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観たい映画だけしか観てません。今忙しいんでいろいろ放置

『カルロス』 (2010) / フランス・ドイツ

2012-11-27 | 洋画(か行)


原題: CARLOS
監督: オリヴィエ・アサイヤス
出演: エドガー・ラミレス 、ファディー・アビ・サムラ 、アフマド・カーブル
観賞劇場: シネマ・ジャック&ベティ

公式サイトはこちら。


9月~10月にかけてイメージフォーラムで公開があったんですけど、多忙のためとうとう見逃してしまい、今月ジャクベで公開するのに合わせて行って来ました。
せっかく行くなら同じ日に3部観ないと、映画の流れがわからなくなってしまったり、臨場感に欠けてしまうような気がして。ジャクベは入れ替え制でしたけど、3部それぞれのインターバルが短くて良い。ゆったりと観賞できるし。


カルロス (テロリスト) wiki



それにしても全部で5時間半という長丁場。最近どういう訳か長尺の作品の日本公開が流行っているのだけど、正直どれもが傑作とはいかないところだったのだけど本作は違う。3部の区切りも、次の部のクライマックスに向けてちょうどいいところに入っているので、早く次の部が観たいと思わせる構成になっている。こうした伝記物はやたらと時間を長くだらだらと作りがちだがそちらに流れるのではなく、ちゃんと緩急のつけどころを考えて、しかもテンポよく丁寧に作っているのがわかる。
それでもここに記されたことは実話が多いため、当時の出来事が頭に入っているかそうでないか、馴染めるか関心ないかで本作の感想には差が出るかもしれない。しかしながらあまりにもテロの数も多く、カルロス自身の異動も頻繁なため、全部を記憶することは不可能かも。
しかしながらカルロスという人間そのものの変遷を追っていくことに重きを置いているので、政治思想や革命変遷に捉われることなく、観客は飽きることなく観ていくことができる。


第2次大戦後の世界情勢の変化をなぞりながら観賞していくと、カルロスの人生自体もまさにその中に放り込まれたというべきなのだろう。ベネズエラで共産主義の思想に傾きながら過ごし、各国を転々とする中で、彼自身の思想が革命へと向かうのは必然であった。しかし彼は組織に丸ごと従わない。戦士として命を捧げる事を第一とせず、革命を続行し成功させるための方法を優先していく彼の視点は組織向きではない。
かくして自ら組織を立ち上げるカルロスだが、かつて自分が行わずにボスから叱責された組織への絶対服従を、今度は自分が部下や周囲に強いているのも大いなる矛盾。そこから来る軋轢や不満が、裏切りや別離を呼ぶというのに。こうして革命の歴史も繰り返されていく。
政治家たちと革命家たち、善悪で分けられているような錯覚があれど、実は大差ないということが本作でもよくわかる。それぞれの論理で動いているだけなのに、手口としては一体どちらが正義なのかというくらいの紙一重のあくどさ。独自の価値観の中だけで周囲を顧みないことに関しては、お互い罵ることもできない。善悪の問題ではないのだ。


彼を彩る女性たちの存在もそれぞれ個性的で観ていて飽きない。革命家の女性遍歴はその時の破壊活動と密接に関わることが多いがカルロスも例外ではなく、その時々の女たちは何かしらの役を負わされたり、進んで志願したりしている。隠れ家としての機能も果たしているし、カルロスは女性に対しても自分のコマンドのような扱い以上のことは基本的にしていない。たとえそれが妻であってもだ。男は元々移り気なものだけど、こうして野望の強い男ならではの女の扱い方を見せられると、所詮一過性のものなんだろうかと思わせられるようだ。
その女性たちの中で、妻となったマグダレーナ役のノラ・フォン・ヴァルトシュッテンがやはりよかった。冷酷な女戦士的な要素もあれど、根底には安住を求める心がある。戦士にはなり切れず、出産するとたちまち母性を表してしまうのが女心なのだろう。無表情な仮面の裏側は、情にもろい女という二面性を上手く出している。


本作を見るだけでも、複雑なシオニズムやイスラエル建国の流れ、中東戦争から反体制活動へ移行する歴史がわかりやすくなる。東西冷戦の崩壊がそのまま革命家たちの衰退へとつながっていくのは、『バーダー・マインホフ』でも描かれている通り。各地を転々とした挙句に、それまでの活動の結果として結局どこにも受け入れてもらえなくなって行く。彼らの栄光と落日をたっぷりと追いかけていくことそのものがロマンである。先日TIFFで上映のあった『5月の後』は、本作のスピンオフ的要素となっているので、願わくばこちらも公開されてほしいところ。両方併せて観賞すると、革命がもたらす「心のうつろい」を追うことで、例え生き方が破天荒であったとしても、その人物が善悪を超えて翻弄されていく様子が描かれることへの讃歌が汲みとれる。これらが丁寧に描かれることで、その醍醐味をたっぷりと味わえる作品。


★★★★☆ 4.5/5点






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2 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
 (とらねこ)
2012-12-01 01:42:06
おお!ご覧になりましたか。サラっと読ませていただきましたー。
ご一緒出来なくてすみません。私はおうち鑑賞したいと思います!ミステリー運命のリスボンも。こちらの4時間半ですら、頑張れない私・・。
でもこれ、見るの楽しみです。
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とらねこさん (rose_chocolat)
2012-12-06 07:46:22
なんつっても5時間半ですからねえ。。 気合い入れて行かないとなかなか劇場鑑賞は難しいと思います。
私も何だかんだでイメフォを逃しまして、ジャクベになりましたもん。
でもゆったりと観れてよかったですよ。見たら感想ぜひぜひ。

みすてり・・ よりは断然こっちですねー。w
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