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『罪の手ざわり』 (2013) / 中国・日本

2014-07-13 | 中国・香港・アジア映画、その他の映画


原題: 天注定 A Touch of Sin
監督: ジャ・ジャンクー
出演: チャオ・タオ 、チアン・ウー 、ワン・バオチャン 、ルオ・ランシャン 、チャン・ジャーイー 、リー・モン
鑑賞劇場: Bunkamura ル・シネマ

公式サイトはこちら。


急激に変化していく中国現代社会で実際に起きた事件から着想を得て、村の共同所有だった炭鉱の利益が実業家に独占されたことに怒る山西省の男、妻子には出稼ぎだと偽り強盗を繰り返す重慶の男、しつこく迫る客を切りつけてしまう湖北省の女、ナイトクラブのダンサーとの恋に苦悩する広東省の男という、時代の波に乗り遅れ、もがきながらもひたむきに生きる人々の姿を描く。(映画.comより)

昨年のフィルメックスで上映がありましたがこれは未見。2013年・第66回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞ということでチェック。もう少しで上映も終わりそうなので慌てて行ってきました。

中国(や、中国の影響を受けている東南アジアのいくつかの国)では基本的に、人の能力に応じて生活レベルが決まったりはしない。能力主義ではないこと、すなわちどれだけ金とコネがあるかがその人間のポジションを決定して行ってしまう。従っていくら働いたとしても、どれだけ優秀で能力があったとしても、その人間が金とコネを持っていなければ浮かび上がることはできない。これを背景として考えていくと、この映画の言わんとすることが見えてくる。
ダーハイ、チョウ、シャオホイのエピソードなどは皆そうだ。今の中国において唯一頼りになるもの、自分を助けてくれるもの、そしてどうしようもなく縛られるものが「金」だ。金のために起こる犯罪の種類や多さはとてもこの映画では網羅できないくらいだろうし、時に中国発の、金銭がらみの絶望的なニュースや動画が出ることがあるが、本作はそんな中でもがきながら生き残ろうとする人々を描いている。

金がなければ意味がない、金がなければ馬鹿にされる、金に追いつめられる。異様ともいえる中国の拝金主義の中で生きる人々の中には、本当に金が全てだと思えない人も当然ながら存在しているのだろう。しかしながらうまく金をばらまき、権力者に取り入った者たちが幸福を得られる中国社会では、精神論的な幸福は残念ながら存在しない。その鬱憤が爆発していくのがダーハイやチョウだろう。人である以上、人として認められたいとか正当な暮らしをしたいと思うのは当たり前のことで、そうしたことが望めない以上、持って行きようのない怒りが彼らを凶行に掻き立てる。だが見ていて何か胸のすくような想いがするのも事実で、拝金主義に生きる人間なんてそれ以外は近寄りたくもないくらいのいやらしさを醸し出している。次々と卑しい権力者たちを成敗する彼らの方が正しいように思えるのは私だけだろうか。

シャオユーはここに出てくる唯一の女性で、そこには金以外にも性愛が絡んでくる。これも女性ならではの苦しいエピソードで、金があるなしに加えて性的に蹂躙されたり、報われない愛を抱えてしまうダブルの苦境がある。彼女もまた、金では動きたくないという信念を持ってある行動をしていく。敢然と立ち向かう姿は勇気があるけどそれによって罪を負うことになる皮肉。彼女は悪い訳じゃないのに。

シャオホイのエピソードにも金と愛が絡む。彼くらい若いと当然拝金主義にどっぷりと浸かってしまっているのだろう。金が全てということを生まれた時から骨身に沁みこませてきた世代だが、愛が金に負けてしまう経験をすることでシャオホイの心も折れたのかもしれない。そこに更に金や暴力が彼を追い詰めていく不幸がある。

4つのオムニバスが最後に循環するという凝った作り。背景に静かに見えてくるのは現代中国の社会制度が持つ不幸。この主人公たちも拝金主義の中に生まれなければ違う人生が待っていたはずだろう。
「お前は自分の罪を認めるか?」という言葉がラストにあるが、果たして何が罪なのだろうかという問いかけを観客にも残していく。この社会ではなかったら罪を犯すこともしなかったはずで、他に持って行きようのない状況に置かれた事が彼らにとっての最大の不幸なのだろう。ここに出てくる罪の数々は、厳密に考えれば罪ではない。その罪なら許されるくらいの彼らの不幸の元凶こそが罪なのだ。


