「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その18・二人だけの秘密

2022-11-19 23:13:00 | 傾国のラヴァーズその11~20
 自分でもお節介なことを言っていると俺は思うのに、彼は無言ではあったが不愉快そうな様子も見せず…でも困っている様子ではあった。

 車が動き出すと、助手席の彼はうつむいて、
「…ゆうべ、海原くんが帰った後のこと…海原くんだけの秘密にしてもらうことはできない?」
「えっ?」
信号待ちの時で良かった。
 俺は確かにモヤモヤしていたけれど、仕事上、内容による。
 まあ俺ひとりにでも打ち明けようとしているだけでもましなのかもしれない。

 そして俺は、個人的にも知りたいと思っている。
 何かに失望しながら…そしてそれに驚きながら…

「わかりました。教えて下さい」

「ゆうべは…あの後、本当は先輩に呼び出されて飲みに行ったんだ。ちょっと遅くまで引き留められた」
「それで…先輩というのはどういう関係の方ですか?」
「農業関係の偉い人としか言えない」
「そうですか」
とは言っても、秘密というからには何かあるのだろう。
「高橋さんはその人のことやお付き合いのことは知ってるんですか?」
「いや、一切話してない」
 そこで俺は嫌なことに考えが至った。
 
 まさか…
 俺は言葉を選んで訊いた。
「あの、パワハラで暴力を受けてるとか、ですか?」

 本当は、彼が逆らえない立場なのをいいことに、セクハラとか…それ以上のことをされているのでは…俺は真っ青になった。


小説「傾国のラヴァーズ」その17・どうして俺は

2022-11-18 23:32:00 | 傾国のラヴァーズその11~20
 それでも彼は、
「ゆうべちょっと寝るのが遅くなっただけなんだけどな。あの後、調べものに夢中になっちゃって」
と、出かけようとする。
 俺はそれよりも彼の首すじの、多分キスマークと思われる赤い痕の方が気になって、言葉を選んで尋ねた。
「首、どうしました? 虫刺されか何かですか?」
「えっ?」
 俺の予想に反して、彼はものすごくうろたえた。
 冗談めかして、「その辺は察してよ」くらいに言ってくれると思ったのに。
「そんなに目立つ? ええっ、どうしよう?」
「絆創膏か何かで隠せれば…」
 
 俺にも動揺が移ってしまい、彼と一緒に玄関に上がって洗面所についていってしまった。
「ほんとだ」
 鏡で確認すると彼はすぐに絆創膏を二枚貼って痕を隠した。
 更にまとめていた髪もほどいてしまった。
「これで目立たないかな?」
 目をそらしたまま、彼は訊いてくる。
 俺は、
「後から皮膚科に行った方がいいんじゃないですか? 外来生物に刺されたとかかもしれませんよ」
「うん。そうする」
 俺はなぜか複雑な気持ちだった。

小説「傾国のラヴァーズ」その16・友達と赤い痕

2022-11-17 23:50:00 | 傾国のラヴァーズその11~20
 その後は、彼の方が時間を気にしてくれた。
 それでも、デザートの夕張メロンゼリ一までしっかりいただき、後片付けの手伝いをして帰った。
「今日はいいよ。それより早く帰って報告書提出してよ」
と、彼には言われたが…
「もー、こうやって飲むのを禁止にされたら困るじゃん…」
 お世辞でも嬉しい。そんなに彼は俺に親しみを持ってくれたのかな。
 
 そして俺は気づく。

 俺も親しみ…仕事面で気に入られたいというのとは、別の感情を持ったと言うことに。

 落ち着いた知的な社長の顔と、腕白な子供のような可愛らしさとのギャップ。
 でも初対面なのに色々気をつかってくれる優しさもあって。
 そして、永遠の美少年と言われるような世界中の俳優にも負けない美しさ。
 他にも何だかあったかさがあって、

