【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ7-904 「こんなに近くで...佐々木ver.」

2007-05-15 | 中学卒業ss

904 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/05/15(火) 02:28:51 ID:qltrUJQm
>>893
 待ってました。すばらしい!! 最高です。GJ



 そんななか、歌ネタです。
 Crystal Kayの「こんなに近くで...」佐々木Ver.

 知ってる人も多いだろうけど、長門ver.のMADみちゃって、もうどうにも堪らなくて。
 佐々木版のSSかいちった。
 3レス予定。


905 :こんなに近くで...佐々木ver. 1/3:2007/05/15(火) 02:31:28 ID:qltrUJQm

 そのノイズが僕を襲うようになったのは何時のことだったろう。よく、覚えていない。
たぶん、それは彼に会ってから、彼と友達になってから、最初は小さくて、僕の耳に届いてい
なかった。だけど、それは、春を越えて、夏を過ぎ、秋を迎え、そして冬に至る頃にはよく聞こ
えていた。

 中学校の卒業を前にした最近の私は眠りが浅くなったような気がする。ひどく夢見が悪い
のだ。
 夢の中で私はいつもひとり、真白な部屋でひとり、彼が来るのを待っている。彼が来てくれ
ないかって泣いている。逢いたいって、声をききたいって、アイシテルって告げたいって。起き
たとたんにそんな夢は忘れる、忘れなきゃ……いけない。だけど、そんな時はなぜだか、私は
泣いているのだ。即座に自己嫌悪が襲ってくる。彼はずっと僕に友情をくれたではないか、私は
その締めくくりに彼を裏切るつもりなのか? 嫌だそんなのは嫌だ。別れ際くらいクールに行こう。
 うそつきな僕は、私のささやきを無視する。


 ノイズは毎日、僕を襲う。彼に挨拶をしている時、彼とちょっとした雑談をしている時、
彼と真面目に勉強をしている時、不意にそれは襲ってくる。
 こんなに近くで見つめているのに、どうして、ただの友達なの。
 くだらない繰り言だ。僕はこんなノイズに耳を貸したりはしない。彼は僕に好意を、持って
くれてる、でも、それは友人としてのものだ。僕にはそれが必要だった。僕にはそれで十分
だった。愛してるなんて言って何になる。それは僕が彼の笑顔を失うだけのことじゃないか。
 だけど、どうして、こんなに、毎日、毎日、胸が苦しくなるのだろう。こんなことなら、彼と
トモダチにならなければ……よかった?
 いや、そんなはずはない。そんな訳はない。もう一度、あの春の日に戻っても、僕は彼の
友達になりたい。


 卒業式もほど近いある日、久しぶりに彼の自転車の後ろに乗った。つい先月まで毎週二回
欠かさずに乗っていた場所だった。でも、ちょっとした間に、そこは知らない場所のように固く
私を迎えた。
 あと何回、この自転車に乗れるのかな?
「別に、こんなの乗りたきゃ、いつだって乗せてやるよ」
 彼はぶっきらぼうに、そう言って、いつもと同じように微笑んだ。いや、私には彼の背中しか
見えていないから、本当は違うのかもしれない。でも、彼とはもう一年も付き合っているのだ。
こんな時、彼は何時だって、困ったように微笑んだ。私の大好きな彼の表情を、私は何度も
見ていた。
 彼に確認を取った訳じゃない。でも、もうお互いわかっていた。もうすぐ卒業、こんな日は、
彼とふたりで彼の自転車に乗ることなんて、もう二度とないって。
 彼の声には応えず、あいまいに微笑んだ。たぶん、伝わっている。彼の背中からそう感じた。
こんなに微妙なものは伝わるのに、彼に伝えたいほんとの気持ちは伝わらない。
 ノイズが、耳触りな雑音が、聞こえてくる。
 もう止めて、こんなのもういや、どうして言わないの、私たちもうお別れなのよ。情けない
自分が心のどこかで悲鳴を上げた。
 大好きなのに、彼のことアイシテルのに。
 ほんとは、ほんとは、ずっと好きだった。
 いつでも、いつでも、愛し続けてた。
 こんな気持ちは意味のないノイズだ。卒業したからといって彼との友人関係がなくなる訳で
はないはずだ。それともこんなノイズに身を任せて彼との掛け替えのない絆、友情すらも失う
つもりなのか、僕は。
 二度と、彼の笑顔がまっすぐ見れないかもしれない。彼のそんな顔は見たくない。私のそん
な顔は見せたくない。でも、なぜ無視しきれないのだろう。


