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新聞業界の推移

2021-01-31 12:57:35 | 企業分析
ウォーレン・バフェットによれば、経営の業績に対しては業界のトレンドが経営陣の能力よりも大きな影響力を持つという。(「バフェットからの手紙」より)
そしてこの偉大な投資家は、自らかつて買収したワシントンポスト紙の経営についてデジタル化など努力するとは述べつつも、以前のような収益性は望めないと述べている。つまり、新聞業界の業界トレンドに世界最高レベルの投資家は厳しい見立てを示していたということだ。

実際のところ、日本だとどうなのか。
朝日新聞が半期赤字になり、ニュースが何本も出ているなど新聞業界の経営環境の厳しさが注目されている。ウェブで調べるとメディア部門に限って言えば2020年3月期に既に赤字だったようだ。

新聞業界を含めメディアのビジネスは、その事業のステップから、大きく3つの競争ポイントがある。
情報収集:どれだけ情報を集められるか
編集:どれだけ分かりやすく整理できるか
伝達:どれだけ便利に伝達できるか

そして現在に至るまでの歴史をふり返ると、外部環境の変動によってそのポイントごとの経営への影響の重みは移り変わり、新聞業界は対応して姿を変化させてきたと言える。

【19世紀後半】
日本の新聞紙業界は、19世紀後半にその歴史が始まる。読売新聞が1884年、朝日新聞が1879年、日本経済新聞が1876年のことだ。
この頃はテレビもラジオも無いなど情報を伝達する手段がとぼしく、新しいニュースを得られればそれを載せた紙面を売るだけで有り難いと思われる時代だ。
記事の品質など編集の点で新聞社同士の差別化はあったかもしれないが、業界全体としてみれば、情報収集こそが事業成功のカギであり、広い拠点に多くの記者を持つことが勝つためのポイントだったと考えられる。

【20世紀】
日本においてラジオ放送が1920年代、テレビ放送が1950年代に本格化すると、新聞業界は即時性や伝達力で不利な立場に立たされる。
情報収集では、テレビやラジオのメディア記者も積極的に事件などの起きている現場に入るようになり、
伝達では、テレビもラジオもリアルタイムに起きていることを視聴者に伝えられる。この2つの競争ポイントの優位性は大きく揺らいだことだろう。

この時代に、新聞業界は業界として生き残るため、記事にする対象への理解を深め「編集」での競争力を磨いたと思われる。例えば読売新聞の渡邉恒雄さんの私の履歴書を読むと政界との結び付きが濃く述べられているし、日本経済新聞の名物「私の履歴書」は経済界と新聞社の結び付きを示す象徴的な企画だが、1950年代に始まっている。

有価証券報告書も出ていない時代だが、ラジオやテレビの登場もありつつ発行部数を多く保ち、「新聞を読む」ことが人々の日常生活に溶け込んでいた事実は、新聞業界の取組みが成功であったことを財務諸表以上に物語っていると言える。

【21世紀】
2007年にアップル社がiPhoneを発明し人々にスマートフォンを普及させると、いつでもどこでもスマホで情報収集することが当たり前になった。
テレビやラジオや新聞等、伝達する側がその時知らせたい内容ではなく、人々がその時知りたい内容をリアルタイムに得られる世界になったのだ。

これは「伝達」の競争ポイントで、スマホにアピール出来るメディア(Yahooニュース等、無料のものも多い)という強力なライバルが現れたということであり、これは新聞業界を苦境に追いやっている。
「編集」の競争ポイントでも、双方向の連携を取りやすいというデジタルの特徴を活かすことで、例えばNewsPicksが「知見のある読み手がコメントすることで理解を深められる」仕組みを構築しており、脅威になっていると言えるだろう。
「情報収集」は、事実を集めることについて旧来メディアはやや優位にある(事故などの一次報道は今も旧来メディア)はずだが、強いのは新聞業界ではなくテレビやラジオである。新聞業界が勝つにはデジタルメディアでリアルタイム報道出来なければならない。
この競争の激化を受けて、新聞業界では発行部数の年々の減少(2007年10月に約5,200万部→2020年10月に約3,500万部)が起こり冒頭の朝日新聞の2020年9月半期赤字に至っているのだ。

以上のように背景まで考えた時、現時点で新聞業界に残された選択肢は以下の2つに集約されるだろう。

・「情報収集」と「伝達」の競争ポイントで負けたくないのであればデジタルメディア進出は不可避で、日経電子版をPRする日経新聞のように各社も電子版を作ってスマホで情報収集する人々に向けてPRしなければならない
・「編集」の競争ポイントで引き続き優位を保つのであれば、20世紀に築いた強みをさらに活かし、「各界のキーパーソンに登場してもらう企画」や「有識者が自らの仕事として本気で書き起こす記事」他、メディア以上に整理された記事等、人々をひきつけるコンテンツで他メディアに差をつけなければならない。
この場合、「各界のキーパーソンとの信頼関係を維持すること」や専門的知見のある有識者を雇うなどして「一次情報をプロが素早く解釈する仕組み」を作ることが差別化のドライバーになる。

今の規模の読者数を保つのであれば、横並びでなく優位性を勝ち取るべく、後者の取組みが不可欠であると思われる。
変化のさなかにある新聞業界の動向を、これからも見ていきたいと思う。

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