サザンカの宿

登場人物:ろば太(夫)、せんた君(妻、趣味「洗濯」)、感謝くん(双子娘A、癇癪持ち)、めん・たい子(双子娘B、食欲旺盛)

上質一家、本物を知る。

2006年01月31日 | 子育て進行形
「生活クラブ」なる謎の秘密結社から
ろば太のクレジットカード払いで
せんた君が大量5箱も取り寄せた今年のミカンは、
粒こそどれも小さいものの
甘味と酸味のバランス良好、味濃厚で、
柑橘類の嫌いなろば太でも
1回に4個は平らげてしまうほどの絶品である。

せっかくの無農薬ミカンだから、
とミカン風呂用に干していた皮も
既に4箱分の量に達し、
我が家を訪ねる客人に、
漢方薬でも作っているのか、
それを売って生業としているのか、
オイラもそれに混ぜてもらえないか、
と疑われかねない状態である。

今夜は、
めん・たい子の咳が2ヶ月振りに治まったこともあって、
その打ち上げと旧正月祝いを兼ねて、
贅沢ミカン風呂大会が催されることとなった。

投入された皮の量は、
約半月分つまり
1箱分のミカンである。

思い返せば2ケ月前、
このミカンを初めて食べた時、
これまで私が数十年間食べ続けてきた
あの所謂ミカン色の果物は、
本当は何という名前だったのだろう、
あの中にすまし顔で入っていた薄皮のブヨブヨとした小袋を、
本当に口にしたりして良かったのだろうか、
噛んで潰れて身体に流れ込んだ液体は、
私だけに満足して、
子供達には手を出さないと約束してくれるだろうか、
と過去の記憶の一部が組み替えられたような衝撃を受けたのだった。

風呂に浮かぶ本物のミカンは、
本物の香りを浴室に満たし、
子供たちの敏感な肌は、
本物をぐんぐんと吸収していく。

さすがに本物であるからこそ、
風呂上りの子供の頭の天辺からも
香りが漂うものなのであろう。
めん・たい子の髪をタオルで乾かしながら、
私はその芳醇な香りに、
眩暈しそうであった。

ろば太
「めん・たい子の頭から、
 甘酸っぱい香りがするよ。
 どう?」

せんた君
「ん? うわっ。
 ゲ、げほ、ぐぉ、ケッ。
 ミカンが腐ったようなニオイよ。
 ・・・
 ろばちゃん、
 めん・たい子の頭、
 いつ洗った?」

ろば太
「思い返せば2ケ月前、
 丁度このミカンを食べ始めた頃かなあ。
 その後、ずーっと、
 たいちゃん風邪ひいてたでしょ?
 だから、
 おかさんと入った時だけ洗えば十分かな、
 と思ってね。」

せんた君
「すごい偶然。
 私も、
 ろばちゃんと入った時だけ洗えば、
 って思ってたから、
 2ケ月間洗わなかったのよ。
 気が合うわね、ふふふ。」

ろば太
「じゃ、じゃあ、このニオイは、
 ミカンじゃないんだ。」

せんた君
「混じりっけなしの無添加よ。
 純度100%の、
 めん・たい子のニオイね。」

ろば太
「やっぱり、
 本物は、すごいんだな。」


本当に勝った人は誰なのか、ということ

2006年01月29日 | 子育て進行形
漢方薬の力で、
胃腸快調のろば太に対して、
食欲不振のせんた君は、
体調にあったアッサリ味のお鍋が食べたいと、
野菜室の残り野菜全てと、
貰い物の塩タラで水炊き鍋を作り、
これなら食べられると
汁も残さずに一人で平らげて、
お腹一杯で気持ちが悪いと言いながら、
寝てしまいましたとさ。

