は全部で47本ということになる。
 ギャバンの死後、ギャバンの映画は映画館ではほとんど見られなくなった。しかし、テレビで放映されたり(この時私はずいぶんビデオに録画した)、数多くの映画がビデオ化されたので(私はずいぶん買った)、ギャバン・ファンないしはギャバンの出演したフランス映画の愛好者は、自分の家のテレビの画面で彼の映画を鑑賞してきたわけである。そして、近年DVD(フランス版も含め)が一般化し、現在ではインターネットのYou Tube(日本語字幕はない)で日本では未公開だった映画、ソフト化されていない珍しい映画が見られるという時代になった。また、インターネットのおかげで、フランスで作成されたホーム・ページなどもパソコン上で見たり、読んだりすることができるようになった。ただし、フランス版DVDやYou Tubeは、日本語字幕がないので、ある程度フランス語のリスニングができないと鑑賞できず、またインターネットの資料や記事もフランス語が読めなければ参考材料にはならない。私は20代後半から30代半ばくらいまでフランス語を勉強したことがあり、25年ほど怠けていたのだが、最近、フランス映画に接することが増え、フランス語を勉強し直そうと思い始めている。
 この半年間で私はギャバン出演映画を55本見たが、以前見てもう一度見直した映画が24本で、初めて見た映画が31本もあった。同じ映画で2度、3度と見たものも20本以上あるので、100回以上はギャバンの映画を見たことになるだろう。ギャバンの出演していないフランス映画も折に触れて見ているので、かなりフランス映画漬けになっている。あと20本ほど未見の映画を見れば、現在見ることのできるギャバンの出演映画は全部見たことになるので、今後も見続けようと思っている。残念ながら恐らくもう永久に見られない映画が20本ほどあるようだが、これは仕方があるまい。
 
 ギャバンは映画俳優となって本格的に映画デビューする前に、短篇喜劇映画に2本出演している。そのデータを掲げ、ギャバン自身のコメントを引用しておこう。

 
①リレットの遺産 L'héritage de Lilette
 1929年or1930年 黒白 短篇
〔監督〕不明(?ミシェル・デュ・ラック)
〔ギャバンの役〕不明
〔共演〕レイモン・ダンディ(主役)
〔封切〕1930年(?)
〔日本公開〕不明
〔ソフト〕なし
〔注〕別題 Ohé! Les valises(旅行かばん)。ゴーモン社製作の無声映画か?


②調教師を求む On demande un dompteur
 1929年or1930年 黒白 短篇(210メートル)
〔監督〕不明(?ミシェル・デュ・ラック)
〔ギャバンの役〕浮浪者
〔共演〕レイモン・ダンディ(主役)
〔封切〕1930年
〔日本公開〕不明
〔ソフト〕なし
〔注〕別題 Les lions(ライオン)。ゴーモン社のスタジオで無声で撮影され、あとでパラマウント社のスタジオで音入れされたようだ。


――1928年から29年の初めにかけて、ささやかながら映画の仕事を引き受けたことがある。ムーラン・ルージュでの相棒だったダンディとの共演だった。詳しいことは忘れてしまったが、とにかくゴーモンのスタジオへ行き、短編を2本続けて撮った。ダンディと私が、なぜか“例の持ち物”と呼んでいた『リレットの遺産』という作品。それからムーラン・ルージュでやった『もしもし、こちらパリ』というショーの中の寸劇『ライオンと調教師』の、今で言えば映画化だった。ダンディと私の役は浮浪者。『調教師を求む』という貼り紙のある猛獣小屋の前で足を止める。何人かの屈強な男たちがやってきては中に入り、そのたびに猛獣の咆哮が聞こえて、入った男たちが担架に乗せられて出てくる。身長わずか1メートル50。私の肩までしかないダンディが中に入る。すごい叫び声が聞こえてから彼が『ライオンを求む』と書いたプラカードを持って意気揚々と出てくる。と、まあこんなギャグなのだが、結構面白かった。この2本の映画が一般に上映されたかどうかは定かではないし、恐らくもうどこにも存在していないに違いない。(ジャン・ギャバン アンドレ・ブリュヌラン著「ジャン・ギャバン」より清水馨・訳)

