そして、農業から伝説が始まったと聞く彼の祖父の呪縛には、とらわれていないことにもほっとした。
彼の見た目とはかけ離れた作業のようにも思えるが、勉強のためには畑にも田んぼにも入るという。
「まずは日本の食料自給率もあげなくちゃね。有事の時にはきっと、東京なんてなかなか食料が回ってこないでしょ。それも東京で生まれ育った僕としては嫌なんだ」
彼の瞳の輝きが増していく。楽しく俺は見ている。
「獣害の問題もあるからね。それにも関われないかとと思ってきてるんだ。それに、茨城ならスマート農業で大規模農業もやれるかもしれないから…」
夢のある話でいいなと俺は思った。
それでつい口走ってしまった。
「いいなあ、俺そちらに転職させてもらいたいなぁ…」
それを聞くと彼ははびっくりした顔をした。
俺がびっくりするほど、目をまん丸にしていた。
まずかったか、俺。
「いえ、すみません。今の仕事はプロとしてきっちりやってますので安心してください。でもなんだか夢のある仕事のようで羨ましかったので…」
彼は笑って許してくれたが、
「ねえ、その辺ももっと話したいから、今日泊まっていかない? どうせ明日二人ここから一緒に出勤みたいなものでしょ?」
「い、いえ…」