感謝くん、めん・たい子
「じゃあ、おとさん、
 何で食べればいいの?」

ろば太
「野菜も卵も納豆もないから、
 凍み豆腐か、
 干し椎茸だね。
 さ、早いもん勝ちだよ。」

家出を思い立つ時

2006年01月28日 | 子育て進行形
意外にもおいしかった
せんた君の新メニュー発表会兼夕午飯が終わり、
コタツから立ち上がるろば太。

せんた君
「あ、おとさん。
 ついでにミカン3個持ってきて。」

ろば太
「ついでじゃないけど、
 持ってくるよ。
 でも、自分だけ食べるの?」

せんた君
「違うわよ。
 みんな食べるわよ。」

ろば太
「3個って?」

せんた君
「私、感謝くん、めん・たい子。」

ろば太
「『みんな』に、
 ボクも入れてくれよ。」

せんた君
「ふーん。
 じゃ、みんなに聞いてみるわね。
 感謝くん、めん・たい子ちゃん?
 おとさんも仲間に入れていい?」

感謝くん
「いいけど。」

めん・たい子
「どっちでもいい。」

せんた君
「強い反対はないから、
 いいわよ。」

仲間入りを果たしたものの、
心が晴れないろば太。
『みんな』がいる部屋を後にし、
肩を落としたまま
ミカンの置いてあるクローゼットへと向かう。
意気消沈しているせいか、
灯りをつける気力すらない。
玄関の前を横切る時、
天窓からの月明りが、
ぼんやりと足元を照らしていることに
ようやく気づく。
もしやと見上げて天窓に顔を向けてみるが、
月は見えない。
再び目を落とし、
玄関を眺めると
履き散らかした子供の靴とともに、
整然と並べられた自分の黒靴がほのみえる。
一度も家族を裏切ったことのない自分が何故、
こんな目に遭わなくてはならないのだろう。
綺麗に揃えられた黒靴が、
却って自分の愚かさを表しているような気がして、
位置を変えようか、と
靴に片足を入れる。

「今だ!」
という声無き声が聞こえて、
知らぬ間にもう一方の足も靴に納め、
玄関の取っ手を掴んだところで、
3人の笑い声が漏れてきた。
このまま、いなくなれば、
みんなは、幸せになれるんだ。
さようなら、
と心で呟き、
取っ手をゆっくりと下げ、
違う世界への扉を開ける。

ガチャリ

せんた君
「おとさーん。
 ミカン、そっちじゃないわよー。
 いつもどおり、
 玄関のとなりの
 クローゼットにあるわよー。」

最後の奉公と思い直し、
振り返ってクローゼットに引き返す。
暗がりの中、
ミカン箱に手を伸ばし、
4つ、数を数える。
これが、せんた君へのみかん、
これが、感謝くんへのみかん、
これが、めん・たい子へのみかん、
そして、これが、
おとさんの残していくみかんだよ。
 
大事に胸に抱え、
灯りのある部屋へと戻り、
ニッコリと微笑みながら、
それぞれの前にみかんを丁寧に置いていく。
これが、せんた君。
これが、感謝くん。
これが、めん・たい子。
おとさんのは、
このテーブルの真ん中に置いておくから。
そう言い残し、
もう何も見まいと背を向け、
部屋を出て行こうとする。

感謝くん
「あ、私のみかん、
 葉っぱが2つ付いてるー。
 大当たりだー。
 ありがとう、おとさん。」

めん・たい子
「私のも葉っぱが付いてる。
 当たりだ、やったー。
 すごーい、おとさん、だーいすき。」

せんた君
「あ、私のは、
 皮が剥き易い。
 味も濃ーい。
 うれしい、おとさーん、さすがね。
 あれ?
 食べないの?」

消えかかっていたろば太の心に
火をともし、
手をかざし、
笑顔を向ける仲間がいる。

もう少し、頑張ってみようか

そう思い直し、
みんなの前に戻って、
再び、コタツに足を入れる。
テーブルの真ん中に置かれた
太陽のようなみかんを掴み、
手のひらにのせ、
みんなの顔と重なるように
ぐるりとテーブルの宇宙を一回りさせてから、
みんなの顔を見てみると、
どの顔も1等星のように輝く笑顔で、
こちらを注視している。

