the Saber Panther (サーベル・パンサー)

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パキクロクタ / 「ジャイアント・ショートフェイスハイエナ」の生体復元画(プレヒストリック・サファリ全景の一部)& パキクロクタ属の系統派生史について新知見を追記

2024年03月18日 | プレヒストリック・サファリ
パキクロクタ / 「ジャイアント・ショートフェイスハイエナ」の生体復元画
 
 


Pachycrocuta brevirostris
life restoration

by ©the Saber Panther(Jagroar)(All rights reserved)
 
これは、更新世中期のユーラシア中西部、初期人類化石の発掘で著名なジョージアのドマニシ近辺に該当する地域を舞台とした、プレヒストリック・サファリ『古代の三大ハイエナ / ザ・リプレイスメント』の一場面。パキクロクタ / 「ジャイアント・ショートフェイスハイエナ」の生体復元画となります。鉛筆一本での絵画です。
プレヒストリック・サファリ 其の33 古代の三大ハイエナ=パキクロクタ、ディノクロクタ、ホラハイエナ❕ 『ザ・リプレイスメント(骨砕き型ハイエナの盛衰)』 +毛サイとパレオ・タイガーも登場だ - the Saber Panther (サーベル・パンサー)

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AncientBone-CruncherHyenas:THE♦REPLACEMENT(第四紀・骨砕き型ハイエナの交代劇)今回の主役は、古代ハイエナ群。舞台は更新世中期のユーラシア中西部、初期人類化...

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パキクロクタ・ブレヴィロストリスは第四紀最大のハイエナで、更新世前期から中期にユーラシアの広範囲に分布していました。
現生ハイエナ科種よりも吻部が比較的に短いため、英語圏では the giant short faced hyena(ジャイアント・ショートフェイスハイエナ)の呼称も定着しています。

 
中国の河南省洛寧県で新発見され、2022年に詳細な報告(Jiangzuo et al., 'A huge Pachycrocuta from the middle pleistocene loess in Luoning County, central China, and the evolution of mandible within Pliocrocuta-Pachycrocuta lineage' 2022)があった同種の頭骨は、全長385㎜。これまでのフランス・オーヴァーニュ産頭骨の全長記録を破り、史上最大標本となりました。

 
本標本の推定体重は150.3kg。大型の雌ライオン大に達したわけです。
 
その頭骨や小臼歯形状はブチハイエナ属を更に凌駕する骨砕き適応の度合いを示し、前脚が後脚よりも長い後傾気味のポスチャーも近似しますが、四肢遠位部が相対的に短くロバスト型です。このため、頭骨サイズの差異から推察されるほどには、ブチハイエナ属種との肩高の差は大きくないといいます。
 
四肢遠位部の短縮は、ブチハイエナ属に比べ、走行性よりもパワー重視の形質徴表であり、最高度に発達したクラニオ‐デンタルの骨砕き機能と相まって、ハンターとしても有能なブチハイエナよりも、クレプトパラサイティズムの度合いが強かったとされています(Liu and Zhang et al., 'The giant short-faced hyena Pachycrocuta brevirostris(Mammalia, Carnivora, Hyaenidae)from Northeast Asia : A reinterpretation of subspecies differentiation and intercontinental dispersal' 2021 ⇒この研究には私が懇意にさせていただいている、ブリストル大学のHanwen Zhang博士が携わられていて、博士は論文の共同執筆者に名を連ねています)

 
更新世のパキクロクタ属については、ヨーロッパ産とアジア産の個体群を種レベルで区別するのが通例でした(ヨーロッパ産ブレヴィロストリス種と、アジア産のリセンティ種とシネンシス種)が、上述の頭骨を始め、近年中国で発見が続いた同属の頭骨とヨーロッパのそれとは形質が重複し、従来分類の見直しの必要が生じました。現在では、「パキクロクタ・ブレヴィロストリス一種が、汎ユーラシア規模で分布していた」という説が市民権を得るに至っています。各地の個体群には、亜種レベルの違いがあるのみだと。
 
