BFさんの質問に答えて
質問
いつも拝見いたしております。以前も訓練に関しまして、質問をさせていただいたBFと申します。 訓練生です。 今回ご紹介いただいたこのエベレスト登山 の事例は、まさに準備の大切さを強く物語っていますね。 私も日々の訓練において地上での準備の重要性を痛感しているところですが、坂井CAPは現在、も しくは過去の訓練生時代を振り返られて、どのようにフライトへの準備をされていらっしゃるのでしょうか。ご著書もほぼすべて拝読致しましたが、FLTへの 準備という観点で改めてアドバイスをいただければ幸いです。
回答
一言で言うと頭の中でフライトのシミュレーションをディスパッチから飛行機を停止させるまで全部行うということでしょうか。といっても実時間でやるわけではなく、大事な点だけを見ていきます。当日ショウアップした時点でフライトの6割から7割は終わっていて、実際に飛行機に乗り組んだ時点で9割は終わっていると思っています。訓練といってもいろいろな課程があると思うので実機で自分がフライトするときという前提で書いてみます。
まず最初は天気の解析です。この季節ですとどこにどれぐらいの積乱雲ができるか、どう回避するか、上空待機があり得るとしたらどれぐらいの長さになるかを考えます。当然燃料をどれぐらい積むかも考えます。使用滑走路を考え、タクシー経路、SIDをたどります。SIDの高度制限は確認しておく必要があります。また良く来るATC、良く来るショートカットについても考えておきます。高度はどの高さを飛んだ方が良いのか、揺れたら上がるのか下がるのか。空港の混み具合によってロングベクターが予想される場合は、燃料を持って行く必要があります。逆にショートカットが予想される場合は早めに降下を開始しなければなりません。アプローチ方式特にノイズの方式でギアをどこで出すか、ファイナルフラップをどこで降ろすかは重要です。着陸した後の誘導路も考えておく必要があります。もし風が変わりそうな場合、滑走路によって進入方式が違います。例えば福岡の場合、ILS16、VISUAL34、ILS34の3つのパターンがあります。またILS34には空港の東を飛ばすパターンと西を飛ばすパターンがありえます。各々についてどこでフラップをいくつにして速度を何ノットにするかを考えます。
こうやって作戦の大まかな方式を考えた後、低速のリジェクト、高速のリジェクト、離陸直後のエンジンフェイル、ミストアプローチと通常と違う部分については頭の中でコックピットを想像してシミュレーションを行います。
実際のフライトでは、想定と現実の差を埋め、周りの飛行機の状況や管制官の意図を考えて最初の考えを調整します。
頭の中でのシミュレーションを行うためにも、過去の様々な事例や、どんなベクターが来たのか、自分がどう避けた結果はどうだったのかなどの経験が重要になってきます。そのために人から聞いた話し、自分の経験をノートに書きためておくことが重要になります。頭の中の引き出しにたくさんデーターが入っていればいるほど、予測の精度が上がってきます。
また毎日全てではありませんが、今日はこれ明日はこれと順番にデコンプレッション、緊急降下、エンジン火災などをチェックリストを使いながら練習しておくことも大事です。
以後が直接のフライトの準備です。その他にフライト前日は生ものは食べない、ニンニクの入ったものは食べない、夜更かしはしない。夜遅く本を読まないなど体調管理にも気を遣います。