ギャバン出演映画リスト1930年~31年 Filmographie, 1930-31

2015-10-01 | ギャバン出演映画リスト

(1)誰にもチャンスが Chacun sa chance
 1930年 黒白(スタンダード)76分
〔監督〕ハンス・シュタインホーフ、ルネ・ピュジョル(脚本・台詞)
〔原作〕ブルーノ・ハルトヴァルデン〔脚本〕リシャール・アルヴェ、チャーリー・レ―リングホッフ〔撮影〕カール・プート、ヴィクトル・アルメニーズ〔美術〕ジャック・コロンビエ〔音楽〕ウォルター・コロ、ニコ・ドスタル
〔ギャバンの役〕服屋の店員マルセル・グリヴォー
〔共演〕ギャビー・バッセ、ルネ・エリベル、アンドレ・ユルバン、ジャン・サブロン、レイモン・コルディ
〔封切〕1930年12月27日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕You Tube
〔注〕ギャバンの記念すべき長編映画デビュー作。1930年に製作されたギャバン出演作はこの1本だけ。服屋で働くしがない店員(ギャバン)が劇場のチョコレート売りの女の子(バッセ)と出会い、アヴァンチュールを楽しむオペレッタ映画。仏独合作、パテ=ナタン(仏)とマルセル・ヘルマン・フィルム(独)の共同製作。当ブログの女優の部、ギャビー・バッセの項を参照のこと。



(2)メフィスト Méphisto
 1931年 黒白(スタンダード)164分
〔監督〕アンリ・ドバン、ニック・ヴァンテル
〔原作・脚本・台詞〕アルテュール・ベルネード〔撮影〕ジュリアン・ランジェル、ジュリアン・シャルマン、ポール=ルネ・ナヴァール〔美術〕リュシアン・キーフェル〔音楽〕
〔ギャバンの役〕刑事ジャック・ミラル
〔共演〕ルネ・ナヴァル、ジャニーヌ・ロンスレ、ヴィヴィアンヌ・エルデル、ルシアン・カラマン、フランス・デリア
〔封切〕1931年4月17日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし
〔注〕凄腕の探偵ギャバンが悪の組織メフィストと対決する連続4話の推理もの。原作・脚色者のアルテュール・ベルネード(1871~1937)はフランスの著名な探偵小説家。フィルム・オッソ製作。


 
(3)パリは恋人 Paris Béguin
 1931年 黒白(スタンダード)117分
〔監督〕オーギュスト・ジェニーナ
〔脚本〕フランシス・カルコ
〔撮影〕フリード・ベン=グルンド〔美術〕セルジュ・ピムノフ〔音楽〕モーリス・イヴァン
〔ギャバンの役〕ボブ(やくざ、押し込み強盗)
〔共演〕ジャンヌ・マルナック、フェルナンデル、ラシェル・ベラント、ヴィオレーヌ・バール、ジャン・マックス
〔封切〕1931年9月10日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕You Tube
〔注〕フィルム・オッソ製作。ベルギー出身のオペレッタ女優ジャンヌ・マルナックが主演で実際の彼女と同じ役柄であるが、映画はミュージカルに犯罪ものを加えた内容。準主役のギャバンはパリの暗黒街でボブと呼ばれるダンディなやくざ。背広に白いワイシャツ、きちんとネクタイを締め、ソフト帽を斜めにかぶって、いかにも色男といった感じで登場。相棒役のフェルナンデルは、この頃はまだ浮浪者のように痩せていて、ギャバンとは対照的に風采の上がらないお調子者のやくざの役である。ある夜、オペレッタのスター女優(マルナック)の邸宅へ宝石泥棒に入ったボブ(ギャバン)は、女優に見つかるが、彼女を押さえつけているうちに色気に負けて、ベッドで一夜を過ごしてしまう。その同じ夜、殺人事件があって、ボブは容疑者として逮捕される。顔写真入りの新聞記事でそれを知った女優は、ボブのアリバイを証明した。ボブは釈放され、オペレッタ「パリは恋人」の初日の開幕前に劇場へ駆け付けるのだが……。



