原題: Le refuge / HIDEAWAY
監督: フランソワ・オゾン
出演: イサベル・カレ、ルイ=ロナン・ショワジー、メルヴィル・プポー
観賞劇場: ヒューマントラストシネマ渋谷
【三大映画祭2012】『ムースの隠遁』 ページはこちら。
フランソワ・オゾン監督の作品は全て観ている訳ではないのですが、これまた「オゾン的な」作品だなあ・・・と、観終わってしばし余韻に浸るような感覚。
ムースとルイは若く、美男美女で裕福な全てを備えたカップル。しかし、二人の生活をドラッグが次第に蝕んでゆく。ある日、ドラッグの過剰摂取から、ルイが命を落とし、ムース一人が助かる。彼女はその後すぐに、自分がルイの子を宿していることに気づく。途方に暮れた彼女はパリを遠く離れた家へと逃げ出す。数か月後、ルイの兄弟が彼女の隠遁生活に加わるのだが・・・ (三大映画祭サイトより)
人物を美しく描くことでは定評があるオゾン監督だけど、今回もそれを確信する。 こんなことを書いてしまったら結構不謹慎なのは重々承知なのだけど、プポーくんの注射シーンなんかも、イケナイことなのに実は何か綺麗だなーなんて思ってしまった。 ルイが発見された時の微動だにしないポーズも然り。
そしてポールの、葬式の時の端正な顔立ちとはまた違う、夏の無防備な感じなどもgood。 美しい男子を撮らせたらオゾン監督さすがと褒めたらいいのかわからないけど・・・。
物語の主役はあくまでもムースなんですね。 前半、ルイを失うまでの彼女の描写は軽薄な印象しか残らない。ギスギスしてて薬とルイだけが全ての女性。
ただ、そんな蓮っ葉なムースに対する目線も、オゾン監督はどこまでもとても優しい。単に「綺麗」とか「整っている」とか「癖がない」ものだけを取り上げるのではなく、加齢や心境の変化で例えばシミや皺が容赦なく出てしまったお肌でさえも、よく頑張ったねと愛おしい目線で映像にするところに、優しさを感じてしまうのです。
彼女が隠遁生活に入った時は一瞬わからなかったんだけど、よく見るとまぎれもなくムースなんだよね。ただ、上のあらすじでは「途方に暮れた彼女は・・・」とあるけど、そんなに切羽詰まったようにも思えない。内心はそうなのかもしれないけど、実際には漂っているような隠遁生活を満喫しているようにも見える。
その「隠遁」生活(実際には隠れる必要はないのだけれども)の中で、ムースが出会う人々を通じて、彼女は自分が一体どこに落ち着こうとしているのかを見極めようとしている。これから出産するのにもかかわらずどこか危なげで何を考えているのか読めないムース。しかし彼女は彼女なりに、愛する人に先立たれてしまった状況に対して不安を感じ、愛が去ってしまったことを嘆いていたとわかる。確実なものしか、妊娠中のムースは欲しくはないのだと。
そして自分の愛を共有するポールとも、分かち合うことができるわけですね。ポールを理解できたことによって自分も彼と愛を共有しようと思えたのだから。
愛を共有出来たムースなんだけど、それでも何となくどこか心が定まらないんじゃないかと思ったら、ラストにそう来る訳ですね。自分が残した愛をきちんと託せる人。それを彼女は探していたとは。
ムースがだめなことなんて決してないんじゃないかと、観ている側はそう思うんだけど、それはムースの価値観の中では許されないことだったんでしょう。安心して次のステージに向かうムースの行動は、もしかしたら常識ではありえないと言われそうだけど、それでも彼女の中では完結できると初めて確信した出来事だったに違いないのでしょう。淡々と、しかしながら決然とした表明は、どこまでも優しさでくるまれているのでした。またオゾンワールドにノックアウトされてしまったような作品です。
★★★★ 4/5点
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