サザンカの宿

登場人物:ろば太(夫)、せんた君(妻、趣味「洗濯」)、感謝くん(双子娘A、癇癪持ち)、めん・たい子(双子娘B、食欲旺盛)

合コン

2006年04月30日 | 炉端でろば太
テンポよく返してくれる異性と
ダイキリなんかを飲みながら
夜を徹して話しが出来たとしたら、
それは、
人生の幸せのもう半分を手にしている証拠なんだよ。
と、羊男は僕に言った。

なんて村上春樹が書くような、
そんな出逢いになればいいんですけど、
果たして来週火曜日に急遽設定した
もしかして、これって合コン?
な飲み会は、
どんな結末になるのでしょう?

合気道門下生の中で、
一番胸板の厚い自衛隊員
(以下、「筋肉男」という。)から、
女性と知り合う機会のない部下のため、
何とか席を設けてくれないか、
と頼み込まれてからはや半年。

その間ほんとうにその部下達は、
女性とのお付き合いの機会がなく、
ただひたすら
私から声が掛かるのを
無実の人が釈放を待つように
塹壕掘りや土嚢積みをしながら
ずぅーっと待っていたのだという。

しかし、
あまりにも音沙汰がないため、
私が合コンを忘れたのではないか、
あるいは、
私だけが女性陣といい思いをしているのではないか、
と不安になってしまったらしい。

いい度胸だ。
週3日も合気道の稽古をする私を目の前にして
その通りのセリフを口に出してみるがいい。
・・・
深々と頭を下げて、
す、、、っかり忘れてました。
と謝ってやろうじゃないか。
・・・
いや、それともやはり、
ああ、最高だったね。
プハー。
(舶来物のシガーを燻らす。)
もう食べちゃったもんねー。
と谷岡やすじ先生の漫画のように
爪楊枝でシーハーと隙間を掃除しながら、
寝転がったまま答えてやろうか。

と、
何に興奮しているのか分からないが、
とにかく合コンというのは、
いつになく生命感あふれる拍動を
身体にもたらしてくれるから不思議だ。

とはいえ、
参加者ではなく、
単なる仲介者に過ぎない既婚者の存在は、
何かの化学反応さえおきてしまえば、
あとは化学式上も括弧でくくられてしまう触媒のように、
忘れ去られてしまうものなのだろう。

もっとも、
既婚者が間違って何かの反応を身に浴びてしまっても、
何の利益にもならないのは、
痴話狂いを扱った古今東西の悲話喜劇を紐解くまでもない事実。

私も筋肉男も
ともに子を持つ既婚者なので、
明らかな目的を持った他の参加者の邪魔をせぬよう、
座卓の端の方で2人差し向かいになり、
金曜日に稽古したばかりの、
後ろ手に締め上げられた腕の解き方とその後の小手返し
なんかを復習したり応用したりすることで、
一見楽しげに和やかに、
その場を満喫しているような振りをして、
参加者と同程度の熱量を発散することにしよう。

また合コンやってくださいと
筋肉部下男たちから言われないように、
みんな一遍に、
幸せになればいいのに。

やい、早く幸せになれ、この野郎!



(その4)

2006年04月29日 | 小説「女に生まれて」
ちょっと意地悪かな、と思ったけど、
黙ってたんだから、おアイコよね?

「うーん。その人、転勤しちゃったんだよ。
 次に来た人が、とてつもなく、出来るひとでね。
 その上、部下のやる気を上手く育ててくれるんだよ。
 ああいう人が上司で、本当にラッキーだよ。
 この前の商談も、初め無理かと思ったんだけど、
 その人のおかげで、取れたんだ。
 飛び込みでゲットできるなんて普通ないからね。
 営業は、押す一方じゃだめなんだ。
 時々退いて、そして一度離れる。
 それから攻めるんだ。なんてね。」

こんなに仕事の話をする人だったかしら。
なんか、ちょっとショック。
家庭一筋だよ、なんて言いながら、
仕事が出来ない人って、やっぱり魅力ないけど、
楽しそうに仕事の話するのって、
正直、面白くないわ。