(4)何よりも恋が最高 Tout ça ne vaut pas l'amour
 1931年 黒白(スタンダード)87分
〔監督〕ジャック・トゥールヌール
〔脚本・台詞〕ルネ・ピュジョル
〔撮影〕二コラ・ブルガソッフ、アンリ・バーレール
〔美術〕リュシアン・アグタン〔音楽〕ユーゴ・ヒルシュ
〔ギャバンの役〕ラジオ販売店の息子ジャン・コルディエ
〔共演〕マルセル・レヴェック(主役)、ジョスリーヌ・ガエル、マディ・ベリー
〔封切〕1931年10月16日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕You Tube
〔注〕中年で独身の薬屋の主人(ルヴェスク)が彼の家に寄宿することになった若い娘(ガエル)に恋をし、いろいろと尽くすのだが、彼女の方はラジオ屋の若いハンサムな男(ギャバン)に惚れてしまうという話。冴えない中年男を主人公としたラブ・コメディで、ギャバンはダンスの上手なおしゃれな若者に扮した。娘役は十代で人気スターになったジョスリーヌ・ガエル。この時彼女はまだ14歳だったというが、17,8歳に見える。明るく大変可愛らしい女優で、当時フランスではアイドル的存在だったようだ。ギャバン(27歳)が彼女と二人の場面では妙にニヤけて、照れくさそうにしていた。パテ・ナタン製作。



(5)グロリア Gloria
 1931年 黒白(スタンダード)
〔監督〕ハンス・ベーレント、イヴァン・ノエ
〔脚本〕ハンス・ツェケリー、ゲオルク・C・クラーレン、フランツ・シュルツ
〔撮影〕フレデリック・フクルサンク〔美術〕エルヴィン・シャルフ〔音楽〕ハンス・J・サルテル
〔ギャバンの役〕飛行機副操縦士ロベール・ヌーリー
〔共演〕ブリギッテ・ヘルム、アンドレ・リュゲ、アンドレ・ロアンヌ、マディ・ベリー
〔封切〕1931年10月30日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕You Tube
〔注〕ドイツ人俳優によるドイツ語版もあって、ギャバンが出演したのはそのフランス語版。主役のスター女優ブリギッテ・ヘルムはどちらにも出演した。タイトルの「グロリア」というのは大西洋を横断した飛行機の名称で、その操縦士と妻の物語。ブリギッテ・ヘルムは小さな息子のいる妻の役。服装も地味で、美貌、演技ともまあまあ。操縦士役のアンドレ・リュゲは『リラの心』にも出ていたが、当時の中堅人気俳優で、親友役の男優(アンドレ・ロアンヌ)も同様。ギャバンは、この二人に比べればずっと若く、脇役だが、明るくコミカルで面白い役回りだった。映画批評家時代のマルセル・カルネがこのギャバンを見て、将来有望な新進俳優として注目した。パテ=ナタン、マタドール・フィルムの共同製作。


 
(6)一夜のために Pour un soir
 1931年 黒白(スタンダード)77分
〔監督〕ジャン・ゴダール
〔原作〕ロベール・ド・イール〔脚本〕?
〔撮影〕?〔美術〕?〔音楽〕?
〔ギャバンの役〕海軍の水兵ジャン
〔共演〕コレット・ダルフォイユ、ギ・フェラン、シリー・アンデルセン、レジーヌ・ダリー
〔封切〕1933年(月日不明)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし(フラン語版DVDあり)
〔注〕ユニオン・デ・プロデュクトゥール・ド・フィルム製作。フランス本国ではずっとお蔵入りになっていたが、2年後に『ステラ・マリア』と改題し公開。休暇中の水兵(ギャバン)が港町トゥーロンで美しいが気まぐれなパリ出身の歌手に出会い、束の間のアヴァンチュールを楽しむが、やがて男が女を真剣に愛しはじめ、悲劇を招くといった話。


