監督: 山下敦弘
脚本: 向井康介
出演: 前田敦子 、康すおん 、鈴木慶一 、中村久美 、富田靖子
映画『もらとりあむタマ子』公式サイトはこちら。
タマ子(前田敦子)は東京の大学を卒業後、父親がひとりで暮らす甲府の実家に戻ってくる。しかし就職もせず、家業のスポーツ店も手伝わず、ただひたすらに食っちゃ寝の日々を過ごしている。起きているときはマンガを読みふけるか、ゲームをするかで、かつての同級生とも連絡を取らず、まるで引きこもりのような生活を送っていた。「就職活動くらいしろ!」と父が言っても、「いつか動く! でもそれは今じゃない!」と意味不明な言葉で自分を肯定するタマ子。ようやく履歴書を書いたかと思うと、応募先は芸能プロダクションだった。それでも父は、タマ子を応援せずにはいられない。四季を通してダメダメなタマ子は、新たな一歩を踏み出せるのか……?(Movie Walkerより)
好きな山下監督作品、しかもあっさん主演ということでこれは行かないと!(笑) 何といっても、この2人がタッグを組んだ前作『苦役列車』は、行こう行こうと思っているうちにいつの間にか終了して今に至ります。この間何回か特集上映などで組まれてるんですが、予定合わなくて・・・ そういうことがないようにしっかり公開週に行って来ました。
実はこの日、これ2回観てます(笑) 何でかと言うと最初に109川崎で見た時は本当に眠くて眠くて(!)、全体の緩い感じに負けてしまって肝心な部分を結構見逃していました。何だかこのまま帰るのも悔しいんで(笑)、その後新宿まで移動したついでにと思ってもう1回武蔵野館で観賞。2回目はしっかりパッチリ起きて、ぜーんぶ観ました。なのであらすじよーくわかってますよ(笑)
ということで左は109シネマズ川崎、右は新宿武蔵野館のサイン入りポスター。
前評判通り、ほんとうにタマ子は何もしていない。あるとすれば自分の行く末を少し思うこと、周囲に対して少し思うことを表していることだけ。 あとは実家でだらーっと過ごしている。最もその状況ではいけない、何かをしないといけないけどきっかけがつかめなかったり、周囲と比べていろいろ思ってしまう自分に歯痒くは思っている。
そんなだらんとした日々を1年近く続けていても、出来事が全く起きない訳ではなく、少しづつ自分を変えていくことも起こってくる。それに大きく関係しているのは話の序盤で知り合いになる中学生・仁。彼との不思議な掛け合いは観客の笑いのツボを刺激する。どうかすると使い走り的に仁をいじり回して見たり、「恋に部活に忙しい」仁にタマ子が馬鹿にされてみたり、この2人のツンデレな、気だるいやりとりがいちいち面白い。撮影も1年近くかかったと思われるのはこの仁くんが最初と最後では顔つきが違っていて、少年っぽさが最後には消えていること。仁もタマ子にアゴで使われながらも、その実タマ子のことを薄ーく心配したりするのは、年上のお姉さんへの憧れの様なものもほんの少し入っているのだろう。とにかくこの伊東清矢くんは掘り出し物かも。
そしてタマ子のモラトリウム期間に起こるもう1つの大きな出来事は、父・善次をめぐること。「自分が知らない間にあのダサくて口うるさい父が!」って驚くのも無理はないけど、かと言って父のあれこれがタマ子の人生にものすごく大きく関わってくるとは言えないくらいに、タマ子は自活してもいい年齢となった。父のことも大事だけど、自分もとっくに自活する時期が来てるんじゃないのかと。
ここで前田敦子の境遇も少しだけ思い出してみる。彼女は去年の8月にAKB48を卒業して独り立ちした訳で、タマ子と重なるものが大いにある。思うにAKB48というか、このグループ自体が芸能界におけるモラトリアムみたいなものだから、そこにいればぬくぬくと温かく、何もかも用意されており抜け出すには惜しい環境。「親元にいた方が何かと便利だから」という理由で同居を続ける親子も多いが、AKBグループの場合はそこにいればAKBの名前だけである程度の所までは行けるから卒業しない人も多い。しかしいつまでもそこにいられる訳ではなく、いつかは自分で出て行かないといけない日がやってくる。それはいつなのか、どういう形なのか、自問自答しながらも答えを出して卒業した前田にとって、タマ子は彼女そのものなのだろうか。思い切って少しだけ何かして見ようかと、おずおずと一歩を踏み出すタマ子の姿はたぶん、己に重ねているのだろうと思う。
何もしないようでいて、少しずつ何かが動いている。そこをゆるゆる、笑わせようと思っているのではないけれど、タマ子のだらだらした態度が観客の笑いのツボを刺激しているので笑える。「だーめだ~ 日本は!」→あんたがダメなんだろうが~とたぶん観客のほぼ全員がツッコみますよね(笑)
それにも関わらず観終わった後の空気感が何だか清々しいのは、そこに少しの希望があるからで、その空気感を出せているのは山下監督だからなのだろう。山下監督は、前田敦子の持つ特性を生かしているし、恐らくは素材としての前田敦子を撮ることが楽しいんだなというのが伝わって来る。
甲府が舞台設定なのも、「都会から中途半端に近い場所」ということで、都会に届きそうで届かない、確かに日々はゆったり暮らせるけど、少し手を伸ばして見たら変わるかもしれないという距離を思わせる。星野源の主題歌もマッチしている。
前田敦子だから観るのやめようかって固定してしまう人もいるだろうし、ファンにしてみればAKBを卒業した前田さんにはあんまり興味なくなったから観ないとか、AKB卒業者には良くも悪くもAKB48の看板がついて回りそうで大変だなとは思うけど、そういうことは抜きにして観てほしいなーと。そんなことで避けてしまったらかなりもったいない作品。この抜群の空気感を体験してほしい。あんまりどうのこうのと考えない方がいいと思います。
そしてエンドロールは最後までいましょう。途中で帰る人は結構損しますよ(笑) まあ、このエンドロールおまけは不要なのかもしれないですが、お遊び感覚でいいんじゃないですか?
