
サムネ画像はアジアゾウ属(Elephas) の史上最大種、エレファス・アタヴス Elephas atavus を描いた生体復元画

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また、DeviantArt Jagroarにて英文記述を展開してきたのですが、あちらに日本語での記述も付加することにしました。なので、DeviantArt Jagroarをメインにチェックしてください。
引越し先でもご愛顧の程よろしくお願いします。移行までにあと数回、ここでも更新しますが、その第一弾が以下の記事になります。
【解説】
〈 recki がパレオロクソドン系統とエレファス系統とに分かたれた〉
エレファス・アタヴス Elephas atavus (当復元画)は、鮮新世後期から更新世前期にかけて、アフリカ大陸東部と南部に分布した巨ゾウ。アジアゾウ属で史上最大種であり、ケニヤの東タルカナのクービ・フォーラ地層で見つかった個体は、単一個体の完全骨格で、肩高が4.5mに達する唯一の例として知られています。
大腿骨の癒合度から成長期にあった個体と推測され、最終的には肩高4.5m超に達した可能性があります(Larramendi, 2015)。「長鼻類史上最長身」の種類とみても、大過ないでしょう。Larramendi (2015) 算出の推定体重は13トン。
このクービ・フォーラ標本は、伝統的には「パレオロクソドン・レッキ Palaeoloxodon recki 」か 「エレファス・レッキ Elephas recki 」という学名の下、分類されてきました。さらに、recki にはアフリカ大陸に五つの亜種(Elephas / Palaeoloxdon ①recki brumpti, ②recki shungurensis, ③recki atavus, ④recki ileretensis, ⑤recki recki の計5亜種)が存在するとされてきましたが、この仮説は覆りつつあります。それぞれの間に形態的差異が再確認され、いくつかの亜種を固有種とみなす必要が出てきたのです。
H. Zhang(2020)がマンチェスター大学で行ったレクチャー内容に準拠すると、recki recki はパレオロクソドン属に分類されるべきで、その場合、同属では既知の最古の種ということになるはずです。他方、アフリカには recki brumpti から recki atavus に続く、パレオロクソドン属とは無関係のアジアゾウ属の進化系統も並存したことが示されました。先に recki がパレオロクソドンにもエレファスにも分類された経緯をお話ししましたが、これは、どちらの特徴を有する「亜種」を分析対象とするかによって、分類が左右されていたためと考えられます。
いずれもグレージング適応の高歯冠の臼歯であることも、正確な分類を困難にする一因だったのでしょう。
クービ・フォーラの巨大標本は 亜種 recki atavus に該当するのでアジアゾウ属になりますが、さらなる後続の研究を経て、固有種 Elephas atavusとしての分類に落ち着きました(私信, Zhang, 2022)。
注意してほしいのは、Palaeoloxodon recki 分類が無効化するわけではなく、エチオピア北部分布の個体群(recki recki と recki ileretensis)は Palaeoloxodon recki 分類が維持されており、年代の古い二つのタクソン(recki atavus と recki brumpti)がアジアゾウ属に同定された、ということです。このため、これらElephas種から'recki'の種名が外されて、「Elephas atavus」(200万年~188万年前、ケニヤ東タルカナ) と「Elephas brumpti」(350万年~285万年前、エチオピア南西部) という「固有種」の扱いになることは、当然の帰結ともいえるでしょう。
ブルンプティ(E. brumpti)について、Zhang (2020) は鮮新世後期にインドに分布した祖先ゾウのエレファス・プラ二フロンス (Elephas planifrons) のシノニムである可能性を示唆していました。この仮説が正しいとすると、アフリカ起源のプラニフロンス(=ブルンプティ)がインド亜大陸に移入した後、アジアにて現生アジアゾウの祖先系統が派生した経緯が見えてくるでしょう。もっとも、E. brumpti と E. planifrons を同一種とする見解については、後続のSanders(2023)などは否定していますが。
〈パレオロクソドン・レッキからパレオロクソドン・ジョレンシスへと続く進化系統〉
また、2019年にはケニヤのナトドメリの更新世後期地層から発掘された Elephas jolensis の形態研究が発表され、本種は recki から進化したか、あるいはその進化の末期段階であるとする仮説が示されました(Manthi et al., 2019)。エレファス・ジョレンシスは汎アフリカ規模の分布、レッキのものと極めて類似した頭蓋ー歯形形態を有しており、レッキと同様にストリクトなグレーザーであったことでしょう。
