「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その10・ちょっぴり仕事

2022-11-05 22:26:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 リビングでは薄いブルーのソファだけは、昼寝にでも使うのか、大きくて立派なものだった。
「ごめんね、殺風景な部屋で」
と彼は苦笑していた。
 引っ越しの時、手伝ってくれた高橋専務や経理の鈴木常務にも指摘されて、三人で笑ってしまったそうだ。
 
「えっと、こっちが寝室…」
 ベッドやクローゼットや本棚が机がある普通の部屋で、派手さはない。彼自身の芯に持つ上品さや穏やかさが何となく感じられるような部屋…だがいつまでも見ているようではばかられた…彼には別に何も言われなかったが。
 もう一つの部屋にはダンベルやトレーニングチューブなんかが置いてあって、筋トレ用の部屋のようだった。
 更にもう一つの部屋は、一番広いのだが、積み上げられた本の山が三つほどあるだけだった。
「こっちの部屋、本当は寝室兼書斎の予定だったんだけど、入れたい本棚が大きくて、地震が怖くてやめたんだ。今はあっちの寝室で読むのはタブレットで電子書籍だなぁ」

 と言う訳で、彼にふさわしいすっきりとした住まいは、警報装置もあるし、不審者が入ってきても対処しやすいだろう。
「まあ、こんな感じです。でも、海原くんに守ってもらうことがあったら本当に大変だよね」
 彼は身震いしながらアイランドキッチンに向かっていった。


小説「傾国のラヴァーズ」その9・2人で飲み会

2022-11-05 00:48:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 暗い表情で彼は、
「でも、愛人の子の更に子供なんてやっぱりお偉いさんには、黒歴史だよなぁ」
 俺は本当に言葉がない。しかし、それは彼のせいではないのだ。だから、何となく味方をしたくなって、
「でも、日本は男社会だったから歴史的にそういうのを認めてきましたよね。今だって直系の世襲もどうかと思いますけど、亡くなった議員さんの親戚だから後継にするとか…」
「あれは不思議だよね…」
 でも、出馬しないのなら彼はそんなこと気にしなくていいのではとも俺は思うのだったが、彼の苦労を考えれば複雑な思いがあるのも事実だろう。

 二人とも黙り込んでしまったところで、彼は前を向いたまま、
「海原くんて全くの1人暮らしなの?」 
「はい」
痛い所を突かれたとと思いながら、
「はい、寂しい1人暮らしですよ。全くの」
と苦笑いするしかなかった。
 すると、彼はいきなり明るく、
「僕と同じだ、でも本当は彼女とかと暮らしてるとか友達とシェアしてるとかないの?」
と、いたずらっぽい笑顔で俺の横顔を見てくる。
 休みの日なんかにしか寂しく思わない俺も冗談っぽく、
「本当に1人、です」
と答えて、社長、プライバシー侵害です、と返すと、彼は、
「今日これから時間ある? 俺の家に来ない? 一緒に飲まない?」
と誘ってくる。
 1人ぼっちのご飯は味気なくて…と泣きマネで俺の笑いも誘い、彼も大笑いしていた…何だか俺は嬉しくなった。

 彼の部屋はちょっと高級なマンションの二階だ。
 彼の担当者は警備のために一度入っていたのだが、俺だけはどうしてか入れてもらったことがなかった。
「まあじっくり見てって。海原くんにも警備頼むかもしれないし」
 部屋は広めの三LDKで、さらには仕事が趣味ということなのか、最低限しか物がないシンプルな部屋だった。


小説「傾国のラヴァーズ」その8・偉大過ぎる祖父

2022-11-02 22:32:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 俺には質問せずにはいられないことがあった。
「高橋さん…専務はどこからかのお目付け役なんですか?」
「いや僕が連れてきた大学の先輩にあたる人で。ベテランの事務屋さん…鈴木さんは高橋さんの友達。矢野会長の一味ではないよ」