 
(7)リラの心 Cœur de lilas
1931年 黒白(スタンダード)90分
〔監督・脚本〕アナトール・リトヴァク
〔原作〕チャールズ=ヘンリー・ヒルシュ、トリスタン・バーナード〔脚本〕ドロシー・ファーナム、セルジュ・ヴベール
〔撮影〕クルト・クーラン〔美術〕セルジュ・ピメノフ〔音楽〕モーリス・イヴァン
〔ギャバンの役〕街のやくざマルトゥス
〔共演〕マルセル・ロメ(主役)、アンドレ・リュゲ、マドレーヌ・ギティ、フレール、フェルナンデル
〔封切〕1932年3月13日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕You Tube
〔注〕フィフラ製作。ロシアのウクライナ出身でユダヤ人の血を引くアナトール・リトヴァクはドイツで映画を作っていたが、1930年ナチの手から逃れ、フランスに移住した。そのリトヴァクがフランスで撮った初期の作品で、パリの裏街をサスペンス・タッチで描いた佳作。要塞跡の土手に中年男の殺害死体が発見される。警察は、現場に落ちていた手袋から犯人が「リラ」と呼ばれる若い娼婦(マルセル・ロメ)であると断定し、この女を追う。リラにはやくざの情夫(ギャバン)がいるが、安ホテルのカフェで出会った男(アンドレ・リュゲ)に惹かれていく。しかし、この男は私服の刑事だった。刑事はリラと接するうちに無実を信じ、彼女を愛し始める。ギャバンは脇役だが、後年の当たり役ペペ・ル・モコに通じるような魅力を発揮していた。「ゴムの女」という曲を歌う場面がなかなか良い。主演のマルセル・ロメはアンニュイを漂わせた美人女優だったが、病気を苦にし、この映画が公開された同じ年の冬に、セーヌ川で入水自殺を遂げた。

ギャバン出演映画リスト1932年~33年 Filmographie, 1932-33

2015-10-01 | ギャバン出演映画リスト
 
(8)陽気な騎兵隊 Les Gaietés de l'escadron
 1932年 黒白(スタンダード)81分
〔監督〕モーリス・トゥールヌール
〔原作〕ジョルジュ・クールトゥリーヌ、エドゥアール・ノレ〔脚本〕ジョルジュ・ドレ―
〔撮影〕レイモン・アニェル、ルネ・コーラ〔美術〕ジャック・コロンビエ〔音楽〕
〔ギャバンの役〕騎兵フリコ
〔共演〕レイミュ、フェルナンデル、マディ・ベリー、シャルル・カミユ、ドニオ
〔封切〕1932年9月16日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし
〔注〕パテ=ナタン製作。トゥールネール監督が1913年に作った同名映画のトーキー版リメイク。原作はフランスの著名な劇作家ジョルジュ・クールティーヌ(1858~1929)が1886年に書いた戯曲で、舞台では何度も上演されていたようだ。1949年にはパリのルネッサンス座で上演されている。1932年に公開されたこの映画もフランスで大ヒットしたという。時は1880年代、フランス軍51連隊の騎兵たちの悲喜こもごもの話である。ギャバンは正義心の強い意地っ張りの騎兵、フェルナンデルは気弱で曹長に虐待される騎兵、傍若無人な曹長にカミユ、隊員思いで人望のある連隊長にレイミュが扮した。


 
(9)群衆の歓呼 La foule hurle
 1932年 黒白(スタンダード)81分
〔監督〕ジャン・ドムリー
〔原案〕ハワード・ホークス〔脚本〕セトン・I・ミラー、ジョン・ブライトほか
〔撮影〕シドニー・ヒッコックス〔美術〕ジャック・オーケー〔音楽〕レオ・F・フォーブスタイン
〔ギャバンの役〕自動車のレーサー・ジョー・グレール
〔共演〕エレーヌ・ペルドリエール、フランク・オニール、フランシーヌ・ミュッセー
〔封切〕1932年9月6日
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし
〔注〕製作会社ワーナー・ブラザーズ。アメリカで同年ハワード・ホークス監督によって作られた同名映画のフランス語版。



(10)ラ・ベル・マリニエール号 La Belle Marinière
 1932年 黒白(スタンダード)80分
〔監督〕ハリー・ラックマン
〔脚本・台詞〕マルセル・アシャール〔撮影〕ルディ・マット〔美術〕アンリ・メネシエ〔音楽〕モーリス・イヴァン
〔ギャバンの役〕貨物船の船長
〔共演〕マドレーヌ・ルノー、ピエール・ブランシャール、ロジーヌ・ドレアン
〔封切〕1932年12月3日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし
〔注〕タイトルの船名は「美しき船乗り」の意。貨物を輸送する船の船長(ギャバン)が、自殺しようとしているのを救った美しい娘(ルノー)を愛し、彼女と結婚するが、妻の方は次第に失望を感じはじめ、夫の親友(ブランシャール)と駆け落ちしてしまう話。マドレーヌ・ルノーはすでにスター女優で、ギャバンがルノーと共演した第1作。ギャバンは身もふたもない役だが、ギャバンはこの映画を大変気に入っていたという。パラマウント製作。