「へー。そうなんだ。
 良かったね。
 まあ、行ってらっしゃいな。」


遠足で一番楽しかったこと

2006年04月28日 | 子育て進行形
感謝くん
「おとさん、
 今日、遠足だったんだよ?」

ろば太
「分かるよ。
 おとさんが唐揚げ作ったんだもん。」

めん・たい子
「ああ、あれおいしかったなあ。」

ろば太
「楽しかった?」

感謝くん
「うん。
 とっても。」

めん・たい子
「今日はね、
 1組も2組も3組も、
 みんな一緒になって、
 お弁当食べたの。
 好きな人と一緒に食べたんだよ。」

ろば太
「え?好きな人?
 あのコウキチとかいう男の子か?」

めん・たい子
「違う、違う。」

感謝くん
「女の子同士だよ。」

ろば太
「うーん、そうか。
 いつもと違うお友達と
 お昼一緒だったんだ?」

感謝くん
「そうだよ。
 誰と食べたか分かる?」

ろば太
「んー。
 お友達の名前、
 おとさんよく分かんないからなあ。
 この前、うちに遊びに来たっていう、
 アミちゃんかな?」

めん・たい子
「ぶー。
 アミちゃんは、
 たいちゃんと同じ1組です。」

ろば太
「じゃ、じゃあ、
 幼稚園一緒だったユカリちゃんかな?」

感謝くん
「バツでした。
 ユカリちゃんは3組で、
 感謝くんと同じクラスの子だから、
 いつも一緒に食べてるもんねーだ。」

めん・たい子
「おとさん、
 降参する?」

ろば太
「うん。
 だってお友達の名前、
 よく分かんないもん。
 ねえ、おせーて、おせーて。
 感謝くんは今日、
 誰とお昼食べたの?」

感謝くん
「たいちゃんだよ。」

ろば太
「え?
 めん・たい子?」

めん・たい子
「そう。
 じゃあさあ、
 たいちゃんは、
 誰と食べたか分かる?
 きゃあ、簡単かなあ?
 どうしよう。」

ろば太
「感謝くんと?」

めん・たい子
「すごーい。
 大正解。」

ろば太
「二人だけで?」

感謝くん、めん・たい子
「そう。」

ろば太
「ねえ、せんた君?
 いいのかね?」

せんた君
「いいんじゃない?
 赤の他人よりは安心だし。」


(その1)

2006年04月27日 | 小説「スクラップ」
1 特命

オレは、がっくりと肩を落とし、市長室のある1号館を後にした。
今どき、行政改革に取り組んでいない自治体はないだろう。職員の意識も随分と変わってきている。しかし、人減らしをするとまでは思っていなかった。ましてや、自分がその陣頭指揮を取れと言われるなんて、、、。
 迂闊だった。全く想像したことがなかった。どちらかといえば、自分が真っ先に、首切りに遭ってしまうのではないか、そう考えるタイプの人間だった。
 もっとも他人にはそう感づかれないようにやってきたつもりだ。自信にあふれた有能な職員。そう思わせることに成功していたように思う。少なくとも、昨日までの、オレは。
 自分の仕事に自信がない訳ではない。それなりにというか、平均点以上に、そつなくこなしていたはずだ。そうでなければ、課長というポストになど就けないだろう。同期の駄目な奴らの多くは、未だに平職員なのだ。ところが、何がウケて、人事上の優遇を得ているのか、皆目検討が付かない、というのも情けないが事実なのだ。
 大体、行政というものが、何を目標に動いているのか、未だにはっきりとは掴めていない。
「住民のため?」

(せんた君からの業務命令で、
 明日は5時半起きです。
 双子姫の遠足があるので、
 唐揚げを揚げるようにとの指示です。
 では、また、弁当を作る前の日に会いましょう。
 バイバーイ。)

月が見ていたもの

2006年04月26日 | 子育て進行形
いつの間にか、
また夏が近づいて来ているのね。
ふー。
と、思春期の可憐な少女のように、
青息吐息のせんた君。

何のことはない、
冬物の衣替えが終らないうちに、
夏物の準備をしなくてはならなくなった身の不幸を
半年振りに思い出したのである。

追いかけているつもりなのに、
常に追いかけられている立場のせんた君。

この際なら、
もっと手を抜いて、
完全な周回遅れになってしまえば、
先頭集団を走るような風景が
一瞬でも垣間見えると思うのだが、
妥協、誤魔化し、馴れ合い、譲歩、
そういった生活に歩み寄る気は
全くないようである。

今宵は、
その半年振りのやる気が多少起こったらしく、
小学校5年と3年になるろば太の姪っ子達から、
からかうように定期的に送り届けられて
増える一方だった双子姫のお洋服を
季節ごとに選別しながら、
小さくなった服を
何故か綺麗なごみ袋に移し変える作業に精を出している。

