チーター属の史上最大種 ➡『コロッサル・チーター(仮名)』
パキクロクタも登場
<Scene>
更新世中期初葉、中国北東部の大平原
およそ80万年前・・・
(⬆ 超大判オリジナルサイズ画像(高画質)※) All images by ©the Saber Panther(All rights reserved)
All images by ©the Saber Panther(All rights reserved)
ご覧いただいているのは、「コロッサル・チーター(仮名)」(Acinonyx pleistocaenicus)が、更新世の中型ウマ属種、アルタイウマ(Equus altidens)を仕留めた・・・はいいが、間髪を入れず、ジャイアント・ショートフェイスハイエナ(Pachycrocuta brevirostris)の、執拗なクレプトパラサイティズムに直面した場面・・・❗
特大チーターが、パキクロクタを追っ払う?
(この復元画(鉛筆一本によるオリジナル絵画です)のコンセプトについて、詳細は後述)
以下に、新記載のチーター属最大種、Acinonyx pleistocaenicus について比較的詳しく、解説していきます。
「ジャイアントチーター」と呼称される Acinonyx pardinensis とは別の、年代的にもわずかに新しい、固有種となります。
So, let's dive in!
<Species>
(向かって左から )
ジャイアント・ショートフェイスハイエナ Pachycrocuta brevirostris
コロッサルチーター Acinonyx pleistocaenicus
アルタイウマ Equus altidens
(丸枠の中)
ジャイアントチーター(頭部) Acinonyx pardinensis
(遠景)
アルタイウマ Equus altidens
《新発見の、北東アジア産・チーター属最大種》
中国北東部・遼寧省金埔洞窟と周口店の更新世中期初葉(70万~60万年前)の古地層から、チーター属の大型種の新たな化石(二体分の有歯下顎骨(部分)と、無歯の上顎・頭蓋(部分))発見が報告されています。
(Jiangzuo et al.,"Massive early Middle Pleistocene cheetah from eastern Asia shed light onto the evolution of Acinonyx in Eurasia", 2024 Quaternary Science Reviews 2024/ 5/14に掲載の研究論文)
本標本は更新世前期末葉から更新世中期初葉にかけて、ユーラシア広範に分布した大型種、Acinonyx pleistocaenicus(プレイストケニクス種)に同定されました。
プレイストケニクス種は、更新世前期のユーラシアを代表するチーター属の大型種、Acinonyx pardinensis(パルディネンシス種 「ジャイアントチーター」)とは頭蓋-歯形の形質が明瞭に異なり、現生チーターの形質に近いとのこと。よって、パルディネンシス種とは別個の、固有種のステータスが有効であるといいます。
プレイストケニクス種自体は欧州や南アジアにも分布しましたが、今回の北東アジア産のものは、同種で最後期の、かつ最大サイズの個体群となります。
Jiangzuo et al., (2024)は、プレイストケニクス種とパルディネンシス種(ジャイアントチーター)との具体的なサイズ差について言及していませんが、プレイストケニクス種は「チーター属で最大種」と明記しているので、ジャイアントチーターを更に凌駕する大きさと認識しても、大過なさそうです。
Jiangzuo et al., (2024)は、プレイストケニクス種とパルディネンシス種(ジャイアントチーター)との具体的なサイズ差について言及していませんが、プレイストケニクス種は「チーター属で最大種」と明記しているので、ジャイアントチーターを更に凌駕する大きさと認識しても、大過なさそうです。
Hemmer et al.(2011)算出のジャイアントチーターの推定体重は、平均90.5kg、体重範囲の上限は121kg。そのジャイアントチーターよりも大型であるなら、さしあたって、「コロッサル(colossal「特大の」)チーター」という仮の呼称を提案させていただきたい。
実際には、Jiangzuo et al.(2024)はプレイストケニクス種にも 'giant cheetah' の口語名を用いていて、少々ややこしいのです。パルディネンシス種との差別化を図る意味でも、独自の呼称があってしくはなし、だと思います。
(取り立てて言うほどの問題では、ないかもしれませんが🤔)
(取り立てて言うほどの問題では、ないかもしれませんが🤔)
《第四紀ユーラシアのチーター属の進化史》