みんな、ありがとう。
みんなの明るさが
ボクを照らし出していたんだね。
本当にありがとう。
みんなのこのエネルギーを、
ありがたくいただきます。

太陽の中心に向かって、
お祈りを捧げた後、
親指を思い切り突き刺すろば太。

感謝くん
「おとんのみかん、
 腐ってるー。」

めん・たい子
「はずれー。」

せんた君
「大はずれー。」




○○子ちゃん

2006年01月27日 | 子育て進行形
ろば太
「問題でーす。
 おとさんは今日会社で、
 10時と3時に何をしたでしょうか?」

感謝くん
「お薬を飲んだー。」

せんた君
「絶対に居眠りー。」

めん・たい子
「元気になるお薬を飲んだー。」

ろば太
「感謝くん、めん・たい子、
 当ったりー。
 お薬屋さんで言ってたこと、
 よく聞いてたねえ。
 ・・・
 えらい子ちゃん!」

感謝くん
「えへへん。
 そして、
 かわい子ちゃんでしょ?」

めん・たい子
「ゴホ、ゴホ。
 ちゃんと聞いてたから、
 おりこう子ちゃん、もね?
 ゲホ、ゲホッ。」

せんた君
「でも、
 自分の風邪薬飲むのは、
 すぐ忘れちゃう子ちゃん!」

シミ、染み、沁み、滲み、凍みー

2006年01月26日 | 子育て進行形
感謝くん
「おとさん、コレ見て!」

鼻の下を指差す感謝くん。

ろば太
「どうしたの?」

感謝くん
「感謝くんも、
 おとさんとたいちゃんと同じところに、
 ホクロが出来たの。
 やったー。」

ろば太
「どれどれ?
 あーホントだ。
 こすってもとれないね。
 まだ薄いけど、
 こんな風にホクロって生まれてくるんだね?」

めん・たい子
「わーい、みんな同じだー。」

ろば太
「おかさんには、ないよ。」

感謝くん
「えー?
 おかさんにもあるよ。」

せんた君
「違うのよ、感謝くん。
 これはねえ、
 シミっていうのよ、
 嫌ぁねえ、もうまったく。」

感謝くん
「シミってなあに?」

ろば太
「ホクロじゃないんだけど、
 その、
 だんだんと歳をとってくると、
 出てくるんだよ。」

めん・たい子
「わかるよ、たいちゃん。
 あのさあ、
 ・・・
 バナナの黒いのと一緒でしょ?」

感謝くん
「腐ってるの?」

せんた君に顔を近づける感謝くん。

ろば太
「こら、
 感謝くん、やめなさい。
 そんなとこ、
 ニオイ嗅いでどうするんだ。」

全てお見通しなのです。

2006年01月25日 | 子育て進行形
吹雪も静まった黄昏時に、
何故か4人で近所を散歩することになった。

5分ほど歩いたところにある漢方薬局の前で
急に身体の内側が
店に引き込まれるような感覚に襲われた。

これは、何かのお導きに違いない。

騒がないこと、
私の悩みも聞いてと泣き崩れないこと、
と子供たちとせんた君に注意を与え、
店内に入る。

白衣の人
「いらっしゃいませ。
 冷え症ですね?」

ろば太
「え、ええ。」

白衣の人
「唇が乾いていますからね。
 何か気になることがおありですか。」

ろば太
「いえ、今のところは、
 特にありません。
 ま、強いてあげれば、
 結婚以来、
 体重が徐々に減ってきている、
 ってことくらいでしょうか。」

ろば太の持ちネタの一つ、
『結婚が身体に合わない』小噺の、
笑いのツボで、
白衣人は、
むしろ顔をしかめた。

白衣人
「それは問題ですね。
 胃腸の働きが弱っていて、
 元気が出ないからでしょうね。
 風邪にかかりやすくて、
 ひくとなかなか治らないとか、
 そんなことはありませんか?」

