働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

裁量労働制実態調査結果分析報告(裁量労働制実態調査検討会)

2021年08月23日 | 裁量労働制
裁量労働制実態調査結果分析報告(裁量労働制実態調査検討会)
厚生労働省の第7回(最終回、2021年6月25日)「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録が2021年8月20日に公開されたが、検討会議事録を読むと,、川口大司・東京大学大学院経済学研究科教授が資料に基づいて裁量労働制実態調査結果に関する分析報告を行っている。

資料1 裁量労働制実態調査の概要(PDFファイル)

川口大司・東京大学教授による裁量労働制実態調査結果分析報告
第7回(最終回、2021年6月25日)「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録に記載された川口大司・東京大学教授による裁量労働制実態調査結果分析報告は長文になるがそのまま記載。

「川口構成員 (略)今回の二次分析の主な目的は適用労働者と非適用労働者で、あるいは非適用事業場と適用事業場で労働時間や健康状態にどういう差があるかということを明らかにすることです。この際、労働者や事業場の属性が異なっている可能性を調整した上で、分析を行ってまいりました。

それで、この分析は、東京大学政策評価研究教育センターのほうでやらせていただいておりまして、後ほどメンバーについても記述させていただきましたけれども、こちらに御参加いただいております黒田先生にも参加していただいて行った分析でございます。

それでは、まず、最初にデータの分析、データについてと分析について、お話をさせていただいて、その後、推定の結果で自由記述の結果についても、テキスト分析をしたものでございますので、それについて説明をしたいと思います。

事務局の方の御説明と重複するのですけれども、このデータには、4つの調査票があります。労働者票と事業場票です。それぞれに関して、裁量労働制の適用と非適用というので2つ分かれているので、合計4種類ということで、それを比較しているという形で分析を行いました。

まず労働者票を使った分析を紹介します。アウトカムとしては、労働時間ですとか、睡眠時間、今日はちょっと割愛させていただきますけれども、前年からの労働時間の変化や健康状態というものを分析いたしました。

それで、処置変数というのは、政策が当たっているかどうかという変数ですけれども、適用労働者に関しては1、非適用労働者に関しては0というような形の分析を行っています。

この説明変数ですが、属性がずれているので、そこを整理したいということなのですけれども、それらの属性として使ったのは、こちらの5ページに書いてあるような変数のリストとなっておりまして、労働時間管理の方法ですとか、あと、性別年齢、学歴といったような変数が入っています。

家族の状況ですとか、勤続年数も入っておりますし、あと、役職、職種といったようなものも整理された分析という形になっております。

それで、サンプリング構築に関して申し上げると、今の属性の変数が、基本的に全て入っている変数を分析の対象にしておりますので、事務局のほうから御発表いただいた資料と、若干サンプルサイズがずれるというところがあることは、御了承いただければと思います。

それで、まず、サンプルサイズなのですけれども、大体7万2000人ぐらいの回収がございます。そのうち、適用になっている人が、3万9000弱、適用でない人が、3万4000というような形で、これは、サンプル設計のとおり、ほぼバランスするように労働者票は集まってきているという形になっておりまして、専門型と企画型の比率は、85%と15%というような形になっております。

それで、実際に裁量労働制が適用されている人に関して、裁量の程度が大きいのかというところを検証しているのですけれども、業務の基本的事項に関する裁量の程度は、適用労働者のほうが大きいということが、この表から分かります。

具体的な仕事の内容・量に関する裁量の程度ということに関しましても、上司に相談の上、自分が決めているとか、上司に相談して、自分が決めているという選択肢を選ぶ方が、適用労働者のほうが多いということでございますので、おおむね裁量労働者のほうが、裁量の程度が大きいということが確認できます。

報告、進捗の頻度に関してですけれども、これは、ややニュアンスがあるということになっているのですけれども、上司に相談せず、自分が決めているという人は、適用労働者のほうが多いということが分かりました。

時間配分あるいは業務遂行の方法なのですけれども、これに関しても、上司に相談せず、自分が決めているという選択肢を選ぶ方は、適用の労働者のほうが多いということが分かっております。出退勤時間に関しても、適用労働者のほうが裁量の程度が大きいということが分かります。

次に、労働時間の差異についてですが、週当たりの労働時間は、非適用の労働者の方が43.6時間前後ということで、適用の方は46時間程度ということで、およそ週当たり2時間の差がございまして、これは統計的に有意に異なるということになっております。

睡眠時間に関しては、平日と休日で違う結果が出ているのですけれども、ならして見ると、おおむね同じような睡眠時間をとるということが分かります。

年収に関していいますと、適用労働者のほうが、約2割年収が高いということが分かります。

それで、労働時間に関して、適用労働者に関しては赤、非適用労働者に関しては緑でヒストグラムを作ったのですけれども、これを見ますと、非適用労働者のほうが、労働時間が長い傾向があるということが分かります。

睡眠時間に関していうと、休日と平日を一定の仮定のもとにならすと、余り差は見られないということが分かります。仕事がある日とない日で、やや結果が違うというのは、先ほど申し上げたとおりでございます。

