頂いた、ちらし寿司はいつか出合っていた母の味だった。
母の料理の味付けは食欲をかきたてた。
3月は、私の誕生月。ひな祭りの祝いとともに、母はちらし寿司で祝ってくれた。
すし飯の上に、たっぷりとのせられた具、その上には千切り紅ショウガ、
鱈の手作りそぼろ、拍子木切りの卵焼き、もみ海苔が飾られた。
これが母のちらし寿司のご馳走だ。
いつまでも、このちらし寿司を食べられるものと思っていた。
あるとき、甘すぎたおはぎが卓に出た。
「お砂糖の量を間違ったの」と私。「そおー甘すぎたぁ」。
味覚が衰えつつある母に、気づかなかったのだ。
気丈な母は自らの弱みは決して見せなかった。
その後、美味しいおはぎを見つけたと言って、春と秋の
彼岸には店のおしきせが出された。
おばあちゃんの、おはぎが好きだった娘は、私に
跡継ぎを願ったが、母はそのおはぎを伝授しなかった。
こうして少しづつ母の味が、過去のものになった。
折も折、学んでいる、I・Tサロンでご馳走になったちらし寿司が、母の味を思い起こさせた。
いつもなら外食へ出るが、その日は勧められるままに頂いた。
胸がつまる思いで、ちらし寿司を噛みしめた。
母が引き寄せたのだ。
(起草 3月)