 この人と「友達」になりたいと思った。


 
 次の朝は初めてのお迎えで、俺はちょっと緊張していたが、昨日の楽しい飲みを思い出して自然と笑顔も出ていた気がする。
 
 しかし…
「…はい…」
と、ドアを開けてくれたのは、物憂げ、というか不機嫌そうな彼だった。長い金髪をうなじのあたりでまとめたポニテは可愛らしかったが。
「おはようございます。昨日はありがとうございました…あの、大丈夫ですか?」
「おはよう。やっぱ、俺、ヘン?」
「顔色が…」

 そして俺がびっくりしてしまったのは、彼の首の右側の方に、昨日まではなかった赤い痕がくっきりとついていたことだった。


小説「傾国のラヴァーズ」その15・いつかは合宿

2022-11-16 20:51:00 | 傾国のラヴァーズその11~20
 さすがに俺は断った。
 いくら気が合いそうでも、出会ったばかりの顧客の家に泊まるわけにはいかない。
 盗難を疑われたり、ケンカになったりとトラブルになっては本当に困るからだ。
「あの…初日だったので、今日中に提出しなければいけない報告書が多いもので…」
「えっ? これから会社に戻るの?」
「まず、自宅からリモート使って…何かあれば会社へ」
「大変だなあ」
「24時間動いてる職種なので…」
 でもフォローのためにも、
「でも泊まったら、なんて言ってもらえて嬉しかったです。僕、泊まったりって経験ほとんどないので」
 それに驚いた顔をしながら、彼はまたノンアルビールを一本あけ、
「意外。体格いいから、体育系の合宿が多い人かと思った」
「いいえ…」
 と俺は、いい機会かと、自分のこれまでを話すことにした。
 2才の時に交通事故で両親を亡くしたこと。
 それ以降は父方の祖父母に育てられたこと。
 でも、高1の時に祖父を、高2で祖母を、それぞれ別の病気で亡くしたこと…
 さすがの彼も絶句していた。
「じゃあどうやってここまで…」
俺は手短かに、
「叔父たちが…父や母の弟たちが、お金やいろんな手続きとか管理してくれたので、後は自分でバイトして…」
「なんかごめん。今日は自分ばかり不幸みたいな顔しちゃって…」
「いえ、生きてると色々ありますすよね」
「そうだね。これはやっぱり語り合うのに泊まりの合宿がいつか必要だね」
と、彼は俺から目をそらしたまままたビールをあおった。


小説「傾国のラヴァーズ」その14・泊まっていかない?

2022-11-13 22:46:00 | 傾国のラヴァーズその11~20
 そして、農業から伝説が始まったと聞く彼の祖父の呪縛には、とらわれていないことにもほっとした。

 彼の見た目とはかけ離れた作業のようにも思えるが、勉強のためには畑にも田んぼにも入るという。
「まずは日本の食料自給率もあげなくちゃね。有事の時にはきっと、東京なんてなかなか食料が回ってこないでしょ。それも東京で生まれ育った僕としては嫌なんだ」

 彼の瞳の輝きが増していく。楽しく俺は見ている。
「獣害の問題もあるからね。それにも関われないかとと思ってきてるんだ。それに、茨城ならスマート農業で大規模農業もやれるかもしれないから…」
 夢のある話でいいなと俺は思った。

 それでつい口走ってしまった。
「いいなあ、俺そちらに転職させてもらいたいなぁ…」
それを聞くと彼ははびっくりした顔をした。
 俺がびっくりするほど、目をまん丸にしていた。
 まずかったか、俺。
「いえ、すみません。今の仕事はプロとしてきっちりやってますので安心してください。でもなんだか夢のある仕事のようで羨ましかったので…」
 彼は笑って許してくれたが、
「ねえ、その辺ももっと話したいから、今日泊まっていかない? どうせ明日二人ここから一緒に出勤みたいなものでしょ?」
「い、いえ…」