年収なのですけれども、この自然対数値に関していいますと、適用労働者のほうが、年収が高いと、赤いほうが、右側に分布が全般的に寄っておりますので、年収が高いということが、分布全体からも見て取ることができます。

今までの結果が、労働者票に基づく分析結果のわけですけれども、次に事業場票のほうの分析に移りたいと思います。一人当たり、一日当たりの平均労働時間というものを計算しまして、各業種ごとに調査票ごとに分かれているので、それで分析を行っております。

ここで労働時間の合計を労働日数合計から割って休憩時間を引くというような操作を行いましたが、労働時間というのは、事業場がタイムカード、PCのログイン、自己申告などの方法によって把握している労働時間という形になります。

今のが目的変数ですけれども、説明変数としては、企業や事業場の属性というものを整理しております。金融派生商品開発をやっている人もこの中に入っているのですけれども、n数が16ということですので、分析の中には含めていません。

先ほどと同じように留意点が指摘できまして、サンプル構築に関しては、全ての変数が入手可能なものに限定しておりますので、生データとややサンプルサイズが違うという点があることは御留意ください。

労働時間の把握の方法なのですけれども、適用事業場はタイムカードやICカードでの時間管理が非適用とくらべて少ない一方で自己申告が多いといえます。ですので、裁量労働が適用されている方は、機械的な形で労働時間が管理されているというよりも、自己申告で管理されているというケースが多いということが分かります。

一人一日当たりの労働時間というのを計算して、その分布を見てみたものが、こちらのグラフになりますけれども、赤が適用、緑が非適用という形になっておりまして、これは、おおむね労働者票と同じような結果が得られているわけですけれども、赤の分布が全体的に右に寄っているということで、裁量労働制で働いている方がいらっしゃる事業場のほうが、労働時間が長いというような実態が出てきております。

それで、ほかの職種に関しても、おおむねそのような形になっておりまして、これは、後ほどテキスト分析のところでやや関わってくるので申し上げておきますと、教授研究という大学関係者の事業場が比較的多いという点がございます。

それで、これからは、今、申し上げたような属性を制御した上で、労働時間などが異なっているか、あるいは健康状態が異なっているかというような分析を行ってございましたので、そちらの結果を御紹介申し上げたいと思います。

これは、1週当たりの労働時間の裁量労働制が適用されている労働者と、されていない労働者の差をまとめたものなのですけれども、何も制御しないと2.1時間の差がありますと。それで、非適用の方の平均時間が約44時間ですので、2時間差があるというのは、それなりに大きな差のわけですけれども、この属性をコントロールすると、差が1.2時間ほどに縮まると。

ですので、もとより労働時間が長いタイプの属性の方というのが、裁量労働のもとで働いているようなことがあって、属性を制御するというのが極めて重要な操作であるということが、ここから分かります。

同じ業種の中で、裁量労働で働いている人と働いていない人もいるのですけれども、そこは統計的に有意な差がないという結果が得られております。

睡眠時間に関して申し上げても、これは、やはり属性を整理することが重要だということを示唆しているような結果なのですけれども、何もしないと、裁量労働で働いている人と働いていない人は、睡眠時間が同じだというような、先ほどお見せしたような結果が得られるのですけれども、属性を制御すると、むしろ裁量労働で働いていらっしゃる方のほうが、睡眠時間が長いかもしれないというようなことが分かります。

差は0.04時間で非適用の方の平均睡眠時間が6.52時間ということですので、ほぼ無視できる差だということだと思いますけれども、総じて睡眠時間に関して言うと、裁量労働の適用の有無というものは、睡眠時間には影響を与えていないということが分かるかと思います。

年収に関していうと、1列目の何も制御していないものですと2割、ログポイントで0.2年収が高いということが出てくるのですけれども、裁量労働で働いている方々は、年収が高いような属性をお持ちなので、それをコントロールすると13%という形になります。

同じ事業場の中で適用労働者と非適用労働者を比べたという、いわゆる固定効果を使った推計でも7.46ポイント裁量労働適用の方のほうが、年収が高いということですので、裁量労働が適用されている人のほうが、おおむね年収が高いというような傾向は見て取れる。ただ、どれぐらい差があるかということに関していうと、2割から7%ぐらいまでかなり幅があって属性をコントロールすることが重要だということが、ここからも見て取れるかと思います。

それが労働者票に基づく分析の結果でございまして、事業場のほうで、また、労働時間を計算しまして、一人の一日当たりの労働時間というものを計算して、適用事業場と非適用事業場での平均値の差というものを見てみるのですけれども、やはり、属性を制御しないと、どの職種で見ても、裁量労働を入れているところのほうが、労働時間が長いという結果が出てくるのですけれども、事業場の属性を制御すると、短くなることが多いというような、労働者票と同じような傾向が見て取れるということだと思います。

これは、ほかの職種に関しての結果でございまして、御覧いただければと思います。いろんな職種で分析をやっておりまして、サンプルサイズが、それほど大きくないというところも職種によってはございますので、正確な推計ができていないというところもございます。