更新世中期–後期境界の頃の気候変動は、レッキ - ジョレンシスというグレージング(草を主食とすること。ブラウジング(樹葉を主食とする)と対比される)に特化した系統の衰退を招き、代わって混合フィーダーのアフリカゾウ属の繁栄を促したとされています。
もっとも、Manthi et al.(2019)は 'recki' の亜種を特定してはいませんでした。私はかねて、エレファス・ジョレンシスの祖先が上記亜種表記のどの「亜種」に該当するか知りたかったのですが、最近発表されたアフリカのパレオロクソドン属研究(Luyt et al., 2025)の中で、パレオロクソドン・レッキ(上記の亜種表記における'recki recki')から進化したとする見解が示されました。従って、学名もエレファス・ジョレンシスからパレオロクソドン・ジョレンシス Palaeoloxodon jolensis にあらためられています。
Luyt et al.(2025)は、パレオロクソドン・レッキとパレオロクソドン・ジョレンシスの歯エナメルの炭素と酸素同位体値を分析し、食性や水源利用の柔軟性を評価することで、絶滅の原因を考察しています。結果として、両種は主にC4植物(草)を食べていたが、C3植物(樹葉)も一部摂取していたこと、水源利用では、初期の個体群は安定した水源に依存していたが、後期の個体群は「(降雨などによる)一時的な水源」も利用したことが示されました。
要は、アフリカのパレオロクソドン属種は気候変動に順応し、食性や水源をある程度柔軟に変えることができていたということ。更新世中期–後期境界に「急速に衰滅した」とするManthi et al.(2019)の結論とは対照的に、レッキからジョレンシスへの進化は漸進的に進み、この系統は更新世後期のジョレンシスの絶滅をもって終焉した、という説が提示されています。
〈アフリカのエレファス系統の進化史、絶滅パターンは未解明〉
アフリカのエレファス系統(アタヴスと、ブルンプティ(上述のように、ブルンプティはE. planifronsのシノニムである可能性もある))から現生アジアゾウの祖先系統が派生したことにも言及がみられますが、Luyt et al.(2025)はパレオロクソドン・レッキとジョレンシスの標本のみ(最古でも120万年前までの化石)を分析対象としているため、エレファス系統の絶滅原因やアジアゾウへの分化過程についての考察は割愛されています。従って、新第三紀から第四紀にかけてアフリカに分布したグレージング長鼻類の絶滅について、全体像を提示するまでには至っていません。エレファス系統の絶滅パターン等も網羅したより包括的な分析は、今後の重要な課題となるのでしょう。
(表1. 鮮新世~更新世アフリカのグレージング長鼻類の系譜)
エレファス系統 Elephas brumpti (Elephas planifrons?) - Elephas atavus - Elephas planifrons? - Elephas maximus
パレオロクソドン系統 Palaeoloxodon recki ileretensis - Palaeoloxodon recki recki - Palaeoloxodon jolensis
しかし、レッキからジョレンシスへのパレオロクソドン系統と、巨大種アタヴスを含むエレファス系統の区別は、より鮮明化したことは確かです(表1)。同じくグレージングに特化していながら、進化系統を異にするゾウがアフリカに並存していたということ。最終的にはそれらいずれも混合フィーダーのロクソドンタ系統(アフリカゾウ)に「置き換えられた」という事実も、興味深いですね。
Coming up next
次回記事では新しいオリジナル復元画とともに、化石長鼻類のある興味深い系統について、取り上げます。この記事では大型肉食獣も登場するなど、結構盛りだくさんの内容となります。さらに次の記事では、あのネコ科猛獣も?・・・是非ご覧ください。
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【参照学術論文】
Manthi et al., 'Late Middle Pleistocene Elephants from Natodomeri, Kenya and the Disappearance of Elephas in Africa', 2019
Zhang, 'Evolution and Systematics of the Elephantidae (Mammalia, Proboscidea) from the Late Miocene to Recent. University of Bristol, Bristol, UK', 2020
Luyt et al., 'Stable Isotope Analysis of Pleistocene Proboscideans from Afar(Ethiopia) and the Dietary and Ecological Contexts of Palaeoloxodon', 2025
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