<亀田興毅>フアン・ランダエタに判定勝ち 新王者に
2006年8月2日(水) 22時0分 毎日新聞
世界ボクシング協会(WBA)ライトフライ級王座決定戦が2日、横浜市の横浜アリーナで行われ、同級2位、亀田興毅(19)=協栄=が、同級1位のフアン・ランダエタ(27)=ベネズエラ=に2―1の判定で勝ち、世界初挑戦でタイトル獲得に成功した。
亀田は一回にダウンを奪われ、中盤盛り返したものの、終盤は足がもつれて押し込まれる苦しい展開。しかし微妙な判定で制した。
19歳8カ月での王座奪取は、井岡弘樹(グリーンツダ)の18歳9カ月(ミニマム級)、ファイティング原田(笹崎)の19歳6カ月(フライ級)に次ぐ年少記録。日本選手として史上3人目の10代世界王者となる。
亀田は大阪市出身。11歳から父史郎トレーナー(41)の指導でボクシングを始めた。03年12月にプロデビューし、12連勝で頂点に立った。【来住哲司】
◇立ち上がりにダウン、世界の厳しさ味わった
世界の厳しさを存分に味わった。立ち上がりにいきなり初体験のダウンを食らい、十一回にも連打を浴びてダウン寸前に。勝つには勝ったが、亀田にとって課題の残る試合だった。
一回終盤、弱点を突かれた。高いガードは亀田の武器だが、下からのアッパーに弱い。接近戦でランダエタのアッパーに注意がいった途端に、ランダエタの右フックを受け、腰から落ちた。「初めてで正直、びっくりした。倒せると思っていたし、焦りはなかったが……」と振り返る。その言葉通り、中盤は右ボディーブローや右フックで相手をロープに詰め、盛り返したが、十一回にも左ストレートにひざを揺らし、クリンチで逃れるのがやっとだった。
「正直プレッシャーで地に足がついてなかった」と亀田。それでも中盤盛り返せたのは、練習量の裏付けがあったから。父史郎トレーナーは「他の選手がうちの息子たちと同じ練習をしたらつぶれてしまう」と胸を張る。1日6~7時間の練習量は通常のボクサーの2~3倍。スタミナと強じんな肉体を作り上げた。
ただし、判定は分が悪い。亀田陣営の金平会長すら「正直、判定は微妙と思った。逃げ切れたかな、とは思ったが……」と歯切れが悪いままだった。
亀田自身も「不細工な試合をしてすみません」と観客に謝り、会見では開口一番「悔しいな」とつぶやいた。10代世界王者は日本人3人目の快挙とはいえ、目標の「世界3階級制覇」の道は現状では極めて厳しいと言わざるを得ない。【来住哲司】
◇疑問符の付く判定、「温室栽培」の批判はね返せるか
こわもてのキャラクターを前面に押し出し、マナーが悪いとの声にも、自分たちのスタイルを貫いてきた亀田3兄弟。下り坂の外国人ばかりと対戦してきた「温室栽培」のマッチメークも非難の的だった。それでも、長兄の興毅がまず世界タイトルを手に入れれば、批判をはね返せるはずだったが、今回の試合内容では、そのもくろみが成功したとはいえない。
世界王者になる前からこれほど注目を集めた日本人ボクサーは、極めて珍しい。亀田興毅はアマチュアデビュー前の中学時代から、テレビなどで取り上げられてきた。メディアが6年かけて育てたのが「亀田一家」だ。スポーツの枠を越える人気を得た。
月刊誌「ボクシング・マガジン」の元編集長でフリーライターの原功さんは「興毅はよく『おれら漫画みたいやろ』というが、確かに漫画だ」と指摘する。丸太をかついでスクワットするなど、それこそ漫画のような練習を父に命じられるままこなし強くなっていく。往年の野球漫画「巨人の星」のようで、原さんは「『昔の親子関係』に懐かしさを感じさせる」という。
こわもてでも、憎めないし面白い部分がある。そんなキャラクター作りに成功した。所属する協栄ジムも、若い女性に積極的に働きかけるなど「営業努力」でファン層開拓に余念がない。
5月5日の前哨戦では、TBS系列の瞬間視聴率が33%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録。今回のチケットはインターネットオークションで高騰。偽チケットが出回っている可能性も指摘された。
ただし、スポーツの世界は「面白ければ、それでいい」というわけにはいかない。世界王者になったとはいえ、本来のフライ級でもなく、空位を争う王座決定戦に勝っただけ。しかも、疑問符が付く判定だ。「作られたスター」のイメージはむしろ強まってしまった。これは亀田はもちろん、ボクシング界にとっても不幸なことだろう。【来住哲司】
◇世界王者は6人に
亀田の王座獲得で、国内の現役世界王者はWBCミニマム級のイーグル京和(角海老宝石)、WBAミニマム級の新井田豊(横浜光)、WBAスーパーフライ級の名城信男(六島)、WBC同級の徳山昌守(金沢)、WBCバンタム級の長谷川穂積(千里馬神戸)と合わせ、史上最多タイの6人に戻った。