ビクリと身をこわばらせ、
ろば太の手を握るせんた君。

ろば太
「ゲ、ゲホッ。
 す、すごい。
 その通りですよ。
 ゴホ。」

白衣様
「声に力がない、とか。」

ろば太
「そ、それは、
 私の持ち味だと思っていたんですが、、、。
 確かに、
 病気ではないと思うんですが、
 何となく、
 力が湧いてこないんですよ。
 特に仕事となると、めっきり。」

白衣様
「あなたのような方には、
 『補中益気湯』が一番効くと思いますよ。
 文字通り
 『中(消化器)を補い、気(元気)を益す』
 という漢方薬です。
 1週間ほど飲んでみて、
 それからまた薬を混合して
 微調整してみませんか。
 少しずつ体力が付いて、
 体重も増えていくと思いますよ。」

ろば太
「はい、お願いします、先生。」

ろば太の隣のイスに座り、
うなずきながら話に聞き入るせんた君。

白衣先生
「それと、
 ・・・
 これは、漢方ではありませんけど、
 関節に注意した方がいい、
 という予感がしました。
 何か心あたりは?」

ろば太
「は、はい。
 合気道をしてますので、
 関節技もありますから、
 今後注意します。」

薬棚の並んである部屋へ向かう白衣大明神。
漢字だらけの引き出しから
迷うことなく
10種類ほどの薬を選び取り、
ゆったりとした足取りでこちらに戻ってくる。

両ひざに双子姫をかかえ、
放心して眺めているろば太。
引き込まれたように身を寄せ、
ろば太の肩に手を掛けたあと、
身を乗り出すせんた君。

ろば太
「すごいですね、先生。
 何でも分かるんですね。」

白衣天王
「まあ、大抵のことは。」

せんた君
「す、すみません。
 私は、腰痛で悩んでいるんですが。」

白衣権現様
「え?
 あれ?
 あなたは?」

ろば太の肩から手を離し、
名乗りを上げるせんた君
「妻です。」

白衣仙人
「すみません。
 全然、気が付きませんでした。」

職場紹介

2006年01月24日 | 子育て進行形
ろば太の上司紹介
(本当の会話ではありませんが、
 こういうことを言いそうな人です。)

-架空の会話-
『上司に休暇願いを出す』の巻

上司
「どこか具合が悪いのか?」

ろば太
「ええ、ちょっと。
 その、恥ずかしくて言えないんですけど。」

上司
「何だ、それは?」

ろば太
「いえ、ちょっと。
 ご想像にお任せします。」

上司
「何だ?
 アソコか?
 痔か?
 脱腸か?」

ろば太
「変なコト言わないでください。」

上司
「わかった。
 でも、想像は止めないからな。」

ろば太
「夢中になってどうすんですか!」

上司
「じゃあ、正直に言ってみろ。」

ろば太
「自転車のギアが、
 凍っちゃったんですよ。
 氷点下が続いたんで。
 3段ギアの重いところで止まっちゃって、
 今朝は10キロ、
 ずーっと立ち漕ぎで来たんですから。」

上司
「なんだ、病気じゃないのか?
 つまらんな。
 ・・・
 よし、俺に任せろ。
 カツラが壊れたってことにしておいてやる。」

スキンシップ

2006年01月23日 | 子育て進行形
ろば太と同じように、
唇の上にホクロがあるのが、めん・たい子。
せんた君と同じように、
目の下にホクロがあるのが、感謝くん。

万が一、
双子を取り違えることがあっても、
ホクロの位置でそれを正すことができる。

夜中、布団に潜り込んでくるような時は、、、。
明かりがないので、
ホクロの位置では確かめられない。
名前を呼んでも
寝ぼけて正確に答えるかは怪しい。
そんな時はどうするか。

脇の下に手を入れてみよう。
特に何も感じられなければ、
それは感謝くんだ。
ほてって湿った暖かさが感じられれば、
それはめん・たい子だ。

昨日もどちらかが布団に潜り込んできた。
外は吹雪いていて、
月明かりホクロ捜索隊には頼れない。
そんな時は、これだ。
♪ジャジャーン♪
脇の下に手を入れてみよう!

