【涼宮ハルヒの憂鬱】佐々木ss保管庫

2chの佐々木スレに投稿されたssの保管庫です

佐々木スレ10-521 「ぬいぐるみ」

2007-07-20 | その他

521 :1:2007/06/03(日) 01:50:09 ID:npWXhY/K
「ん?これはなんですか?」
橘京子が不思議そうに机の上のぬいぐるみを手に取った。
「クレーンゲームの景品だよ。」
佐々木は素っ気無く答えた。
「いや、でも・・・」
ぬいぐるみを両手に取って、橘は納得いかない表情で、ぬいぐるみの目を見ている。
「うーん・・・」
「どうしたんだい?何の変哲も無いごく普通の、それこそ有名なキャラクターでもない犬のぬいぐるみだよ?」
部屋の隅に置いてるベッドに腰掛けた佐々木はクッションを抱きながら、目の前のリミテッド超能力者の行動を見ていた。
「いや、私でもそれくらいわかるのですけれども・・・」
橘の表情の色合いは疑問から疑惑に変わっていた。
高校生の女の子の部屋にぬいぐるみがあること自体はそう珍しくは無い。
しかし、この佐々木の部屋はそういった乙女チックさとは、まったく無縁のシンプルで機能的な部屋だ。
そんな中だからこそ、ただひとつ、机の上に大切に置かれているこのぬいぐるみが目立つのである。
橘は佐々木の方を振り返って、一呼吸して尋ねた。
「佐々木さん、これは誰からもらったんですか?」
答えはもうあらかたわかっている。
その誰かの心当たりは一人しかいない―
佐々木は橘の視線から目をそらしながら、サイドボードに置いてあるカップを持ち上げ、紅茶を一口飲んだ。
その対応に橘の目線はもはや疑惑から確信に変わっている。
わざとらしく目線をそらしていた佐々木は、根負けしたように橘の方に目線を向け、
「たぶん、想像通り、ね。」
と、あきらめ気味にため息をつくように答えた。


522 :2:2007/06/03(日) 01:51:23 ID:npWXhY/K
「やっぱり彼からのプレゼントですかー。」
納得した表情を浮かべて、橘は両手に持ったぬいぐるみをまじまじと観察し始めた。
「そんなんじゃないよ。」
カチャ、と静かな音を立てて紅茶のカップをサイドボードに置きなおした。
「え、でも・・・」
「彼と塾へ行っていたとき、少し授業まで時間が空いてしまって、ゲームセンターで時間をつぶしたことがあったんだ。そのぬいぐるみはそのときに彼が取ったものだよ。」
佐々木の大きな黒目がちの瞳は、橘の手にあるぬいぐるみを見ていた。
「でも、彼から佐々木さんへ渡されたものならプレゼントじゃないんですか?」
少し口を尖らせた橘が佐々木に反論する。
佐々木は喉の奥で小さな笑い声を上げた。
「別にそれは彼にねだったわけでもなんでもないし。ただ、取りやすそうな位置にあるのを見た彼がそれを取って、『ほら、やるよ。』って渡してきただけだよ。」
「いや、それ十分プレゼントじゃないですか。」
「そうかい?」
「だって大切に飾ってあるし・・・」
「ちょうどそこが置き場所にちょうどよかっただけだよ。それに、ぬいぐるみでも置かないと勉強机なんかは特に殺風景になってしまうしね。」
ふーん、と短く相槌を打った橘は何かを思いついたように佐々木の方を向き直り、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「で、その日は他に何をしたんですか?」
「他に何を、って特に何も・・・」
橘は佐々木の顔に浮かんだ一瞬の戸惑いを見逃さない。
「だってゲームセンターって他にも色々あるし、時間をつぶしたならそれだけじゃないはずだし、なによりも」
橘はふっふっっと笑うと
「『それは』彼にねだったわけではないんでしょ?」
佐々木の顔には誰が見てもはっきりわかるくらい、しまったと書いてあった。
「あまり、人の揚げ足を取るのはいい趣味とはいえないよ、橘さん。」
そう言って、唇を尖らせて佐々木はプイッっと横を向いた。
「ふふっ、わかりました。」
そう言って橘は愉快そうに笑うと、
「でも、いつかちゃんとのろけ話してくださいね~。」
と、ぬいぐるみで腹話術をするように、そのぬいぐるみの手を振った。
そして、佐々木は
―今度からは彼女の前で財布を開くときは気を付けよう・・・
と小さく決意していた。
さすがに彼と二人で写っているプリクラなんて見られたら、言い逃れのしようがない。
ましてや、自分でも信じられないくらいの笑顔で彼の隣で写っているとなれば、なおさらね―

『ぬいぐるみ』