(11)楽しい心 Cœurs joyeux
 1932年 黒白(スタンダード)77分
〔監督〕ハンス・シュヴァルツ、マックス・ド・ヴォコルベイユ
〔脚本〕ヘンリー・コスター、ジャン・ギニュベ-ル
〔撮影〕オイゲン・シュフタン〔美術〕アンリコ・メッツネル〔音楽〕ポール・アブラハム、ヘルムート・ヴォルフ
〔ギャバンの役〕映写技師シャルル
〔共演〕ジョスリーヌ・ガエル、ガブリエル・ガブリオ、ポール・アミオ、マルセル・ドゥレトル
〔封切〕1932年12月2日
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕You Tube
〔注〕パテ=ナタン製作。フランスのフィルモグラフィーでは1931年製作としてリストのずっと前に置いているが、これは恐らく誤りで、インターネット・ムービー・データベースによる、1932年製作、11本目が正しいと思う。フランスの封切り日も1932年12月2日だからである。映画館の映写技師(ギャバン)が、宝石泥棒のギャングの手下と間違えられ、警察に逮捕されてしまう。しかし、彼の恋人(ガエル)の活躍で、ギャングたちは一網打尽にされ、映写技師は晴れて釈放されるという話。ラストは、彼が映画館の館主になり彼女とめでたく結婚する。人気女優ジョスリーヌ・ガエルとギャバンが共演した2本目の映画。ギャングの親分に無声映画時代からの人気俳優ガブリエル・ガブリオが扮している。ドイツ人俳優によるドイツ語版も作られた。



(12)ヴァレンシアの星 L'Étoile de Valencia
 1933年 黒白(スタンダード)88分
〔監督〕セルジュ・ド・ポリニー
〔原案〕ルドルフ・カッシャー、オットー・アイス〔脚本〕フリッツ・ツェケンドルフ、アクセル・ルドルフ〔台詞〕ジャン・ガルティエ=ボワシエール〔撮影〕カール・プット〔美術〕〔音楽〕リハルト・スタウチ、ハンス=オットー・ボルグマン
〔ギャバンの役〕整備士ペドロ・サヴレンダ
〔共演〕ブリギッテ・ヘルム、シモーヌ・シモン、トミー・ブル-デル
〔封切〕1933年6月24日
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし
〔注〕ウーファ製作。密輸船「ヴァレンシアの星」をめぐる冒険恋愛映画。ギャバンがドイツ人女優ブリギッテ・ヘルムと共演した第2作。



 (13)さらば美しき日々 Adieu les beaux jours
 1933年 黒白(スタンダード)96分
〔監督・脚本・台詞〕アンドレ・ブークレール
〔脚本〕ピーター・フランク、ヴァルター・ヴァッサーマン、ロベール・A・ステムル、ハンス・スゼッケリ
〔撮影〕フリードル・ベーン=グルント〔美術〕エリッヒ・ケッテルフット、マックス・メリン〔音楽〕ハンス=オットー・ボルグマン、エルンスト=エリック・ブーダー
〔ギャバンの役〕技師ピエール・ラヴェルネ
〔共演〕ブリギッテ・ヘルム、トミー・ブルーデル、ミレーユ・バラン、ジネット・ルクレール、アンリ・ボスク、ジュリアン・カレット
〔封切〕1933年10月5日
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし
〔注〕ウーファ製作、ドイツで撮影。ギャバンとブリギッテ・ヘルムの共演第3作。宝石泥棒の美しい女(ヘルム)と彼女に恋をする若い技師(ギャバン)の話。後年、クーパーとディートリッヒ共演のハリウッド映画『真珠の首飾り』(1936年)は、この作品からヒントを得て製作されたという。