ん?
いつもとは違う感触だ。
ゴソゴソという音が聞こえる。
何やら紙が丸めてあって、
シャツの脇の部分にテープで止めてあるらしい。
何事だろう?

寝ている子供を起こさないように、
丸めてある紙をシャツから慎重に剥がし、
布団の中で広げて、
懐中電灯で照らしてみる。

『おとさんへ

 わきのしたを
 さわらないでください。
 
  めん・たいこより』

その下に大人の字で、
こう書いてあった。

『本当に嫌がっています。

  保護者より』


自習時間に邪魔をする人

2006年01月22日 | 子育て進行形
夕食までの空いた時間に、
針道具を探すろば太

せんた君
「ついにパジャマのボタン
 全部とれたのね?」

ろば太
「パジャマは、
 腹巻きで押さえてるからいいんだけど。
 合気道の道着が、
 ほら、
 膝のところ破けちゃったんだよ。」

せんた君
「洗濯し過ぎたのかしら。」

ろば太
「違うよ。
 激しい稽古のし過ぎだよ。」

せんた君
「私やっておくわよ?」

ろば太
「え、ホント?」

裁縫箱から
緑とピンクの布のようなものを探し出すせんた君

せんた君
「大きさはピッタリね。
 子供のアップリケ残ってたから、
 あとでアイロンで貼っておくわよ。
 カエルがいい?
 ウサギちゃんがいい?」

ろば太
「いいよ、自分で繕うよ。
 ウサギのアップリケなんて
 ひざに付けてたら、
 館長にしごかれちゃうよ。」

せんた君
「ウサギ跳びしまーす、
 とか言えば?」

ろば太、針に糸を通しながら
「今年中には、
 何とか黒帯取れると思うんだけど。
 それまでは、
 継ぎ当てで凌ぐしかないな。」

せんた君
「黒帯になったら、
 稽古やめちゃうの?」

ろば太
「まさか。」

せんた君
「じゃあ何で、
 道着破けなくなるの?」

ろば太
「黒帯になると、
 黒い袴を穿くようになるんだよ。
 袴の生地は丈夫だから、
 道着の白ズボンは破れないんだよ。」

せんた君
「へえ、そうなんだ。
 じゃあ、それまでは、
 道着の下に黒いの穿いてたら?」

ろば太
「何、それ?」

せんた君
「いつも穿いてるじゃない。」

ろば太
「ああ、タイツね?
 ・・・
 針仕事してるんだから、
 あっちに行っててよ。」

せんた君
「子供達もトランプに混ぜてくれないのよね。
 ・・・
 仕方がない、
 夕食の支度でもするか。」

双子姫の評価は、適正だけど、、、。

2006年01月21日 | 子育て進行形
出掛けにせんた君がこっそりとメモを渡す。

上の段に住宅地図が描いてあり、
○○屋鮮魚店の場所に
赤い星印が付いている。

下の段に目を移すと、
「この店の
 中トロ旨いと
 聞いたから
 3夜連続
 マグロの握り
  - 読み人知らず」
と書いてある。

せんた君
「お願いね。」

ろば太
「わざわざ短歌にしたの?」

せんた君
「ふふふ」

笑う意味が分らぬまま、
自転車にまたがって会社に行くろば太。

『主よ、お教えください。
 私は、マグロ買い出しのために、
 生まれてきたのでしょうか、、、。』

逡巡しないわけではなかったが、
前々日のマグロが、グラム200円。
昨日は、500円。
今日は、中トロゆえに1000円。
と、
確実に社会階層を登っていく自分達の姿を実感できるのは、
悪い気分ではない。