上述の中国の発見には、ブレヴィロストリス種で最古(およそ200万年前)の化石が含まれており、それゆえ、同種は北東アジア起源であり、その後ヨーロッパなどユーラシアの広範囲に拡散したという説が、新たに唱えられてもいます。つまり、ユーラシアにおける分布の時期(最初の出現がおよそ200万年前)、分布変遷パターン(東アジアから西方、ヨーロッパへと分布を拡大した)とも、パキクロクタ・ブレヴィロストリスとホラアナハイエナとは見事に重複していたと考えられるのです。
 
 
なお、パキクロクタは系統的にブチハイエナ属よりもシマハイエナ×カッショクハイエナの系統に近いという仮説が、根強く残っています。本復元画でも、パキクロクタの毛並みや模様形状に、シマハイエナ的な要素を加えています。
 
 
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追記(2024 / 3/18):パキクロクタ属の系統派生史 新知見 ☆ カッショクハイエナって、パキクロクタなのか?

ジャイアント・ショートフェイスハイエナ(パキクロクタ) Pachycrocuta brevirostris 生体復元画
(以下に述べる直近の学説に合わせて、カッショクハイエナの外形要素を強くしたヴァージョン。
右側に見えるネコ科猛獣は、新記載のチーター属最大種(Acinonyx pleistocaenicus))
All images by ©the Saber Panther (All rights reserved)
 
 
パキクロクタ属をはじめとした第四紀のハイエナ群に関しては、近年の化石標本群の追加により多変量的・統計的な観点からの形態測定分析が進捗し、その系統分類について、アップデートが見られます
 
パキクロクタ・ブレヴィロストリスPachycrocuta brevirostris)の直系祖先については、鮮新世ユーラシアの骨砕き型ハイエナ、プリオクロクタ・ペリエリPliocrocuta perrieri)が該当するという、複数の学者間のコンセンサスがありました。他方、このペリエリ種というのは、形態的に現生カッショクハイエナともよく似ており、その類似性の度合いは、パキクロクタ属種とペリエリ種の間におけるよりも、更に高いといいます。
 
Pérez-Claros, 'Unravelling the origin of the brown hyena (Parahyena brunnea)and its evolutionary and paleoecological implications for the Pachycrocuta lineage' (2024) は、ペリエリ種からパキクロクタ属種、現生カッショクハイエナに及ぶ系統(この系統に便宜上、「パキクロクタ系統」という、仮の名称を付けておきましょう)の、進化系統史や分類の見直しを実施した、直近の研究になります。2024年3月にPalaeontologia Electronicaオンライン誌掲載の、新学説です。
 
当然、当記事とも関わりがある内容ですし、興味深い分類提起がなされているので、以下、第一次資料たる当該学術論文からの概要を、かいつまんで紹介しておきましょう。論文内容を確認したい方は、上に明記したPérez-Claros(2024)の学術論文に当たってください。
 
 
「骨砕き型ハイエナ(durophagous hyaenids)」の類型化において、下顎裂肉歯の発達程度などの形質に基づき、「単独性スカベンジャーのエコモーフ」と、ブチハイエナのように、主に「群れで狩りを行うエコモーフ」とに、大別することができます(Werdelin & Solounias(1991), Coca-Ortega & Pérez-Claros(2019))。単独性スカベンジャーのエコモーフに該当する現生種は、カッショクハイエナParahyaena brunnea)とシマハイエナHyaena hyaena)になりますが、Pérez-Claros(2024)によると、この両者は進化系統を異にしており、生態・形態の類似は、あくまで収斂進化の結果であるといいます。そういえば、かつてカッショクハイエナとシマハイエナは同属(Hyaena)に分類されていましたが、現在では別個の属分類となっていますよね。

 
上述の「パキクロクタ系統(カッショクハイエナも含まれる)」は、サイズの違い等あれど、いずれも単独性スカベンジャーのエコモーフに該当するタクソンで、構成されています。この系統の起源は鮮新世前期・ザンクレアン期の中国(490万~420万年前)で、その共通祖先はパキクロクタ・ピレナイカPachycrocura pyrenaica)だとされており(Howell & Petter(1980), Qiu et al.,(2004))、このことは、Pérez-Claros(2024)の分析においても、再認される結果となりました。
 
