働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

高度プロフェッショナル制度 対象業務素案を厚労省が提示

2018年11月01日 | 働き方改革関連法
労働政策審議会・労働条件分科会(第148回が2018年10月31日に開催され、事務局(厚生労働省)から働き方改革関連法の省令案の一つとして高度プロフェッショナル制度対象業務(素案)が示されました。

事務局(厚生労働省)から提示された対象業務素案について、日本経済新聞の報道によると、労働側委員からは「対象範囲が広い」と懸念する声が出たとのことです。

高度プロフェッショナル制度の対象業務に関する議論のポイントは、参議院附帯(付帯)決議20に記載されたように「高度プロフェッショナル制度の適用労働者は、高度な専門職であり、使用者に対して強い交渉力を持つ者でなければならないという制度の趣旨に鑑み、政府は省令でその対象業務を定めるに当たっては対象業務を具体的かつ明確に限定列挙する」ことではないでしょうか。

また、参議院附帯(付帯)決議20には「法の趣旨を踏まえて、慎重かつ丁寧な議論を経て結論を得ること」と書かれており、言うまでもなく、労働政策審議会において慎重かつ丁寧に議論されることが求められています。

高度プロフェッショナル制度の対象業務(素案)
1.対象業務の要件等
(1)高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との 関連性が通常高くないと認められる業務であること。(法第41条の2第1項第1号)

(2)使用者は「始業・終業時間や深夜・休日労働など労働時間に関わる働き方についての業務命令や指示などを行ってはならない」「実際の自由な働き方の裁量を奪うような 成果や業務量の要求や納期・期限の設定などを行ってはならない」。 (参議院厚生労働委員会附帯決議21、2018年6月28日)
*省令で、「業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示(業務量に比して著しく短い期限の設定その他の実質的に当該業務に従事する時間に関する指示と認められるものを含む。)を受けて行うものを除く」ことを規定する。

(3)当該事業場における労使委員会が決議した業務であること。(法第41条の2第1項)

2.対象業務(素案)
平成27年労働政策審議会建議において示された(1)から(5)までの各業務について、次の業務を対象とすることが考えられる。

(1)金融商品の開発業務
「金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務」
*「金融商品」とは、金融派生商品(金や原油などの原資産、株式や債権などの原証券の変化に依存してその値が変化する証券)及び同様の手法を用いた預貯金等をいう。

<対象になり得ると考えられる業務>
・金融取引のリスクを減らしてより効率的に利益を得るため、金融工学のほか、統計学、数学、経済学等の知識をもって確率モデル等 の作成、更新を行い、これによるシミュレーションの実施、その結果の検証等の技法を駆使した新たな金融商品の開発の業務

<対象にならないと考えられる業務>
・金融サービスの企画立案又は構築の業務
・金融商品の売買の業務、資産運用の業務
*「(2)金融商品のディーリング業務」に該当する場合があり得る。
・市場動向分析の業務
*「(3)アナリストの業務」に該当する場合があり得る。
・保険商品又は共済の開発に際してアクチュアリーが通常行う業務
*アクチュアリ-:確率論・統計学などの数理的手法を活用して、主に保険や年金などの分野で不確定な事象を扱う理数の専門職
・商品名の変更のみをもって行う金融商品の開発の業務
・専らデータの入力・整理を行う業務

(2)金融商品のディーリング業務
「資産運用の業務」「有価証券の売買その他の取引の業務」から範囲を限定

<対象になり得ると考えられる業務>
・投資判断に基づく資産運用(指図を含む。)の業務(資産運用会社等におけるファンドマネージャーの業務)
・投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務(資産運用会社等におけるトレーダーの業務)
・証券会社等におけるディーラーの業務(自社の資金で株式や債券などを売買する業務)

<対象にならないと考えられる業務>
・有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断を伴わない顧客からの注文の取次の 業務
・ファンドマネージャー、トレーダー、ディーラーの業務の補助の業務
・金融機関の窓口業務
*トレーダー・ディーラーの業務であっても、「業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示(業務量に比して著しく短い期限の設定その他の実質的に当該業務に従事する時間に関 する指示と認められるものを含む。)を受けて行うもの」は対象外。
したがって、市場が開いている時間はそこに張り付くよう使用者から指示され、実際に張り付いていなければならない業務や、指示された取引量をこなすためには終日取引を継続し続けなければならない業務は、実質的に時間に関する指示を使用者から受けているものとなり、対象業務にはならない。

(3)アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
「有価証券市場における相場等の動向または有価証券の価値等の分析、評価またはこれに基づく投資に関する助言の業務」
*「有価証券市場における相場等の動向」とは、株式相場、債権相場の動向のほかこれに影響を与える経済等の動向をいう。
*「有価証券の価値等」とは、有価証券に投資することによって将来得られる利益である値上がり益、利子、配当等の経済的価値及び有価証券の価値の基盤となる企業の事業活動をいう。

<対象になり得ると考えられる業務>
有価証券等に関する高度の専門知識と分析 技術を応用して分析し、当該分析の結果を踏ま えて評価を行い、これら自らの分析または評価結果に基づいて運用担当者等に対し有価証券の投資に関する助言を行う業務

<対象にならないと考えられる業務>
・ポートフォリオを構築又は管理する業務
*「(2)金融商品のディーリング業務」に該当する場合があり得る。
・一定の時間を設定して行う相談業務
・専ら分析のためのデータ入力
・整理を行う業務

(4)コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
「顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項 に関する考案又は助言の業務」

<対象になり得ると考えられる業務>
・企業に対して事業・業務の再編、人事等社内制度の改革など経営戦略に直結する業務改革 案などを提案し、その実現に向けてアドバイスや支援をしていく業務

<対象にならないと考えられる業務>
・調査、分析のみを行う業務
・調査、分析を行わず、助言のみを行う業務
・専ら時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない相談業務
・個人顧客を対象とする助言の業務

(5)研究開発業務
「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」

<対象になり得ると考えられる業務>
・新たな技術の開発、新たな技術を導入して 行う管理方法の構築、新素材や新型モデル
・サービスの開発等の業務

<対象にならないと考えられる業務>
・作業工程、作業手順等の日々のスケジュールが使用者からの指示により定められ、そのスケジュールに従わなければならない業務
・既存の商品やサービスにとどまり、技術的改善を伴わない業務(第148回労働政策審議会 労働条件分科会 資料No.2より)

*参考資料(厚生労働省ホームページより抜粋)
・条文
一 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この項において「対象業務」という。)

・平成27年建議4(1)
具体的には、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、 研究開発業務等を念頭に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で適切に規定することが適当である。

・参議院における附帯(付帯)決議
20 高度プロフェッショナル制度の適用労働者は、高度な専門職であり、使用者に対して強い交渉力を持つ者でなければならないという制度の趣旨に鑑み、政府は省令でその対象業務を定めるに当たっては対象業務を具体的かつ明確に限定列挙するとともに、法の趣旨を踏まえて、慎重かつ丁寧な議論を経て結論を得ること。
労使委員会において対象業務を決議するに当たっても、要件に合致した業務が決議されるよう周知・指導を徹底するとともに、決議を受け付ける際にはその対象とされた業務が適用対象業務に該当するものであることを確認すること。


最新の画像もっと見る