チーター属(Acinonyx)の化石記録というのは比較的豊富であって(これは、チーター系統が常に開放系の環境に分布していたことが、一因と考えられるでしょうか?)、現生種に至る同属の進化過程は詳細が解明されています。
チーター属はおよそ400万年前(鮮新世)、アフリカ南部に起源を持ち、後続種よりも走行特化性に乏しい、ピューマ属に似た形質の祖先から派生したようです。少なくとも、5種の化石種(いずれも有効種)が知られています。
●年代の古い順に●
Acinonyx arvarnensis
Acinonyx aicha
Acinonyx pardinensis
Acinonyx pleistocaenicus
Acinonyx intermedius
Acinonyx jubatus(現生種)
もっとも、その化石記録の大部分は更新世前期の前半部に集中している(ジャイアントチーター(パルディネンシス種)はその代表的タクソン)ことから、同後半部や更新世中期以降の進化史については、不明瞭なままという事情がありました。
プレイストケニクス種は、これまでの化石記録によると生息年代の範囲が130万~100万年前までと狭く、「更新世前期の後半部に限定的なタクソン」と見なされていました。今回、北東アジアの70万~60万年前の古地層から化石が出たことで、同種は更新世中期まで存続し、その頃に最大サイズに達していたことが判明したわけですね。
なお、更新世中期の他のチーター属種としては、およそ50万年前にユーラシア広範囲に分布していた、Acinonyx intermedius(インテルメディウス種)が知られています。インテルメディウス種の化石記録は断片的ながら、アフリカ起源であることや、現生チーターとサイズ差がない(従って、パルディネンシス種やプレイストケニクス種よりは著しく小さい)反面、歯やポストクラニアル形態は、現生種と差異のあることが分かっています。
今回の発見で、プレイストケニクス種はアジアにて更新世中期の初葉まで存続していたが、その後ほどなくして(およそ50万年前)、インテルメディウス種に「置き換えられた」ことも明らかとなりました。
かつて、Kurten (1968) は'Pleistocene Mammals of Europe' の中で、「更新世中期の大型種が漸次的に小型化し、インテルメディウス種へと進化した」経緯を記していました。一方、Jiangzuo et al.(2024)は置き換え(replacement)であると明言し、プレイストケニクス種が更新世中期に絶滅した、とも述べているので、最新学説としては、「両種(プレイストケニクス種とインテルメディウス種)間に祖先-派生関係はなし」と見てよいのでしょう。
プレイストケニクス種のほうがインテルメディウス種よりもずっと大型で、形態的にも現生チーターに近しいとされながらも、置き換えが起こったというのは、興味深い事実だと思います。
《当復元画について およびDisclaimer》
●コロッサル・チーターとパキクロクタ●
ご覧いただいているのは、「コロッサル・チーター(プレイストケニクス種)」が、肩高1.3mのウマ属種、Equus altidens(アルタイウマ)を仕留めたはいいが、間髪を入れず、パキクロクタ・ブレヴィロストリス(「ジャイアント・ショートフェイスハイエナ」。更新世前期末葉から中期初葉にかけて、プレイストケニクス種とコンテンポラリーであった)のクレプトパラサイティズムに直面した場面、です。
ご覧いただいているのは、「コロッサル・チーター(プレイストケニクス種)」が、肩高1.3mのウマ属種、Equus altidens(アルタイウマ)を仕留めたはいいが、間髪を入れず、パキクロクタ・ブレヴィロストリス(「ジャイアント・ショートフェイスハイエナ」。更新世前期末葉から中期初葉にかけて、プレイストケニクス種とコンテンポラリーであった)のクレプトパラサイティズムに直面した場面、です。
その特異な狩猟形態もあり、チーターの獲物は小~中型のレイヨウ類が主ですが、コロッサル・チーターの場合は巨体を生かして、更新世の中型のウマ属種もレパートリーに含まれていたのではないでしょうか。
また、現生ブチハイエナとチーターでは前者の体格、力が圧倒的に優るが、コロッサル・チーターは時にはジャイアント・ショートフェイスハイエナを追っ払うことができるほど、両者の力関係にそこまでの開きはなかったのではないか?・・・
また、現生ブチハイエナとチーターでは前者の体格、力が圧倒的に優るが、コロッサル・チーターは時にはジャイアント・ショートフェイスハイエナを追っ払うことができるほど、両者の力関係にそこまでの開きはなかったのではないか?・・・
と、このような考察のもと、描いたものです。
コロッサル・チーターの体重は、上述のパルディネンシス種(ジャイアントチーター)の大型個体と重複する程度と仮定して、約120kg。ジャイアント・ショートフェイスハイエナは同140kgほどでしょうか、そのくらいを想定しています。