○…ミニマム級に続く2階級制覇を逃したランダエタは「亀田はすごく弱い選手。それは皆さんも試合を見て分かったでしょう」と皮肉たっぷり。一回にダウンを奪った場面を振り返り、「あそこで倒せると思った。もう一押ししようと思ったらゴングが鳴ってしまった」。とはいえ、27歳のベネズエラ人に悔しさはうかがえず、「判定についてWBAに抗議するつもりはない。彼(亀田)が望むならまた日本で試合をしたい」と笑顔で引き揚げた。
▽原田政彦(ファイティング原田)・日本ボクシング協会長 (判定が場内に告げられる前に会場を去り)きょうは何も言うことはないよ。
▽WBAミドル級元王者の竹原慎二さん 一回にダウンしたが、最後まで前に出てよく盛り返した。見栄えは悪いけれどいいパンチ、重いパンチが入っていた。課題は自分の距離感を持つこと。この間合いならパンチをもらわない、ここならもらうと。(今のままでは)正直すぎる。
▽WBAスーパーフェザー・ライト級元王者の畑山隆則さん いい試合だった。(亀田興は)よくやった。世界戦なんだからこんなのは苦戦のうちに入らない。
▽WBC・WBAミニマム級元王者の大橋秀行さん 体も鋼ならハートも鋼だった。今までに経験がない上に減量もきつく、十一回とかは限界を越えていたと思うが、ハートでよくやった。
▽WBAスーパーフライ級元王者の鬼塚勝也さん 序盤の差を引き寄せた(亀田興にとっては)意味のある判定勝ちだった。今までのレベルでいけるだろうと思ったろうが、何とか持ちこたえた。世界は今までの相手とは本当に違うということが分かったのではないか。
▽WBCバンタム級元王者・薬師寺保栄さん 自分の戦った経験から、亀田が4~5ポイント負けていたと思う。亀田には「よう頑張ったな」と言えるかもしれないが「絶対勝ちだったな」とは言えないなあ。リングサイドで見ていた知り合いからも「この判定、どうなの」という電話ももらった。判定がクリーンなら、こんな問い合わせはない。今後悪い意味でボクシング界に影響する。
▽かつてミニマム、ジュニアフライの2階級制覇を達成した井岡弘樹さん 亀田が苦戦していたように見えたが……。判定のことはよく分からない。
こうしてみると薬師寺と井岡は
信用できる解説者だとわかる。
2006年8月2日(水) 22時0分 毎日新聞
世界ボクシング協会(WBA)ライトフライ級王座決定戦が2日、横浜市の横浜アリーナで行われ、同級2位、亀田興毅(19)=協栄=が、同級1位のフアン・ランダエタ(27)=ベネズエラ=に2―1の判定で勝ち、世界初挑戦でタイトル獲得に成功した。
亀田は一回にダウンを奪われ、中盤盛り返したものの、終盤は足がもつれて押し込まれる苦しい展開。しかし微妙な判定で制した。
19歳8カ月での王座奪取は、井岡弘樹(グリーンツダ)の18歳9カ月(ミニマム級)、ファイティング原田(笹崎)の19歳6カ月(フライ級)に次ぐ年少記録。日本選手として史上3人目の10代世界王者となる。
亀田は大阪市出身。11歳から父史郎トレーナー(41)の指導でボクシングを始めた。03年12月にプロデビューし、12連勝で頂点に立った。【来住哲司】
◇立ち上がりにダウン、世界の厳しさ味わった
世界の厳しさを存分に味わった。立ち上がりにいきなり初体験のダウンを食らい、十一回にも連打を浴びてダウン寸前に。勝つには勝ったが、亀田にとって課題の残る試合だった。
一回終盤、弱点を突かれた。高いガードは亀田の武器だが、下からのアッパーに弱い。接近戦でランダエタのアッパーに注意がいった途端に、ランダエタの右フックを受け、腰から落ちた。「初めてで正直、びっくりした。倒せると思っていたし、焦りはなかったが……」と振り返る。その言葉通り、中盤は右ボディーブローや右フックで相手をロープに詰め、盛り返したが、十一回にも左ストレートにひざを揺らし、クリンチで逃れるのがやっとだった。
「正直プレッシャーで地に足がついてなかった」と亀田。それでも中盤盛り返せたのは、練習量の裏付けがあったから。父史郎トレーナーは「他の選手がうちの息子たちと同じ練習をしたらつぶれてしまう」と胸を張る。1日6~7時間の練習量は通常のボクサーの2~3倍。スタミナと強じんな肉体を作り上げた。
ただし、判定は分が悪い。亀田陣営の金平会長すら「正直、判定は微妙と思った。逃げ切れたかな、とは思ったが……」と歯切れが悪いままだった。
亀田自身も「不細工な試合をしてすみません」と観客に謝り、会見では開口一番「悔しいな」とつぶやいた。10代世界王者は日本人3人目の快挙とはいえ、目標の「世界3階級制覇」の道は現状では極めて厳しいと言わざるを得ない。【来住哲司】
