『公園のお風呂ダヌキ』-28 (完)

2010-08-01 11:27:25 | 連載
 こんにゃくさんは、飼い葉桶の中でニコニコ笑っているちっちゃな赤ちゃんを思いだしました。それからご聖体を思い出しました。すると胸の中が不思議なあたたかさでいっぱいになって、なんとなくうれしくなってしまいました。
 「タヌキさん、私、今度から新藤さんとも一緒に遊ぶね」
 こんにゃくさんがそう言いかけた時、公園はすっかり日が暮れて、タヌキの姿はいつのまにか元の場所に戻っていました。
 
 それからしばらくして、いよいよ明日はクリスマス・イブです。学校も終業式です。朝から寒い一日だったのですけど、夕方になると、今年初めての雪が降りはじめました。
 雪は一晩中降りつづいて、翌朝子どもたちが目を覚ますと、外は一面の銀世界でした。
 こんにゃくさんは長ぐつをはいて学校に出かけました。終業式が終わって、明日からは冬休みです。
 学校の帰りに、こんにゃくさんはふと何かが気になって公園に行ってみました。
 公園もすっかり雪景色です。
 こんにゃくさんはお風呂ダヌキの姿をさがしました。ところが、タヌキがいません。
 いつもタヌキが座っていたところには、ただ雪がつもっているばかりでした。
 こんにゃくさんは呆然としてしまいました。

  (タヌキさん、お風呂ダヌキさん)

  知らないうちに、こんにゃくさんはお風呂ダヌキに向かってよびかけていました。
  けれども、タヌキのこたえはありませんでした。

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 こうしてお風呂ダヌキはこんにゃくさんの前から姿を消してしまったのです。


 

 こんにゃくさんは今でもちゃんと教会に行っています。お風呂ダヌキの教えてくれたことも忘れていません。だけど時々、お風呂ダヌキにもう一度会いたいなあ、会って「ありがとう」って言いたいなあって思っているのです。

2010.8.1 gooblogに再録(完)



追) 今は亡き、アルフォンソ・ネブレダ師に感謝。ネブレダ師がおいでにならなければ私のいくつものお話は生まれませんでした。分かり合えないままだった部分も、含めて良き先生でした。

  





『公園のお風呂ダヌキ』-27

2010-08-01 10:13:23 | 連載
 『こんにゃくさん、人間てさ、みんなひとりひとり違うんだよ。新藤さんがこんにゃくさんと合わなくてもさ、新藤さんには新藤さんだけにしかない良いところがあるんだよ。新藤さんの形、新藤さんの光があるんだよ。こんにゃくさんにそれが見えなくてもさ、忘れないでほしいな』
 そう言いながらタヌキが両手を合わせると、四つの石はどこかに消えてしまいました。
 『このあいだも言ったじゃない。自分だけよければいいと思っているような子を、神様はおよろこびにならないよ。こんにゃくさんたらさ、すぐ忘れちゃうんだものね。
 神さまはこんにゃくさんが気にいっている人も気にいらない人も、どんな人もみんな大切に思っていらっしゃるんだよ。みんなに神さまのところに来てほしいって思っていらっしゃるんだよ。一度にはわからないかもしれないけどさ、これからは少しずつおぼえていかなくちゃね。わかったかな』
 「うん・・・でも、えーとあのー」
 『なあに?』
 「あのねえ、いじめっ子や本当のわるい子だっているのに、そういう子も大事なの?」
 『こんにゃくさんにはわるい子に見えてもさ、その子のおとうさん、おかあさんには可愛い子どもじゃない。だからイエスさまは、そういう子たちのためにも地上に降りてきて身代わりになって下さったんだよ』
 「ねえタヌキさん、イエスさまって、神さまなのにどうしてちっちゃい赤ちゃんになったのかしら」
 『こんにゃくさんは神さまを見たことがある?』
 「ないよ」
 『この前の夏、すごいかみなりが鳴った日があったじゃない。ピカピカ、ゴロゴロ、ドドドドドーンってさ、あの時こんにゃくさんはどうしたの』
 「こわくてこわくて、押入れにかくれちゃった」
 『押入れの中でふるえてたっけね。それからさ、秋の台風の時、こんにゃくさんは空一面の厚い雲がものすごい風で吹き飛ばされていくところを、二階の窓から見てたよね。あの時はどんな気がしたの』
 「えーとねェ、雲が波みたいに動いて、すごい速さで流されていって、なんだかこわいような、うっとりするような、ゾクゾクして、胸の中がシーンと静かになって、すごく変てこな感じかなあ」
 『そしたらさ、この広い大宇宙の全部、時間も空間もおつくりになったほどの大きいお方がじかに姿をあらわしたらさ、かみなりやあらしよりもものすごい威厳があってさ、こわくて近寄れなく鳴っちゃうかもしれないと思わないかい』
 「あっ、そうか」
 『赤ちゃんだったらさ、だれでもこわがらずにそばに近寄れるじゃない。神さまはみんなに、こわがらないで神さまのところに来てほしいって思っていらっしゃるんだよ。だから赤ちゃんになったり、パンになったりして人間のそばにいてくださるんだよ』