 
(14)トンネル Le Tunnel
 1933年 黒白(スタンダード)73分
〔監督・脚本〕クルト・ベルンハルト
〔原作〕ベルンハルト・ケラーマン〔脚本〕ラインハルト・シュタインビッカー〔台詞〕アレクサンドル・アルヌー
〔撮影〕クルト・ホフマン〔美術〕カール・フォルブレヒト、ハインツ・フレンケル〔音楽〕ヴォルター・グロノステイ
〔ギャバンの役〕トンネル建設技師アラン・マッカラン
〔共演〕マドレーヌ・ルノー、エドモン・ヴァン・デール、レイモン・アラン、ロベール・ル・ヴィガン
〔封切〕1933年11月29日
〔日本公開〕
〔ソフト〕You Tube
〔注〕ヴァンドール・フィルム製作。フランスとアメリカ間の大西洋にトンネルを掘ろうというSF的な設定なのだが、映画は全くSF的ではなく、前半は建設技師ギャバンと妻マドレーヌ・ルノーの夫婦関係の話で、後半はトンネル開削工事の労働者たちのストライキの話であった。



(15)上から下まで Du haut en bas
 1933年 黒白(スタンダード)79分
〔監督〕ゲオルク・ヴィルヘルム・パブスト
〔原作〕ラディスラウス・ブス=フェケテ〔脚本〕アンナ・グメイネル、ジョルジュ・ドレー〔撮影〕オイゲン・シュフタン〔美術〕エルノ・メッツネル〔音楽〕マルセル・ラテ
〔ギャバンの役〕サッカー選手シャルル・ブーラ
〔共演〕ジャニーヌ・クリスバン、ミシェル・シモン、ウラジミール・ソコロフ、カトリーヌ・エスラン、ピーター・ローレ、ミリー・マティス
〔封切〕1933年12月5日(仏)
〔日本公開〕1936年5月
〔ソフト〕You Tube
〔注〕フィルム・ソノレス製作。ナチから逃れフランスへ渡った名匠ゲオルク・W・パブストが国際色豊かなスタッフ・俳優を使って作った映画で、ウィーンにある二階建ての安アパートに住む人々の暮らしぶりを描いたもの。タイトルの『上から下まで』はアパートの二階と一階を示したもの。ギャバンは管理人の甥で有名なサッカー選手。一階に住み、二階に住む裕福な夫婦のころへ家政婦に雇われた美しい娘マリーに恋をする。

ギャバン出演映画リスト1934年~36年 Filmographie, 1934-36

2015-10-01 | ギャバン出演映画リスト
 
(16)はだかの女王 Zouzou
 1934年 黒白(スタンダード)85分
〔監督〕マルク・アルグレ
〔原作・脚本〕ペピト・G・アバチーノ〔脚本・台詞〕カルロ・リム、アルベール・ウィルメッツ
〔撮影〕ミシェル・ケルベル〔美術〕ラザール・メールソン、アレクサンドル・トローネル〔音楽〕ヴィンセント・スコット、ジョルジュ・ヴァン・パリス、アラン・ローマン
〔ギャバンの役〕水兵、ミュージック・ホールの照明係ジャン
〔共演〕ジョセフィン・ベーカー、イヴェット・ルボン、ピエール・ラルケー、イラ・メルリー、ヴィヴィアンヌ・ロマンス
〔封切〕1934年12月21日(仏)
〔日本公開〕1935年12月
〔ソフト〕You Tube
〔注〕アリース製作。「琥珀の女王」ジョセフィン・ベーカー主演のミュージカル映画。原題の「ズズ」はベーカーの演じるヒロインの愛称。相手役をやったギャバンは日本のスクリーンに初めて登場した。続いて『白き処女地』『上から下まで』という順で日本公開。ブログ記事あり。



(17)白き処女地 Maria Chapdelaine
 1934年 黒白(スタンダード)75分
〔監督・脚本〕ジュリアン・デュヴィヴィエ
〔原作〕ルイ・エモン〔台詞〕ガブリエル・ボワシー〔撮影〕ジュール・クリューゲル、マルク・フォサール、ジョルジュ・ペリナル、アルマン・ティラール〔美術〕ジャック・クラウス〔音楽〕ジャン・ヴィーネル
〔ギャバンの役〕猟師フランソワ・パラディ
〔共演〕マドレーヌ・ルノー、シュザンヌ・デュプレ、ジャン=ピエール・オーモン、ロベール・ル・ヴィガン、アレクサンドル・リニュー
〔封切〕1934年12月14日(仏)
〔日本公開〕1936年2月
〔ソフト〕DVD
〔注〕ソシエテ・ノーブル・シネマトグラフィ製作。フランス領カナダのケベックの山村に住む娘マリア・シャプドレーヌ(原題になっている)を主人公に、彼女の結婚候補の若者たちやカトリックの信仰に生きる親族や住民たちとの人間関係を描いた名作。ギャバンは近くの山に住む猟師の青年で、マリアに会いに吹雪の中を下山する途中で遭難死する。現地ロケを敢行し、カナダの自然を映像にとらえている。マドレーヌ・ルノーが主演。ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作品にギャバンが出演した第1作。


