「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

●小説「傾国のラヴァーズ」その58・聖名の一張羅

2023-06-05 21:47:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
「社長にききましたが、矢野会長が来るそうですね」

 高橋さんも何か困っているようだったので、
「何かありましたか?」

「いえ、ここのところ、社長の体調が悪いので…本人は疲れと矢野会長のせいだというんですが…それだけなのかな、と。海原さんには心あたりはないですか?」
 そして、

「私の知っている社長は、ずっと体はものすごく丈夫だったんですよ

俺は 何だか がっかりして、

「そうですか。俺が考えつくのは2人暮らしに疲れたのかなということぐらいですが」

「本当にそれだけですか?」

「それだけです。では 逆に高橋さんは他に何を?」

「いや 怪文書とか 脅迫電話とか2人で隠していませんか?」

「絶対にそれはありません」

「何でしたら聖名、い、いや、社長に聞いてみてはどうでしょうか」

…高橋さんに、2人の「友達ぐらし」が決定的にバレた気がする…マズいな…

 しかし高橋さんはそこには突っ込まず、

「わかりました」
と言ったきりだった。


 そこに機嫌のいい 聖名が戻ってきた。


「海原くん 、パーティーに誘われたから送って」

そして、高橋さんを見ると、

「高橋さん どうしたの?」

「社長 私に隠し事はないですか?」

「ないってば 。どうしたの? 心配しなくていいよ。何かあったら相談するから」

 そう言うと、聖名はさっさと帰り支度を始めた。

「それじゃあ 早いけど家に帰ります。一張羅に着替えてきまーす」

 一張羅、という聖名には似合わない古い言葉に 、高橋さんと俺 は 吹き出した。
 それでその場の空気が和んだのだった。

 結局、高橋さんだってやんちゃっぽい聖名が可愛らしくて仕方ないのだ。




★小説「傾国のラヴァーズ」その57・軽い風邪

2023-06-02 10:04:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 聖名の体調は、結局次の日の土曜になっても直らなかったが、幸いにも、というべきか、相手の都合で商談は流れ、しかし月曜になった商談は金額が 折り合わず、保留になってしまった。

 聖名は会社に戻って 作戦のすり合わせを部下とすることにしたらしい。

 しかし、聖名は 高橋さんにきつく言われて、その日の午後は休み 行きつけの内科に行くことになってしまった。

 もちろん俺は付き添って行った。

 先生の見立てでは、疲れと軽い風邪とのことで、薬を出してもらってそのまま聖名は自宅に帰った。

 その次の日には…聖名が席を外している間に、高橋さんに…



◆小説「傾国のラヴァーズ」その56・聖名の体温、聖名の匂い

2023-06-01 21:47:00 | 傾国のラヴァーズその51~60
 さらにはこの人が 世襲議員ということがわかって、ますます がっかりしてしまった。
 
 それもよく読むと 三代目だという。

 初代である彼の祖父は自憲党を与党にするために先頭に立ったが、
実現直前で病に倒れた。
 そうでなければ 初代総裁、総理大臣になれたはずという。
 
 そして2代目である父は政局の混乱のため 2度目の総裁選を辞退するはめになり…

 それでこの伸一郎という人が、今度こそと周囲の期待を背負っているらしい。

 まあ俺の目には、庶民の暮らしも苦労も知らない坊ちゃん育ちのエリート おじさん。そんな風に見えた。

 金絡みより女性絡みのスキャンダルに引っかかりそうな脇の甘さがどうしてか感じられた。
 …まあこんな時代に生きている若者としては、政治家にはいい仕事をしてもらわなければ困るのだ。

 …聖名のお祖父さんのように。


 …隣で 聖名がもぞもぞ と動く。

「センパイ、 肩貸してもらっていい? 寂しいけどやっぱりベッドで寝る」


 俺は言われるがままに聖名に肩を貸して、ベッドまで連れて行った。

 聖名の体温。
 聖名の匂い。
 
 それを感じた時…その時俺の中で、何かが変わった。


 でもそれは自分でも認められない。目をそらすしかない。

でも、この聖名の案件が終わったら、転職はしようかと思い始めていた…