『公園のお風呂ダヌキ』-26

2010-08-01 09:20:57 | 連載
 ところが大通りまでくると、マフラーを忘れてきたのに気がついたのです。
 (あっ、いけなーい。まだみんないるかぁ、いやだなあ)
 買ってもらったばかりのマフラーです。
 仕方なくこんにゃくさんは公園に戻りました。けれどみんなはもうそこにはいませんでした。きっと新藤さんの家でおやつを食べているのかもしれません。
 こんにゃくさんは、みんながいないのでほっとしました。でもそれでいてなんとなくさびしくなって、そのまま公園の反対側のお風呂ダヌキのいる方に行きました。
 ブランコにゆられて、すっかりはだかになったまわりの木をながめていると、さっきまでみんなと一緒にいたのがうそみたいです。
 お風呂ダヌキはのんびりした顔で、あたりを見まわしているし、チュッチュッ、チチチ、チュッと小鳥の鳴く声も聞こえて、今日はそんなに寒くもないし、ここにいると、こんにゃくさんものんびりと落ち着いた気持ちになってきます。
 足元の枯れ葉をくつの先で蹴って、こんにゃくさんはぼんやりと新藤さん達のことを考えていました。
 (私、新藤さんてあんまり好きじゃないな、私、ボール遊びなんて大きらいなのに、山田さんも小島さんも、新藤さんと一緒になってもう、つまんない。お人形さん遊びのほうがおもしろいのにな。小島さんたら、どうして新藤さんなんか連れてきたのかな。小島さんはいいけど、新藤さんなんてもうやんなっちゃう)
 その時です。だれかが言いました。
 『こんにゃくさん、そうじゃないんじゃないの? そんなことを言っちゃいけないよ』
 声ですぐわかります。
 「お風呂ダヌキさん」
 お風呂ダヌキはいつのまにか、こんにゃくさんのすぐそばに立っていました。タヌキの笠に夕日があたって、まぶしく光っています。こんにゃくさんは、おもわず目をつぶってしまいました。
 ゆっくり目をあけてみると、お風呂ダヌキはニコニコしながらこんにゃくさんに言いました。
 『見てごらん』
 タヌキの手には、キラキラと光っている透き通った四つの石がのっています。
 「それ、なあに?」
 『これかい、これはね、人間のこころなんだよ」
 「こころ?」
 こんにゃくさんは急にこわくなって、ブランコに座ったまま、おもわず後ろにさがろうとしました。
 『大丈夫だよ、ほら、見てごらん。これがこんにゃくさんの。それからこれが新藤さんの。こっちは山田さんで、これが小島さんのだよ』
 四つともなんてきれいな石なんでしょう。
 よく見ると、四つの石は一つ一つ形が違っていて、光の色あいも違うのがわかりました。
 『どれが一番きれいかな』
 『わからないよ。だって差、四つともみんなきれい。みんな形も違うし、光も違うし、みんな一番みたいなんだもの」
 『新藤さんのは』
 「新藤さんのもすごくきれい」
 『それじゃ、新藤さんのはいやだなんて思う?」
 「思わない」
 こんにゃくさんは首をふりました。

つづく