レポートバンク

主に企業の財務や経営について分析するブログ。

経営とリスク管理

2021-03-30 14:21:00 | 企業や市場の制度
企業の経営は、設備など固定資産を持ち、正社員を多く雇い安定的に給与を出すという体制をもっているので、急激な利益の下落を起こさないようリスク管理できていることが望ましい。(資源ビジネスなど外部要因が大きい業種の変動はある程度制御できないと思われる。)

何かを成し遂げようとするのにリスクは不可避だが、その程度は企業ごとに吸収可能な範囲に収めることが安定の基礎である。
経済社会全体でみれば、「今は転職が一般的なので企業が一つ潰れようと他のより優れた企業に人材が移動するだけだから良いのだ」という見方もあるかもしれないが、少なくとも経営層や株主はリスク管理に本気で取り組んでいるべきだ。

そのようなわけで、巨額損失のニュースが報道されるとき第一に気になるのは
・経営陣によってリスクを査定出来ていたのか、
次に気になるのが
・リスク管理体制が作られる為に経営陣や株主は何をすべきか
である。
巨額損失が出たとしても、それは巨額利益を得るためにあえて行なった投資の結果なのだと経営層も株主も納得済みなのであれば、外からとやかく言うものでもないのだと思う。(例えばソフトバンクグループなどはこのパターンに見受けられる。ここについて言えばトータルで勝っていてベンチャー投資の実力を感じさせる)

リスク査定が出来ていたかどうかは、公表されるニュースの中で「〜のせい」と指名されるのが明確に経営トップであるかどうかで判断可能だ。
リスク管理の責任者は、ウォーレン・バフェットの考えによれば経営トップであり、複雑すぎて出来ないなら事業撤退するのがあるべき姿と考え、バフェット自身買収した会社の抱えていた多くのデリバティブを解消したという。(「バフェットからの手紙第4版」)

こうしたリスク管理や、必要ならば撤退まで出来る経営トップを探して投資したり、経営層のこうした対応を株主総会での投票で支持することが株主にとって良い結果をもたらすのは分かりやすいと思う。

そうした経営トップが見当たらない企業の場合、リスク管理体制が作られるために、株主は外部から登用する取締役等の働きかけでトップ交代に期待するか、投資をやめるべきだろう。
会社法の規定からすれば、リスク管理体制の構築は取締役会の責任であり(会社法362条)、有識者として外部からやってきて「リスク管理出来ていない」と気づいた社外取締役は声をあげるべきだ。
バフェットによれば、取締役会が声をあげづらい空気だというのであれば、辞めるのが意見表明になる。

リスクをとって何かを成し遂げようとすることは素晴らしいが、そのリスクを把握して適切に行動することも、両方大事なのだと思う。

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トマトのビジネス

2021-03-30 13:29:00 | 企業分析
トマト料理が好きで、家でも外でもトマト料理を食べている。ジュースもトマト好きで、トマトが豊かに手に入る社会で良かったと思う。
今後も豊かにトマトが手に入る社会であるか考える時、トマト関連の大企業カゴメについて、経営環境をみていくのが分かりやすい。
【基本情報】
カゴメはトマトの生産からトマトジュース、トマトケチャップ等への加工・販売も行う従業員2,600名超の企業だ。
2020年12月期で売上約1800億円、営業利益約100億円を誇ることからもインフラとしての活躍ぶりがうかがわれ、東証一部に上場していて、時価総額は2020年末でおよそ3400億円程となっている。
海外展開もしていて、売上のうち約400億円(つまり20%以上)はアメリカなど海外で得ている。

事業の様子は農水省のサイトにも取り上げられており、農業〜食品加工までを順調に運営している様子がうかがわれる。

【これまでの経営実績からみて、これからもトマト製品を提供してくれそうか】
企業なので、利益が出ていれば今後もトマトビジネスを続けるし、出ていなければ他の事業を考えるだろう。つまり、これまで通りのトマト製品提供の可能性を考えるには、それぞれの事業で効率良く利益を出せているか確認することが有効だ。

