the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

パレオパンテラ属とウンピョウ

2023年03月31日 | ネコ科猛獣の話
Newly proposed genus Palaeopanthera  and its position relative to Neofelis
 
2023年3月30日発表の最新知見


更新世ウンピョウ 復元画  the Pleistocene Neofelis sp. (hypothetical restoration)
Image by ©the Saber Panther(Jagroar)(All rights reserved)
 


ウンピョウ属の基底種について、何度かご質問がありました。以前にも指摘したように、ウンピョウ系統は熱帯雨林に分布してきたこともあり、化石が残りにくいことが言及されています。ウンピョウ系統の進化史については、化石の発見がおぼつかない以上、ゴーストタクソンを措定することで良しとする他は、ないと思うのです。
 
…と、私も半ば以上あきらめていましたが、これも何かの機縁だと思い、もう一度、調べてみました。そうしたら、すごいタイミング、ジャックポット。
 
ョウ亜科基底分類群の進化史、とりわけウンピョウ属の起源ということについて、現状では決定的とも考えられる最新の研究が、3月29日(日本時間3月30日です。今日が31日)に発表されています。探してみるものです。
 
(Hemmer, 'The evolution of the palaeopantherine cats, Palaeopanthera gen. nov. blytheae (Tseng et al., 2014) and Palaeopanthera pamiri (Ozansoy, 1959) comb. nov. (Mammalia, Carnivora, Felidae)', 2023)
『Palaeobiodiversity and Palaeoenvironments journal』 2023年3月29日掲載

 
何年も前に、チベット・ヒマラヤ北西部のザンダ累層で発見された大型ネコの頭骨が、ヒョウ属種、パンテラ・ブリテエ(Panthera blythea)として分類され、ユキヒョウとの類似などが論じられたことは、ご存知かもしれません(このブログでも当時、詳しくお知らせしたものです)。しかしこのザンダの標本、眼窩下孔の位置など形質差異も大きく、のちにヒョウ属への分類が否定されるに至っています。
 
さらに、第四小臼歯のパラコーン構造など、当初、ザンダ標本に特有とみなされた形質が、更新世中期のウンピョウ属古亜種(Neofelis nebulosa primigenia)にも共通することが分かったといいます(この時代のウンピョウ属の古亜種が知られていたということが、まず驚きですが)。
他方、ザンダ標本の歯形は全体的にウンピョウ属よりもアルカイックで特化性に乏しく、祖先ネコの一つであるプセウダエルルスの歯形状に類似するとのこと。
 
こうした諸点を踏まえ、ブリテエは新たな分類群、「パレオパンテラ属 Palaeopanthera」に分類され、学名はパレオパンテラ・ブリテエPalaeopanthera blytheaとなっています。中新世後期の地層で見つかり、2020年に「ミオパンテラ属」(Jiangzuo et al., 2020)の学名で記載があった標本も、同形質であるため、やはりパレオパンテラ属に帰属されることとなったようです(Palaeopanthera pamiri)。
 
そして、これらよりも特化の進んだ(しかし、共有形質を有する)現生ウンピョウ属二種は、パレオパンテラ系統の生き残りである、とする仮説が提示されています。
 
ウンピョウの直系祖先が特定されたわけではありませんが、ウンピョウ属はパレオパンテラ属とクラスター分類され、彼らの共通起源は中新世後期・初頭に遡り、その揺籃の地は中央アジア北部であろうということ。

 
ところで、Chatar et al.(2022)の系統樹ではウンピョウ属と「パンテラ・パレオシネンシス Panthera palaeosinensis」がクラスター分類され、後者のヒョウ属への帰属が不可と示されたことについて、この記事の本文で述べました。
ウンピョウ属とP. palaeosinensisが共通祖先から分岐したのは、鮮新世のザンクレアン期に遡ることが示されています(Chatar et al., 2022)。

Hemmer(2023) はパレオシネンシス種については言及していないので、ここからは私の仮説(憶測)になりますが、パレオシネンシス種も上述のブリテエ種やパミリ種と同様、パレオパンテラ属に新規分類される可能性が高い(といって悪ければ、少なくともその可能性がある)とみています。現状、ヒョウ亜科の分岐を系統樹的に大雑把に示せば、パレオパンテラ属ーウンピョウ属ーヒョウ属というように分岐していった様子が、うかがえるでしょうか。

 
ウンピョウ系統については言わずもがな、ブリテエ種の発見以降、ヒョウ亜科の系統発生史の解明はお世辞にも進捗していなかったので、こうした新しい見解の提示は貴重だと思います。私見では、パレオシネンシスの分類如何(今後、パレオパンテラ属、ウンピョウ属、ヒョウ属のいずれの帰属に落ち着くのか)、これは注目するにしくはなし、です。
 
 

 



パラマカイロドゥス属種)生体復元画

(パラマカイロドゥスには、P. palaeosinensisとウンピョウの「共通祖先筋」の姿を、思い重ねてしまいます
イラスト Images and text by ©the Saber Panther(Jagroar)(All rights reserved)
 

イラスト&文責 Images and text by ©the Saber Panther(Jagroar)(All rights reserved)
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13 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
The Softer Side of Sabercats (flowerconnection)
2023-04-01 08:38:47
今日、たまたま、次のような記事を読んで、
https://getpocket.com/explore/item/the-softer-side-of-sabercats?utm_source=pocket-newtab
その直後に、このJagroar.deviantartさん(なんとお呼びすればいいですか)の記事に辿りつき、おもしろく読ませてきただきました。
大型ネコ、大好き、というわたしです。
Jagroar.deviantartさんの記事は内容的に読み飛ばせるものではないので、ぼちぼちとゆっくり読ませていただきます。
記事を書いてくださり、ありがとうございました。
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Unknown (管理人)
2023-04-01 10:03:12
flowerconnectionさん