鮮魚店のご主人
「お買い得な赤身もありますけど、
 中トロでいいんですか?」

ろば太
「ワイフにそう頼まれたもんで、
 すまないね。
 近いうちに、
 大トロもお願いするかもしれんがね。」

鮮魚店のご主人
「今日、大トロもありますけど?
 黒マグロの大トロで、
 グラム3000円です。」

ろば太
「え?
 ああ、黒か。
 ワイフには、本マグロって言われてるんでね。
 また、今度にするよ。」

鮮魚店のご主人
「なるほどね。
 はいよ。
 中トロ200グラムで2000円ね。
 あ、そうだ、お客さん、
 黒マグロってのが、本マグロだから、、、。
 ま、分かってるだろうけど。
 はい、毎度ありー、またどうぞ。」

な、なんだよ。
中トロが好きなんだ、
中トロじゃなきゃだめなんだよ。
ごめんな、チュウ子。
お前に恥をかかせたこんな店には、
もう二度と来ないから。

大事なチュウ子が、
自転車で崩れないように
セーターと襟巻きで大事にくるみ、
いつもより押さえ気味のスピードで家に帰るろば太。

感謝くん、めん・たい子
「遅いよ、おとさん。
 お腹ペコペコだよ。
 早く、お寿司作って。」

お帰りなさい、の挨拶を忘れ、
こんなことを言うのは、
それだけチュウ子への期待が高いせいだろう。
小言を言って楽しい夕食の雰囲気を悪くすることは、
止めておこう。
チュウ子は、
争いが嫌いなのだ。

馴れた手付きで刺身包丁を操り、
さよならを言いながら、
30貫分に切り分けるろば太。
手早くシャリをまとめ、
食べて崩れやすいように成形しながら、
繊細なカラダに体温が移らないよう
手早くチュウ子をつまみあげ、
天地返しで握っていくろば太。

ろば太
「さ、出来た。
 ご飯がほんのり温かくて、
 チュウ子、いや、ネタが冷たいのが、
 お寿司の美味さの秘密なんだ。
 さ、食べよう。」

醤油をたらしてから、
わずか3分で、
チュウ子を食べ尽くす女性陣。

ろば太
「一昨日、昨日と比べて、
 今日のマグロは、どう?」

せんた君
「すごくおいしいよ。」

ろば太
「そ、それだけ?
 中トロのチュウ子に対して、
 たった、それだけの感想しかないの?」

感謝くん
「昨日のよりも、2倍おいしいよ。」

ろば太
「・・・
 値段も2倍だからね。」

めん・たい子
「おとといのより、5倍おいしいよ。」

ろば太
「値段も5倍だからね。
 ・・・
 (心の中で)
 チュウ子、、、。
 また、会いたいよ。
 ・・・
 今度は、
 二人きりで会おう。
 子供たちにも、
 妻にも、内緒で。
 どこまでも堕ちていこう。
 もう、どうなっても構わないよ。」



