「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

●小説「傾国のラヴァーズ」70・聖名の涙

2023-10-14 22:30:00 | 傾国のラヴァーズその61~70
 思えば、彼からはひと言もきちんとした謝罪の言葉もない。軽く謝られただけだ。
 俺を引き留めるのが形式上ということなのだろう。よくある話だ。

 それにしても、俺はどうしてらしくもなくこんなに怒っているのだろう。クライアントにこんなことを言い出すなんて。

 それだけ聖名を…想う気持ちがあったということなのだろう。
 そう思い至って恥ずかしくなり…その後、気づいた。

 聖名が、うちの会社との取引をやめると言い出したらどうするのか…聖名がぼうっとしている間に、後任を部長に決めてもらうしかない。
 俺はもうこの部屋に泊めてもらうのは嫌だった。
 でも聖名の警護がいない時間を作りたくなかった。

「すみません、会社に電話して、すぐに後任を…」

 すると聖名は口元を引き結び、目から涙をこぼしながら俺に近づいてきた。

 そして俺の真ん前に立ってためらうように見つめてくると、俺にしがみついてきたのだ。



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