プリオクロクタ・ペリエリは、このピレナイカ種から分化したというのが定説ですが、ペリエリ種に帰属される標本群は、年代的にザンクレアン期とゲラシアン期に分布したものとがあります。Pérez-Claros(2024)の分析結果は、プリオクロクタ・ペリエリに分類されてきたこれら標本群のうち、やはりザンクレアン期のものとゲラシアン期のものとでは、有意な形態距離が認められるということ。この結果を受けて、前者はパキクロクタ・ピレナイカの後期ヴァリアントとして同種に含められ、ゲラシアン期の標本群については、「パキクロクタ・ペリエリPachycrocuta perrieri)」としての新分類が提案されました。
 
そして、ゲラシアン期のパキクロクタ・ペリエリから、ユーラシアではブレヴィロストリス種(当復元画)が、アフリカではカッショクハイエナが、それぞれ漸次的に進化したと。
 
 
以上を系統樹的に整理しますと、
 
パキクロクタ・ピレナイカ ⇒ パキクロクタ・ペリエリ(旧「プリオクロクタ・ペリエリ」。ザンクレアン期の個体群はパキクロクタ・ピレナイカ種に、ゲラシアン期のものはパキクロクタ・ペリエリとして、それぞれ再分類された)
→(ユーラシア) パキクロクタ・ブレヴィロストリス
↘(アフリカ南部) カッショクハイエナ
 
 
ペリエリ種からブレヴィロストリス種への進化は、下顎・歯の骨砕機能の増大(裂肉機能は減退)と全体的なサイズを大きくする方向で進んだわけですが、カッショクハイエナについては、ペリエリ種の段階から形質、サイズともに小さな変化にとどまったということになります。実際、ペリエリ種とカッショクハイエナとの形質差異は、前者とブレヴィロストリス種の間におけるよりも小さいそうで、Turner(1990)などは、南アフリカ分布のペリエリ種とカッショクハイエナとを、同一種として記載していたほど。
 
ブレヴィロストリス種もカッショクハイエナも、どちらもペリエリ種の段階からの形質変移は緩やかであり、漸次的に進化していったのですが、方はブレヴィロストリス種のような恐るべき大型種に、他方は形質、サイズの変異が少ないカッショクハイエナへと分化したというのは、興味深い所説だと思います。ただ、どちらもブチハイエナの系統とは異なり、形態型としては「単独性スカベンジャーのエコモーフ」となるわけですね。
 
 
このような次第で、Pérez-Claros(2024)はカッショクハイエナも、パキクロクタ属に含む分類を提起しております(してみると、その学名表記は Pachycrocuta brunneaとなるのか?)。カッショクハイエナをパキクロクタ属に含む分類は、かなり大胆な提案といえるでしょうし、現生種の分類に関わることだけに、慎重な対応が検討されそうですね。
 
 
これに関連して想起されるのは、パキクロクタ・ブレヴィロストリスは中国では更新世中期まで存続していたので、骨 / 歯由来の遺伝情報の抽出、解析が実現する可能性も、あるのではないか?ということ。形態分析のみに基づく分類の主張には弱さがありますが、遺伝情報の面からカッショクハイエナとの近縁性を確認できる時が、あるいは来るかもしれません。
 
いずれにせよ、カッショクハイエナの分類如何(果たしてパキクロクタ属に帰属されるのか否か)については、今後も注視していきたいものです。

(なお、本稿ではパキクロクタ・ブレヴィロストリスと、カッショクハイエナの系統派生史のアップデートに焦点を絞り、記述しています。Pérez-Claros(2024)はパキクロクタ属の他の種(P. bellax)や、更新世中期のHyaena prisca の分類についても扱っておりますが、記述の煩雑化を避ける目的で、それらの事項は割愛していることを了承ください)
 

参照学術論文
Liu and Zhang et al., 'The giant short-faced hyena Pachycrocuta brevirostris(Mammalia, Carnivora, Hyaenidae)from Northeast Asia : A reinterpretation of subspecies differentiation and intercontinental dispersal' (2021)
 
Jiangzuo et al., 'A huge Pachycrocuta from the middle pleistocene loess in Luoning County, central China, and the evolution of mandible within Pliocrocuta-Pachycrocuta lineage' (2022)
 
Pérez-Claros, 'Unravelling the origin of the brown hyena (Parahyena brunnea)and its evolutionary and paleoecological implications for the Pachycrocuta lineage' (2024)
 

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