見つけてくださり、ありがとうございます。
とても面白い記事で、剣歯猫の親離れするまでの期間の長さや、社会性、更には獲物のやわらかい部位だけでなく、骨など固い部位にもアクセスできた可能性が論じられていますね。剣歯猫の長い犬歯は、旧来言われていたよりも頑丈であったことを示す事例が出てきています。

Jagroar.deviantartというのは、私のギャラリーサイトのアカウントでして、そちらでは作品の発表はもちろん、ここで書いているようなことを英語で展開しています。分かりづらくて申し訳ありません(;'')。
今後もぜひ立ち寄ってくださると、嬉しいです(^^)
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フォロワー登録 (flowerconnection)
2023-04-01 14:03:48
はい、ときどき記事を読ませていただきたいのですが、フォロワー登録をすることはできないのでしょうか。登録をしておけば、記事を逃さずに済みます。
ここのブログにおいては、saberpantherさんとお呼びした方がいいですか。
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ありがとうございます (管理人)
2023-04-01 21:27:10
登録してくださっている方々もいるんですよね…なぜできないのか、分かりかねるのですが、私がgooブログの古いフォーマットを使用していることが原因かもしれません。現状、いいね、などのリアクションも、PCからではできないみたいで(自ら読者とのつながりを制限してしまっているようで、心苦しいですね;)。フォーマットを変更したり、記事幅を変えたりなど、遠からず工事をしてみるつもりです。ご検討、ありがとうございます。

次には、更新世のとある地域の大型動物群をフィーチャーする予定です(ネコ科猛獣も含まれているかも?)。呼び方は考えたこともないのですが、saberpantherで全然大丈夫です。
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ブログ・ユーザー設定 (flowerconnection)
2023-04-02 08:28:12
saberpantherさん、度々お邪魔します。差し出がましいかもしれませんが、設定の仕方について見てみました。コンピュータで投稿なさっているんですよね。
それなら、わたしの画面と同じはずで、「編集トップ」の左側に並んでいるメニュから「ブログ・ユーザー設定」を選びます。そうすると、プロフィール設定などが出てきます。そのページの下の方に、「ブログ記事・画像表示」というのがあり、そこで、「リアクションボタン」「フォローボタン」などを操作してみれば、わたしにもフォロワー登録ができ、「いいね」等のリアクションもつけることができるようになるかもしれません。
お節介なことを申し上げましたようでしたら、ご容赦ください。
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Unknown (管理人)
2023-04-04 06:32:23
いえいえ、ご丁寧に本当にありがとうございます。ブログ・ユーザー設定において、ご指摘いただいた設定は全て(「表示する」にチェックして)済ませているのですが・・・フォロワー登録等できないのだとすると、おかしいですよね。ブログ上での操作の選択/表示などに変化が見られないところを見ると、古いテンプレートを変更する以外にないのかな、と思われます。ただ、そうするとこれまでの記事の文字列など全て変形してしまうはずで、結構思い切って工事していく必要がありそうです。お時間いただけるとありがたいです。

ご厚意に感謝します。(o_ _)o
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Unknown (Unknown)
2023-04-04 09:59:19
何度もしつこくてすいませんでした。遂に、ウンピョウ属2種の基底種となんらかの繋がりがあるかもしれない種が分かったんですね。
まだはっきりしてないようですが。
でもそうなるとユキヒョウの基底種らしいのが違うとなると今度はユキヒョウの基底種を知りたくなりますね
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Unknown (管理人)
2023-04-04 15:40:30
ネコ科の現生種については、遺伝的系統解析の成果で、各種の分岐時期は大まかに特定できている(例えば、姉妹種であるトラとユキヒョウの分岐時期)ようですが、それらの年代に該当する標本が化石記録として判明している例は、ほとんど無いのではないでしょうか。ヒョウ属各種というのは形質、遺伝的にも近似し、進化の過程で各種交配なども起きていますから、「基底種」の特定自体、容易ではなさそうです。

今回のパレオパンテラ属に絡めるわけではないですが、ヒョウ亜科の起源が中央アジア北部にある、とする説は、広く同意を得ているようですが。

ユキヒョウについては、更新世中期初頭にまで遡る、欧州分布の古亜種が近年記載されているようで、これ自体、大変な成果だと思います。
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Unknown (Unknown)
2023-04-04 19:10:10
ありがとうございます。

まだまだ詳しく調査されるの時間かかるんでしょうが、ウンピョウ属2種の基底種が判明するのも近いかもしれませんね。
ところでユキヒョウの最古種の事はどこに掲載されてるんでしょうか
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Unknown (管理人)
2023-04-04 21:29:44
フランス・タウタヴェルで見つかった更新世中期初頭のユキヒョウ古亜種(Panthera uncia pyrenaica)についても、Hemmer博士が下顎骨の子細な報告を発表しています('An intriguing find of an early Middle Pleistocene European snow leopard, Panthera uncia pyrenaica ssp. nov. (Mammalia, Carnivora, Felidae), from the Arago cave', 2022年発表)。
オンラインで閲読可能。

更新世中期初頭の段階のユキヒョウは、現生のものに比して歯が相対的に小さく、ユキヒョウの顕著な特徴の一つである大きな歯(他のヒョウ属種と比して歯が相対的に大きい)は、後発的獲得形質であることが論じられています。

この論文では更新世中期終盤に中国・周口店に分布したユキヒョウ古亜種についても言及があり、周口店のユキヒョウは、既に現生個体群と同程度に大きな歯を有するとのこと。パレオパンテラ属分類を主唱するHemmer博士ですから、blytheae種についても、当然言及がみられます。
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