小さな子供を持つ友人宅に
黙って
送り付けることにしたのだという。
その量、
45リットル詰めの燃えるゴミ用の袋にして、
約6袋分である。

傍目には思いやりのある、人助けの活動に見えて、
実は腹黒い野心から始まった慈善事業というものは、
世の中に大量にあふれている。

せんた君の場合は、
そういった何か見返りを期待するような活動とは
全く趣を異にしている。

誰かに嫌がらせをするのでもなく、
はたまた、
誰かに喜んでもらおうというのでもない。

複合的な要素を含まず、
ただ、自分なりの整理法を
自分が満足するようなやり方で実践しているだけなのである。

不器用な職人的生き様といえよう。

既に作業を開始してから、
6時間は経っているであろうか、
夜も更け、
この住宅地の街路灯が一斉に消えた頃、
ようやく選別職人にも
遥か遠くの曙光が見えてきたようである。

残り3、4着となって、
フリル付きの純白のシャツを手にとって
畳み直している時だっただろうか、
洗濯をして丁寧に仕舞っていたはずのその真白なシャツの中から、
何故か、
柿の種が一つ、
ぽとと軽い音を立てて畳の上に落ちたのである。

職人は厳しい眼差しのまま
そのオレンジ色をした三日月型の異物を
二指でゆっくりと摘まみ上げ、
鼻に誘導してニオイを検査した後、
小さく一つ頷いて、
無言のまま
それを口の中に仕舞った。


薫陶、洗脳、波紋、報い?

2006年04月25日 | 子育て進行形
4月下旬とは思えない寒さが続いているものの、
既に桜も葉桜へと季節を移し、
天文の世界からみると
いつもどおりの巡行を
今年もなぞっているだけなのだろう。

目覚ましの用意を忘れ、
太陽の意外な高さに驚いて跳ね起きてみたところ、
時計は6時前の時刻を示していて、
早起きで儲けた気分になってもいい筈なのに、
いささか騙されたような
不愉快な朝を
今日は迎えてしまっていた。

この気持ちを
誰かとともに慰め合いたいと思うのだが、
それに付き合ってやろう、
という体制が家族には出来ていない。

ある人に感化されると、
その人の言動を
知らず知らずになぞってしまうことがある。

私が目を覚ましても
子供たちには何の影響も与えないのに、
妻が布団から少し身体を持ち出そうとしただけで、
子供たちは起きる時間だと直感し、
目を擦りながら
「おはよう」などと
誰もいない方に向かって声を掛けるようになるのだから
薫陶なのか洗脳なのか、
母の力というのは恐ろしい。

「おはよう。
 随分と日の出が早くなったわね。
 まだ6時半なのに、
 もう8時半くらいの日の高さですもの。」
などとおよそ客観性や絶対的基準などを
鼻でくくるような態度で
一日の始まりにあたっての所感を妻に披露されて、
こちらは
「わかりにくいよ。」
と募る不快感を転嫁して返すのだが、
子供たちは、
「そんなことないよ。
 わかるよ、私たちには。」
と言って、
今日はどこまでも母の味方をする覚悟のようである。

まともに解釈しようとすると、
数学の問題を
暗記している公式抜きで解こうとする時のように、
脳が異常反応を起こしてしまって、
「どこが分かりやすいのだろう?」
と決して期待はしていない答えを
時間稼ぎのために子供たちに求めるのだが、
子供たちは何の不自然さもなく、
「8時半って、
 朝の8時半のことでしょ。」
と問題自体を蹴り返す強引さで、
何かにすがりつきたくなるような
朝の甘えた虚脱感に
北極星のような終止符を打つのだった。

その2

2006年04月24日 | 小説「近くて遠くて」
大和田さんは笑いながら、ビールを自分で注ごうとした。

「あ、すいません。どうぞ、飲んでください。」
と、僕が取り返そうとすると、大和田さんは、
「いいんだよ、気にしないで。自分のペースで飲もうや。」
といって、自分のコップと僕のコップに、ビールを注ぎかさねた。

「苦いよな、ビールって。味を確かめてみよう、
なんて集中したりすると、苦さだけが伝わってくるだろ。
こんなのどこが美味いんだろう、って
子供の頃は思ってたんだろうけどな。
そんなにビールの味って、変わってないはずだろ?
不思議だよな、こういうのって。」

ひげに乗った泡をゆっくりと手のひらでぬぐったあと、
大和田さんは、その手のひらを黙って見続けていた。
あまりにも大事そうに見ているので、
僕もつられて自分の手のひらを眺めてしまっていた。

(ホントニノドガイタイデス。
 マタ、ノドガイタイヒニアイマショウ!)