 
(18)ゴルゴタの丘 Golgotha
 1935年 黒白(スタンダード)95分
〔監督・脚本〕ジュリアン・デュヴィヴィエ
〔脚本・台詞〕ジョセフ・レイモン
〔撮影〕ジュール・クリューゲル、ルネ・リボルト、マルク・フォサール、ロベール・ジュイラール〔美術〕ジャン・ペリエ、アンドレ・ルー〔音楽〕ジャック・イベール
〔ギャバンの役〕ローマ領ユダヤの総督ポンテオ・ピラト
〔共演〕ロベール・ル・ヴィガン(主役)、アリ・ボール、エドウィージュ・フイエール、ジュリエット・ヴェルヌイユ、アンドレ・バッケ、シャルル・グランヴィル、リュカ・グリドゥー
〔封切〕1935年4月10日(仏)
〔日本公開〕1936年11月
〔ソフト〕DVD
〔注〕イクティス・フィルム製作。イエス・キリストの地上での最後の一週間を描いた史劇。カトリック教徒の多くのフランス国民の寄付によって製作された。キリスト役はデュヴィヴィエ監督の秘蔵っ子俳優ル・ヴィガンで、彼の入魂の演技は注目に値する。ユダ役のリュカ・グリドゥーは、後の『望郷』で刑事役を演じた俳優だが、彼も適役。ギャバンはローマ人の総督ピカトの役で、キリストを救おうとしたが、ユダヤ人有力者による多数決に従い、キリストに十字架刑を命じる。


 
(19)ヴァリエテ Variétés
 1935年 黒白(スタンダード)100分
〔監督・脚本〕ニコラ・ファルカス
〔原作〕フェリックス・ホレンダー〔脚本〕ロルフ・E・ヴァンルー、アンドレ=ポール・アントワーヌ
〔撮影〕ヴィクトル・アルメニス〔美術〕セルジュ・ピメノフ〔音楽〕ハンス・カルスト
〔ギャバンの役〕空中ブランコ乗りジョルジュ
〔共演〕アナベラ、フェルナン・グラヴェ、二コラ・コリン、ジャン・シノエル、カミーユ・ベルト、マルセル・ペレ
〔封切〕1935年10月5日(仏)
〔日本公開〕なし
〔ソフト〕なし
〔注〕ヴァヴァリア・フィルムとフィルムEFの共同製作。日本ではギャバンの出演していないドイツ語版が公開された。サーカスの花形娘と空中ブランコ乗りの二人の男との三角関係の話。アナベラが主演で、フランス語版の相手役二人をギャバンとフェルナン・グラヴェが演じた。この映画でアナベラはギャバンに好意を抱き、次作『地の果てを行く』に友情出演する。


 
(20)地の果てを行く La Bandera
 1935年 黒白(スタンダード)100分
〔監督・脚本〕ジュリアン・デュヴィヴィエ
〔原作〕ピエール・マコーラン〔脚本・台詞〕シャルル・スパーク〔撮影〕ジュール・クリューゲル、マルク・フォサール〔美術〕ジャック・クラウス〔音楽〕ジャン・ヴィーネル、ロラン・マニュエル
〔ギャバンの役〕外人部隊の兵士ピエール・ジリエト
〔共演〕アナベラ、ロベール・ル・ヴィガン、レイモン・エモス、ピエール・ルノワール、ヴィヴィアンヌ・ロマンス、ガストン・モド
〔封切〕1935年9月20日(仏)
〔日本公開〕1936年9月
〔ソフト〕DVD
〔注〕ソシエテ・ノーブル・シネマトグラフィ製作。ギャバンが自腹を切って原作の映画化権を買い、デュヴィヴィエに監督と組んで実現した映画。ギャバンの映画における悲劇的なヒーロー像を決定づける代表作となった。殺人犯が国外逃亡して、愛する女と出会うが、最後は非業の死を遂げるといった主人公である。ギャバンとル・ヴィガンの緊迫した対決と壮絶なラストシーンが見どころ。