906 :こんなに近くで...佐々木ver. 2/3:2007/05/15(火) 02:33:26 ID:qltrUJQm
 卒業式。

 無事に式を終えた私たちは、何となく立ち去りがたく、体育館の前で、写真を撮ったり取ら
れたり、していた。部活動を行なっていた生徒は後輩と何かを喋っている。特に誰に声を掛
けられるわけでもないのに、桜の下、彼を待っていた。
「どうした、調子、悪いのか? それとも泣けちゃったとか?」
 巫山戯たように声を掛けてくる彼、欠伸をする振りを加えて、答える。
 単に寝不足なだけだよ、最近買った本が面白くてね、昨日遅くまで読み込んでしまった。
ほとんど、徹夜みたいなものだね、まったく今日がハレの日だってことぐらい知っていたのに
ね。この年になっても、押さえがたい気持ちというのはあるものだ。
 一番大事な人にも嘘ばかり、一番大事な事も告げずに、嘘ばかり。
 ヤメロ、ナニを言うつもりだ。ヤメロ。
 ほんとは、ほんとは、ずっと好きだった。いつでも、いつでも、愛し続けてた。
「……ありがとう……僕と友達になってくれて。……この一年、キミといられて、楽しかった、
充実していた。この中学での三年間を、キミと出会ってからの一年間を僕は忘れない、決して」
 こんなに、こんなに近くにいるのに、こんなに、こんなに強く思っているのに。どうして、
あなたには伝わらないのだろう。伝えられないのだろう。
 最後に彼に掛ける言葉が、自分の本当の気持ちで最高の嘘だなんて。
「ああ、俺もだ。ありがとう」
 向こうから級友が彼を呼んだ。なんども、なんども、彼を呼んだ。
 それじゃあね、手を振って別れた。
 卒業証書の入った筒を振って彼は背中を向けた。彼の背中が遠くなる。
 行かないで、行ってしまわないで。
 ほんとは、ほんとは、ずっと好きだったの。
 ずっと、ずっと、見ていたの、毎日、毎日、見ていたかったの、大好きなの、大好きだったの。
 いつでも、いつでも、愛していたの。
 いつでも、どこでも、なんどでも、告げたかったの。
 笑うことができない。
 頬がこわばる。
 喉から音が、漏れる。
 瞳が熱い。
 ……ダメだ。泣くな、彼が気づく。
 “僕”はそうじゃない。そうじゃないだろう。
 笑うんだ、唇を振るわせるな、平静を装うんだ。
 いつもしていることじゃないか、最高の笑顔を彼に刻むんだ、
私のことを彼が忘れてしまわないように。

 微笑んで、彼を見送った…………。

 アイシテル、空にささやく。
 I'm so in love with you.

 空を行く雲と散る桜だけがそれを聞いていた。


907 :こんなに近くで...佐々木ver. 3/3:2007/05/15(火) 02:34:17 ID:qltrUJQm
Epilog
一年後。

 自転車置き場にその背中を見つけた時、時間が止まったような気がした。
 あの春の日に戻れたような気がした。
 何度も、何度も夢見た背中。
 失ってしまった気持ちが耳に心地よいノイズを送り出す。もう、迷わない、もう、間違わない、
もう、見失わない。
 ほんとは、ほんとは、ずっと好きだった。いつでも、いつでも、愛し続けてた。
 彼のよく知っている僕の笑顔を浮かべる。
「やぁ、キョン」