解禁

2006年04月23日 | 子育て進行形
昨日は何故か、
ろば太が子供を連れての里帰りの日であった。

冬の間は、
風邪を引かせる心配があるので、
断熱性能に難のある実家に
足を向けることはもちろん、
そっちの方向を見ることもまかりならんと、
子供たちを近づかせないろば太だが、
八重桜の花が咲く頃を期に、
やおら交流を再開するのである。

山開きにも似ているから、
これを、
土地の人は、
実家開きとも呼んでいるらしい。

既に3歳の頃から、
せんた君なしでのお泊りを経験しているので、
今年の実家開きも
双子姫には何の不安もない。

むしろ、
おじいちゃんおばあちゃんの家になら
間違いなくある筈の
あの娯楽ボックスが味あわせてくれる
目くるめく感動を
何よりも心待ちにしているのである。

ところが、
迎えるおじいちゃんおばあちゃんも
用意周到で、
果物、飲み物、綿菓子作戦、
公園、お散歩、風船遊び攻撃で、
双子姫のハートを自分たちに引きつけようと、
死に物狂いの対抗策で待ち構えていたのである。

こうして昨晩は、
老獪な戦略に陥れられた双子姫が、
知らないうちに
じいさんばあさんに手玉に取られ、
テレビのリモコンに一度も触れることなく、
一瞥もくれる暇さえ与えられず、
夜の眠りに引き摺り込まれたのだった。

翌朝6時。
敏感な感謝くんがまず目を覚ます。
そして昨日、
テレビを見ていなかったことで
おとさんはどうして気付かせてくれなかったのだと、
おはようも言わずに布団の中でなじり始める。

普段どんな物音でも起きないめん・たい子が、
すぐに目覚めて感謝くんに加勢する。

ならば、
おじいちゃん達が起きるまで、
その部屋備え付けの
小さなテレビを見ていようじゃないか、
と和解案を提示すると、
仲間同士で協議することさえもせず、
すぐにリモコンを操作して、
テレビの電源を入れた。

あいにく放送中の番組は、
70年代ヒット曲を扱ったものだったらしく、
当時のベストテン音楽が順番に流れる中、
単にその曲名と歌手名の文字情報が、
歌の最後まで映し出されるという、
家庭用カラオケよりも不親切な内容なのであった。

曲名「関白宣言」
歌手「さだまさし」
という静止画像をしばらく眺めながら、
「この人って、
 『さだ・まさし』なのかな、
 『さだま・さし』なのかな?」
と独り言のように二人で話している双子姫に、
「テレビ面白いだろ?」
と聞くと、
「おじいちゃんとおばあちゃんの方がいいや。」
と結果的にはこちらの思惑どおりの答えを引き出すことが出来て、
息子として久々に
両親への恩返しをした気にもなれた、
気分上々の解禁日だったのでした。



あ、あの時の?

2006年04月22日 | 子育て進行形
せんた君
「もうすぐ連休ね?」

感謝くん
「なーに、ウェンチューって?」

ろば太
「ははは。
 おかさんは発音が悪いからね。
 るるるる連休だよ。」

めん・たい子
「ウォンチューのこと?」

ろば太
「おとさんの発音聞いてないでしょ?」

せんた君
「ゴールデンウィークっていってね、
 黄金色の週のことなのよ。」

ろば太
「全然、教える気ないでしょ?
 あのね、
 学校に行ったかと思うと
 お休みになって
 どーれ日頃できないことでもやってみっか、
 って考えているうちに
 なんだかまた学校に行く日が来ちゃうのが、
 飛び石連休っていうのね。
 お茶の先生の家の庭にもあったでしょ、多分?
 石がちょっとずつ離れて置いてあるの。
 見たことない?」

