21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

69.1911

2011-11-13 | 映画

 今年2011年は,中国の辛亥革命からちょうど100年です。そこで制作されたのが,ジャッキー=チェンが総監督し,さらに彼自身の100本目の出演作ともなった映画「1911」です。ジャッキー=チェンは,中国革命の中心人物孫文ではなく,彼に協力した華興会の黄興を演じます。一方の孫文は,中国の多くの映画やテレビドラマで孫文を演じたウィンストン=チャオが演じています。それは中国革命の父孫文の,いってみればステレオタイプな演技に終始しますが,黄興は,ジャッキーの意欲が,それこそ映画から浮いてしまうぎりぎりのところで,生身の黄興という革命家を演じていました。
 ジャッキーは,さすがに今回はシリアスな演技に徹していたので,カンフーは封印だろうなと思っていたら,南京に帰ってきた孫文を迎えに行った船の中で,孫文を暗殺しようとする工作員と,やっぱり控えめではありましたがカンフーで戦いました。多くの観客はここでほっとして,思わず微笑んだに違いありません。
 また,黄興は何度も窮地に陥ります。蜂起に失敗して追いつめられ,大砲で攻撃されたときも,戦場で銃弾を受けて倒れたときも,彼が中華民国成立後の1916年に死んだことを知っている私でも,この映画ではここで死んだことにするのだろうと思ってしまったくらいです。でも次の場面では,傷つきながらも結構元気に登場します。さすがジャッキーというところでしょうか。
  ところで,映画の中で,武昌蜂起で成立した中華民国湖北軍政府の「十八星旗」がはためくのが印象的です。これは,清朝の満州人支配に対する漢民族中心の内地の18省を象徴する18個の黄色の丸い星と,古代から中国の領土を表す九州にちなんで9つの角のある黒い星を赤地にあしらったデザインです。
 旗といえば,孫文の興中会は,青地に12本の角をもつ太陽を描いた「青天白日旗」を使っていました。1905年に中国同盟会が結成されたとき,この「青天白日旗」を軍旗として採用するかどうかで,孫文と黄興は対立したそうです。黄興は古代の理想的土地制度とされる井田制に由来する「井字旗」の採用を主張し,両者の対立は,それぞれが中国同盟会を脱退するというところまで及びました。結局,黄興が折れて,孫文の主張が通りましたが,日本の国旗に似ているため,孫文が赤地の上に「青天白日旗」をのせたデザインとして,「青天白日満地紅旗」としました。ところが,中華民国が成立すると,清朝の海軍旗であった「五色旗」が国旗となりました。この5色は,漢・満・モンゴル・ウイグル・チベットの5民族を意味します。
 その後,孫文が中国国民党を結成すると,「青天白日」を党章としました。第1次国共合作後に成立した広州国民政府は「青天白日満地紅旗」を国旗とし,1928年に北京の軍閥政権を倒して全国を統一すると,中華民国の正式な国旗となりました。一方,「五色旗」の方は,日本が建てた満州国の国旗となります。
 ただ,1971年に国際連合の中国代表権が中華民国から中華人民共和国に交代すると,国際社会でこの「青天白日満地紅旗」を見かけることはほとんどなくなりました。
 この映画の全世界へのプロモーションポスターには,日本でデザインされたものが使われたそうなのですが,日本版には中段のジャッキーの顔の右に「十八星旗」がレイアウトされているのですが,世界版にはありません。中華人民共和国に対する何かの配慮なのでしょう。とかく国旗あるいは旗は難しいですね。

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