「傾国のラヴァーズ」

ボディーガードの翔真は訳有の美青年社長・聖名(せな)の警護をすることに…(閲覧者様の性別不問) 更新情報はX🐦にて

小説「傾国のラヴァーズ」その12 ザンギと札幌

2022-11-10 22:56:00 | 傾国のラヴァーズその11~20
 俺は彼の様子を見てぼーっとしていたようだ。
 彼は俺が遠慮していると思ったらしく、
「食べて食べて、頂き物なんだけど、独り者にはいつも量が多くて」
と言ってくれた。
 それで我に返った俺は、北海道の唐揚げ「ザンギ」に箸を伸ばした。
「頂き物って親戚からとかですか?」
不用意な質問だったと後悔した。しかし彼は自然な様子で、
「うーんまあ横浜の矢野さん、さっき話した、俺を育ててくれたおじさんとおばさんへの誕生日のお返し」
「そういうのいいですね」
「うん、でもおじさんは、会長の長男だから、札幌出身なんだけど、札幌に戻れなくて。会長の後援会活動手伝うの嫌だから、それで奥さんの故郷の横浜に家を建てちゃった」
 でも故郷が懐かしくて、色々北海道ゆかりのものを送ってくれるんだよね。矢野会長もだけど。
「なんだか悪いこと聞いちゃいましたね」
「いや、そんなことないから気にしないで」

「北海道もね、もう一度行ってみたいんだけどな…僕は北海道は1回しか行ったことがないんだ」
 札幌…北海道は僕の祖父の成田貞次の地元だったからね…大人になってからは、複雑な気持ちだよね…
 行った時は小学5年生で、会長の親戚で、同じくらいの年齢の子と遊んで楽しかった。
 名前は忘れたけど、札幌の街の中の森が深い広い公園で、こっちと植物が違うせいか、なんか、こっちに比べて、ワイルドっていうか外国っぽい、イギリスあたりの小説で読んで想像した感じの森があって、とても楽しかった。
 そこまで嬉しそうに話すと、また彼の表情は曇っていた。