感謝くん
「あ、あるよ。
 すっごく歩きにくいの。」

めん・たい子
「うん、分かるよ。
 石蹴りみたいに、
 ケンケンパで歩くやつでしょ。」

ろば太
「そうそう、大正解。
 それが飛び石連休ね。
 えーと次に、、、
 学校に行って
 あー疲れたなー、
 なんか学校も思ってたほど面白くないから
 他の学校に入り直そうかなあ。
 んでもまた、
 受験勉強し直すのも馬鹿みたいだし。
 数学の解法丸暗記するのも億劫だなあ。
 あーあ、彼女でもいれば、
 デートでもすんのになあ。
 でもそんな金もないか。
 実家に帰るのも面倒だし、
 バイトでもしてみっか。
 ちょうど果物屋「いたがき」で
 3日間のバイトがあったから、
 申し込んでおくか、
 3日間も働くなんて
 考えただけで気が狂いそうだけど、
 しょうがないな、
 いつかは仕事しなきゃなんないんだし、 
 まあ成人式も終えた記念に、
 一丁やってみっかあ、
 なーんて気になるのが
 ゴールデンウィーク。
 つまり、
 あれこれと就職やら将来のことやら、
 お金にまつわることに
 思いを巡らす週間、
 そう考えると分かりやすいでしょ?」

せんた君
「『いたがき』でバイトしたことあるの?
 仙台で一番大きい果物屋さんじゃない?
 しかも高級な果物を売ってるとこでしょ?」

ろば太
「あ?わかる?
 まあ、それほどでもないけどね、
 はっはっは。」

せんた君
「私、仙台勤務だった時、
 会社のお使いで、
 そこから果物買ったことあるわよ。
 革命とか考えてそうな
 青白いお兄ちゃんが、
 息切らしながら運んできてくれたわ。」

ろば太
「ま、まさか。
 せんた君のいた事務所って
 丸善書店近くの
 あの桃色系のお店も入っているビルの2階じゃないよね?」

せんた君
「え、そんな感じのところよ。」

ろば太
「あ、あの時の経理のオバサンって、
 せんた君?」

せんた君
「あ、あの時の
 咳き込んでいた傷つきやすい若者って?」

ろば太
「今度あらためて、
 2人だけで仙台に行こうか?」

せんた君
「うん。
 でも、私、、、。」

ろば太
「なに?
 恥ずかしいかい?
 大丈夫、僕が守ってあげるよ。」

せんた君
「今日は一人で行ってくるから。
 往復1500円の切符、
 もう買っちゃってるし、、、。
 子供の面倒見ててね?」

ろば太
「あ、そう?
 んじゃ、実家にでも行ってくるか。
 学生時代に帰らなかった分、
 取り戻さないとな。」

感謝くん
「今日、
 おじいちゃとおばあちゃんの家に行くってこと?」

めん・たい子
「そう。
 それだけのことみたいよ。」

  

どこかにいる誰かが、わたしのことを、ぼんやりと思い出している。

2006年04月21日 | 炉端でろば太
このところ
誰かにいつも見られているような気がしている。

覗かれているという強迫観念でもなく、
見張られているという疎外感でもなく、
残念ながら、
見守られているという受動態の安心感でもない。

自分のことを
もう一つ外側からみる自分というものを
自我と自己と別々に表すことが出来るとして、
その自己というものが生まれてから、
どのくらい経つだろうか。

子供だった頃が
ある意味で幸せだったのは、
やがて大人になることに
まだ気づいていなかったからだろう。

やがて自分の中に
自分のような他人のようなものがいることに気づき、
調整や闘争やらの葛藤の時期を越えて、
いわゆる大人と呼ばれるものになるのだろう。

身体の成長よりも早く
この時期が訪れる人もいるし、
その逆もある。

半分他人で半分自分のようなものだから、
それをハーフと呼び直してみると、
初めて出会った時から
ハーフは全く変っていない、
ということはなく、
やはりハーフも
少しずつ変化してきているような気がする。
「成長している」と、
単純には評価できないところが
いかにも悩ましいけれども。

ハーフと出会う前の世界には、
よほどのことがない限り戻れそうにないし、
ハーフに完全に同化することも
出来そうにないし、
それがいいことなのかも分からない。

会って話しをしてみると、
決して馬鹿騒ぎをして賑やかな振る舞いをするわけでもなく、
大きな声で威圧しながら、
実は自分の不安を紛らわしているという風でもなく、
何となくいつまでも話し続けたい感じがする人がいる。

その温かさ、思いやり、
こちらに対する気遣いは、
そのままその人の
ハーフとの付き合いの深さ、真剣さ
を表しているような気がするし、
その時、
ハーフとハーフが
結びつきを強くしているのだろう。

