「天使と悪魔」が公開されたのは,だいぶん前だと思っていたら,昨年2009年だったのですね。「天使と悪魔」は,小説・映画ともに世界的にヒットした「ダ・ヴィンチ・コード」の作者ダン=ブラウンの同名の小説の映画化です。ただし,原作の小説が発表されたのは映画とは逆に「天使と悪魔」が2000年で「ダ・ヴィンチ・コード」が2003年と,「天使と悪魔」の方が先です。
予習のつもりで映画を見る前に原作を読み返したのですが,これがいけなかった。映画が始まって,しばらくは映画が小説のダイジェストにしか思えず,映画の世界に入っていけないのです。
映画は,イルミナティという集団と反物質というやっかいなものを観客に説明しなくてはいけないため,原作の人間関係をばっさり切り捨てました。最初に目玉をくり抜かれて殺されるCERN(ヨーロッパ原子核研究機構)の研究者は,原作ではヒロインの女性科学者ヴィットリアの父親ですが,映画ではただの同僚になっており,教皇の秘書カメルレンゴが前教皇の体外受精によって生まれた子という関係も,カメルレンゴが炎に包まれて自殺する要因となる重要なエピソードなのですが,切り捨てられています。殺人事件とカメルレンゴの演説を世界に報道するテレビ局のレポーターとカメラマンも,車椅子に電子機器を満載したセルンの所長コーラーも登場しません。「ダ・ヴィンチ・コード」のシラスとそっくりのヤヌスと呼ばれる殺人の実行者は,映画では普通の白人に変えられています。
一方,原作の基本的構成はほとんど「ダ・ヴィンチコード」と同じです。だから,ローマ市内をあちこち移動するのを見て,どこかで見たような感じがした人も多いでしょう。ただ,主人公ラングトンとヴィットリアのラヴシーンは,あっさりカットされています。これには,設定が前作と重なるのを避けようとした配慮もあるでしょう。ダン=ブラウンは,同じようなラヴシーンをこれら2作だけでなく,2作の間に発表した「デセプション・ポイント」にも入れています。
ところで,CERNは実際にスイスのジュネーヴに存在する研究所で,反物質研究にたずさわっている研究者が,この映画の科学的部分について,子細に解説しているHPがあります。
http://nucl.phys.s.u-tokyo.ac.jp/hayano/angles_and_demons_fact_vs_fiction/FACT.html
映画に出てくる4分の1グラムの反物質をつくるには,5×10の17乗秒かかるというのです。なんだすぐできるんだと文系の私は思ってしまいましたが,それは158億年だそうです。
それにしても教皇を選ぶ会議が,日本語の「根比べ」とほとんど同じような発音のコンクラーベということや,その選出の様子は興味深かったですね。それにカメルレンゴという存在も,私はこの小説で初めて知りました。
物語は,科学を信奉する秘密結社イルミナティが,ガリレオ=ガリレイを初めとする科学者を弾圧し続けたことに復讐するため,カトリック教会すなわちヴァチカンに挑戦してくることになっています(それはカメルレンゴの陰謀だったのですが)。しかし,ガリレオは,単に地動説を主張したから異端審問裁判所で自説を否認させられたのではありません。もちろん有名な「それでも地球は動く」などと言うわけもありません。そんなことを言うと,裁判のやり直しになってしまいます。でも,彼の科学者としての立場をよく表した言葉ですね。彼が認めようが否認しようが,それでも地球は動くのです。しかし,彼の時代にはそれを科学的に説明できませんでした。地動説は仮説に過ぎなかったのです。それをガリレオは踏み越えて真実だと主張しました。そのために弾圧されたのです。ニュートンが万有引力を発見して,初めて地球が太陽の周りを回っていることが説明できたのですね。ちなみに,ガリレオは,ニュートンにいわばバトンタッチをするかのようにしてこの世を去りました。ガリレオが亡くなったのとニュートンが生まれたのは,同じ1642年なのです。
天使と悪魔 (字幕版) クリエーター情報なし メーカー情報なし
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>ガリレオが亡くなったのとニュートンが生まれたのは,同じ1642年なのです。
歴史というのはこういった妙があるから面白いです。