2020年12月期(コロナ禍で環境に大きな変化のある、経営の難しかったはずの年)をみると、当社の指標である事業利益(定義を見ると営業収支+投資収支である)について、
・飲料…約80億円黒字
・加工食品…約50億円黒字
・農業…約3億円黒字
・海外…約2億円黒字
と、いずれも黒字を確保している。前年比をみても成長軌道にある。

利益率はどうだろうか。
カゴメ全体として資本約1100億円、純利益約60億円なのでROEはざっくり6%ほど。
これだけ見るとかつて伊藤レポートに言われた経営効率性の基準「8%」を下回るので不安になるが2019年度は超えており、やめるようには思われない。

利益の中身はどうだろうか。
先ほど飲料・加工食品・農業・海外の比率は見たが、トマトかどうかは見ていない。カゴメはトマト事業以外も行っていて、そちらがもっと順調だからそこに移動する…という可能性は無いだろうか。
(念のため調べたが、企業理念にトマトという言葉は出てこない。たまたま今はトマトを扱っているだけの可能性もある)

これについては、トマトとその他の事業の比率が不明だった。
しかし比率は分からないものの現時点では日常感覚からほとんどトマト事業だと思うので、経営効率の観点から見てトマトインフラは保ってもらえそうだと考える。

【これからの経営計画からみて、これからもトマト製品を提供してくれそうか】
カゴメの経営計画をみると、長期計画として「野菜の会社になる」そうなのでトマト以外についても社会のインフラになる方針である。キャベツなのか白菜なのか、どんな野菜かまだ分からない。

消費者目線だとトマトの生産〜加工を世界に広げても勝てそうに思うのだが、世界の人々が日本ほどトマト好きではないのか、トマトに対する好みが違うのか、気候の問題でトマト生産にコストがかかるのか…何かトマト一本ではいけない理由があったのだろう。

今後も美味しいトマトを届けてほしいし、他の野菜でも生活が豊かになるようなら嬉しい。


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住宅街と金融市場

2021-03-18 23:49:55 | その他
家にいる時間が長くなり、運動を意識して街をゆっくり散歩するようになった方は多いのではないかと思う。
住宅街や大通りを歩いていると、デザイナーが快適さをしっかり追求して作ったのかと思うようなステキなマンション・アパートを見かけたり、古くて保守の回っていない建物を見かけたりする。

きれいで手入れの行き届いた建物をみると嬉しくなるし、そうでない建物をみると悲しくなる。特に違いを感じるのは都市部ということもあって集合住宅の違いだ。
建替えは、法令で耐震基準の観点から求められたり、安全性の観点から大まかに30年など経っていると求められるようだ。(ヘーベルメゾンの記事

このサイクルについて、「古い空き家を建て替えてステキなアパートを作り、賃貸で儲けよう」と考える人が多くなれば、このサイクルはもう少し早まるのではないだろうかと思う。
例えば古くて人が住んでいない建物が取り壊して建て替えられるのを待っている場合、こうした考えの人がいるかどうかが建替えのポイントになるはずだ。
空き家の増加が国土交通省で取り上げられ対策ページが設けられているほどなので、これは確度の高い仮説と思える。

調べてみると、国土交通省の住宅着工統計によれば、全国の貸家について、着工戸数が2010年代について増加傾向にあった。

・2010年度 約29万戸
・2013年度 約37万戸
・2016年度 約43万戸
・2019年度 約33万戸

この2010年代は、日本の経済も総じて好調であり、お金を借りやすかった時期である。借りやすさは銀行の貸出で参照されるプライムレート(日本銀行が統計を公表している)の高さをみると分かるのだが、ほとんど1%台前半と低いレートであった。
そのため銀行の貸出利益が減って、貸出利益に大きく依存する地銀の財務安全性が金融庁から疑問を呈されているほどである。(ウェブで検索すると関連記事が多く出てくる)

また、好調な経済にあって、これは資産分布も詳しくみなければ本当の姿は分からないが、おそらく住む側の消費者も引越しを検討できるほどの豊かさは得られていたのだろうと思う。

今後も、きれいな建物が都市部に増えてほしい。その為に、多くの人々が豊かになれる経済(中産階級の安定・拡大が保てる社会というのだろうか)がうまく成り立ち、良い不動産を追求する投資も継続してほしいと思う。

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