稽古用とはいえ、茶碗は高価なものにございます。

2006年01月19日 | 子育て進行形
長かった下積み修業を経て、
ようやく表千家入門が許されたろば太一家。
今月は、家族4人揃ってのお稽古である。

笑点の桂歌丸師匠仕様の黄緑色の着物をまとい
ろば太家茶道部主将のろば太が
先ずは濃茶のお点前を部員に披露する。

1度目の練りで汲んだお湯が多すぎたものの、
淀みのない動きは天性の茶人であることを窺わせ、
部員達から、
「よっ、さすが、歌さん!」
との感嘆の声が漏れる。

次いで、茶道部婦人部長のせんた君が
薄茶のお点前で部員のご機嫌を伺う。

茶筅濯ぎに入ったところで、
お正客、お次客役の双子姫が、
お菓子をいただく。

この日の主菓子は、
「花びら餅」である。

ろば太の介添えにより、
懐紙に載せられはしたが、
茶道入門したての幼い子供に、
黒文字で簡単に切り分けられる代物ではない。

仕方なく懐紙に餅を載せて、
一旦、畳の縁内に下ろし、
土下座のような格好で
口をつけて食べようとするが
これも上手くいかない。

苛立った感謝くんが、
餅を手掴みで取ろうとするが、
懐紙までくっついてしまって
ピンク色の餡子だけが
ボトリ
と畳に落ちる。

落ちた餡子を
隣のめん・たい子が
拾って食べる。

お返しに、
と感謝くんが、
めん・たい子の餅を取り返そうとする。
が、これも懐紙がくっついて離れない。

仕方なく餡子だけを指でつまみ上げ、
そのまま口に持っていく。

互いの餡子を食べ合う双子姫を目で制し、
さりげなく懐紙を回収するろば太。

双子姫の指先は、
ねっとりと餅がついていて、
いつもより太く長く白い。

先生
「では、感謝くん、
 お茶を運んでください。」

作法に従い、
炉に摺り足で歩を進め、
茶碗を持ち帰る感謝くん。

「お先に頂戴いたします。」
などと一通りの所作をこなし、
飲み終わった後、
茶碗拝見をしながら、
「綺麗だよ。」
と小声で呟きながら、
感謝くんが、
こちらにニコリと笑みを見せる。

次いで、
替茶碗に点てた薄茶を飲み干し、
茶碗拝見で茶碗を手に取って、
ゆっくりと一回ししているめん・たい子が、
同じように
「綺麗になったよ。」
と言いながら、
こちらも笑みを送って寄越す。

そして、
餅が綺麗に取れた五指を
「確かめろ」というように広げて見せている。

先生は、何も喋らない。

せんた君は、足の痺れを取るのに夢中で、
こちらを見ていない。

炉に掛けてあった釜の湯の
沸き立つ音が茶室を満たしている。

餅をこすり付けられて様変わりした茶碗が、
身に起こった不運に
じっと耐えている。

平成十八年の初稽古である。


一線を越えたことに気付かない女性たち

2006年01月18日 | 子育て進行形
感謝くん
「今日は、お寿司食べたーい。」

せんた君
「おでん君作った時のカンピョウ残ってるよ。
 納豆もあるし。」

めん・たい子
「ヒモとか糸が出るお寿司はイヤだー。」

とぼとぼとお出かけし、
コープマートの生まぐろを
柵で買ってくるろば太。

ろば太
「仕方ない。
 おとさんがお寿司握ろう。」

せんた君
「わーい。
 せっかくだから、
 お寿司屋さんで使う
 特別な言葉も覚えましょうね。」

感謝くん
「えーと、お醤油くださーい。」

せんた君
「お醤油のことを、
 ムラサキっていいまーす。」

めん・たい子
「たいちゃん、
 このショウガいらなーい。」

せんた君
「ショウガは、ガリ、
 っていいまーす。」

ろば太
「へい、お待ち。
 マグロ寿司3人前!」

息もつかずに、
モクモクと食べる女性客。

感謝くん
「ふう、お腹一杯だー。
 お茶のみたーい。」

めん・たい子
「私も、お茶くださーい。」

せんた君
「お茶は、アガリっていうのよ。
 いい?
 こういう風にいうのよ、
 ・・・
 おい、オヤジ!
 アガリくれ!」

感謝くん、めん・たい子
「おいオヤジ、
 アガリくれ!」

ろば太
「せんた君!
 それは違うだろ!
 子供がマネするじゃないか。」

せんた君
「あ、そうね。
 ごめんなさい。
 ・・・
 おい、オヤジ、
 アガリ一丁!」


隠れた努力

2006年01月16日 | 子育て進行形
ろば太家の薪ストーブは2段になっていて、
下の段がオーブンとなっている。

ろば太
「えーと、おかさんがメロンパンで、
 感謝くんが、ブドウパン、
 めん・たい子が、アンパンだったよね。
 で、おとさんは、
 クロワッサンだから、
 後から焼くことにして。
 よーし、そろそろいいかな。
 ほーら焼けた。」