ハーフは、
自分で育てていけるものだし、
しばらくの間は、
そうすることが正しいのだと信じていたい気がする。

自分のハーフに
真摯に向き合っている人なら、
他人のハーフにも
優しいまなざしを差し向けられるのだろうし、
そういう志を持った人となら、
社会的やら経済的やら
そういった現実世界の困難も
ともに乗り越えられる気がする。

そうでない人となら、
それが例え家族であっても、
ともに生きていく相手ではない、
という気がする。


その1

2006年04月20日 | 小説「近くて遠くて」
   第1章

「本当は、戻ってくるつもりじゃなかったんだけどね。
 こっちに来たら面倒みてあげられるのに、
 なんて、娘達がさんざん言うもんだから。」

大和田さんは、そう言ってビールを飲み干した。
ひげのあたりについた泡が、
おしゃべりを滑らかにしているように僕には思えた。

「あんまりしつこく言うもんで、
 それで、こっそり家を建てちゃったんだよ。
 おかしいだろ?」

「いやあ、どうですかねえ。
 やっぱり、だんだんとね、
 不安になるんでしょうから、お互いに。」

「わかるか?村瀬さん。
 君にも?」
と大和田さんは、話しを続けた。

「それでね、
 いきなり、上棟式の案内を出して、
 驚かそうと思ったんだよ。
 ははは。驚いちゃったんだな、娘達は、本当に。
 なんでそんな大事なことを、内緒で決めちゃうんだ、って、
 ひどい剣幕で怒られたよ。
 君は口が堅いから言うけど、
 こっちに来てから、結局、一度も遭っていないんだ。
 もう、電話するのも嫌になったよ。
 別に、本当に面倒みてもらいたい、ってわけじゃないし。」

大和田さんは笑いながら、ビールを自分で注ごうとした。

(ノドが痛い日に、続く。)


親子ずれ

2006年04月19日 | 子育て進行形
授業参観とその後の懇談会に出席し、
話したいこと一杯で
胸がはちきれそうなせんた君。

せんた君
「ウップ。
 あー三色団子おいしかった。」

ろば太
「あれっ、
 何か話しがあるんじゃなかった?」

薄っすらと
三色だったことを思わせる風情の竹串を手に取り、
少しだけ余韻を残す蓬餅を前歯でこそぎ取るろば太。

せんた君
「あ、そうそう。
 授業参観に行ったんだけど、
 感謝くんの担任は、
 若い女の先生でしょ?
 なんか、男の子たちに、
 なめられてる感じなのよ。
 字を書く練習で、
 『最初に手首を柔らかくする運動をしましょう。』
 なんて言ったら、
 男の子たちが席を立って
 手首やら足やら
 全身揺すぶって
 変な念仏踊りみたいなことを始めるのよ。」

ろば太
「感謝くんは?
 あの子、般若心経暗記してるからなあ。
 いい気になって、
 合掌低頭チーンで締めくくったのかなあ。」

せんた君
「それがね?
 えらいのよ。
 周りの男の子が騒いでいても、
 平気な顔で先生の顔をじっと見ていて、
 全然同調しないのよ。」

ろば太
「なるほど、
 協調性のない女なんだな。
 ・・・
 ん?感謝くんの話だったよね、あはは。
 最近、家で癇癪も起こさなくなってきたしね?
 お姉ちゃんになったんだね、きっと。」

せんた君
「で、次に、
 めん・たい子のクラスに行ったのよ。
 1組は、男の先生だから、
 さすがなめてかかる子供はいなかったわ。」

ろば太
「なるほどね。」

せんた君
「やっぱり同じように手首の運動をさせた後、
 『黒板に渦巻き描ける人?』
 って聞いたら、
 何人かが手を挙げたんだけど、
 めん・たい子は指されなかったの。
 そうしたら、
 『やりた・いー、やーりーたーいー!!』
 って家にいるときと同じ感じで、
 先生に抱きつこうとするのよ。」

ろば太
「肉弾戦が得意だからな、あの子。
 その辺が、
 晩生(おくて)の僕たちに似てないところだよね?」

せんた君
「他の子が描いた渦巻きを指さして、
 『それは、渦巻きじゃないよ。
  海苔巻きだよ。
  カッパとか入ってる酸っぱい奴だよお。』
 なんて誰にも分かんないようなことを
 大きな声で何度も繰り返すのよ。」

ろば太
「僕は人前で臆面もなく、
 わけの分からないことを話すの
 苦手だったからなあ、
 立派だよ、たいちゃん。
 誰に似たんだろうね?」

綺麗に舐めあげた竹串の突端を
せんた君の方に向けてテーブルにおくろば太。

せんた君
「渦巻きって中に何が入ってるのかしら?
 何かおいしそうね?
 あ、牛乳飲む?」


その3

2006年04月18日 | 小説「女に生まれて」
もしや、海外に行くのは、奴だけなのか?

