21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

45.300(スリーハンドレッド)

2007-06-06 | 映画
 「300(スリーハンドレッド)」は,紀元前480年ペルシア戦争中のテルモピレーの戦いで全滅したスパルタ軍を描いた映画です。
 テルモピレーとは「熱い門」(映画の中では“hot gate”と言っています。途中に温泉が湧いていたそうです。)を意味し,海岸に山が迫った狭い通路で,スパルタ軍が数の上で圧倒的に優勢だったアケメネス朝ペルシア軍をここでくい止めようとしたのです。しかし,裏切りにあって抜け道をペルシア軍に知られ,結局レオニダス王に率いられた300人のスパルタ軍は全滅しました。この勇敢なスパルタ軍の話はギリシアに広まり,ギリシア側はサラミス海戦で勝利し,映画の最後に出てくるプラタイアの戦いにも勝利して,ペルシア軍を撃退することに成功したのでした。
 原作は,「シン・シティ」でも知られるフランク=ミラーのグラフィック・ノベルすなわちコミックです。 映画はその原作に忠実に作られたようで,スパルタ兵士たちが,兜を被ってマントをまとい,スネあてまでつけているにもかかわらずパンツ1枚なのは,原作の設定です。もちろん,本当のスパルタ兵は重装歩兵として鎧はつけていたはずです。映画の冒頭,レオニダス王の思い出としてスパルタの厳しい掟が示されます。すなわち,子供が生まれるとすぐに選別されて病弱な子供は山に捨てられ,さらに7歳になると親から離され,戦士として厳しい訓練が施されます。これは,いわゆるスパルタ教育として有名ですが,スパルタというポリスの特殊な事情が背景にありました。古代ギリシアには,多くのポリスという都市国家が成立していました。ポリスはもともと外敵から自分たちのポリスを守る戦士共同体でしたが,スパルタは先住民を征服して成立したポリスで,自分たちスパルタ人の何倍もの人数の自由を制限されたペリオイコイと呼ばれる人々たちや,何十倍もの農奴のようなヘイロータイを支配していたのです。だから,スパルタの場合,他のポリスのように外敵に備えるだけではなく,自分たちが支配しているペリオイコイやヘイロータイの反乱などにも備えなくてはなりません。他のポリスの市民たちは,農業に従事しましたが,スパルタの市民たちはペリオイコイに商工業を,ヘイロータイに農業をやらせ,自分たちはひたすら戦争だけを行う戦士だったのです。スパルタの厳しい教育はこのようなスパルタの特殊な事情から生まれたのであり,ただ厳しくすればいいというわけではありません。それだと,昔私たちが中学生や高校生の時にいた,脳味噌まで筋肉のような体育教師のようになってしまいます。だから,この映画の中でスパルタ兵士たちは「自由を守るため」と戦いを正当化しますが,それは支配者としてのスパルタ人の自由でしかありません。ギリシアの他のポリス,たとえば民主政治で有名なアテネでさえ,もちろん奴隷制をもっていました。また,ペルシアの使者が来たとき,「アテネの男色の哲学者」といってアテネを馬鹿にするセリフが出てきます。それはプラトンの「饗宴」のなかで,ソクラテスが愛(エロス)について少年への愛を論じているあたりをさしているのです。
 ただし,古代ギリシアで同性愛は普通のことであり,むしろ男性の同性愛はスパルタに多かったそうです。それにしても,この「300」という映画のタイトルは何とかならなかったのでしょうか。配給側も,それはわかっていたようで「スリーハンドレッド」と読ませていますが,ギリシアの物語に英語でタイトルつけてもピンときません。「テルモピレー」か「スパルタ」でよかったと思うのですが,許可されなかったのかも知れませんね。

300 (字幕版)
クリエーター情報なし
メーカー情報なし
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 44.クロッシング・ザ・ブ... | トップ | 46.女帝(エンペラー) »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
スーパーマン、バットマン、X-MEN、スパイダーマン... (kiku)
2007-06-17 03:26:16
スーパーマン、バットマン、X-MEN、スパイダーマン、スポーン、シン・シティ、タンク・ガール、ヒストリー・オブ・バイオレンス、アメリカンスプレンダ、ゴーストワールドetc...
海外コミックはあまり詳しくないのですが、自分が観た映画で、コミックが原作の映画は意外とあるもんだなと思いました。
特にここ数年はコミック原作の映画が増えてるのかなと。
コミック原作の映画が多いのは、日本特有の現象だと思っていたので、興味が湧いてきました。
返信する

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事