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【FILMeX_2013】『鉄くず拾いの物語』 (2013) / ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、フランス、スロベニア

2013-11-29 | 洋画(た行)


原題: An Episode in the life of an Iron Picker / Epizoda u zivotu beraca zeljeza
監督: ダニス・タノヴィッチ
出演: セナダ・アリマノビッチ 、ナジフ・ムジチ

第14回東京フィルメックス 『鉄くず拾いの物語』 ページはこちら。

映画『鉄くず拾いの物語』公式サイトはこちら。 (2014年1月11日(土)公開)

ボスニア・ヘルツェゴヴィナのロマ民族の村に住むナジフは体に変調をきたした身重の妻セナダを病院に連れてゆく。セナダには至急手術が必要なことがわかるが、保険証を持っていないため、ナジフの鉄くず拾いの仕事では到底払えないような費用を病院側から要求される......。
ダニス・タノヴィッチの監督第5作である本作は、実際に起こった事件をその当事者たちを俳優として起用し、9日間という短期間で一気に撮り上げた作品である。ドキュメンタリーと見まがうかのようなリアリズムの中に経済格差、民族差別など東欧が直面する様々な社会問題を浮き彫りにするこの力作は、ベルリン映画祭で審査員グランプリ、男優賞、エキュメニカル賞特別賞の3賞を受賞する栄誉に輝いた。
(第14回東京フィルメックス 公式サイトより)


鑑賞してからずいぶん経ってしまったのですが(去年のフィルメックスで観た作品が全くブログに書けてない! 汗)、今日から公開ということで思い出せる範囲内で書きとめておきます。

これは実際に起こった当事者たちを俳優に起用したという、あまりないタイプの映画というのも興味を惹いた一因。彼らが一体どんな顔を見せてくれているのか、実話を演じるというのがどういうことなのか。
これが単なるドキュメンタリーならば映画にする意味がないので、そのあたりも見極めたかったし。

実話がこうして物語になってしまうくらいなので、ナジフたちの生活はかなり苦しく、そのこと自体がドラマになってしまう現実がある。ナジフたちだけではなく世界のそこここで同様の現象は起きている。
ロマと言えばアウトロー的なイメージが非常にあるのだけど、ナジフ一家に関して言えば極めて真っ当に、正当に生きている。ナジフだけではない。彼の周りの同じコミュニティの人々も真面目に生活を送っている。彼らを取り巻く現実は厳しいが、日々をつましいながらも何とか家族が肩を寄せ合って、楽しく朗らかに生きる工夫をしている。
ところがそんな善良な一家に災難は降りかかる。どうして彼らのように善良な人に起こるのか、全くやりきれない話でもある。一刻の猶予も許されないのにそれを回避する金がない現実。

こうして金銭的に困窮した時、普通は、というか、困窮していなくても他人や他人の所有物に危害を加えてどうにかしようという動きは、特に先進国以外では当たり前なので、最初からそうするのかと思っていたらそうではない。彼らはどうにかして、何とかして正当に危機を乗り越えようと奮闘するが難しい。
正しく生きているのに誰も自分たちを守ってくれない。病院への往復に現れる、鉄鋼所とか巨大工場の煙突までもが自分たちを圧迫していくような、押しつぶされそうな重苦しさに耐えながらこれからも生きないといけないのか。もし彼らが裕福で、ロマでなかったらという民族差別問題も浮かび上がってくる。

内戦が終結したボスニア・ヘルツェゴヴィナではあるが、戦後の混乱の中で恩恵を受けられない人々も確実に存在してしまっている。争いの当事者たちの狭間で苦しむ人々もいる。どこまでも温かく、善良な心を持つナジフ一家のピンチの背後にそうした巨大な構造が存在すること、それを物語から読み取らせる筋書きがいい。
彼らがどうやってこのピンチを乗り切るのか、それは映画を観ていただきたいのだけど、狭間の民族を苦しめるのであれば、こちらも王道ではなく覇道で対応するしかないという発想だろう。誰しも困った時は恐らくそうするしかないだろうし、綺麗事では生きてはいけない。それをわかっているからというのもあるが、ナジフ一家が助けてもらえるだけの「徳」を持っていたからこそ、この物語が成立したのだろう。手を差し伸べてもらえるか否か、最後はその人の生き様にもよるということをしみじみと思う。

「俳優が演技を忘れた瞬間に、真実に見えるものが撮れる」(朝日新聞デジタルより)と監督は語っている。
彼らが演技を始めてしまわないように気を配ったとのこと。本当に出演者たちはドキュメンタリーでもなく、かといって「演技」でもなく極めて自然体でそこに存在していた。このバランスの取り方がよいのも、映画として最後まで観た時に違和感なくテーマに辿りつける要素なのだろう。俳優ではない人に映画に出てもらうことの問題点を解決している。
観終わった後に残る、何とも言えない温かみ。これこそが監督が伝えたかったことであり、そのための入念な準備の痕跡を感じさせず、社会問題にまで関心を持たせたり、共感や支持を得られるような仕上がりになっている。


★★★☆ 3.5/5点







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6 Comments

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こんにちは ()
2014-02-16 19:24:36
一家の物語として温かさを感じさせながら、背後の「巨大な構造」を無理なく想像させてくれるのは監督の腕でしょうね。演技経験のない一家をこれだけ自然に撮れるのはすごい。いい映画でした。
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雄さん (rose_chocolat)
2014-02-24 17:01:11
>背後の「巨大な構造」
そうですね。あの巨大な鉄塔というか煙突は象徴的でした。

そしてたぶんこの一家に、「徳」があったのでしょうね。なのでいい運命も引き寄せることができたんだと思いました。
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roseさん、しゅごい (sakurai)
2014-05-29 10:51:14
哲学の先生ですか?
いやいや、すごいなあ。
ここに孟子が出てくるとは思わなかった!
いやいやお見事な慧眼、敬服します。

そうそう、やけに読後感がいいというか、ほっこりさせるのがいいですよね。
きっと、本当に心からほっとしたんでしょね。それが現れてました。
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sakuraiさん (rose_chocolat)
2014-06-03 09:09:21
えっ? えっ? 孟子?
書きましたっけわたし・・・? 笑
もうしわけありません。 じゃないよね。 笑

そうですね。この家族自体が、「撮ってみたい」と思わせるような何かがある。
だから彼らにも幸福があったのでしょうね。
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もうし (sakurai)
2014-06-06 08:10:50
王道に覇道、徳の持つ力、まさに孟子でござります。
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sakuraiさん (rose_chocolat)
2014-06-09 10:41:28
解説ありがとうございます!
そういう系の話って好きなんですよね。自分でも知らないうちにどっかにコメント書いてるかも。
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