「なんなの?分かるように言ってよ。」
「研修なんだよ。本社から、募集案内がきてね。」
「ほんと?1年も研修に出す会社なんてあるの、いまどき?
 だまされてるんじゃないの?」
どうしても、夫一人で行くという設定を認めたくない私。
「いや、毎年だれかは行っているんだよ。
 これまでも応募してたんだけど、
 今抜けられちゃ困るって、
 上司が不承認の書類を付け加えていたらしいんだ、今までは。」
一気に大事なことを言っちゃった?
何ですって?
今までも応募していた?
なんでも話をしてくれていると思っていたのに、、、。

「そうなんだ。 
 ・・・そうするとさあ。
 ねえ?
 今は、その上司にとって必要なくなったってことなんだ?」

ちょっと意地悪かな、と思ったけど、
黙ってたんだから、おアイコよね?

(続く)


その2

2006年04月17日 | 小説「女に生まれて」
「いや、ヨーロッパだよ。1年間なんだ。」
ナヌ?
1年間?
そんなお金どこにあんのよ!

「どうしたの?急に。私はいいけど、、、。」
お金云々は、旦那に直接言わないことにしているの。
男の人って、お金に無頓着なくせに、
使い道をあれこれ聞かれるのって大っ嫌いでしょ? 
私の大事な旦那様は、
一昔前の頑固親父みたいな男気は全くないけど、
女の人に何か指摘されるのは嫌いなんだ。
分かるんだー。
所詮、男よね。

「そう?大丈夫?1人でいられる?」
と、コートを自分で片付けながら、
不思議なことを言い始める旦那様。
「なんで1人なの?」
ハッとする私。
もしや、海外に行くのは、奴だけなのか?

(続く)

これはフィクションであり実際の人物とは何の関係もありませんけどごめんなさい。

2006年04月15日 | 炉端でろば太
今日はよくがんばったね、
でも、あまり無理しないでね。
とワンワンでもニャーでもいいから、
そんな眼差しを持って迎えてくれるものがあれば、
元来それほど性能を重視したつくりにもなっていないから、
本当に次の日も
なんとかがんばれる気がする。

家の中に灯りがついているのを
あと少しで我が家に辿り着けると安堵する
最後のカーブを曲がったあと
現実に目にすることができると、
次の日はまた、
逆方向に走り抜けていかなくてはならない自分の姿も
少しは輝いて思い描くこともできる。

不安や不満や不運や不幸や、と、
不をいくつも重ね合わせたよれよれのパジャマ姿のまま
灯りも消えた部屋の真ん中で
コタツの暖かさ故そのまま寝入り込んでしまった人が、
眠りを妨げるのは誰だという目付きで、
一応我が家だと思って鍵もうまいことガチャリと開いて、
物理的には帰ったと言っていいと思っている人に対峙する時、
最初に謝る方が勝ちだという処世術からではなく、
本当に最初から勝ち負けが決まっているのだという諦めから、
ごめんなさいと口にするのは、
本来なら「ただいま」と言って
その後の嘘でも構わない労いの言葉を待つ側の方なのである。

触らぬ神に、
のことわざを引くまでもなく、
経験的に避けることを学んだ身体操作で、
できるだけ距離をおけるような場所に
身を落ち着けようとするのだが、
大抵そういう場所には
あらかじめ何らかの罠や落とし穴が仕掛けられてあって
仕舞い忘れたスモークサーモンや
脱いだときの体形をそのまま残したようなズボンや
数日前から置かれたままの自分宛ての手紙や、
そういったものが複数用意されていて、
それらについて何かを話さないではいられない
場面設定が既にできあがっている中、
ふいに照明を当てられて身じろぎもせず、
予め与えれている台詞もないままに
大団円へと向かわせるような
立派な立ち回りができるほどに、
私の演技力は
熟していないのである。

(以後、続くような、
 続けられないような、、、。)