昨日の記事に、「バッハのカンタータ第182番の冒頭の付点音符は、イエスがエルサレムに入城した際に乗ったロバの足取りを表している」と書いて、はっと思った。もしかして「ロバ」と書いたが「ラバ」ではなかったろうか?
と思ったのも、ドイツ語で読んでる千一夜物語に多く登場する移動手段は「Maultier」(ラバ)であり、その頻度はロバ(Esel)やケッティ(Maulesel)や馬(Pferd)の比ではないからである。
ラバは雄ロバと雌馬の掛け合わせで、大人しくて持久力があるという。だから、千一夜物語にしょっちゅう出てくるのだな。ローマ時代にはもう使われていたというから、イエスが乗ったとしても不思議はない。
そこで、聖書のエルサレム入場シーンを読んでみた(ヨハネ福音書他)。「Esel」(ロバ)「Eselin」(雌ロバ)あるいは雌ロバの子(ロバ)とあった。だから、ここはラバではなくロバでよいようだ。
因みに、ケッティは雄馬と雌ロバの掛け合わせである。ラバもケッティも繁殖力はない。だいたい、掛け合わせには繁殖力はない。三元豚(三種の食用豚の掛け合わせ。スーパーで売ってる豚肉は普通にコレだそうだ)も繁殖力はない。
千一夜物語の話が出たので、近況を報告。最近、あるエピソードが一段落したら「それを聞いたカリフが」と続いたので、あれ?この話ってカリフが聞き役だったっけ?と一瞬分からなくなった。既述の通り、この物語は話の中に話があり、その話の中に話があるといった重層的な作りになっている。今回、一段落した物語は、床屋がカリフにした話であり、その話は床屋が人々にした話の中の話であり、その話は仕立屋が中国の王様にした話の中の話であり、その話はシェーラザードがシャフリヤール王にした話であり、そしてその話は千一夜物語として名も知らぬ作者がわれわれに遺した話なのであった。
ロバの話も出たので。ロバは、ウマに比較してスピードでは劣るものの耐久力に優れた良い家畜だそうだ(改訂新版世界大百科事典)。その「スピードでは劣る」が悲劇を生んだのが「ロミオとジュリエット」。二人を結びつけようとロレンツォ神父が一計を案じてジュリエットを仮死状態にする。神父はそのことを追放されて遠方にいるロミオに知らせるべく使いを立てるが、その使いがロバに乗ってとろとろ行くのを馬に乗った伝令が追い抜いて先にロミオに「ジュリエットが死んだ」と伝えてしまう。オリヴィア・ハッセー主演の映画を映画館で観たとき、追い抜くシーンで館内にため息がもれたものである。