元高校教師のブログ[since2007/06/27]

地元仲間とのウォーキング、ハイキング、サイクリング、旅行の写真入報告。エッセイや意見も。

会津にあった私のピッケル

2007-10-03 12:35:32 | 我が未刊詩集『蝉の死と』より

  亜麻色の髪の少女を思わせる 私のピッケル
 すらりと均整のとれた 亜麻色のシャフト
 二十代の初め 夢中で山に登っていた頃
 ある篤志家が 私の元に送り届けてくれた

 アメリカから取り寄せた 亜麻樫の柄
 ピックとブレードは こちらの鍛冶に打たせた

 それは どの山にも 私についてきた
 ラッセルで掻き分けた 燧ケ岳の雪の稜線
 思えば春の 金峰山の北斜面
 アイスバーンに苦闘した 夜叉人峠
 ---いつも いつも 一緒だった

 あれは 剣岳の帰りだったか
 松本の居酒屋で ビールを しこたま飲んだ
 駅のホームで 気づいたときは
 キスリングの背中に括り付けておいた
 ピッケルが消えていた
 季節は 夏の終わりだったが
 それは 私にとって 青春の終焉

 あれから何十年 経っただろうか
 季節の移ろいを求めて 会津に行った
 晩秋の 山里だった
 ペンションの食堂で 夕食をたべていた

 と そのとき 私の目が点になった
 ログハウスの壁に 括り付けられていたのは
 紛れも無く 私のピッケルだった

 懐かしさと言おうか
 いとおしさと言おうか
 ---それにしても どうして こんな所に---

 私はピッケルの遍歴に 思いを馳せる
 亜麻樫の柄の 私のピッケル
 
 でも私は 手も触れず
 問いただすこともせず
 翌朝 オーナーのもとを去った

 だって だって ---
 新しい ピッケルを 
 もう 買ってしまったのだ


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