★★★★☆ 4.5/5点
ある意味「苦役列車」から続くダメ人間シリーズ第二弾(笑
何も起こらないけど、リアルだからつい見入ってしまいます。
前田敦子は絶対美女役よりこういうキャラの方が生きると思う。
本人的にどうかは分からないけど(笑
>前田敦子は絶対美女役よりこういうキャラの方が生きると思う。
ですね。コメディエンヌってやつかな。
これがベストワンとは意外でした。モラトリアムに何か思い入れが?
そうですよね。「AKBは芸能界の学校、自分の夢を見つけるまで」ということですから。
いたいだけいてもいいし、やりたいことがあるなら卒業する。それは自分で決めることです。
ただしあれだけの露出がありますから居心地は当然良くて、だから卒業者があんまり大量には出ませんよね。それだけ「おいしい」から。
AKB時代にどれだけ売れておけるかも、卒業してからの成功要素の1つだと思います。
前田さんは不動のセンターだからいいんですが、大島さんは同じセンターでもまた少し違う位置づけですよね。大島さんは子役出身ということもあって、演技に関しても前田さんとはこれまた違う。卒業後どこまでいけるかでしょう。
>これがベストワンとは意外でした。モラトリアムに何か思い入れが?
いや、これは2013年マイベストの5位ですよ(笑)
モラトリアムって全くないと窮屈だし、あり過ぎると退屈だし、難しい配分が必要じゃないかと思ってます。特に思い入れはないんですけどね。
なんでしょうね。
モラトリアム自然消滅(笑)
これ、どこどこのシーンって聞かれても、わからないくらいのゆるさなんですよね。
DVD出たら買っちゃうかもなあ。シアターで2回も観ましたし。
苦役列車は、若干苦手だったんですよね。
あっちより、こっちの方が好きだわ。
あっちはねえ、汚い。基本、あんまり汚いのは好きじゃないのよ。
でもって、未來君があまりに汚さにぴったり過ぎて。。。
で、タマ子ちゃん、わかりすぎるくらいにわかって、心地よすぎました。
まあ、あれが自分の娘だったら、数回ぶっ飛ばしてると思いますが(ほぼ、帰ってきたときの娘があんな・・・)、あんなお父ちゃんで、ほんとによかった。
つぼは中学少年でしたね。ほんと掘り出し物です。
こういうの見つけるの、うまいですよね、監督。
うわあ~ 嬉しいですー。
けど責任重大でしたね(笑)
私はジャンル関係なく、いいものはいいって言っちゃうので、ヨーロッパ系の映画しか褒めないわけじゃないんですよね(笑)
『苦役列車』はDVDで鑑賞しました。確かに汚かったし(笑)あのコピーそのままでしたけど、なんか好きです。
もっともこれは原作があんまり綺麗じゃないからしょうがないんですけどね。
>あれが自分の娘だったら、数回ぶっ飛ばしてると思いますが
「悪いのはおまえだろうが~」ってたぶん私も言ってますね。
>こういうの見つけるの、うまいですよね、監督。
監督はたぶん、前田さんを素材として撮るのがとても楽しいんでしょう。そしてそこにぴったり来る脇役を探すのもまた楽しいんだと思います。
これは山下監督の「ゆるさ」が、意外にも前田あっちゃんにハマってましたね。
『味園ユニバース』も楽しみにしています。
キャストがぴったりマッチしているといい映画になる。
>『味園ユニバース』
これ私も何気に楽しみです。予告面白かったし。