21世紀のデカメロン Decamerone del duemila

映画と世界史のあれこれ


植村 GIulio 光雄

64.花の生涯-梅蘭芳

2010-11-08 | インポート

 「花の生涯-梅蘭芳」は,実在の京劇の大スター梅蘭芳の生涯を描いた映画です。監督は「さらば,わが愛-覇王別姫」「始皇帝暗殺」などの作品で有名な陳凱歌です。「覇王別姫」も梅蘭芳をモデルにしたような京劇の女形の物語で,カンヌ国際映画祭でパルム・ドールをとりました。もともと「覇王別姫」は京劇の演目で,秦の末期に劉邦と覇を競い,垓下の戦いに敗れた項羽が,絶世の美女虞美人と別れる悲劇です。虞美人は,まさに梅蘭芳の当たり役でした。映画で,先輩俳優の小楼に同性愛的な愛情を抱く,主人公蝶衣を演じたレスリー=チャンは,香港のアイドル歌手であり,実生活でもゲイであったようです。2003年に飛び降り自殺で亡くなりました。
 京劇は,一言で言うと中国の歌舞伎のような,非常に様式化された演劇です。中国から言えば,歌舞伎が日本の京劇なのでしょうね。登場人物の表情や衣装は誇張され様式化されて,衣装や化粧でその役割が分かるようになっています。歴史は比較的新しく,明末清初の17世紀中頃,長江流域で生まれた演劇が,1790年乾隆帝80歳を祝う祝宴で北京で上演されて以降,北京で発達しました。そのため北京の劇として京劇と呼ばれています。西太后は京劇をとくに好み,保護を与えました。この映画「梅蘭芳」でも,師匠の十三燕が西太后に贈られたという衣装を大切にしているエピソードが出てきます。
 チャン=ツィイーの演ずる,梅蘭芳の愛人となる京劇の男役孟小冬は,映画全体からいえばやや浮いた役で,架空の人物かと思いましたが,実在の人物で,実際はもっとドロドロとした関係であったようです。映画で,梅蘭芳と孟小冬を別れさせるために雇われた暗殺者が,「梅蘭芳の演ずる女性に恋いこがれ,自分が男か女かわからない」というのは,なかなか考えさせられます。舞台で女性以上に女性らしい美女を演ずる俳優を愛する男性ファンは,舞台の女性を愛しているうちに,それを通り越して男性としての俳優を愛してしまい,自分が女性のように感じるというのでしょう。実際の梅蘭芳が,1956年日本公演を行って「貴妃酔酒」で楊貴妃を演じたとき,その美しさに観客の方が酔ったそうです。そのとき,梅蘭芳は62歳でした。
 京劇はプロレタリア文化大革命で弾圧されました。「覇王別姫」の蝶衣や小楼は文化大革命で虐待されますが,梅蘭芳はその直前の1961に亡くなっています。その文化大革命もまた,新作京劇「海瑞罷官」に対する姚文元の批判に始まりました。海瑞は明の嘉靖帝をいさめて投獄された清廉潔白な官僚です。1959年の廬山会議で毛沢東を批判して失脚した彭徳懐を海瑞になぞらえていると批判されたのです。
 陳凱歌は,私より1歳年上の1952年生まれで,紅衛兵世代です。わたしも中国に生まれていたら,紅衛兵として暴れていたのでしょう。陳凱歌も自分の父親を反革命分子として糾弾する仲間に加わったそうです。

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2 コメント

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今日の北伐、長征の図は神かとおもいました!ちょっ... (CLの星)
2010-11-08 23:53:34
今日の北伐、長征の図は神かとおもいました!ちょっとピンボケ必ず読みます。
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昨日の夜、たまたま参考書を買いに (Layla)
2010-11-09 08:36:44
昨日の夜、たまたま参考書を買いに
書店へ寄ったので文庫本コーナーに行って
実際に手にとって見てきました。
棚陰から覗く植村先生の姿はありませんでしたが…(^^)
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