この体躯で、現生チーターのように超高速で走ることができたのかどうか❓興味深いですね。
●パキクロクタ●
ジャイアント・ショートフェイスハイエナ(パキクロクタ)の復元画については、前の記事にて現生カッショクハイエナに近縁であるとする、新しい学説を紹介しました。
ジャイアント・ショートフェイスハイエナ(パキクロクタ)の復元画については、前の記事にて現生カッショクハイエナに近縁であるとする、新しい学説を紹介しました。
それに合わせて、今回はカッショクハイエナ風の外形要素をより強く加えています。
ジャイアント・ショートフェイスハイエナ(パキクロクタ) Pachycrocuta brevirostris 生体復元画
(カッショクハイエナの外形要素強め)
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●ジャイアントチーター●
上方の丸枠の中には、ジャイアントチーターこと、パルディネンシス種の頭部を描き入れました。ジャイアントチーターは、頭蓋の背部輪郭のドーム形状の度合いが小さく、矢状稜が発達しているなど、ヒョウ属に近似した特徴を有します(Cherin et al., 2014)。
Cherin et al.(2014)によれば、ジャイアントチーターの頭蓋の筋骨格系は比較的頑強で、頸部への噛みつきによる殺傷力も高い。このため、狩猟法もヒョウ属種に近接し、大型の獲物を狩っていた可能性が論じられています。
他方、パルディネンシス種との比較で、プレイストケニクス種の形質がどの程度現生チーターに近いのか、あるいは異質なのか、ということは判然としません。
ともかくここでは、「更新世前期のパルディネンシス種と、同中期のプレイストケニクス種は、紛れもなく別種」であることを明確にしたい意図があります。
プレイストケニクス種とパルディネンシス種 Acinonyx pleistocaenicus and A. pardinensis 生体復元画
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最後に、Jiangzuo et al., (2024)の当該学術論文は、内容の全容は公開されておらず、概要、および序論部にしかアクセスできないことを明記しておきます。プレイストケニクス種の頭蓋-下顎、歯形の特徴に関する記載は確認できるが、①具体的なサイズ、②パルディネンシス種との相違点、③インテルメディウス種による「置き換え」の背景の考察、④インテルメディウス種と現生チーターの分岐系統上の関係性、などについては、現状では確認できないことを、断わっておきます。
従って、このイラストにおける造形やサイズ、獲物の設定も、試験的なものに過ぎないことを了承ください。
(仮定、憶測の多い記事となってしまい、申し訳ない)
<参照学術論文>
Jiangzuo et al.,"Massive early Middle Pleistocene cheetah from eastern Asia shed light onto the evolution of Acinonyx in Eurasia", 2024(※概要&序論のみ)
Cherin et al., "Acinonyx pardinensis (Carnivora, Felidae) from the Early Pleistocene of Pantalla (Italy) : Predatory behavior and ecological role of the giant Plio-Pleistocene cheetah", 2014
<参照文献>
Kurten, 'Pleistocene Mammals of Europe', 1968
Kurten, 'Pleistocene Mammals of Europe', 1968
Turner & Anton, 'Big Cats and their Fossil Relatives', 1997
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チータがハイエナを追っている? とびっくりしました。
どうもありがとうございます。
購入することが可能になったようですね。
論文によっては、オンラインで閲読できるようになるものも、あります。
ジャイアントチーター(Acinonyx pardinensis)の殺傷力は(頭蓋ー下顎の形質から)ヒョウ属に近かったとされ、ここで取り上げている「コロッサル・チーター(Acinonyx pleistocaenicus)」は、ジャイアントチーターよりも大柄です。強大なパキクロクタが相手とはいえ、このような場面もあったのではないか、と思われます。
近日中に、巨大チーターよりもっと驚くべきネコ科猛獣について、記事にする予定です。