◇疑問符の付く判定、「温室栽培」の批判はね返せるか
こわもてのキャラクターを前面に押し出し、マナーが悪いとの声にも、自分たちのスタイルを貫いてきた亀田3兄弟。下り坂の外国人ばかりと対戦してきた「温室栽培」のマッチメークも非難の的だった。それでも、長兄の興毅がまず世界タイトルを手に入れれば、批判をはね返せるはずだったが、今回の試合内容では、そのもくろみが成功したとはいえない。
世界王者になる前からこれほど注目を集めた日本人ボクサーは、極めて珍しい。亀田興毅はアマチュアデビュー前の中学時代から、テレビなどで取り上げられてきた。メディアが6年かけて育てたのが「亀田一家」だ。スポーツの枠を越える人気を得た。
月刊誌「ボクシング・マガジン」の元編集長でフリーライターの原功さんは「興毅はよく『おれら漫画みたいやろ』というが、確かに漫画だ」と指摘する。丸太をかついでスクワットするなど、それこそ漫画のような練習を父に命じられるままこなし強くなっていく。往年の野球漫画「巨人の星」のようで、原さんは「『昔の親子関係』に懐かしさを感じさせる」という。
こわもてでも、憎めないし面白い部分がある。そんなキャラクター作りに成功した。所属する協栄ジムも、若い女性に積極的に働きかけるなど「営業努力」でファン層開拓に余念がない。
5月5日の前哨戦では、TBS系列の瞬間視聴率が33%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録。今回のチケットはインターネットオークションで高騰。偽チケットが出回っている可能性も指摘された。
ただし、スポーツの世界は「面白ければ、それでいい」というわけにはいかない。世界王者になったとはいえ、本来のフライ級でもなく、空位を争う王座決定戦に勝っただけ。しかも、疑問符が付く判定だ。「作られたスター」のイメージはむしろ強まってしまった。これは亀田はもちろん、ボクシング界にとっても不幸なことだろう。【来住哲司】
◇世界王者は6人に
亀田の王座獲得で、国内の現役世界王者はWBCミニマム級のイーグル京和(角海老宝石)、WBAミニマム級の新井田豊(横浜光)、WBAスーパーフライ級の名城信男(六島)、WBC同級の徳山昌守(金沢)、WBCバンタム級の長谷川穂積(千里馬神戸)と合わせ、史上最多タイの6人に戻った。
○…ミニマム級に続く2階級制覇を逃したランダエタは「亀田はすごく弱い選手。それは皆さんも試合を見て分かったでしょう」と皮肉たっぷり。一回にダウンを奪った場面を振り返り、「あそこで倒せると思った。もう一押ししようと思ったらゴングが鳴ってしまった」。とはいえ、27歳のベネズエラ人に悔しさはうかがえず、「判定についてWBAに抗議するつもりはない。彼(亀田)が望むならまた日本で試合をしたい」と笑顔で引き揚げた。
▽原田政彦(ファイティング原田)・日本ボクシング協会長 (判定が場内に告げられる前に会場を去り)きょうは何も言うことはないよ。
▽WBAミドル級元王者の竹原慎二さん 一回にダウンしたが、最後まで前に出てよく盛り返した。見栄えは悪いけれどいいパンチ、重いパンチが入っていた。課題は自分の距離感を持つこと。この間合いならパンチをもらわない、ここならもらうと。(今のままでは)正直すぎる。
▽WBAスーパーフェザー・ライト級元王者の畑山隆則さん いい試合だった。(亀田興は)よくやった。世界戦なんだからこんなのは苦戦のうちに入らない。
▽WBC・WBAミニマム級元王者の大橋秀行さん 体も鋼ならハートも鋼だった。今までに経験がない上に減量もきつく、十一回とかは限界を越えていたと思うが、ハートでよくやった。
▽WBAスーパーフライ級元王者の鬼塚勝也さん 序盤の差を引き寄せた(亀田興にとっては)意味のある判定勝ちだった。今までのレベルでいけるだろうと思ったろうが、何とか持ちこたえた。世界は今までの相手とは本当に違うということが分かったのではないか。
▽WBCバンタム級元王者・薬師寺保栄さん 自分の戦った経験から、亀田が4~5ポイント負けていたと思う。亀田には「よう頑張ったな」と言えるかもしれないが「絶対勝ちだったな」とは言えないなあ。リングサイドで見ていた知り合いからも「この判定、どうなの」という電話ももらった。判定がクリーンなら、こんな問い合わせはない。今後悪い意味でボクシング界に影響する。
▽かつてミニマム、ジュニアフライの2階級制覇を達成した井岡弘樹さん 亀田が苦戦していたように見えたが……。判定のことはよく分からない。
こうしてみると薬師寺と井岡は
信用できる解説者だとわかる。