働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

労働基準関係法制研究会と労使コミュニケーション

2024年03月18日 | 労働基準法改正
第4回 労働基準関係法制研究会
本日(2024年3月18日)開催される第4回「労働基準関係法制研究会」(「労働基準関係法制研究会」は「新しい時代の働き方に関する研究会」につづいて開設された厚生労総省・有識者会議)資料が厚生労働省の公式サイトに公開されている。この資料には労使コミュニケーションと過半数代表などに関する有識者意見がまとめられ、強い関心をもって読まさせていただいた。

労使コミュニケーションについて(抜粋)
第1回研究会でのご意見まとめ(労使コミュニケーション関係)
(1)集団的・個別的労使コミュニケーションの意義等
・健康経営、従業員のウェルビーイング向上の観点から時間管理・健康管理の仕組みがしっかり実施され、労働組合もモニタリングしているような企業である場合に、そこにデロゲーションを認める余地はあるのかという問題がある。(石﨑構成員)
・調査結果によれば、制度変更等におけるヒアリングでは、5割弱の企業が役員から意見を聴いているにもかかわらず、4分の1程度の企業しか労働者から意見を聴いていない。当事者は労働者であるので、会社が制度を作るとはいえ、労使コミュニケーションが不足しているのではないか。(黒田構成員)
・労働条件を確保するために集団的労使コミュニケーションの役割が重要であるとともに、マイノリティや支援を必要とする者の意見を聞くためには集団が適正にくみ取るというやり方のほか、個別の労使コミュニケーションも重要である。(水島構成員)
労使が関わる手続きについて、労働協約方式も、今後選択肢のひとつとして考えることが重要である。(水町構成員)
・労使コミュニケーションとして、モニタリングやデロゲーション等の様々な機能があるが、どこにどういった問題があるのかという視点で検討が必要である。ま た、集団的な労使コミュニケーションと、個別の多様な労働者の利害とをどう集約して反映させていくかという点は、多様化と集団的規制の調整という観点から重要であるが、法律でどのように規律していくかが難しい。(山川構成員)
働き方が多様化し一律の規制が妥当しなくなってきた中で、多様な現場に合わせるため、各国では法律の基準を労使の合意によって柔軟化させるデロゲーションといった仕組みが採用されており、日本では過半数代表との合意でできるとしている。これが公正に運用されているのか、国の設定する法規範をどう現場に合わ せていくかという論点がある。発想の視点を個人に置き、個人がどう働きたいかサポートしていくことが今後の労働施策として重要である。(荒木座長)

(2)過半数代表者のあり方
特に過半数代表者が多様な働き手の利害を上手く代表できているのかが課題である。規制解除のための存在だったと思うが、実際には労働条件設定についても深く関わる役割を担うようになってきており、制度として適格かということを考えたい。(神吉構成員)
・過半数代表制を法制としてどのようにしていくかがメインの課題であり、意見集約の役割を果たすために必要な前提条件の基盤を整える必要がある。例えば、労働法制を理解し、意見の取りまとめ方を学べる、人材を育てられる環境を整備すべきである。(石﨑構成員)
過半数代表者については、労働組合と異なり、プロセスが保障されていない中で、例えば、過半数代表者が問題意識を持っており協定の締結について使用者と対立したとき、使用者が36協定を締結するために任期中に過半数代表者の改選手続きをするといった状況も聞いたことがある。任期を定めることが適当かも含め、プロセスの在り方についても検討が必要である。(神吉構成員)
・過半数代表者の選出やどうやって職場の方の意見を集約しているのか実態を把握しないといけない。職場の意見集約の活動の時間的、労力的なコストを誰が補 償するのか。過半数代表に選出された方の活動のコスト補償がない中で精神論だけでルールをつくることは難しく、機能する仕組みの検討が必要である。(首藤構成員)
・過半数代表者が適切な役割を果たす上で、適切なサポートがどれほどなされるべきか検討が必要である。現実にどういった配慮がされているのか確認した上で、 どのような配慮をすべきか議論すべきである。使用者による配慮のみならず、例えば労働委員会が担えることや産業別組合が果たせる役割なども議論が必要ではないか。(石﨑構成員)
・労働者が多様化する中で、過半数代表者が意見をどのようにとりまとめるのか、昔より難しくなっている。過半数が推したからといって少数の方の意見をどこ までくみ取るかは重要な課題である。任期を定めて選出する実態もかなりある中で、どう望ましいルールを作るのか。任期を仮に認めたとして、過半数代表者 を選出するときにどう選出するのか、どういった点についてどのような発言が求められるのか議論しないといけない。(安藤構成員)

