「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

■小説「傾国のラヴァーズ」その63・聖名は知らんぷり

2023-09-05 23:06:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 聖名が男性であるのを幸いに、俺はこの警護期間が終わるまで自分の気持ちを隠し通すことに決めた。
 
 聖名だってボディーガードに想われているなんて嫌だろう。
 まあ、俺には襲われてもいいなんて冗談を言ってはいたけれど。

 でも、対象に恋愛感情を持ってしまったら、ボディーガードとして失格だ。

 その時、エレベーターから黒スーツのSPが多数降りてきて、俺は慌てて立ち上がった。
 SPに守られる人々が通り過ぎていくが、聖名はなかなか現れない。それどころか、やっと現れたと思ったら、SPや他のボディーガードに囲まれて、誰かと談笑しながら、俺のことなど忘れたように、出口へと歩いて行ってしまった。
 SP達が立ちはだかって、俺は聖名に近づくことができなかった。




●小説「傾国のラヴァーズ」その62・聖名と離れて

2023-09-04 23:13:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 しかし、いざ会場に行ってみると、聖名も俺も驚くほど客の数は多かった。

 その中には、かなりのお偉いさんもいるようで、ひと目でSPとわかる人間が多く、許可証がない俺や他の一般のボディーガードはそのスペースから追い出されてしまった。

 俺は危険性も考えて、一階のロビーで待つことにした。

 そのことを聖名にLINEで送ったが、既読はつかなかった。

 気づくまで待つことにしたが`、俺は複雑な気持ちで、エレベーターに一番近いソファに座り込んでいた。

 この仕事は、やめた方がいい気がする。

 聖名と出会う前から、仕事柄、そう考えることがないではなかったが…


 もう、俺は引き返せない。


 この一流ホテルの豪華なロビーで見た、長身の美しい聖名に…

 仕事とはいえ、聖名を守リ始めたばかりなのに…

 これまで知らなかった不思議な感情を抱き始めた…

 認めてはいけないのだが。




◆小説「傾国のラヴァーズ」その60・聖名の叫び

2023-08-30 18:37:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 俺の言葉を聞いて俺を見上げた聖名は、言葉をのみ込むようにロを堅く引き結んだ。
 そこにまたFAXが流れてくる。今度は手書き、それも年配者の筆跡のように見えた。


 …私の700万円を返して下さい。社長だなんていって、あなたのやっていることは結婚詐欺です…


  異性関係だけかと思ったら…


  …あなたは北海道の成田後援会スタッフの男の子にみだらな…


 もう聖名は何も言わない。
 それにしても、急にFAXが流れてきたのはなぜなのか。

 聖名が帰ってきたのを見ていたとでもいうのだろうか。

「聖名、これ、俺の部屋に保管しておくね 」

 すると聖名は突然叫び始めた。

「何のために? オレ、早く捨ててしまいたいんだけど! 」

「わかるけど、何かの証拠になるかもしれないだろう? 」

「証拠? 何のために? 証拠なんて何になるの? そんな、やってる人間もわからないのに…」

「何かの時に、警察にでも提出を求められるかも…」

「警察? 何で警察なの? オレを守ってくれるのはセンパイじゃないの? 」





■小説「傾国のラヴァーズ」その59・聖名の苦悩

2023-07-13 22:48:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 聖名はさっきは学生ノリで元気よく答えていたが、それは俺の目にはどうしてか不自然に見えていた。

 ウェーブのかかった長い金髪を後ろでひとつにまとめた髪型は俺も気に入っていて…俺は目のやり場に困っている。もう自分がどうにかしているのは明らかだった。

 助手席の聖名は、車の中ではニコニコしていていい雰囲気だったが、部屋に帰ってFAXの音が流れていたのがいけなかった。

 聖名は、それらのFAXに目を通すと、がっくりと座り込んでしまった。
 聖名を促したが、なかなか渡してくれなかった。
 受け取った紙の内容を見ると、それはもうひどいものだった。


 …ファーストレディにしてやると言って、うちの娘に近づき、三股で弄ばれた。それで娘は妊娠した…

 
俺は怒りを覚えた。

「ひどいな、これ…」




●小説「傾国のラヴァーズ」その58・聖名の一張羅

2023-06-05 21:47:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
「社長にききましたが、矢野会長が来るそうですね」

 高橋さんも何か困っているようだったので、
「何かありましたか?」

「いえ、ここのところ、社長の体調が悪いので…本人は疲れと矢野会長のせいだというんですが…それだけなのかな、と。海原さんには心あたりはないですか?」
 そして、

「私の知っている社長は、ずっと体はものすごく丈夫だったんですよ

俺は 何だか がっかりして、

「そうですか。俺が考えつくのは2人暮らしに疲れたのかなということぐらいですが」

「本当にそれだけですか?」

「それだけです。では 逆に高橋さんは他に何を?」

「いや 怪文書とか 脅迫電話とか2人で隠していませんか?」

「絶対にそれはありません」

「何でしたら聖名、い、いや、社長に聞いてみてはどうでしょうか」

…高橋さんに、2人の「友達ぐらし」が決定的にバレた気がする…マズいな…

 しかし高橋さんはそこには突っ込まず、

「わかりました」
と言ったきりだった。


 そこに機嫌のいい 聖名が戻ってきた。


「海原くん 、パーティーに誘われたから送って」

そして、高橋さんを見ると、

「高橋さん どうしたの?」

「社長 私に隠し事はないですか?」

「ないってば 。どうしたの? 心配しなくていいよ。何かあったら相談するから」

 そう言うと、聖名はさっさと帰り支度を始めた。

「それじゃあ 早いけど家に帰ります。一張羅に着替えてきまーす」

 一張羅、という聖名には似合わない古い言葉に 、高橋さんと俺 は 吹き出した。
 それでその場の空気が和んだのだった。

 結局、高橋さんだってやんちゃっぽい聖名が可愛らしくて仕方ないのだ。