 
(21)我等の仲間 La Belle Équipe
 1936年 黒白(スタンダード)101分
〔監督・脚本〕ジュリアン・デュヴィヴィエ
〔脚本・台詞〕シャルル・スパーク〔撮影〕ジュール・クリューゲル、マルク・フォサール〔美術〕ジャック・クラウス〔音楽〕モーリス・イヴァン
〔ギャバンの役〕失業者ジャン
〔共演〕ヴィヴィアンヌ・ロマンス、シャルル・ヴァネル、レイモン・エモス、ミシュリーヌ・シェーレル、シャルル・ドラ、ラファエル・メディナ
〔封切〕1936年9月15日(仏)
〔日本公開〕1937年4月
〔ソフト〕DVD、ビデオ
〔注〕シネ・アリース製作。失業している五人の仲間が金を出しあって買った宝くじが当たって、大金が転がりこむ。話し合いの結果、パリの郊外にレストランを開く計画を立て、廃屋を買い、全員で改築に取り掛かる。しかし、途中で一人抜け、また一人抜け、もう一人は開店前に屋根から転落死してしまう。そして、最後に残った二人も、悪女の出現で、その関係にひびが入る。ラストはギャバンがシャルル・ヴァネルを銃殺し、警官に逮捕されるという悲劇的な結末だったが、製作側からあまりにも暗すぎるとの不満の声が上がり、公開前にラストだけ撮り直し、ギャバンとヴァネルが和解し、二人でレストランを続けるといったハッピーエンド版を作った。デュヴィヴィエとシャルル・スパークは最初の脚本に忠実なヴァージョンを公開するように主張したようだが、結局、地域によってラストの違う映画を配給する結果になった。日本公開の映画では悲劇的な結末だった。現在、ビデオではハッピーエンド、You Tubeでは両方を二つ続けたものを見ることができる。



(22)どん底 Les Bas-Fonds
 1936年 黒白(スタンダード)95分
〔監督・台詞〕ジャン・ルノワール
〔原作〕マクシム・ゴーリキー〔脚本〕ユジェーヌ・ザミアティンヌ、ジャック・コンパネーツ、シャルル・スパーク(台詞)
〔撮影〕フェドット・ブルガソフ、ジャン・バシュレ〔美術〕ユージェンヌ・ルリエ〔音楽〕ジャン・ヴィーネル、ロジェ・デゾルミエール
〔ギャバンの役〕泥棒ぺぺル
〔共演〕ルイ・ジュヴェ、シュジー・プリム、ジュニー・アストール、ジャニー・オルト、ウラジミール・ソコロフ、ロベール・ル・ヴィガン、ルネ・ジェナン、アンドレ・ガブリエロ
〔封切〕1936年12月5日(仏)
〔日本公開〕1937年11月
〔ソフト〕DVD
〔注〕アルバトロス製作。ギャバンが名優ルイ・ジュヴェと共演した唯一の映画。泥棒ペペルは惚れた娘を伴侶にして、どん底生活から自由の天地へ向け旅立っていく。ルノワール監督がゴーリキーの原作戯曲に前後の話を付け足し、ところどころに明るいエピソードを加えて映画化した。


 
(23)望郷 Pépé le Moko
 1936年 黒白(スタンダード)94分
〔監督・脚本〕ジュリアン・デュヴィヴィエ
〔原作〕アンリ・ラ・バルト(別名アシュルベ)〔脚本・台詞〕ジャック・コンスタン、アンリ・ジャンソン
〔撮影〕ジュール・クリューゲル、マルク・フォサール〔美術〕ジャック・クラウス〔音楽〕ヴィンセント・スコット、モハメッド・イグルブシェーヌ
〔ギャバンの役〕ギャング・通称ぺぺ・ル・モコ
〔共演〕ミレーユ・バラン、リュカ・グリドゥー、リーヌ・ノロ、ガブリエル・ガブリオ、マルセル・ダリオ、フレール、フェルナン・シャルパン、ジルベール・ジル、ガストン・モド
〔封切〕1937年1月28日(仏)
〔日本公開〕1939年2月
〔ソフト〕DVD
〔注〕パリ・フィルム・プロダクション製作。戦前のギャバン映画の大ヒット作。ギャバンの魅力が溢れた代表作。