第3回研究会でのご意見まとめ(労使コミュニケーション関係)
・事業場単位では過半数組合となっていて様々なルールを決めているものの、企業全体では当該組合が過半数組合でないケースは多い。労使協議を企業単位化すると、このような従来の組合の機能が弱体化・消滅し、労使協議が形骸化してしまうのではないか。事業場単位は企業の負担も大きく煩雑であるが、労働者が声が 出せる面がある。現状の改善については、事業場毎の意見集約をどう改善すべきかを先に考えるべき。組合がない場合、過半数代表者がどこまで発言するかというところもあるが、企業単位では各職場の長時間労働など労働の実態を十分考慮した上で協議ができるか懸念している。36協定などは届出で終わりではなく、 遵守されているかチェック機能が必要だが、企業単位でチェック機能が上手く動くか懸念している。労働基準法や労働安全衛生法は最低基準であり、その上で多様性は存在するものと考える。最低基準を逸脱するときの労使協定を考える場合には、何らかの形で気を付けるべきではないか。(首藤構成員)
企業単位化すると多様な労働者の意見を十分に集約できないのではないか。テレワークの導入やIT化も進んでいる中、事業場単位の規制は現実にそぐわないという意見があるが、個々の企業が事業場の範囲を見直せば解決するのではないか。一足飛びに企業単位を目指すことを議論すべきではない。(水島構成員)
・労働基準法だから、労働安全衛生法だからと一律に決めるのではなく、それぞれの規制の趣旨目的を踏まえ、他法制度も見ながら調整すべき課題ではないか。特に労使関係については、組合のない事業場で本当に労使コミュニケーションが機能するかということも含めながら議論すべきではないか。企業単位でみると過半数組合ではないが事業場でみると過半数組合をとる組合が積極的に現場の労使関係を支えていることは確かにあるが、そういうものを阻害しない形でどういう労使コミュニケーションの制度を構築するかが大切。事業場単位で分断化され、ノウハウ等のない事業場において労働者の意見が反映されず、実質的な労使コミュニケーションが果たされていない例がある。企業全体で働く人の意見をどのように集約していくか、多様な働く人の意見が反映されやすい労使コミュニケーショ ンを企業単位に変えるときにどう集約・凝縮していけるか。企業レベルで集約して、企業単位から一人の代表を選ぶのではなく、色んなところから複数の労働者を入れて企業全体で組織と企業で話し合う場を作っていくことが重要。現在の形骸化している日本の実態をどう考えていくのかという観点から制度設計を考えるべきではないか。(水町構成員)
・事業場単位の労使コミュニケーションはICT技術が発展していない状況では有効だったと考えるが、働き方が多様化し、同じ事業場でも異なる働き方、異なる希望を持って働いている人がいる。事業場単位か企業単位かという空間的な区切り方だけでなく、項目毎に望ましい区切り方を議論してはどうか。労使自治として、 一部労働者の代表でしかないにも関わらず、過半数代表者になれてしまうことがあるがそれでよいのか。事業場単位を選んだ場合に、その事業場で働く人の総意 が上手く反映されるかについて、多様化が進む中では上手く実現しなくなっているのではないかと感じている。(安藤構成員)
・個々の事業場の実態を踏まえた労使コミュニケーションの整備をしている場合に限り企業単位化するという考え方であれば良いかもしれない。(石﨑構成員)
• 労働安全衛生の場合、「人」の管理に関することは企業単位、「場所」が重要なファクターであれば事業場、「物や行動」に起因するものは原則事業場単位では ないか。労使コミュニケーションの単位や、責任の所在は事業場単位がしっくりくると思う。企業単位の労働者の意見集約が効率的という面も確かにあり、 「人」の要素が強いものは企業単位の届出があっても良いのではないか。監督署の指導とも関連して考えるところ。(黒田構成員)
・事業場単位を維持した上で、労使コミュニケーションや労務管理において何らかの労働者保護の要件を満たした場合に企業単位とすることがありうるのではない か。(島田構成員)
・企業の労務管理の問題と、現場で生じる問題は、監督の実効性と関連するので切り分けて考えるべき。労使コミュニケーションについては企業毎の実態にかなり 左右されるので、制度化するときは、企業単位か事業場単位かを当事者が選択するような手法としなければ、事業場単位に傾くのではないか。労働基準法の意思 表明について、過半数代表者は、集団の代表である一方個人でもあり、集団的な意思表明なのか個人的な意思表明なのかは課題。過半数代表者は、過半数労働組 合と同じ役割を担うが、集団の意見集約のプロセスが保証されていないのがポイント。(神吉構成員)
・個別同意をするときに、集団的なコミュニケーションがその個別同意の真意性を担保する役割を担うのではないか。(石﨑構成員)
過半数代表者との労使協定で最低基準の例外を認める制度には果たしてどこまで妥当性があるのかという課題がある。事業場単位は監督のためなのか、最低基準のためなのか、あるいは新しい政策を実施する上で実効的な単位はどこかという観点から検討すべきなのか。(荒木座長)(第4回 労働基準関係法制研究会 資料「労使コミュニケーションについて」より)

労働基準関係法制研究会 第4回資料(厚生労働省サイト)

労働基準関係法制研究会のメンバー(構成員)
労働基準関係法制研究会のメンバー(構成員)は次のとおり。

荒木尚志 東京大学大学院法学政治学研究科教授
安藤至大 日本大学経済学部教授
石﨑由希子 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
神吉知郁子 東京大学大学院法学政治学研究科教授
黒田玲子 東京大学環境安全本部准教授
島田裕子 京都大学大学院法学研究科教授
首藤若菜 立教大学経済学部教授
水島郁子 大阪大学理事・副学長
水町勇一郎 東京大学社会科学研究所比較現代法部門教授
山川隆一 明治大学法学部教授 (敬称略・五十音順、労働基準関係法制研究会開催要綱別紙より)

なお、座長は荒木尚志・東京大学大学院法学政治学研究科教授。


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