せんた君
「今年の薪は乾燥してるから
 よく燃えるわねえ。」

ろば太
「そうだね。
 去年よりも上手に焼けるね。」

せんた君
「何か贅沢よね。
 こんな風に、
 焼きたてのおいしいパンを
 気軽に食べられるなんて。」

ろば太
「気軽?
 この汗、見てよ。
 ・・・
 かなり必死だよ。」


それぞれの悩み

2006年01月13日 | 子育て進行形
溜息をつくせんた君
「今年もこれで終わりね。」

ろば太
「残り350日もあるじゃないか。」

せんた君
「ん?
 いいわね、ろばちゃんは、
 悩みがなくて。」

ろば太
「どうしたの?」

せんた君
「年末年始に借りたテレビ、
 とうとう返しちゃったでしょ?」

ろば太
「なんだ、そんなことか。」

せんた君
「妻の苦悩を、
 鼻で笑い飛ばす夫。」

ろば太
「確かに『電車男』には、
 のめり込んじゃったけど、、、。
 くだらない番組の方が多くて、
 時間の無駄になるよね?」

せんた君
「せっかく子供達も、
 萌えーとか、
 メイドカフェとか、
 大人のキスとか、
 最近の言葉覚えたのに。」

ろば太
「覚えない方がいいだろ。」

せんた君
「あーあ、
 時代のトップを走っていたのに、、、。」

めん・たい子
「たいちゃん、
 また、モコもこみち観たい。」
(テレビのない方への注意書き
 :『電車男』エルメスたんの格好いい弟役です。)

感謝くん
「もこみちに、
 萌え会いたーい!」

ろば太
「そんなに会いたいか?」

感謝くん
「うん。
 ・・・
 でもねえ、
 もこみちって、
 今、どこにいるか分かんないんだ。」


自作自嚥

2006年01月12日 | 子育て進行形
めん・たい子
「おとさん、お腹すいたよー。」

ろば太
「ピザ作ろうか?」

めん・たい子
「じゃあ、お手伝いするー。」

こね上げたピザ生地を4等分し、
各人にピザ台作りをさせる名誉シェフろば太。

生地を円形に薄く伸ばした後、
回転を掛けて頭上に放り投げ、
さらに薄く薄く伸ばしていくろば太の妙技に
大口を開けたまま魅入る若い女性達。

感謝くん
「あ、それ、
 感謝くんも、やりたい。」

ろば太
「無理だよ。
 床に落っことすからやめなさ、、。
 ほらあ。
 おいおい、めん・たい子もか、、、。
 うわっ、折り紙のくず付いちゃったよ、、、。
 自分で作った奴は、
 自分で食べてよ。
 あ、せんた君、
 今、天井こすったでしょ?
 ほらあ、蜘蛛の巣ちょっと揺れてるもん。
 それも自分で食べてね。」

せんた君
「すごいわね、
 毎日ピザ食べてたら、
 大掃除やらなくて済むかもね。」

素人の雑談を軽く聞き流し、
自らの目指すピザ道を極めるため、
黙々と生地を伸ばすろば太。
一押し、一押しに、
いろいろな思いを込めて、、、。

感謝くん
「おとさんのピザ、
 なんか黒いよ。」

めん・たい子
「おかさんの、
 足裏ペッタンシールみたいだね。」

せんた君
「ほんとだ、
 毒出しピザね。
 体内の汚れまで綺麗にするなんて、
 すごい食べ物ね。
 特定保健用食品なんて
 うそラベル付けたら、
 売れるかも、、、。」

ろば太
「そ、そうかな?
 せんた君は、
 誉めるの上手いなあ。
 ははははは。
 よーし、できた。」

せんた君
「うちの子供には、
 絶対、
 食べさせないでね。」