これは、ちょっと強く書き過ぎたかもしれないですけれども、事業場票についての回帰分析のまとめなのですけれども、対象業務ごとに見た場合、ほとんどの対象業務で平均労働時間が長くなったというようなことが見て取れます。

職種によっては、サンプルサイズが十分に得られていなくて、正確な推計ができていないというようなこともあったという点は、留意点として申し添えさせていただきたいと思います。

あと、健康状態に関しては、主観的な健康状態を聞いているわけですけれども、適用労働者と非適用労働者で比較すると、適用労働者のほうが、健康状態が良いとお答えになる確率が高いというようなことが分かります。

もっとも、これは、必ずしも因果関係を示しているものではなくて、健康状態が良いので裁量労働の下で働いていらっしゃるというようなことがあるのかもしれません。ですので、属性のコントロールはしているのですけれども、ここから因果関係まで言えるかというと、必ずしもそうではないのかもしれません。

仕事後の疲労感ということに関しても、ほとんどないという選択肢を選ぶ方が裁量労働制を適用されている方のほうが多いというようなことが、統計的に有意な形で出てきました。

それで、時間に追われている感覚に関していうと、統計的に有意な差はないということでございまして、自分の用事や仕事の用事、家族の用事に、仕事のために集中できないという方に関しても、適用労働者と非適用労働者で統計的に有意な差はありません。それで、よく眠れないということに関しても、ほとんど選択のパターンに、適用労働者と非適用労働者の間での差は見られませんでした。

今、メンタルヘルスの選択肢がいろいろございましたので、全体を通して見てみるとどうだろうかということを調べてみたのですけれども、13点から15点が選択される確率というのは、やや上がる傾向はあるのですけれども、全体を通していうと、特にシステマティックな差があるというところまで言えないのかなと思います。

総じて申し上げると、健康状態に関していうと、適用労働者のほうが非適用労働者と比べて健康状態が良いと答える傾向があると、これは、あくまでも相関レベルなのですけれども、そういう傾向がある。メンタルヘルスに関していうと、統計的な有意な差が見られないということが、おおむね言えるかなと思います。

テキスト分析なのですけれども、これは、やはりかなり大きなサンプルサイズなのですけれども、まず、自由記述をしていただいている方の数が、それほど多くないということと、いろいろ難しい点があるということをあらかじめ申し上げたいと思います。どういうことをやったかというと、4調査分の自由記述の内容をひとまとめにして、テキストデータを作成して、助詞ですとか、そういった意味のない単語というのを削除したうえで、単語の出現頻度についてテキストデータを解析しました。

これは、事業場票を分析した結果なのですけれども、左側が非適用で、右側が適用ということで、これを実際に見てみますと、非適用のほうを御覧いただくと、出現頻度が高いものが、業務ですとか、労働ですとか、企業とか実態とか裁量とか、何か特定のことを意味しているパターンが出てきているかというと、なかなかそうとも言えない。

適用事業場のほうを見てみますと、研究、業務、科学、教授、大学ということで、大学の先生が結構たくさん入っているのだろうなということが分かる。

それで、労働者票に関してやってみますと、適用労働者と非適用労働者で大きく異なっているかというと、必ずしもそうではないのですけれども、事業場の票と比べると、労働者票のほうが残業というキーワードが出てくる確率が高い。

ただ、非適用のほうで、相対度数が、およそ0.05ということでございまして、非適用のほうが、およそ0.07ということで、大きな違いがあるということでもないのかなと思います。

労働時間で分割した分析なども行ってみましたけれども、60時間以上の労働者に関していうと、残業という言葉の出現頻度が高いということで、左側のグラフを御覧いただくと、週当たり労働時間が60時間以上の労働者に関しての話ですけれども、2番目に出てくるわけですね。

相対的な出現頻度が12%ぐらいということで、一方で、60時間未満の方に関していうと、残業という言葉の相対的な出現頻度が0.07ぐらいということで、大きな差が出ておりまして、このことが示唆するのは、テキスト分析は何かを読み取るのは難しいのだけれども、労働時間が長い人に関していうと、残業という言葉がより相対的な頻度としては高く出てくるということで、分析の有効性を示唆するものではあるのかなということかと思います。

それで、裁量労働制の満足度ごとに分けた分析も行ってまいりましたけれども、上位の出現頻度が高い単語というのを見てみると、満足度が高いグループと低いグループでシステマティックに何か違うというようなことでもないのかなということが分かります。これは、適用労働者に関してのグラフになりますけれども、同じようなことがあり得るかなと。

今度は非適用労働者ということでございまして、まとめさせていただくと、裁量労働制の適用に関する満足度別に見たときに、特定の単語に正負の意味づけを見出せるというものが必ずしもないのかなと。

満足度が高い場合も低い場合も、裁量労働制に対しての満足度ですけれども、同じような観点からの自由記述があったというような傾向は確認できたかなと思います。すみません、5分もオーバーしてしまいましたけれども、以上です。」(第7回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録抜粋)

第7回「裁量労働制実態調査に関する専門家検討会」議事録(厚生労働省)


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