★★★★ 4/5点






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12 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
スパイクロッドさん (rose_chocolat)
2015-02-25 09:28:01
中国では公開されてない作品多いですよね。
日本でもそういうのあります。
反体制のものは総じてNGですから。
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こんにちは! (スパイクロッド)
2015-02-22 17:20:45
ジャ・ジャンクーこんな映画撮って大丈夫なのかな?
と思っていたら、中国国内では公開されてないのですね。
中国映画なのに中国では公開されてないなんて変な話ですけど、
この内容では致し方ないですわな。
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sakuraiさん (rose_chocolat)
2014-10-07 07:57:09
今の中国はいろいろ孕んでますからね。
いろーんな話が出てくると思います。
政治とか方針が変わらない限り、どうしようもないこととは思うけど。
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雄さん (rose_chocolat)
2014-10-07 07:56:02
すっごい遅レスすみません!今気が付きました・・・

これだけリアルに拝金主義を描いちゃって、
監督大丈夫?って思います。当局がいろいろ言いやしないかと。
あまりにも拝金主義過ぎて、中国って最早社会主義国家って感じじゃないですよね。
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なんとも (sakurai)
2014-10-06 12:40:11
いやな、ざらっとした気分になってしまったのですが、実際にあったことで、作りあげた物語じゃなかったってところに、ほっとしつつも、現実の方が怖い・・と思ってしまいました。
しっかし、絶妙な邦題でしたね。この題で、一段評価が上がってしまうほど。
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こんばんは ()
2014-07-22 22:54:14
ジャ・ジャンクーが映画を撮りはじめたのはちょうど小平の改革開放の頃からですから、カネに振り回されるようになった時代の中国人をずっと描いてきたと言えるかもしれませんね。

その一連の作品のなかでも、「罪の手ざわり」はストレートに拝金主義の問題、カネ故に罪を犯さざるをえなかった男や女の心情に踏み込んでいると思いました。
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えいさん (rose_chocolat)
2014-07-21 09:48:45
>隣の国の話とは思えない
そうなのかもしれませんね。

中国では情報の統制が厳しいので、こういった話が漏れることは少ないかもしれませんが、日本ではまだまだ知ることができる。
ですけど確実に生活は悪くなっていってますからね。
押し込まれた不満が爆発することほど収拾がつかないことはないです。
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隣の国の話とは思えない (えい)
2014-07-20 22:57:29
こんばんは。

ここで描かれていること、
彼の国の話には見えないんですよ。
なんだか、我が国も
どんどん、そっちの方へと近づいている気がして
なんだか、うすら寒いものを感じました。

そういえば、中国の知人(大学生)にこの映画の話をしたところまったく知らず、
予告を見せたら「公開されていない」とのこと。

日本はまだそこまでは行っていないですが…。
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にゃむばななさん (rose_chocolat)
2014-07-20 09:54:21
あらら。TBできないんですか。それは残念ですね。どうしちゃったんだろう。

>共産主義国家なのに、格差が生まれる矛盾
ダブルスタンダードなんですよね。何故か暮らしが苦しくなっていく矛盾です。
中国で貧富の差が拡大している今、予想だにしない方向に向かっていってるのかもしれません。
そんな中で必死に生きても報われない空しさがよく出ています。
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とんつーさん (rose_chocolat)
2014-07-20 09:52:02
そうなんですよね。今の中国が背景です。
どうしようもないところまで追い込まれているんだと思いますよ。
いつ民衆の不満が爆発してもおかしくない状態なんだと思います。
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こんばんわ (にゃむばなな)
2014-07-18 23:56:06
現在TBがgooには飛ばない状態なのでコメントだけで失礼させていただきます。

この作品が中国では上映されないというのは、まさにこの映画が真実を描いているからなのでしょうね。
共産主義国家なのに、格差が生まれる矛盾。
中国に生まれた時点で人生は終わりなのかとも思えてしまいましたよ。
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Unknown (とんつー)
2014-07-18 18:52:27
私もこれ観てきました。
大都会の景色と貧しい街並みが、すぐそこにある場面がとても印象的で今の中国を象徴しているようでした。
普通の人が罪を犯してしまう瞬間、まさに「罪の手わり」を感じました。
最後のシーンは思わず、自分に言われてるようでハッとしました。
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