 俺は少し安心した。
「だから今回海原君たちに依頼したのは、僕が誰かに狙われている、よりも、自分やその仲間たちが被害を被るような動きをしないか見張らせるのが目的のような気がしてる。矢野会長は〈何かと物騒だから〉なんて僕には言っていたけどね」

 俺には何のことやらで、
「って矢野さん達の被害って、社長はそんなことできるんですか?」
「うーん僕が考え着くのは矢野さんたちの利権を守るために、俺には会長系のよその派閥からは出馬しないでほしいっていうがあるみたい。あとは他の候補のためには指1本動かさないで欲しいみたいなんだ」 
 こんなのでも面倒見てくれた恩を感じなければいけないのかな…彼は俯きため息をついた
 俺は何を話していいかわからなかった。
「まさかの野党に入って矢野会長一味を卒倒さぜてあげようかな」
 一緒に笑ってしまったが、今日が初対面の俺とこんなことまで話すのはいいのだろうかとも思った。
「僕の祖父の成田ブランドなんて今時どれだけの人にわかるのかなっていう気もするし、でも最近では昭和の大物政治家の本がブームになっているって話もあるし、あとよくわからないタレント議員が当選するくらいだから成田なんとか言って孫が…」
そこまで言って、彼はまたため息をついたようだった。
「どうしました?」


小説「傾国のラヴァーズ」その7・楽しい帰り道

2022-10-30 20:58:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
「病院で聞いてた通り男が生まれちゃって、別の名前を考えるのが面倒で、字だけは男っぽく聖名に変えたそうなんだ。二人目の父親のだから今の苗字も嫌いだし…名前は全部変えたい」
 どうせ今の名前はビジネスネームとして残せるし…
 彼の横顔は本当に寂しそうだった。

 午後からは社長室で、専務の高橋さんと3人でデスクワークだった。高橋さんは社長より15歳も上だが、二人は会社設立前からの同志なので、本当に仲が良いようだった。
 自分は、昨日警備会社の先輩が残したセキュリティの資料を検証したり、自分も資料を作った。

 退社時間が来て、俺は当然、彼を車で自宅まで送った。
 
 マンションまでの帰り道、助手席の彼は笑顔で、
「初日、疲れたでしょ?」
「ええまあ、緊張しますね」
「明日、営業で外出するんだけど、やっぱりついてきてもらった方がいいよね」
「そうですね」
「高橋さんは新人秘書の体で打ち合わせの部屋にまで入ってもらうべきだっていうんだけど、入ってくれる?」
「はい。大丈夫ですけど…怪しまれませんかね」
「それは大丈夫だから」
 本当にいったい彼は誰に狙われているのだろう。ボディーガードの俺は悩む。

「傾国のラヴァーズ」その6・望まれない息子

2022-10-29 21:03:00 | 傾国のラヴァーズその1~10
 意外と食べ方が男っぽい彼を見ていると、この人に凶事が降りかかるとしたら、その理由は何なのだろうと思う。
 しかし、結局はアメリカとの輸出入交渉などに失敗して失脚した成田貞次である。
 成田の名前を使って欲しくない与党の自憲党の圧力か?
 今さら成田の名前を使って欲しくない旧成田派「緑雪会」?
 それとも、逆に使ってでも票が欲しい人?
それらを快く思わない闇の組織?
 自分だってわからないのに、俺はこの目の前の美少年な社長には幸せになって欲しいと思った。

「…社長、ごちそうさまでした…」
 食事を終えて店の外に出ると、親子連れが店に入ろうか悩んでいる様子だった。
 気がつくと両親に連れられた5歳くらいの女の子、ブルーの可愛いレースワンピに縦ロールの髪のおませそうな子を彼がまじまじと見ていた。
 俺は少し怖くなって声をかけた。
「まさか社長のタイプとか?」
「違うよ違う…」
と彼は笑ったが、すぐに寂しそうにつぶやいた。
「…3歳くらいまで、僕はあんな感じの女の子の格好させられてたんだよ。祖母も母も女の子が欲しかったから」
「えっ?」
「名前も聖奈って決まってた」